切ってみるか?
初めて触れる感触。どこを持てばいいかわからず、持ち手を探してる。新しいものを触るときは傷つけないように気をつけて触る。それは人間と一緒だと僕は思う。人も最初は人を慎重に扱う。でも慣れてきたら研ぎ澄まされた言の刃で傷をつけてくる。壊れるまで傷に気づく人は少ない。
さっき、眼科に行ってメガネを買ってきた。苺恋さんが最初はコンタクトは怖いと言ってたから、僕は何も怖くないメガネを選んだ。上ぶちが真っすぐで、下のふちがまるっぽくなっているやつにした。でも、僕はメガネをかけたときに致命的な事に気づいてしまって、帰りにメガネを、はめずに帰ってきてしまった。
一応時雨が気づくかどうか気になったから、家に入る直前からメガネを、かけた。
「ただいまー」
「おお、おかえり紅葉。あれ?メガネは?」
はあ、やっぱり気づかない。まあ中々気づけないよね。
「かけてるよ」
分厚くて長い前髪の中から、黒ふちのメガネを取り出した。時雨は目を丸くして驚いた。すぐさま僕のもとへ駆け寄ってきて「どこに隠してた?!」と僕の顔を執拗に探り見ている。
「ずっとかけてたよ」
これだと、メガネをかけてるのかどうなのか分かりづらいのはわかってる。苺恋さんも多分きづけない。「どんな前髪してんだよ。そろそろ切らないとやばいんじゃないか?」
「やばいって?」
「その〜…色々あるじゃん?生活に支障が出るとか」
「そう?」
時雨が少し考え込んで必死に出した考えがあれだった。
別にこの前髪が邪魔になったことはない。といえば嘘になるけど、実際支障が出るほどではない。むしろあってくれると安心感があるのでそのままでもいいのだが。
「切ってみるか?」
「え…?」
手でチョキを作り閉じて開いてを繰り返しながらいう。僕は自分の前髪を少し伸ばしてみる。前髪をどかした先に見える景色が怖い。カーテンで仕切られてるからこそ守られてるものがあるように、僕の前髪は、僕の何かを守っている。だから切りたくない。
「怖いんだろ?」
声色が変わった時雨は、片目をしかめて様子を伺うようにして聞いてきた。僕は息を呑んで、恐怖に襲われる。
「冗談だよー。冗談。切りたいときでいいから」
いつものおちゃらけモードに入って束縛が溶けたような安心感があった。大阪のおばちゃんみたいな手招きをして、僕はそれを見て脱力した。
「それはみっちゃんにも見せないとね」
「学校いったら絶対見られるよ」
「さっきの俺みたいになるかもしれないぞ?」
苺恋さんが僕に気づいた様子が目に浮かぶ。確かにこれだと眼鏡に気づかないかも。
「そうだ、眼鏡を服にかけとくのはどうだ?めだつぞ?」
「いや…」
「それとも、頭にかけてくか。ヤンチャな感じでいいんじゃないか?」
「苺恋さんに見せるためにメガネ買ったわけじゃないから!」
時雨の言うことだと、生活を送るためよりも苺恋さんに気づいてもらうためにメガネを買ったみたいになってる。別にそういうわけじゃないのに。
「でも、外見が変わったのに見えないってもったいないなあ」
さっき声の反動でノックバックされていた時雨がくるくる回りながら物欲しそうな顔で見てくる。ちょっとオカマチックだ。
「やっぱり眼鏡服にかけるのが…」
「それは絶対にない!」




