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面被り

私にしては真面目にホラー回でした。ほぼ一幕です。

赤江町の住宅街雲雀丘のとある区画に2年前にリフォームしたばかりの粟野一家が暮らす一戸建てがあった。建物の左部に庭も付いている。

駐車場は2台分あり、以前は手狭だったがリフォームを機に余裕を持って出し入れできる様になった。

長年住んでいると手入れが面倒な前庭を潰して駐車場の機能性を上げるという判断は、なぜ建てる時に気付かなかったのだろう? 不思議に思えてくる程だった。

今は夫が乗る中古のハッチバックと妻が乗るやはり中古の軽自動車が行儀良く停められていた。

・・・粟野裕子は50代の主婦で、下の子供が小学校に上がると近所のスーパーマーケットでパートを始めたが、独身時代にバブル景気を謳歌した粟野裕子にはスーパーのレジ打ちや品出しは地味過ぎて耐えられなかった。

すぐに辞め、1年程勉強して公民館でフラワーアレンジメント教室の講師を始めた。

文字通り華やかな晴れ、の感覚を味わえる仕事だったが、利益の程は大した物ではなく、年度によっては赤字になることさえあった。

しかし、1つのライフワークとして、粟野裕子は満足していた。


「そう言えば、野田さんが早期退職したよ」


夕食の席で夫が不意に話しだした。今日は珍しく平日に夫が早く帰ってきたので家族4人で夕飯を取っていた。リビングでは犬が寝そべっていた。

部屋には中流家庭にしてはやや不相応な生花が多数飾られていた。


「あら、まだ56くらいじゃなかったかしら?」


「不倫だったりして?」


「横領とか?」


「2人とも口が悪いぞ?」


夫は呆れて子供達を嗜めた。


「田舎で陶芸と農業をするらしい」


「まぁ、それは・・」


お気の毒に、と言いそうになって口を噤む粟野裕子。


「若くても大変なのに、もう半分お爺ちゃんで農業なんてっ! 陶芸もお金になんないでしょ?」


「熟年離婚、熟年破産っ」


子供達は容赦無かった。


「野田さんには野田さんのライフプランがあるからっ」


「野田プランっ」


「ダメなヤツっっ」


子供達は意地悪く嗤った。


「2人共いい加減にしなさいっ!」


「はいはい」


「姉貴のせいで怒られたし」


それから暫くは夫が野田さんとの思い出話等をしていたが、面識も無い他の家族3人にはピンとこないことだった。


「貴女、この間ウチに来たあの彼氏とはどうなの?」


「別れた」


「早っ。マジで姉貴? ついこの間来たじゃん?」


「何か他の子と仲いいし、すぐ身体触ってくるからキモいな、って」


夫が味噌汁に噎せた。


「爽やかな感じだったのにねぇ」


「ハリボテだよ」


「ドンマイ姉貴」


「うるさいっ」


食卓で隣り合っている姉弟で小競り合いを始めた。


「そんなことより、お前はこの間の中間テスト・・あっ」


夫の顔の皮、が右下にズレた。


「ちょっとぉ」


「台無しだよっ」


「味噌汁噎せた時、ヤバいって思ったけどさぁ」


粟野裕子も長女も長男も、当たり前の様にグルリと白眼を剥いて顔の皮がズレた夫に抗議した。


「いや、待って待って戻すからっ」


夫は顔の皮のズレを戻したが、目は白眼だった。


「変なアドリブ居れるからだろっ? 何だ身体触ってくるっ、って。笑っちゃいそうになったよ?」


「いや実際おっぱい触られたんだよっ」


大袈裟に胸を庇ってみせる白眼の長女に、粟野裕子達は大笑いした。


「人間と交配した奴もいる、ってどこかで聞いたぞ?」


「マジで? すげぇっ」


「冗談じゃないってっ!」


「冒険的だっ」


白眼の粟野一家は大笑いする内に、身体が膨張し、顔も、全身も皮が浮き上がり、服が半ば爆ぜ、ブヨブヨとした肉塊の様な内なる青白い身体が露となった。


「あー、服、勿体ねぇ」


「人の皮も伸びちゃうよ」


「もう暫くは持たそう。この街は気に入った」


「ん~、また最初から合わせる? 作り込み甘いとボロが出ちゃうもんなぁ」


「いや、人間のフリしたいだけだろ?」


「確かにっ!」


粟野一家の皮を被った者達が三度大笑いすると、リビングで寝そべっていた犬が、起き上がり、ダイニングに歩み寄ってきた。


「何? ペロちゃん?」


粟野裕子の顔被った者が甘ったるく聞くと、犬のペロは顔の皮を真ん中から2つに割って胴体より大きな醜く膨らんだ青白い、白眼の顔を現した。


「人間役と交代してくれっ! 喋れもしないし、ドッグフードも首輪付けてあちこち連れ回されるのも、人前で電柱だの何だのに小便してみせるのもうんざりだっ!! 不公平だっ!」


「お前、この間はアイドルの皮を被ってチヤホヤされてたし、その前は市議会議員の皮被っていい気になってたろ? オイシイ役ばっかりやろうとすんなよ? 浅ましいっ」


「俺何か、1人で動いてた時、間違えて死刑になるヤツの皮被っちまって死刑されちゃったぜ? 犬、幸せじゃん?」


「死刑になる前に皮捨てて逃げろよ?」


「何か有名になっちゃって・・」


「あるよね~」


「無えよっ!」


粟野一家の皮を被った者達はいよいよ皮を放り棄てる勢いで笑い出した。


「いや、俺を無視するなよっ?! せめて餌をカリカリじゃなくてフレッシュなヤツにしてくれっ!」


「フレッシュなヤツだってっっ」


「この花食べる? 買うと高いし、意外と美味しいよ?」


皮の下の本当の口で食卓を彩っていた生花を齧りだす粟野裕子の皮を被る者。


「いらねーっ! つか何でも喰うなよっ、意地汚いなぁ」


「犬に怒られたよっ?!」


粟野家から、その夜遅くまで仲の良い笑い声が響いていた。



それから約1月後、粟野家の庭に何時からか有った盛り土が異様に盛り上がり、シュー、シュー、と凄まじい臭気を周囲に放つ様になり、周辺住民が騒然としだすと、粟野一家は忽然と姿を消した。

真夜中、警察が家に踏み込むと、リビングに何か脱け殻の様な物が5つあり、最初に懐中電灯でそれを確認した若い警官は胃の中身を全て嘔吐した。

この後、ツラカブリ達はリモコン下駄や獣の槍等でやっつけられたので御安心下さいっ!

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