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伊吹弥空4

翌日、私はいつも通りに登校し、教室で声を掛けてきたカツアゲの被害者や関係者には学校側が対応するようだと伝え、そちらを頼るように言っておいた。彼等は少し不満そうだったが、動画の件で一気に味方が増えたことで割と大人しく受け入れてくれたようだ。

朝礼でもその件が話題に上がり、学校が対応する旨を宣言してくれた。

相手の方は学校を休み、保護者と学校側がこちらの学校やその他被害者の学校に連絡を取って落とし所を相談している。私が最初に訴えるなんて言葉をチラつかせたせいか、被害者の保護者達は妙に強気だった。この調子で行けば、私に問題がこれ以上飛び火せずに、収束まで進みそうである。面倒から解放された気がして少しホッとした。

放課後は、別れ道でウロウロ十数分程度悩んだ挙句、河原には寄らず帰宅した。既に3人が待っているのは、今回はいちおう確認したが、強気に接するべきか、友好的にすべきか、はたまた…と悩んで結論が出なかったのである。なんだか逃げるみたいで気持ちは萎えたが、昨日のミソラの、わざと私を怖がらせようという策にはまって怖気付いた自分がある意味彼等の予想通り、行動に二の足を踏ませていた。

その翌日には、学校ではカツアゲの件で声を掛けてくる者はいなかった。元々は外野なので、利用したい時しか声なんかかからない。また平時に戻ったな、とぼんやり1日を過ごしてから、放課後は診察日なので病院に向かう。到着した際、ミソラ達が院内にいることに気付いた。しかも今日は大人が1人増えている。もしこのまま帰ったら、明日は更にもう1人増えるのかなと、しょうもない推量をしてしまい、そして自分の恐怖心が思っているより薄れていることにも気付く。

とりあえず彼等に気付かないフリをして、いつも通り診察を受ける。医者も特段何かを聞かされている訳ではなく、いつもの決められたやり取りをするくらいだった。

診察室を出るとミソラが立っていて、「やあ」といつもの笑顔で迎えてくる。あんな事しておいて、よくもまぁそんな笑顔振り撒けるなと、少し恨めしい気にもなるが、とりあえずは「どうも」とだけ返事をした。私が彼等の所属する組織について知っているからか、何故病院にいるのかについては「昨日は会えなかったから」の一言のみである。

会計の為に待合所で座ったら、ミソラが隣に来た。彼の仲間達は少し離れた位置から私の様子を窺っている。

「ねぇ、一昨日の話しなんだけど、見えるってどういう…イヤ、何処まで?」

本当は詰問したいのを我慢しながら、笑顔を崩さずに聞いてきた。私は逆に何故平然と隣に座って来られるのか、その神経を聞きたい。何となく気分を害したので、わざと座り直して少し離れてやった。その様子を横目に見て、私が友好的でないと思ったようである。少し心外そうな表情だった。

「…元々キミが言い出した話しなんだから、多少は話してくれてもいいと思うんだけど」

まだすぐには会計に呼ばれることは無さそうだった。

「ここで話していいの?」

と、確認すると「ウーン」と考える様な仕草をしてから周囲を見廻し「ボリューム抑えめで」と言ってくる。今日は何故だか人気が無い。

「一昨日、私が分かったのは、ミソラの事だけだから。…例えば、ミソラのお父さんが…偉い立場の人なんでしょ?…あと、私の事、どうして1人で…無傷で銀行強盗に勝てたのか、学校の成績がヘボいのにって調べてたよね。ミソラは最初私に懐疑的だったけど、最近はこのまま会っててもいいと思ってた…とか。そんな感じ」

「他には?」と促され、もっと切り込んだ内容を話すべきらしいと気付く。

「あ…ミソラがいるところって…いちおう国防?っていうのを目的にしていて、その為にスパイみたいな…諜報活動みたいな事とか、捕まえた犯罪者の尋問みたいな事とか警察の手伝いも調査もしてて、警察なのか軍なのかみたいな所なんだよね。年齢と実績と、任務によってはその人の得意分野とかも加味されてて……イヤこんな内容じゃ、見えたって言う証明には少し弱いよね」

そう言いながら少しの間考え、「ああ、そう言えば任務内容とか仲間同士でもお互いの情報を隠す時とかに使う特別な秘匿名があったね」とミソラの秘匿名を耳打ちする。これは組織外どころか今この場にいる彼の仲間3人も知り得ない情報なので、ミソラはサッと顔色が変わった。基本的には本名を知っている相手には秘匿名を、秘匿名を知っている相手には本名を隠す決まりらしい。つまり本名を知っている仲間と組む時は自然とメンバーは固定され、また秘匿名が使えないか必要な任務では無いという事でもあるのだろう。

「わ…わかったよ、ありがとう」

絞り出すようにそれだけ言って、黙ってしまった。何故か笑顔も止めてしまったようである。彼等の判断の範疇外なのか、今日加わっている男の人が何処かに「どうやら機密情報を一部知られているようだ」と連絡を取っていた。

名前を呼ばれ、会計を済ませて振り返るとミソラは考えている風な姿勢のまま、まだ席に座っている。「それじゃ」とひと言告げて出口の方へ向かうと、「イヤイヤ待って」と引き止められた。私の直ぐそばに来て少し控えめな声で話しかけてくる。

「ゴメン、このままは帰せないよ。もう少しだけ…付き合ってくれるよね」

その表情は真顔で、有無を言わせないつもりで両肩をガシリと掴まれた。一昨日の事も思い出されて、妙にゾワゾワする。無言のまま抵抗せずにいると、従う気らしいと判断して片手だけ私の背中に添える形で「こっち」と促してきた。彼の耳元では「怖がらせて可哀想」と言う仲間の女の子の声が聞こえている。促されるまま向かった先には1台のバンが止めてあり、「大丈夫だから、乗って」と言われた。

中には既に仲間3人とも乗車しており、軽く会釈してきた。ここへ来て漸く理解したが、大人が混ざったのは車の運転の為らしい。私は1番後ろの席へ促されてミソラと一緒に座った。

「キミの話しを100%信じられるかと言うと、土台無理な話なのは分かってくれるよね?ボク等も組織も、今までで1度もキミの言う様な能力を持ち合わせた人間は見た事が無いから」

先ずはそう述べて、こちらをじっと見つめてくる。なんだか落ち着かないのであまりこちらを見て欲しくない。ミソラは私が何も言わないのを見てとると、そのまま話しを続けた。

「だけど、キミがボク等についての情報を持っているのも事実だし、更に言うと、組織でも…例えばボクの秘匿名なんかはまだ殆ど使ったこと無いから知ってる人間は本当に限られてる筈なんだよ。だからどちらにせよキミにはいろいろと話しを聞かないといけない。それに、敢えてキミの言葉を信じるとしたら、これまでのキミの行動は多かれ少なかれ意味合いが変わるよね。その辺りも含めて、誤魔化さずに説明してほしい」

話せば分かってくれそうだと思わなくもない台詞だが、彼等は結局のところ、話しの矛盾点をついて、その辺りから切り崩して真意を探るつもりだ。そもそも一昨日から、私がミソラを警戒している事に無頓着なのが気に入らない。平気で真隣に座って、まるで味方になりそうな態度をしているが、私に襲いかかってきたことは忘れてしまったかの様に思い出しもしない。理由があるにせよ、少しは気にするべきである。私がそんな感情を抱いて無言でいるので、ミソラは自分の言葉が上手く伝わらなかったのかなと、困った様にこちらの顔を窺っていた。他の者達も、多少なりとも信用を得るには足る程度の言い回しだったろうにと、私が表情も固いまま無反応でいることを少し意外に感じているようだった。

彼等は私が何か喋るのを待ったが故に、中途半端に沈黙の間ができてしまったので、流石に何か言うべきかと少し考えることにした。とは言え、適当に相槌を打つか好意に礼を述べるくらいしか思い付かない。相槌の方が無難かと考えていたら、突然「ああ」とミソラが言葉を洩らす。私が反応する間もなく、発言とほぼ同時に肩と頭をぐいと手で引き寄せられ、口を吸われた。

「…キミの言い分を信じるとした場合には…こうした方が良いよね。これはそういう意味だから」

ミソラはちょっと悪戯っぽい笑みを浮かべつつ、ほんのりと頬を紅潮させている。茫然としながら、私がミソラに気があると考えてるんだな、と思った。同時に、そういえば折角発動条件みたいなのを決めたのに、つい無意識に考えを読んでいるな、とも思った。

「あ…もしかして、時間とかも関係ある?…もっと…長くとか」

つつとまた顔が寄って来たので、ふと我に返って「いえ特にないので」と咄嗟に早口で答え、手でミソラを押し戻す。首筋に変な汗が伝った。見ていいと言われるのは気兼ねしなくていい分ありがたいが、なんだか調子を狂わされる気がする。

とりあえず、できるだけ席の端に座り直す。横目でチラとミソラを見ると、ニコリと笑みを返そうとしてきたので、プイと閉じたままのカーテンの方に目を向けた。距離を取られ、そっぽを向かれたのが彼には予想外だったらしく「アレ?」と呟いている。ミソラの考えなんて見たくもない、どうせ私が「信じてくれてありがとう」とか「でも突然は…」なんて恥じらってモジモジするとでも思ったのだろう。私はそんなに簡単な人間では無いつもりだ。

他の仲間達はそうではないが、ミソラはとりあえず私の話を信じる方針で、そうなると父親の言に従い私と関係を深めていくつもりらしい。たぶん伝えたかったのはそんなとこだろうと思う。

「ホントに見えてんなら、イブキの恥ずかしい思い出でも暴露して欲しかったな」

ふと声のした方を見ると、前の座席から仲間の男の子がこちらに身体を向けていた。「エッいいよ、そういうのは」とミソラが恥ずかしそうに話を遮った。さっき覗いた感じだと、厳しい訓練の記憶ばかりだったと思う。それに人の記憶なんて曖昧な物で事実と同じとも限らないし、何かしらの手段で想起させないと探すのは結構な重労働になる。直ぐに思い出せない記憶も、深層心理の奥にある思考も同様に探しにくいので、何でもお見通しというモノではない。

「…殆ど、厳しい訓練の記憶だったと」

控えめにポツリと呟いてみたら、質問してきた方は「ふうん」とつまらなそうに返事をしただけだった。ミソラは何とも言えない顔で、安心しつつも虚しいという複雑な感情を表現している。言うんじゃなかったなと後悔した。見ないように努めていても、こういう話題になるとつい思考を覗こうとしてしまうのももどかしかった。

そのまま車は目的地に到着し、案内について行くと、質素な会議室みたいな部屋にたどり着いた。どうやらここで聴取を行なう予定らしい。適当な席に着くと、向かい側にミソラ達が着席した。ミソラ以外はできるだけ私との関わりを減らして、主観で判断しないよう心掛けているからか、なんだか面接みたいな雰囲気である。何故か年長の運転していた男の人がお茶を淹れて持って来てくれた。

そこで私は彼等に対し、もう一度銀行強盗の一件から説明をすることになった。と言っても、勘が働く程度ということにしているので、そこまで大きく説明内容を変えたりはしない。

「銀行強盗については、縄が解けたのは偶然だけど、一昨日話した通り口付けしなくてもカンが良いくらいには分かるから銃弾も避けたし、1度でも撃てば、私が引き金を引ける人間だって思うはずだからそうしたの。ミソラ達に…ミソラに会った時も、たぶんこの人普通じゃないと思ったから。チカラについて話したのもそういう予感?みたいなのがあったのと、あとは…普通じゃない事って信じるか賭けを打ってみただけだけど」

ざっとそんな説明を行なった。彼等は皆、難しい顔をして私の説明について、考えているようだった。結局こういった能力に関しては、確実な根拠を得ることが難しいので、最終的には相手を信じるかどうかに帰結してしまう。

「んー…仮にモリさんの特殊な能力っていうのを信じない場合、何故組織について知ってるのかって事と、知っている事をコッチに対して明かしたっていう事について考えないといけないよね」

「知った方法はともかく、明かす事が目的だった場合、俺等が接触するキッカケになった銀行強盗の時から計画してたって事にならないか?…ってことは、俺等が接触してきたから話す気になったって流れが自然だなぁ」

考えを話しつつ、私の様子を窺っている。監視カメラで映っている私の映像はどんな様子だったのかと少し気になった。

「イヤ、信じない場合は組織について知った方法の方が重要だよ。でもわざわざ知ってることを明かしたのに、その方法が到底信じられない手段っていうのが引っ掛かるよ。ボク等を困らせるメリットなんてあるのかな?それに、知ってる内容が大雑把だったり偏ってるじゃん」

そう言ってまた考え込むように、会話が止まる。大雑把とは失礼だなと思ったが、確かにミソラの秘匿名以外は概要をかいつまんだだけである。

「私はミソラの記憶しか覗いてないので、それを基にした説明になるけど…今何人くらい所属する人がいて、どのくらい国内にいるかとか…あとは、国内にいる組織の非戦闘員?の割合の話しも見たので答えられると思う。半年前くらいにミソラのお父さんが話しているのを聞いた事を覚えてたみたいなので」

補足のつもりでそう言ったら、「そうなの?」と言いたげな顔で皆ミソラの方を向いた。

「あ…確かに半年前くらいにそんな会話を聞いてるよ。その時はそこまで気にしてなかったけど、彼女は非戦闘員になるから最近ちょっと思い出してたし、間違いないと思う」

流れ上、所属人数とか話すのかなと思っていたが、特に聞かれることはなく、今日はもう遅いからとお開きになった。

「申し訳ないが、貴方については未だ何とも判断できないので、後日また確認させていただきたい」

それが話し合い終了の合図であるかのように、皆手元の資料を片付け始める。帰り際にミソラから連絡先を教えてと言われ、交換を済ませてから今日だけ参加していた男の人に車で家まで送ってもらった。

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