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伊吹弥空3

ミソラは国防を目的とした機密組織の一部隊に所属しており、彼の家系は代々組織の重役の座についていた。ミソラと一緒にいた2人については、同僚のような関係であり、また学校の同級か先輩かという関係でもある。3人ともまだ若い為、下っ端の様な扱いで、危険であったり重要な任務は殆ど任される事はない。そんな中で、ミソラは組織の幹部である父親に呼び出され、緊張した面持ちで対面した。

「お前に仕事がある。この資料の人物を調査する、そして組織への勧誘に適するかも確認すること。同行する者達も資料で確認するように」

そう言って父親はミソラに紙束を渡す。私についての経歴と銀行強盗の調査資料だった。そして、その中に私に対する調査項目として幾つか箇条書きされた紙もあり、そこにはこう書かれている。

――――――――――

■ 追加調査項目: 銀行強盗撃退時の立ち回り

・銃弾を躱したことについて

 聴取時の回答:

 相手の手元を注視していたら、何となく引き金を引くのが見えたような気がした。

 もしかしたら、しゃがみ込んだら避けられる様な気がした。

・男に銃を向けた時の躊躇の無さ

 聴取時の回答:

 無我夢中で考える余裕が無かった。

・後ろ手に縛られていたはずの縄をどうやって外したのか

 聴取時の回答:

 たまたま縄が解けた。だから、強盗達を何とかしようと考えた。

――――――――――

等の内容と、その他経歴に関する疑問点が幾つか挙げられていた。私はこんな愚か者が立ち回ったみたいな話をしただろうかと、そんなことが気になる回答内容である。ミソラは、緊張は崩さないものの、どうして私についての追加調査が必要なのかと聞きたげな顔を父親に向ける。

「この強盗の件について調査した者達から報告が上がって来たが、銀行内のカメラ映像を見た際に、銃の発砲時に少し違和感の様なものも感じたらしい。それで私も確認してみたのだが、動きは訓練を受けてない一般人そのものだったが…なんと言うか、運任せに見えてもいるが…その実、示し合わせたような…まるで彼等が次にどう動くか、何が起きるかが分かっているような…確かにそんな奇妙な違和感も覚えるような立ち回り方だった。気のせいかもしれないが、そうでないなら調査が必要だ」

意を察したミソラは、ハイ、と畏って返事をした。父親はウムと一つ頷く。

「ザッと彼女の経歴を見たが、取り立てて目立つ事は何も無かった。偽装の可能性は両親や知人等の証言からほぼ無いと判断されている。但し、何らかの反政府組織との繋がりが否定できるものでもない。何かあれば必ず報告し、指示を待つように」

その話しを聞いて、ミソラは重要な仕事では無さそうだと、顔に出さない様に努めながらも少し落胆をしていた。そんな様子を見ながら、父親は自らの膝を一つ叩き、ミソラは驚いてビクリと飛び上がりそうになる。

「それで、最初の話しに戻るが…。もしあの行動の殆どが限りなく必然に近い読みや技術によるモノであるならば、其れは才能と言っても良いと考えている。博打をしていそうなところはあるが、弾道は予測できない事はないし、覚悟を決めていたなら躊躇なく引き金を引く事もある。調べた銃の反動が、男が使った時やたらと大きかったのと、逆に彼女が反動に耐えたところは色々と疑問はあるが…これも彼女の体勢的にできなくはない。特に、もう1人縄を解いた状態の者がいるタイミングで事を実行した、という2人が彼女に集中しにくい状況を利用したところが評価できると思う。彼女が自分の縄はギリギリまで縛られたフリをしていた事と、どちらも女性だから大分油断していたようだし」

父親はそこで一度言葉を切って、ミソラを見つめた。ミソラは何故組織への勧誘を考慮するのか未だに疑問だったが、映像を見れば納得もできるかもしれないと考えていた。そんな我が子を見ていた父親がほんの少し目を細める。

「今回、お前が中心となって任務にあたるよう話しをつけてある。他人に任せず、直接その子と接触し、きちんと情報を聞き出すんだ。こういう、比較的安全に経験を得られる機会がいつでもあると思うな。…分かるな?」

ミソラは父の言葉に居住まいを正し、任務に対し真摯に取り組もうという気持ちで「はい」と答えた。「ああ…それと」と付け足して言う。

「当家の方針は分かっていると思うが…もしその子が本当に組織へ組み込むにふさわしい人物なら、お前の相手にどうかと思っていてね」

突然の父の言葉に驚き、その理由を訊ねた。

「えと…何で突然そんな話を…?」

家の方針では地位を維持する為、相手に組織で活躍できる能力を求めるのだが、そういう意味で言えば、私よりも、今既に所属している女性の方が経験もあって相応しいのではないかとミソラは考えている。父親はフッと破顔して答えた。

「お前はどうにも子どもっぽさが抜けないからな。歳下の彼女がいた方が成長するかと思った」


私が不良達を脅した日、私と別れた後、ミソラは仲間2人と合流して、組織の施設内らしき質素な会議室で話し合っていた。

「結局、強盗達の時みたいな戦い方はしなかったな。荒事もイブキに任せそうな雰囲気だったし」

そう言って、男の子の方の仲間は自分達で作った私のプロファイル資料を眺めている。

「観察中もただ1人で水切り遊びしてばっかりだったもんね。それになんか…言う程足も速くなかった気がする」

女の子が同調して言った。ミソラも概ね2人と同じ印象ではあるが、反対意見もあった。

「でも、正義感とか、行動力はあるんじゃない?確かにボクに頼った部分もあるけど、被害者を助けようとした訳だし。普通はできないよ。…イヤ、やり方に賛成するわけじゃないけどね。まさか訴えるなんて発言出ると思わなかったから」

「あーソレ、俺もビックリした。ッエ訴えちゃうの!?って。動画配信するだけでも充分だよな。ハッタリっていうか、無計画っていうか、やり過ぎにも程があるよな」

そう話し合いながら、紙面の余白にメモ書きをしている。行動力はありそう、相手の油断や動揺を誘い目的達成を狙うタイプか、行き当たりばったりで計画性は無さそう、などなどどちらかというと悪い面の方が多かった。

「でも、彼女のこと考えると、この先あの性格はきっと危険な目に遭う気がする。なんとかしてあげたいな。…ねえ、例えば…敢えて組織に入れて、鍛えてあげるとかはダメかな?」

ミソラの提案を聞いた2人は、寸の間顔を見合わせ、弾かれたように笑い出す。

「イブキ〜ソレはないよ。誰も得しないじゃん」

「冗談でしょ?じゃないとしたらお前…いやそういうの嫌いじゃないけど、ウチに入るって事は死ぬ覚悟するって事、だろ?何か方向性間違ってるって」

笑われて少し機嫌を損ねながら、「だから敢えてだって」と言い返した。

「何かさ、あの子って確かに突飛なところはあるけど、あくまで普通の枠を出ないっていうか…何かありそうな感じでもないんだよね。ただちょっと正義の味方ぶって綱渡りしてみたら上手くいってるモンだから、増長してるんだよ」

まだ笑いかけだが、少し真面目にそう言われて、コクリと無言のままミソラが頷く。

「まぁ、面白いヤツだとは思うけど、ウチの組織で求めてるモノとは違うと思う。即実戦運用可能って訳でも無し。コッチが聞きたい話聞いても"無我夢中で…"とか"偶然…"としか言わないし、今日のなんか、報復とか制裁とか、正義を履き違えたトラブル起きそうだろ」

ウンウンと女の子も隣で相槌を打っている。

「今のあの子は組織に入れても必ず仲間に迷惑かけるね。入れたいと思う逸材でも無さそうだし。そんな相手からは手を引くべき」

ピシャリと言い切って、彼女はミソラを見据える。その口調に冗談や私情の様なものは感じられなかった。

「元々大人しい子みたいだし、組織とは関係ない所で、自分で勝手に失敗すれば無茶しなくなるよ。その方が最終的に危険も少ないよ」

それでも組織に要らない人員とは限らないと、ミソラも真剣な眼差しで見つめ返す。

結局、もう少し様子見がてら、カツアゲの件の収束を待って、その時の総評で判断しようという話になったようだ。

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