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千薙木瀧雄7

出発はそれから5日程経過した頃で、朝から車で移動を開始する。センナギが予想していたより距離があるようで、到着までに更に6日程かかった。

現地に到着すると、ぶっきらぼうな雰囲気の男達にムスッとした顔で仲間達が武器を改められ、顎で建物内へと促される。センナギを検分した男は、彼が小刀1本しか持っていなかったからか、奇異なものでも見る様な目つきで睨んできた。

建物内には別の男達がいて、仲間達は彼等と少し話した後、武器を預けていったのでセンナギも倣って小刀を渡した。ギテンがセンナギの衣服をついと引っ張り、耳打ちしてくる。

「できるだけ大将の近くにいるんだ。誰がそうかは分かるね?」

センナギはギテンの方を見て、小さく頷く。仲間達の緊張感がなんとなく伝わってくる。男達に従ってついて行き、一際鉄臭い扉の中に案内された。

部屋には複数人の男達が立っており、その内の4、5人程がこちらに近づいて来る。旗頭も前に出て、彼等と何やら挨拶のような事をする。少し話すと彼等の内の1人が軽く手を叩く。

すると、奥の扉から台に乗せられた大皿が幾つか運ばれて来た。大皿の上には手足を縛られた裸婦と切り分けられた死体と何かしらの食材が盛り付けられている。一気に血の臭いが部屋に充満していく。

仲間の内の数人がウッと顔を青ざめて、口元を押さえながら何やら訴えてから部屋の外に小走りで出て行った。センナギも嫌な気分になって、彼等と一緒に部屋を出ようと出口を向いたら、ギテンに服を掴まれる。

「彼等は大丈夫。気分が落ち着いたら戻って来る。…君の倫理観だとアレらは非道に感じるかもしれないけど、この辺りの部族では昔からこういう宴は領地攻めの戦勝祝いや大切な客をもてなす為に執り行われてたんだ。襲撃した所で獲得した女性や食材、殺めた武将とかを1つの皿に盛り付ける。…当然だけど、腐ったモノは乗らないよ。大抵は全て所縁のあるもの同士を一緒に乗せてて、力を示す意味ももちろんだけど、敗者達に対する礼儀として弔いやら伴侶とか家族との最期の時間とかって意味もあるらしい。今回は来賓のもてなしとして、少し前に襲撃した商隊の捕虜と食材を出したんだそうだよ」

そう言うギテンも顔色は悪かった。センナギはてっきり、コチラへの嫌がらせか何処かの敵対者への拷問の一種を見せて脅しにでもかかってるのかと思ったが、そうではないという事らしい。彼等は一応こちらを賓客として招いてくれたという事なようだ。旗頭も顔色はよろしくないものの、何やら引き攣った笑顔でお辞儀をして、土産物を出したりして話している。相手の男が妙に下卑た笑みを浮かべ、少し顎を上げた姿勢で旗頭と会話をしているのだけが気になった。

「彼がアドゥレスカの大将だよ」

ギテンがそっと耳元で囁く。2人の会話をぼんやり眺めていたら、チラと目が合った。食べて当たり前とでも言わんばかりに平気な顔で食材をつつく男達に対し、旗頭達は食欲が湧かないのを我慢して申し訳程度に、血を浴びてなさそうなものをつまんでいる。センナギも食べる気になれないので、とりあえず旗頭達に何かあれば動ける距離で壁の方に立って様子を見る事にした。そのまましばらく様子を見ていたら、不意にギテンが手招きしてくる。近づいて行くと、旗頭達の話し相手へセンナギを軽く紹介する様に少し話し、センナギの方を向いた。

「ちょっとして欲しい事があってね、少し君の能力を見せてくれないかな」

どういう事か分からず、顔をしかめるセンナギに、ギテンは笑顔のままグイと顔を近づけてくる。

「…これは正念場なんだ。頼むよ。…ここで強さを見せる事で、皆無事に帰れるかもしれない」

ね、と念を押す様にギテンが軽く首を傾げる。センナギは彼をじっと見ていたが、やがて「ああ…」と心得た様に言葉を発した。

「分かった、脅せってコトか」

そう言うや否や、センナギは掌を斜め上空に向ける。ギテンが「え…⁉︎」と驚いた様に聞き返すのと一瞬遅れて、向けた掌の先の壁に大穴が開いた。建物の上階もぶち抜いて、外の景色と埃っぽい空気が流れ込んでくる。血生臭い空気が薄れて少し清々した。旗頭は口に運ぼうとしていた食べ物を取り落として、唖然としている。他の者達も同様だった。

「な…なんてことを!」

寸の間を置いて正気に戻ったギテンが、酷く動揺した様子で怒鳴りかけたところで、アドゥレスカの大将だと呼ばれた男がそれを静止する様に何かを喋った。男は総毛立った様な引きつった笑顔で奇妙な光をその眼に宿して、センナギに対して何かを話しかけてくる。

「…何言ってるか、分からないんだけど」

どうせ面白くもない事を言ったのだろうと思いつつもそれだけ言うと、ギテンがなんとも言えない表情で説明してくれた。

「…壁に大穴開けたことは別にいいらしい。君の事を…いたく気に入ったそうだよ」

「ふうん」と答えたら、ギテンはセンナギにぎこちない笑顔を見せた後、男の方へ向いて、何やら旗頭と一緒に話し始めた。彼等は話しながら、時々センナギの方を見て、何か頷きを返したりしていた。


帰りの車の中で、センナギはぼんやり窓の外を眺めていたらギテンが話しかけてきた。

「今回は凄く助かったよ、ありがとう。君には特別報酬を出すことになったよ。…ああでも、彼処は一応戦闘も想定された造りらしくて頑丈みたいだったから良かったけど、この国の建物は脆いからね、あんな大穴開けたら倒壊する所もあるから注意してね」

やんわりと抗議をしてくる彼の作り笑顔は、いつもと同じはずなのに、何となく学校にいた頃を思い出した。あの、ちょくちょくギテンの部屋を出入りしていた少年は、今回同行しなくて正解だった気がする。そもそも今回現地に着いてから出るまでの全てが不快だった。

武器を取り上げた男達や力を見せるまでの会場の男達のこちらを見る目つきも、その後の態度も気に入らなかった。ギテンや旗頭達の態度もそうである。皿の上の女達もなんとなく母親を思い出されて気分が悪かったし、能力を見せつけてどこか空虚な愉悦を感じた自分にも少し腹が立つ。

そんな事を考えていたら、いつの間にか自分が携帯電話を取り出して手に持っている事に気が付いた。ギテンはにこやかにセンナギの手元を見ている。センナギは、画面は点けずに携帯電話を強く握りしめた。


目が覚めると、私は上半身だけ起こし、その状態でしばらくぼんやりしていた。

こういう、誰かの記憶を辿るような夢を見ると、起きた後しばらく自分が夢うつつの状態になる。とは言っても、無意識下で見るからか、滅多にあることではないが。

「うーん」

ほんの数分か、数十分かしたかというくらいに、ようやく意識がハッキリしてきた感じがして、思いっきり伸びをした。

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