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千薙木瀧雄5

革命軍に所属してからは、センナギが駆り出される時は言葉が通じるという理由でギテンもほぼ同行するようだった。ギテンはそういう都合上、センナギの世話係に近い立場になってしまったようである。ギテンがいる事で言葉が通じるため、任される仕事も増え、護衛も是非にと任される事があり、確かに賊団にいた頃より待遇の良さを実感できた。ギテンから何度も敵味方の区別を説明される内に、多少なら判別もできるようになった。

大分本部での生活に慣れ、食堂での食事も1人でも注文できるようになったので、その日センナギは1人で食事をしながら、ギテンについて考えていた。センナギが考えるギテンという男は、とても慎重な印象である。初めは分からないことが多く状況を甘んじて受け入れていたが、指示されたと言ってもギテンがそこまで自分に構う理由が気になっていた。

こういう時センナギは癖になったかのように、半ば無意識に携帯電話を出して少女の写真を見てしまう。センナギの見た、周囲に利用された挙句、使い捨てられたモリヒスイという少女の最後の姿が脳裏にチラチラとよぎった。ギテンだけではない、革命軍にしても、ギテンは下っ端というような扱いには見えなかったので、彼をずっとセンナギに同行させる事が不可解に感じられていた。

奇妙な苛立ちに似た感覚が沸々と湧き上がるのを感じながら、考え込んでいると、不意に声を掛けられた。

「やあ、食事なら声を掛けてくれても良かったのに」

驚いて振り返ると、少し悲しげな笑顔を作ってギテンが立っている。「お邪魔します」とひと言断ってから、センナギの隣に座った。

「その子、君の彼女か…お友達?」

ギテンは食事を頬張りながら、携帯電話を示して小首を傾げてくる。覗き見とは失礼な事をするなと、少し気分を害したが、いちいち気にするのもバカバカしい気がした。

「何でもない。話したことも無いし。コイツはただの…哀れな英雄だな。何の力も無いけど、たまたま銀行強盗をやっつけたら、周りから持ち上げられてて…でも、暫くしたら今度は卑下されて、好き勝手話のタネにされて、そのままどうでもいい存在になった。あんな国に居たら、俺もコイツみたくなる気がした…それだけ」

話していたら、当時の事を思い出して少し胸焼けがした。ふうんと言いながら、笑顔で見つめてくるギテンが、少しだけ下衆な表情に感じて殴りたい衝動に駆られたが、気分の悪いのを堪え食事の方に集中して無視する事にした。

「そっか、銀行強盗やっつけたって凄いね。君みたいな能力は無い普通の女の子なんでしょ?その場にいた人達と協力したのかなぁ。まあ、君のいた国では此処みたいな内乱とかも無いし、そんな…一時のみの話題で終わるのも悲しいけど仕方ないかもね。でも、今こっちに来たら、きっとその…銀行強盗をやっつけたっていう正義感とか、ウチだったら評価されて、同志になれたかもしれないかな」

ギテンのセンナギにさも同調する様な言い分は気に入らなかったが、こっちにいたらというのは少し気になった。あの賊団にいた時だったらきっと、彼女の正義感とは相容れないだろうし、センナギが一緒でも酷い目に遭わされていたに違いない。でも、今いる革命軍なら、確かに彼女は人助けとか、もう少し活躍していたかもしれないと思えた。

「まあ、だから何だって話だけど」

そう言って携帯電話をしまう。センナギも少しギテンに聞きたいことがあった。

「あのさ、そう言うそっちはどうなんだよ。最初、本部の中案内された時に、なんか子ども来てたろ。アレはアンタの子どもか?血は繋がって無さそうだったけど…捨て子拾ったとかか?」

そう聞いたのは、時々その少年がギテンの部屋に出入りするのを見かける事があったのが気になっていたからである。ギテンは「ああ」と苦笑気味に答えた。

「あの子はね、凄く大切な子なんだよ。この組織でもね。もし仮に私とあの子を天秤にかけるとしたら、君は絶対にあの子を救わないといけない」

言葉を選んでいるのか、ギテンは少し逡巡する様な間を開けて、話を続ける。

「あの子はこの軍を次に率いる子だよ。お察しの通り、私は彼の父親でもなんでもない。ただ…仲が良いんだ」

センナギはなんとなく、それ以上聞くのも野暮な気がして「へえ」とだけ興味無さそうに返して話を切り上げようと思ったら、ギテンは何を思ったのか話を辞めなかった。

「いちおう言っておくと、最初、私が君をこの軍に誘い入れた時に、それなりの待遇を約束できたのも、個室を割り当てる事ができたのも、あの子に私が気に入ってもらえていたからっていうのが大きいんだよ。まあ、今は君とまともな意思疎通ができるっていうのもあるお陰で、私は将来の幹部候補だけど。フフ」

ギテンは存外お喋りな方かもしれない。そう思うのと同時に、話の最後、少し得意げな笑顔を見せてきたギテンの眼だけは笑っていなかったのが、少しセンナギには気になった。

「じゃあ、今アンタは俺とソイツを利用してのし上がってるのか」

「まあ…この組織内での立ち位置としてはそうだね。あの子については言うまでもないけど、今やもう、ウチは君を手放せないよ。だけど、良くも悪くも君に指示を出せるのは私しかいないからね、此処には。…お陰で容易に私を亡き者にもできなくなった」

ギテンは食事の手を止めて、少し難しい顔をしていたが、すぐに笑顔に戻って「ま、そんな内部争いする程ウチは大きい勢力でも無いけどね」といたずらっぽく笑い飛ばした。今はギテンが言う様に内部の権力争いは無いのかもしれないが、未来の話をされているのだと感じた。おそらく、もしこの革命軍が本当に現政府を打倒できる程になったなら、センナギは彼の言う権力争いに巻き込まれるという事なのだろう。

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