第33章
最も大きい広間のような場所で、コルセリアはザルマを見つける。
ザルマは肩で息をしながら血まみれで地べたに座り、コルセリアがそんなザルマを心配そうに声をかけていた。
当主として扱うと言っても、元からの心配症が治ったわけではない。
よほど気が動転しているのか、盗賊と戦った時の冷静さはかほども見られず、あたふたと完全に取り乱していた。
「とりあえず様子を見よう」
追いついたハイアサースがそう言ってザルマに近づく。
そこでコルセリアはようやくハイアサースの回復魔法のことを思い出した。
「そ、そうだハイアサース様! ぼ、坊ちゃまは!? 坊ちゃまのケガの具合は!? すぐに魔法で治してください!」
「騒ぐなコルセリア。だからたいしたことはないと言っているだろう。ほとんど返り血だし、ただ疲れているだけだ」
ザルマが溜息を吐く。
それを見て、最後に追いついた康太も苦笑した。
ザルマの言葉もコルセリアの言葉も完全に無視し、ハイアサースは自分のペースで診断を始める。
まず全体をざっと見た後鎧を脱がせ、その後下着をまくらせる。ハイアサースに照れは一切なく、その様子がまるで内科医のようで、康大は彼女の知的レベルが一気に上がった気がした。
全体の傷を見た後、どこか痛いところはあるかと本当の医者のような問診をする。当然疲れただけだと言っているザルマは「ない」と答えた。
その後腕や足を揉んだりしてザルマの反応を観察し、最終的にハイアサースの診断は数分程度で終わった。
彼女の下した診断結果は、
「小さな裂傷はあるが、傷は水で洗い流したようだし、この程度なら自然に治るのを待った方がいいだろう。まあ気になるなら包帯でも巻いておけ」
ザルマ本人が言った通りのかすり傷だった。
それからハイアサースはすぐに近くにいた兵士の診断に向かう。
ザルマと違い兵士は本当に重傷を負っているようで、腹から流れる血を自分で抑えていた。
トリアージで考えればザルマより優先すべき症状だが、ハイアサースも色々な事情を考慮してあえてザルマを先に見たのだろう。ザルマを後回しにしたら、コルセリアが何をしたか分かったものではない。
「……そいつを必ず助けてやってくれ。俺が生きてるのはそいつのおかげだ」
「約束はできない。ただ最善は尽くす――」
ハイアサースはザルマよりさらに短い診断時間で、いきなり回復魔法を唱え始める。
それほど切羽詰まった状況なのだろう。
また、この部屋には他にも傷を負った多くの兵士がおり、彼女の治療を待っていた。
今まではついてくるだけだったハイアサースだが、これからは彼女が総大将だ。康太もハイアサースに「何かしてほしい事があったら遠慮なく言ってくれ」と声をかける。
「ならばとにかく負傷者に怪我の状況を聞きまくってくれ」
「りょ、りょーかい」
半分社交辞令で言った言葉は即採用され、康太はハイアサースの指示に従う。
最終的にコルセリアだけでなく軽傷のザルマもハイアサースの指揮下に入り、全員が負傷者の治療に当たった。
そしてすべてが終わったころにはもうすっかり日も暮れていた……。




