第22章
最終的に日付が変わったと同時に、康太達は洞窟を抜けることに成功した。
時刻も時刻の上、全員が雨で泥だらけだったため良いカモフラージュになり、幸いにも抜けた先の人間には見つかることはなかった。
ザルマ曰く「見つかったら証拠隠滅のため、確実に殺しに来るだろう」ということなので、むしろスニーキングは至上命題だ。
ただし、今回のルートは前回使ったジャンダルム登頂ルートと異なっていたため、自分たちがどこにいるかまでは把握できない。
せめて王城の建物でも見えればいいのだが、暗い森ではそれも難しかった。
4人は顔を見合わせ、これからのことについて相談する。
「とにかく第一にアムゼン殿下に報告する事だよな。ただいったいここはどこなのか……」
「ザルマはここら辺に覚えはないか?」
ハイアサースの質問にザルマは首を横に振る。
「さすがに他人の領土においそれと入ることなどできないから、思い当たる節はない。しかもグラウネシアと内通している領主の土地になど」
「せめてサムダイが話付けてくれてたらいいんだけど、寝耳に水の出来事だったみたいだから、その根回しを期待するのは無理な話か」
『・・・・・・』
4人は肩を落とす。
康太だけでなく、これまでの道程と精神的なストレスで皆疲れていた。
もっとも、ハイアサースだけは空腹による疲労が大きかったが。
「……おや、あれは何でしょう?」
不意にコルセリアは森の隙間からわずかに見える空を指さす。
当然現代日本人の視力を持つ康太には見えなかったが、ザルマとハイアサースには星明かりで十分だった。
「煙が見えるな。わずかに火の粉も舞っているような気がする」
「山火事か? いや違うな、動物たちが静かすぎる」
山育ちで経験があるのか、ハイアサースは不思議そうな顔をした。
「コウタどうする?」
「……行ってみよう」
少し考えてからザルマにそう答えた。
ハイアサースの言う通りなら、建造物の火事である可能性が高い。
そしてそれは戦争の炎とも直結する。
すでにグラウネシアが攻め込んでいるのなら、それを確認しておく必要があった。
たとえ危険に自分から飛び込むような行為だったとしても、今はその危険が具体的に何かを知らない方がより危険に康太には思えた。
『・・・・・・』
康太の結論に反対する者はいなかった。
コルセリアは分を弁え何を言われても反対する気など最初からなく、ザルマとハイアサースはずっと康太の決断に全幅の信頼を置いている。
反対意見がないことが、逆に康太に責任の重さを感じさせた。
再びコルセリアを先頭に、康太達は歩き出す。
火元に近づくと、康太の目にも火の粉や周囲の景色が見えるようになってきた。
燃えていたのは森を切り開いて作った館である。
いや、館というより砦と言った方が正確かもしれない。
周囲を木の柵に囲まれ、中央には石造りの堅牢そうな館があり、そこから火の手が上がっていた。
落城寸前であることは、文字通り火を見るより明らかである。
「コルセリア、周囲にグラウネシアの兵士やタツヤの姿はあるか?」
「いえ、それらしき人影はありません。というかむしろあの兵士たちは……」
武装して砦を囲む兵士たちを眺め、コルセリアは何とも言えない表情をしていた。
康太が重ねて聞こうとした瞬間、突然背後から大剣が振り下ろされる。
康太どころかコルセリアすら気づけなかったその一撃は、康太の脳天を砕くその直前でぴたりと止まった。
「・・・・・・」
大剣の持ち主は無言だった。
そのため、最も命の危険に合った康太は未だにその危機に気付かない。
唯一コルセリアだけはとっさに後ろを振り向いていた。
「貴方は――!?」
そしてその顔を見て絶句するのだった――。




