第18章
2人が戻ってきたのは夕方ごろだった。
ほぼ同じ時間に扉と窓から戻ってきたが、協力した様子は一切見られない。
お互い別々のやり方で、完全に個人作業で調査したのだろう。
足を引っ張り合わないだけマシだと康太は自分を納得させ、数秒の差で早かったコルセリアから話を聞くことにした。
「あの役立たずでは碌な情報を仕入れられていないことは明らかだったので、大目に時間をかけ、帰還が遅れてしまったことをまずお許しください」
コルセリアの報告は軽い嫌味から始まった。
康太としてはそんな理由で頭を下げられたところで迷惑なだけだ。
「くだらない前置きはいい。とっとと話せ」
ザルマが先を促す。
おそらく好きにしゃべらせていると皮肉が止まらないと判断したのだろう。
康太は頷き、この場は全てザルマに任せることにした。コルセリアの扱いは彼に一日の長がある。
「はい、調査の過程で警戒を持たれるのも問題があるので、占い師を装い城に残っていた取り巻きの女たちに近づきました。どこの国でも女は占いに目がありませんし、私もある程度素養がありましたから」
「そんな面倒くさいことをしていたら、そりゃ日も暮れるでござるなあ」
「圭阿」
康太が圭阿をたしなめる。
こちらはザルマにはできない。
ただいつもようにザルマが過剰に圭阿の肩を持つことはなかった。
それはコルセリアと旅をするようになってから始まっており、康大は2人を待っている間、思い切ってそのことをザルマに聞いていた。
そのときのザルマ曰く、
「心情的にケイア卿を応援したいが、実際にそれをするととんでもなく自体がこじれるから、これからは心の中だけで応援することにしている」
らしい。
話を聞きながら、まるで嫁と姑にはさまれた旦那だなと康太はザルマの現状に同情した。
さすがに美女にもててうらやましいと思う段階は、当の昔に通り過ぎている。
話は戻る。
「……その結果、あの男の後ろ盾がグラウネシアで二番目のパルティナスのマスターである、第二王女チェリー殿下だと判明しました。サムダイ卿の話通り、パルティナス自体には所属しておらず、気分が向いたときに王城に訪れるそうです。ちなみにサムダイ卿は第一王女がマスターである最大派閥のパルティナスに属しているようです」
「なるほどな。それで圭阿は?」
「・・・・・・」
圭阿の表情はあまり愉快なものではなかった。
それでも黙っているわけにはいかないので、重い口を開く。
「拙者は別の取り巻きの女を尾行し、その様子を観察したでござる。結果、不本意ながら、そこの女の情報を補強するものしか得られませなんだ。返す返すも口惜しきことで……」
「私が最初に報告してよかったな。何の成果が得られずともこうしてごまかすことができたのだから」
「コルセリア」
ため息交じりにザルマがコルセリアをたしなめる。
そのとき康大の目には、殺意のこもった目でコルセリアを睨んでいる、圭阿の鬼気迫る表情がよく見えた。
(超めんどくせえ……)
康太は康大で、安易にこの2人に任務を指示した数時間前の自分を殺したくなった。
「とにかくまずはそのチェリーってお姫様会わないことには始まらないな。けど、さすがにサムダイ卿の力は借りれないだろう、別のパルティナスだし。となると、他に頼れそうなのは大司教様ぐらいかなあ」
「まあ聖職者は原則的にパルティナスに属することは禁止されているから、逆にどの勢力にも口利きはできるだろう」
康太の考えにザルマが賛同する。
政治的な提案におけるザルマの同意は心強い。
「然らば拙者が大司教様を探してきましょうか?」
「いや、それよりリアンに聞いた方が早いだろう。昼会った時今日は一日中文献を調べるからサムダイ邸にいるって言ってたし」
「ならば善は急げだな!」
ハイアサースが最後の締めのセリフだけ自信たっぷりに言う。
最近では分をわきまえて話し合いでの発言を控え、区切りの言葉だけしっかり言うようになっていた。
話が変な方向に暴走せず、康大としてはありがたい。
まだ夕方を少し過ぎたかどうかの時刻であったため、5人はすぐにサムダイ邸に向かう。
しかし彼女は既にサムダイ邸を発った後で、自宅に戻っているという話であった。
貴族の令嬢でありながら、変わり者の彼女は本家に住んでいるわけではなく、城から少し離れた場所にある別荘を自宅代わりに使っているらしい。
サムダイ家の使用人は彼女の家に何度も使いに出かけたことがあったので、それを知っていたのだ。
その使用人の道案内を受け、康大達はリアンの家に到着したのだが――。