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第17章

 それからリアンと会うことなくサムダイ邸を出た康太たちは、そのまま宿舎へと戻って行った。

 現状の戦力は圭阿とコルセリアだ。

 その2人がいない状況で他国(グラウネシア)を動き回るのは、康大には不用心な気がした。

 何より、タツヤとの関係が最悪まで落ちた今、どんな不測の事態が起こるか分かったものではない。もし会うとしたら、万全の準備は必須である。


 宿舎に着くとちょうど食事の時間だったらしく、何人かの給仕が扉の前で待機していた。

 前回の食事と違い、今回は部屋の中でするらしい。

 また内容も前と違い、なかなか豪勢な料理がトレイに並んでいた。朝食を食べなかった分、豪華にしてくれたのだろうか。

 料理は全てこのセカイ独自のものだった。

 これで圭阿から余計な妬みを受けずに済むと、康大はホッとする。


 康大達が戻ってくるまで外で待っていた給仕たちを部屋に入れ、テーブルに食事を置かせた後、康大は1人別室のベッドに寝込んだ。


「なんだ、食べないのか?」

「何か気疲れしてな。今は食べるより休みたい」

 ハイアサースにそう答えながら康太は目を瞑る。


 しかし、目を瞑った程度で、彼の安息はそう簡単には訪れなかった。


《人の子よ。またまた面白いことになっているようですね》

 そう言った女神は康大にとってあまり面白くない存在だった。

 いくら仕事着のひらひらで中が透けそうなローブを着ていたとしても、その中身が噂好きの下世話なOLでは心も安らがない。


「疲れてるから後にしてくれない?」

 心の中で女神にそう強く訴える。

 神に訴えるにしては本当にどうでもいい内容だ、

 けれど彼の守護女神はその願いを完全に退けた。


《人の子よ。就業時間の私にその言葉は通用しません。いい加減報告書も書かないといけないから、なにかこう、うまい話をしてください》

「本当に自分のことしか考えてないなお前……」

 康太は心の中でも現実でも溜息を吐く。

 ベッドのある部屋は食事をする部屋とは離れているので、それが2人に知られることはない。


《ふふふ、そう言っていられるのも今の内ですよ人の子よ。実は上司に今めっちゃ見られている手前、この私もしっかり仕事をしているのです》

「仕事……刺身にタンポポを乗せる的な?」

《その未使用皮つきウインナー切り落として荒川の鯉の餌にするぞ》

「なにこの女神怖い」

 こんなシリアルキラーの暴走を許すあたり、かなり甘い上司だなと康太は思った。


《まずあのメガネザル女神の弱みを握りました。実はあの女、とんでもないブス専、不細工専門家だったのです!》

「ああうん知ってた」

 素顔のタツヤにあそこまで入れ込むあたり、美的感覚が根本から狂っていることは康大にも容易に想像できた。


《ちなみに人間は外見ではないという親の教えを信じすぎて、むしろ外見がいい人間の方が信頼できないと曲解してしまったことが原因らしいです。ほら、昔から聞きわけが良く真面目な子ほど、いったん道を踏み外すとすごい勢いで転がり落ちるでしょ?》

「なんか可哀そうな人……女神だな」

 ひどく歪んでしまった人間観に、康大は素直に同情する。


《まあ実際人は見た目が99%でしょうけどね。私のように美しい女神こそ黄金のような精神も宿るというものです》

「お前なんて残り1%の代表みたいな奴じゃねえか」

《・・・・・・》

 抗議すると思っていたミーレは、なぜか何も言わず少し照れた顔をする。

 彼女のこの反応は、康大にとって全くの予想外だった。


「なんだよ」

《いや、美人のところは否定しないんだなって。扱いがぞんざいだからてっきりきれいなカナブン程度にしか思ってないと……》

「いやさすがにそれは」

 その中身に目を瞑れば、ミーレは掛け値なしの美女だ。

 疲れてやさぐれた行き遅れアラサー感がにじみ出る行動さえしなければ、モデルとして明日からでも通用するスタイルの持ち主でもある。

 本人の前では口が……脳が壊死しても言えないが、康大は彼女の美貌を否定する気は一切なかった。


《……ま、まあそれはそれとして。他にもまだあるのです人の子よ》

「あ、ああ、期待しないで聞いておく」

《いや素直に期待しろ。実はあのデコ委員長のパソコンをあさっていた際、遠藤達也の固有信号のIDを発見したのです。それが分かればあのキモイのがどこにいるのか一発ですよ》

「それは確かに便利だな」

《だろ? それでは今すぐスマホにアプリごとデータを送るので……あ》

「あ、じゃねえよ」

 康太は一瞬見直しすぐに失望した。

 どこの異セカイに携帯電話会社の基地局があるというのか。

 ……中には本当にあるセカイも存在するが、それは理論もへったくれもないフィクションでの話だ。

 少なくとも魔法全盛で科学の発展する余地がないこのセカイに、そんなものは存在しない。


《スマホの電波が通じないとか秩父かよ……》

「加須の分際で秩父を下に見るな。ていうか秩父でも普通にスマホは通じるわ」

《ふ、残念ながら私が住んでるのは鴻巣よ!》

「ぶっちゃけ五十歩百歩だな」

《くっ……。い、今に見てろよ!》

 ミーレからの通信は一方的に切られる。

 結局今役に立つ情報はほとんどなかった。

 ただミーレがタツヤの居場所を把握しているのなら、それがいずれ役に立つことは確実だろう。

 目を瞑ればすぐに会えるのだから、利用しない手はない。

 口ではいろいろ文句を言いながらも、ミーレの手助けにはそれなりに感謝していた。


 それなりに。


「……俺も少し食べるから」

 ミーレと話したことで気持ちが軽くなったのか、体が空腹を覚え始めた。

 タツヤしか元のセカイのことを知らないこのセカイでは、現実的な話をするだけである程度ストレスが解消されるらしい。


 料理はハイアサースとザルマ(おそらくほとんどはハイアサース)によって大分減らされていたが康太の分ぐらいは十分残っており、仲間達と他愛もない話をしながら、圭阿とコルセリアが戻ってくるのを待った……。

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