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第13章

《悪い方向って?》

「めっちゃ知人でした」

 ミーレの問いかけに康太はため息交じりに答える。


《知人でそんな顔するなんて、よっぽど仲が悪いの?》

「良い悪い以前に、気持ち悪くなって俺から離れた。初対面の頃は俺もバカすぎてそのヤバさに気づかなかったんだけど、次第にとんでもない香ばしさの中二病臭が、ね……」

《ああ……》

 ミーレが同情したような顔をする。


《なんか画像の顔もえらいぶっさいくだし、脂ぎってるし、鼻の穴でかいし、不細工だし》

「自分で言うのもなんだけど、こいつに比べたら俺はイケメンだと思ってる」

《カメと走る速さ競っても意味ないっしょ》

「何気にお前もひどいけどその通りだ。それでなんて書いてあるんだ?」

《えっと……》

 ミーレがまず黙読する。

 その表情は次第に険しいものへと変わっていった。

 康太はそれを与えられたチートスキルの説明によるものと思っていた。


 だが違った。


《あのね、なんかめっちゃよく書かれてる。夢があるとか、思慮深いとか、英雄気質とか》


「は?」


 康太は両方のセカイで鼻で笑った。


「あれが? 鼻息荒すぎて男女問わず超迷惑がられてたアレが? 嫌いな不良がひどい目に合う小説を書いたノートを嬉々として見せてくるあいつが? そのくせ誰かいじめられてたら、その場に近づきすらしないアイツが?」

 タツヤ――遠藤達也のダメなエピソードはこれ以上ないほど頭に思い浮かぶ。

 その反対の褒めるべき業績は、何一つ思い浮かばない。

 いま改めて思い返してみると、自分に話しかけてきたのもマウントを取りたかったためのように思えてくる。


「……まあとにかく、タツヤが俺の知ってる遠藤達也そのままだったら、難しいな交渉。現実と妄想の区別がついてないような奴だから。なんか弱点……いや、そもそも弱点だらけだわこいつ。やっぱり結構何とかなるかも」

《センタのレポートだと悪いこと何一つ書いてないけどね。まあそういう奴がチートスキル手に入れられるはずがないんだけど》

「どういう意味だ?」

《スキルって()()()()()人間に対する補償みたいなもんなの。だからなんでもできるあのくのいちっ子には適用されないわけ》

「なるほど。となると、普通の男子高校生だった俺だったら何かしら適用されたのよね?」

《・・・・・・》

 ミーレは明後日の方向を見ながら下手な口笛を吹く。

 ただ空気が漏れているだけで音すらしない、下手すぎる口笛かつ誤魔化しだ。


《もういいじゃん、終わったことだし》

 ぼそっと、聞こえるか聞こえないの声で言い訳をするミーレ。

 それでも康太の耳にはしっかり届いたが、反応しても疲れるだけなのでとりあえず無視した。


「それで、チートスキルに関する説明は?」

《まあそっちの方が大事よね。えっとなになに……なんじゃこりゃ》

「どうした?」

《あのアホわけわからんスキル付与してるな。【ダーククロニクルエンドオブファンタジー】の主人公と同じ能力って……。何よこれ、聞いたことないわ》

「あ、俺はなんか聞いた記憶が……」

《超ドマイナーなゲームとか漫画とか?》

「思い出した。えっと、確かあいつが考えたゲームだか小説だかの設定だった気が。詳しくは覚えてないけど、超絶ご都合主義の主人公が活躍する内容だったと思う。本来なら黒歴史扱いするもんだけど、堂々と人にそのことを言えるなんて、ある意味メンタルは鬼のように強いな」

《うわ……》

 ミーレが明らかに引く。

 そしてそっとパソコンの電源を落とした。


《……まあとにかくこれからアンタが相手にするのは末期の中二病患者で、絶望的に痛々しいやつね。がんばりなさい》

「適度にな」

 康太は眼を開き、会話を終了させ部屋に戻る。


「だいたい話はついた」

 部屋に戻るのと同時に康太は仲間たちにそう言った。


「話って、例の異邦人と話すことができたのか?」

 ザルマの問いかけに、康大は当然首を横に振る。


「話がついたのは俺の担当している女神で、問題の異邦人ともその異邦人の担当の女神とも全然話はできなかった」

「それではいったい何が分かったんだ?」

「その異邦人がどうしようもない人間で、女神の方も取り付く島がないこと」

「最悪だな!」

 ザルマの率直な感想に康太は無言でうなずく。


 ――そう、最悪だ。


 あの中身がお花畑の中二病患者に、まともな話などできるとは思わない。

 しかも現在チートスキルを手に入れ、増長の極みにあることは疑いようがない。

 そんな人間に対し、いったい何と言えばいいのか。


(でも相手がアイツだとなんかどうにかできそうなんだよな~)


 少なくともあんな魔法を好き勝手にぶっ放すタツヤより、自分の方が人間としては成長していると確信できる。

 ひょっとしたら、口車に簡単に乗せられるかもしれない。

 逆にボロクソに罵倒してメンタルを粉々にへし折るのもいい。

 幼稚な精神面を突けば、それなりになんとかできる気がしてきた。


「それでは結局どうするのだ、諦めて別の手段を探すのか?」

「いや、タツヤに会ってみようと思う。何を置いてサムダイの要望が満たせるかは分からないけど、結局現状それ以外に道はないと思う。無理やり忍び込んで図書館を使おうとしたら――」

「俺たちを通り越し国家間の問題に発展するな、間違いなく」

 そのあたりの事情に最も造詣があるザルマが、ため息交じりに言った。


「そうなったら確実にアムゼン王子には切られるなあ。ところで圭阿。お前が何で女神と相性悪いか分かったわ。というか実際に会ってみた。まあこっちが一方的に見ただけだけど」

「それはまたご苦労なことでござる」

「なんか殺人鬼みたいに思われてんのなお前」

「人殺しと言われて否定はしませぬが、己の快楽のために殺すことなどありませぬ。あの女神めはそれが全く分からぬようで、いくら話してもらちが開きませなんだ」

「俺もそんな印象だった」

「まあお前のような役立たずがどんなに人を殺していようが、我が剣で屠った敵に比べれ誤差のようなものだが」

「お前も無駄に張り合うな」

 コルセリアをたしなめながら、ザルマが溜息を吐く。

 この2人が話すと、本筋から大幅に外れ、途端に停滞した。


「……とにかく、明日からそのつもりで行く。だからみんなも心構えはしておいてくれ。なにしろいきなり攻撃魔法をぶちかますアホなんだから」

 康太の言葉に仲間たちは頷く。


 ここで話が終われば、明日が本番で今日が何事もなく終わるはずだった。

 しかし、例によってハイアサースがまた余計なことを言う。


「ところでケイアも飯も食べずにいろいろ飛び回って大変だったな」

「まあ残念ながらこれといった情報も得られませんでしたが。状況が状況故に拙者もあまり大っぴらには動けませなんだ」

「そんなことなら一緒に飯食っておけばよかったな。かつ丼上手かったぞ」

「かつどん?」

 圭阿の目がギラリと光る。

 その瞬間、康大はしまったと思った。

 まさかこんなところに落とし穴があったとは。

 しかし気付いた時にはもう遅い。


「そのかつどんとは康太殿のせかいの食べ物で?」

「ああ、初めて食ったがうまかったぞ。ケイアも食べられれば良かったのにな」

「あ、で、でもかつ丼は日本の食べ物だから圭阿のセカイにも――」

「聞いたこともありませぬ」

「ですよね~……」

 康太のフォローは一瞬で打ち砕かれる。


 それからハイアサースは死んだ魚のような目をした圭阿から執拗かつ陰湿な嫌がらせを受けたが、仲間たち――コルセリアでさえ自分に火の粉がかからぬよう、見て見ぬふりを続けた……。

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