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死神と呼ばれた探偵  作者: taku丸
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呪われた男

 


 ある男が拳銃で撃たれて殺された。初弾は身体に当たり男の内臓を掻き乱しながら貫通し、2発目は偶然にも男の頭に当たった。


 大量の血しぶきを上げながら、その男は膝から崩れ落ちるように地面に倒れる。その僅かな間に、己を撃ったであろう人物の顔を見て、納得していた。


 この加害者は以前、撃たれた男の働きによって職を失い、金を失い、家族を失った哀れな男だった。


 具体的に言えば、会社から金を不当に取り出し、懐にしまっていたことがバレたせいで会社をクビになったので、加害者の方が圧倒的に悪いのだが、加害者本人はそんな自覚は皆無だ。


 自分の人生が狂ったのは全てこの男のせいである、と思い込み、自身が犯した罪に関しては棚に上げて復讐をしに来たのだ。


 そんな加害者の自分勝手な考えの結果死ぬ羽目になったこの男は、実は加害者の顔を見た瞬間にその全てを察していた。自分は復讐の為に殺されたのだと。


 男は探偵を職業とし、それなりの実績や実力を持っていた。しかし、この男の人生というのは『幸せ』などという言葉とは正反対の人生だった。『生き地獄』なんてそんな生易しいものではない。『完全な地獄』だったのだ。


 男は両親と弟と妹が1人ずついる家庭に育った。この頃はまだある程度マシな人生で、当時の男はちゃんと笑えていた。しかし、男が小学生に入る前のこと、その人生は崩れ落ちることになる。


 まず弟と妹が死んだ、実の父親の手によって。男の父親は覚醒剤に手を染めていたらしく、禁断症状の影響でまともな思考ができなくなり、次男と長女を殺害。その光景を男はすぐ目の前で見ていた。


 父親が警察に捕まり、精神病院へと連れていかれた。家に残ったのは母親とまだ幼い男だけだった。


 小学校に上がった男は、その時もまだ感情があった。少しぎこちないが、表情は読み取れたし、ものの好き嫌いも第3者が判断ができた。しかし、さらに1学年上がったときにはそれも見られなくなった。


 小学2年生の時、母親が死んだ。原因は過労死。当時の母親は自分を育てる為に病んだ心と疲れた身体に鞭を打って働いていた。そしてその限界は目に見える形で日に日に近づいていき、遂に達してしまったのだ。


 母親の葬儀が終了後、男は親戚の家に世話になることが決まった。その親戚は割と近所に住んでいたので学校などが転校になるということはなかった。


 親戚家族は感情を失った男に対して優しく接してくれた。傷ついた心を少しでも治してあげようと色々なこともしてくれた。


 しかし、当時男に残っていた感情は、自分の最後の家族があの父親であるという嫌悪感だけだった。


 だが、そんな嫌悪感も遂には失ってしまう。男の父親が精神病院で首吊り自殺をしたのだ。職員が命をとりとめようと試みたものの、それは叶わなかったらしい。


 男はその話を聞いて、自分の中にあった最後の何かが音を立てて壊れた気がした。その後、親戚家族の計らいでカウンセラーと話をする機会を何度も設けられたが、意味は無かった。


 その後も男の人生に『不幸』は山積みにされていく。


 小学4年生の時、自分を育ててくれた親戚家族は放火により一家皆死亡。偶然買い物に出払っていてその場にいなかった男だけは生き残った。


 その後、別の家に2回ほど引き取られるが、交通事故、強盗殺人に会い、いずれも男以外の人は全て死んでしまった。


 小学5年生の時に自殺を図るが失敗。半ば無理やり生かされているように生活していくが、高校生の時に唯一の話し相手であった同級生の女が焼死。


 いつのまにか男の周りには多数の死が存在し、探偵となって名が知れ渡った時には既に『死神探偵』と呼ばれるようになっていた。


『死神探偵』に依頼をすると、確かな結果をもたらす代償にその件に関わる誰かの命が奪われる。嘘みたいな話だが、真実だった。


 正確に言えば男が触れた者、もしくは男を触れた者が次々に死んでいった。男がそれに気がついたのは探偵を始めて5年の歳月が過ぎた頃である。


 それに気がついて以降、男は黒い革手袋をはめ、全身を真っ黒なスーツで年中隠して被害を止めようとした。


 その甲斐があって死者の数は減ったが、それでも死ぬ者は後を絶たない。仕事で自分を頼りにしてくれた男が死に、自分を助手にしてほしいと言ってきた女も死んだ。


 もはや、轢かれて死んで最期に体が痙攣している光景を見ても、生きたまま焼かれて苦しんでいる光景を見ても、爆発して細切れになった死体を見ても、男は『死』に対して何の感情も湧かなくなった。


 そして今日、まるで呪いのようなこの現象の最後を飾る死には、男自身が選ばれた。


 男の身体が地面に着く。もはや手足には力など入らず、体温は急激に下がり始め、意識は今にも消えそうな状態だった。


 そんな状態でも、男は死に対して恐怖など微塵も感じていなかった。感じていたのは男に蘇った『安堵』という感情。自分を縛っていた苦しみから解放されるという喜び。



(………やっと………死ねる)



 流れる己の血を見ながら男は微笑む。それが約20年ぶりに作ることができた表情だった。


 その後、男の視界が暗転し始める。時間にすれば一瞬のようなものだろうが、男にはとても長い時間に感じた。


 死ぬ時に見ると言われる走馬灯の類は見なかった。ろくな人生を送ってなかったのだからそれもそうだろうと男は納得していた。


 意識が完全に刈り取られるほんの刹那。男は不思議なモノを見た。片方が金色でもう片方が銀色の羽をした蝶だった。


 それを見た男は、半ば無意識の内に最期の言葉を発した。



「………か…………だったなぁ………」



 自分がなんとを言ったのか、男の耳な機能をしていなくその言葉を聞いてなかった。




 やがて、男の呪われた人生は終わった。






 次の日の地方新聞の見出しは次のようなものだった。



『 名探偵 西宮真死亡!


 原因は加害者の私怨か? 己の呪いか? 』







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