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どこに戻れば  作者: 祥子
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そして迎えた土曜日。

前の晩からかなり緊張していた。何を着て行こう、何を話そう、何を歌おう、色々シミュレーションをした。デートかっ、とつっこみたくなるくらい真剣に計画を練った。あの及川春と二人で出かけることになるとは。同じクラスになったと言えども、いきなり話したこともないクラスメイトとカラオケに行く約束するかな。しかも二人で。なんで私がこんなに緊張したりあれこれ考えなきゃいけないのよ。と、シミュレーションしているうちに腹が立ってきて、考えることがバカらしくなってきた。もうどうでもいいや、何とかなるだろうと半ば開き直ってその日は寝た。

待ち合わせの時計台へと行くと、制服の時とは雰囲気の違うはるちゃんが立っていた。大人っぽい服装で同い年とは思えないくらいだった。とてもきれいだった。その見た目からより一層緊張が増した。

「来てくれてありがとう。フリータイムのとこでいいやんな?お腹空いたらそこでなんか頼もう。私割引券あるからちょうどいいやろ」とはるちゃんは全く緊張していなそうだった。

「うん、お任せするよ」と言うしかなかった。今振り返ると、なんであんなにはるちゃんを恐れていたのかわからないが、あの時ははるちゃんが恐くて仕方なかったのだ。

はるちゃんにとりあえず着いて行った。はるちゃんがよく通っているというカラオケ屋に入った。

部屋に入ると、「祥ちゃんって呼んでいい?私のことは春でええよ」と突然言われた。いきなり呼び捨てとかハードルが高すぎたので、「全然いいよ。私ははるちゃんと呼ばせてもらうね」と答えた。

「祥ちゃん、いきなり私に話しかけられ訳もわからずカラオケに今いるこの状況戸惑ってるやろ」とはるちゃんがニヤニヤしながら聞いて来た。

「本当にそう。まだ話したこともないのにいきなり二人でカラオケとか。カラオケは好きだからいいけど。正直戸惑ってます」

「そうやんな。ごめんな。香織は私がずっと音楽活動してるの知ってて、是非祥ちゃんの歌聞いてみてって言うもんやから。ずっと祥ちゃんのこと気になっててん。香織が祥ちゃんって話すもんやから私も勝手にもう祥ちゃんって呼んどったわ」

驚いた。はるちゃんがすでに私のことを知っていたとは。それともう一つ。

「音楽活動?何かしてるの?」と興味津々だった。

「全然大したことはしてないで。小さい頃からピアノやっててな。自分で曲作れたらおもしろいのになって思い始めて、作り方学んで作曲したりしてんねん。でも趣味程度な。作詞はあかんねん。いまいちやねん」

「えぇ!すごいね!私はギターでコピーしかできないから自分で作曲するとか本当にすごい!」と今まで緊張していたのが嘘かのようにはるちゃんに吸い込まれていった。

「そんなすごいもん違うで。ってか、祥ちゃん、ギター弾けるんや。ギターでコピーとか格好ええわ。今度聞かせてや。弾きがたりや」

「はるちゃんの作った曲も聞いてみたい。今度聞かせて」

この後もしばらく話が盛り上がった。

「せっかくカラオケ来たし、祥ちゃんの歌聞きたくて来たんやから歌ってや。このまま喋り倒して帰ったら意味ないわ」

また緊張が返ってきた。私は一番得意な歌をいれた。はるちゃんは私の歌をニコニコしながら聞いてくれ終わったら拍手をしてくれた。

「めっちゃ、いい。聞き入ってしまったわ。歌好きなんがわかるわ。しかも私もこの曲めっちゃ好きやねん」

「いいよね、この歌。一応オハコを歌ってみました。はるちゃんも歌ってよ」と促す。

はるちゃんが歌い出した。

なんていい声なんだろう。はるちゃんも歌がとても上手だった。

「はるちゃん、めっちゃうまいね。声大好き。聞き入ってしまったわ」

「ありがとう。今度また祥ちゃんの番やで」

お互い一曲ずつ歌い終わった後はフリータイムが終わる時間まで歌いきった。

「ハモってもうざくない?」と聞いてくれたので「もちろん」と答え、私もはるちゃんが歌ってる時合間合間にハモった。はるちゃんにハモってもらって歌うのはとても気持ちがよかった。

このカラオケの1日を通してはるちゃんとぐっと距離が近くなり、はるちゃんに抱いていた恐怖心はどこかに飛んでいっていた。

でももしあの時、カラオケに行くことを何が何でも断っていたらあんな悲しいことは起こらなかったのだろうか。

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