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どこに戻れば  作者: 祥子
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内田祥子、33歳。人生を振り返る。

「じぶん、歌うまいんやってな」

これがはるちゃんとの最初だったなと思い出す。

そして気持ちのどん底にいた私を救ってくれたんだったな。



人生には何度かの転機がある。

私の一つ目の大きな転機は中学三年生の夏。

いつも通り学校から帰宅する。

「おかえり」といつも玄関まで迎えにきてくれる母が今日は出てこない。

特に気にもとめずリビングへ行き「帰ったよ?」と声をかける。

ソファーに座り込んだ母が急いで顔をあげる。

「ごめん、おかえり。考え事してて気づかなかった」

「どうしたの?大丈夫?」

「祥子が帰ってきたら話さなきゃいけないことができたのよ」と目を閉じて母がつぶやく。

なにこの重い空気…。

どう答えていいのかわからず黙っていると母がそのまま続けた。

「お父さん、今回の異動で東京に帰ってこれるって言ってたんだけど、また大阪になってしまったんだって。しばらくまた大阪から出られないみたいなのよ」

ここで母が一呼吸置いた。

「そうなんだ。残念だったね。会社もひどいもんだね」と私はそんなことかと流して聞いていた。

「それでね、お父さんがね、家族には本当に申し訳ないんだけど今回は大阪に来てほしいっていうの」

「えっ…どういうこと」

「単身赴任してもう10年になるでしょう。家族と離れて暮らすのが寂しくて仕方ないんだって。今度またいつ東京に戻れるかわからないからまた一緒に暮らしたいんだって。お父さんの体のことも心配だからお母さん、お父さんのそばに行ってあげようと思うの。だから祥子も付いてきてね。早くむこうの高校探さなきゃね。受験のこともあるから」

「ちょっと待ってよ。突然すぎてよくわからないんだけど。よし子や紀香と同じ高校行こうねっていう約束は?みんなでまたテニスしようって約束してるのに。ここを離れるなんて嫌だよ。何で今更?ずっと単身赴任してるんだからこれからもずっとしてればいいじゃん。今更何なの」

私は頭の中がパニック状態だ。

「ごめんね、もう決めたことだから」

と母は申し訳なさそうな表情はしているものの、私と話しているうちに自分の気持ちに決着がついたのかすっきりしている様子だった。

私は自分の部屋に駆け込んだ。

「信じられない。勝手すぎる」

泣きすぎて、ショックすぎてこの後どのように過ごしたのか、母とまたどのように会話を始めたのか、どう気持ちに整理をつけたのか覚えていない。

おそらく気持ちに整理はついていないが、学校にはいかなくてはいけないし、親に言われるがまま毎日が過ぎていったのだと思う。


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