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およめさん

作者: 波止 晴信

「ただいま~」

「おかえなりなさい。 あ・な・た」

「今日も残業なし! 早く帰れてよかった」

「ごくろうさま」


 私は苦労をねぎらおうと夫のけーくんに顔を近づけた時、「お、いい匂い」とそっぽを向かれた。 頑張って作ったし、食べる前からそう言ってくれるのはうれしい。 けど今はそうじゃないでしょうに!


「おさかなだよ!」

「え~っと、なに怒ってるの?」

「ねぇ、けーくん。 お風呂と私どっち先にする?」

「ご飯が先じゃないの……?」

「ずっと待っているの寂しいんだよ!」


 じっと見つめるとけーくんはバツが悪そうに顔をそらしたあと、「じゃあ……」と顔を近づけてくれた。 私は目を閉じて待っているが、いつになっても来ない。

 うっすらと目を開けて様子をうかがうと、スンスンとけーくんが鼻を鳴らしている。


「なんか焦げ臭くないか?」

「あーーーーっ! おさかな!」




 私たちが結婚していくばかりかの時間が経った。 初めの頃は私も働いて家計を助けていたけど、今ではそれもなくなった。 けーくんが頑張ってくれた。

 今でもその頑張りは続いて、おかげ様でいつも家では疲れ切ってすぐに寝てしまう。 休日なんて一日中寝てることもある。

 不満はないけど、昔に戻りたいと思うぐらい今の生活は平坦になっている。 一日を無駄というか、仕事のために使っているみたいでちょっとイヤ。 仕事にしか目がいってないけーくんを見てると、私はなんでここにいるんだろうって考えることがある。

 仕事で疲れたけーくんを癒すため? 疲れたけーくんの代わりに家事をするため? 遅刻しないためにけーくんを起こすため?

 けーくんのため、けーくんのため、けーくんのため————。

 それじゃあ、けーくんは私になにをしてくれる?

 こんなことを言うと、見返りを求めるためにあれこれしてるみたいで憎たらしい感じがするかた言えない。 でもそういうことになってしまう。

 けーくんは私のためにお金を稼いでくれる。

 それだったら自分で働いて稼いだほうがよっぽどいい。 その方がけーくんも自分のためにお金を使うことができるし、私も私で好きなことにお金が使える。

 こんなことを考えていたら、結婚したことを疑問に思ってしまう。

 結婚はゴールなんてよく言うけど、結婚してからがスタート。 結婚してからこれまでなかったしがらみが出てくる。 例えば、夫の小遣い制。 これまで自由に使えてたお金が、家計のためにと制限される。 例えば、妻の買い物。 夫が稼いだお金を妻が自由に使うことを不満に思った夫が買うものに制限をかける。

 結婚には様々なしがらみがあって、自由がなくなる。 でもこれらのことは実際に結婚してみないと分からない。 全部が全部、制限をかけ合う夫婦ではない。 そういう夫婦もいるという話になる。

 けーくんにはそういう制限をかけてくることはないし、私もしてない。 お互いに自由がある夫婦じゃないかと思ってる。 ただ思ってるだけで、実際は仕事ばかりでちょっとも家庭を見てくれない。

 私だけじゃいけないのかな? そーなると、子供か? ゴムなしセックス? 結婚してから、セックスなんてしてなかったな。 私から誘うのもなんか、アレだし……。


「難しい顔して、どした?」

「べっつに~」

「さっきはあんなに可愛い声出してじゃありませんか~」

「今もさいっこ~うに可愛いじゃありません?」

「そーいうことを言わないのが、いいんですよ」

「そんなん知らんわ」


 ……まぁ、何気ない会話が一番楽しいと思える。 結婚しないと味わうことができない気持ち。 友達とも家族でも替えは効かない楽しい時間。 こんなことで、さっきまで考えてたことが消えてなくなるんだから、私は単純だと思う。


「ねぇ、けーくんって今年で何歳になるんだっけ?」

「んっと……、ちょうど三十だな。 なんかあんの?」

「そろそろ、つくる?」


 指で作った輪っかに人差し指を出し入れする。 「その仕草をやめろ」と笑いをこらえたけーくんに注意された。

 そして軽い咳払いをして「今度の休みなら……」と言った。


「ん、精力剤と妊娠キット買っとく」

「そーいうのやめろよ!」


 二人して、にへらと意地汚く笑った。

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