表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ガーベラ

作者: 亜鉛


「行ってきます」

赤色のリボンが揺れる

少し柔らかい、まだ嗅ぎなれないような秋の匂いが鼻をくすぐる

「秋」と言うには少し早い そんな日の物語


「昔 この辺りには空襲があってね、何百人の人が命を落としたのよ」

何度も聞いた

聞き慣れてしまった

初めて聞いた日の恐怖や、今生まれてきた事への感動なんてとっくになくなってしまった

キーンコーンカーンコーン

「さようなら」

「あ、空!一緒に帰ろう!」

焦げ茶の髪にお下げの髪を小さく揺らして、愛結がかけてきた

「うん、帰ろっか」

またいつもと変わらない

何の変化もない それが幸せなんて、誰も決めていない

幸せかなんて、分からない


「…あ、雨降りそう ねぇ愛結、傘持ってる?」

「え?うーん…ない」

鞄を何度もまさぐるけど、やっぱりない

「まあ、急いだら大丈夫じゃない?」

「それもそっか」

空を見上げながら家まで帰ることにした

あれ?なんか暗くなってきた…?

雨?何か降ってきている

「愛結、本当に雨降ってきたから、どっかで雨宿りしよう」

「む、無理…」

愛結の足は震えている

「……?じゃあ私だけ行くからね…?」

急いで近くのコンビニに走った

今日は数学が大事なところだからノートが濡れたら絶対ダメなんだよね

「いらっしゃいませー」

よし、なんとか濡れないですんだ

ドォォォォオン!!

突然の爆発音に、強い風

ガラスのドアは、ガラスが吹き飛んで枠だけになった

「なっ何!?」

咄嗟に叫んでしまった

外を見ると、地面には大きな穴が空いて

さっきまであった車や道路は黒焦げになっていた

静かだったコンビニは悲鳴で溢れかえった

外に 人の姿はない

「愛結…は…?」

背筋が凍るように寒い

まさか、 まさかね

いても経ってもいられなくなり、私はコンビニを飛び出した

「愛結!愛結!!いるんでしょ!?返事、してよ!!」

必死に叫んでも、返ってくるのは悲鳴だけだった

「あっ…愛結っ!!」

喉が痛くなるくらい叫んでも返事はない

まさか だよ まさか

戻ろうきっと愛結はどこかに逃げたんだよ きっとさ

パキッ

…?なにか踏んだ


『このキーホルダーさ!おそろいにしようよ!』

『え、このマリーゴールドのキーホルダー?』

『それは、私!空はガーベラのキーホルダーね!』

『ありがとう。親友の印だね』


半分に割れたオレンジ色のマリーゴールドのキーホルダー

「な…んで…?こんな所に……」

近くから異臭が漂う

黒く焦げた塊のようなものが転がっている

いやだ そんなはず あるはずが

「そんな…わけが…」

この現状を受け止めきれない心とは裏腹に、瞳からは涙がこぼれ落ちてきた

なんで 止まらないの そんな訳ないじゃん

愛結が そんな

心臓が痛い

周りの音がやけに遠い

目頭が熱い

頭がズキズキと痛む


そんなはずないじゃん

空襲なんて、とっくの昔に終わったんだからさ

違うよ そんなはずない

ふと空を見上げた

灰色の雲が広がって

いつも見ている空とは、全く別のように思えた

涙で空がぼやけていく

全てが歪んでいく



暖かくて、柔らかい

「…え…?」

周りを見渡すと私の部屋、私の布団だった

「夢……?」

目をこすると、涙で濡れていた

ふとスマホに目をやる

愛結からメールが来ていた

『空ー!(´・Д・)」今日休みだからさ、一緒に遊びに行かない??ヽ(*´∀`)ノ』

いつもの愛結のLINE

『うん、いいよ』

何故だか、涙が手にぽつりと落ちてきた


「行ってきます!」

ふと、空を見上げた

この空を眺めて、どれだけの人が悲しんだんだろう

どれだけの人が怯えたんだろう

私には想像もつかないな

今、こうやって笑って空を見られるのがどれだけ幸せなことなのか

きっと いつか気づくんだろう


『お母さん、なんでそらは、そらって名前なの?』

『そうね……空にはね、沢山の人の気持ちが詰まってるのよ』

『きもち?』

『そう。気持ちがね、その気持ちは光として私達を照らしたり、時に雨を降らせて誰かを困らせたりするの』

『でもね、青いそらは私達の笑顔でできているのよ』

『笑顔でできてるの!素敵!』

『素敵でしょう?そして青い空は誰かを笑顔にするの。誰かの笑顔でできた空を眺めた人をね』

『だから、空、貴方も誰かを笑顔にする、空のようになってほしい。そんな願いを込めているのよ』

『…!そら、空大好き!!綺麗なお空、大好き!!』




今日の空は、いつにもまして青く見えた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ