第82話 生と死
外が騒がしくて目が覚める。
起き上がると、マリーが居ないことに気が付く。
皆を起こさないように、服を着て外に出てみると、同行するであろう男達が荷車などの用意をしていた。そこにマリーの姿もある。
マリーの方へ歩いて向かっていると、マリーもこちらに気付いたようで、こちらに走ってくる。
「タカシ様、おはようございますです!」
「あぁ、おはよう。早いな。もう準備しているのか?」
時計を見ると、まだ5時だ。張り切り過ぎだろう。
「はい! タカシ様がどれだけすごいのか、どれだけ偉大なのかをご説明したところ、皆さんとてもやる気を出しまして。あ、勇者ということは伏せてますので、ご安心くださいです!」
安心できねぇよ。盗賊は確実に殲滅するけど、全員無事だという保障はないんだから、そんなに期待されても困るんだが。
「そうか。とりあえず、朝飯作るぞ」
「はい!」
家に戻ろうとしたところ、荷車を運んでいる男から挨拶される。
「お、勇者様! おはようございます! おい、お前達、勇者様が起きてこられたぞ!」
「「「おはよーございまーす!」」」
何この状況……。
とりあえず男共には手を振っておく。
「はぁ……おい、マリー。俺の言いたい事、分かるか?」
「わ、わわわ、わ……」
目が泳ぎまくって、膝がガクガクなっている。
「そんなに呪いを掛けて欲しいのか?」
「ち、ちがい、ます。違うのです! 私は言っていません! ゆうしゃの“ゆ”も言っていません! 信じてください! です!」
「言い訳はいいよ。今度お仕置きな。ほら、飯作るぞ」
「あわわ……」
お仕置き内容を考えながら、飯を作り、皆を起こして食べる。
朝食を食べながら、作戦等を話していると、この村は“スフラ”であることを知る。いつも聞くのを忘れるんだよな。
作戦としては、ミリアとマリー、ファラとランで行動をさせて、俺が遊撃するという作戦で決まる。
ミリアにはマリーを守ってもらい、ファラにはランを守ってもらう陣形だ。
今回は相手が二十人以上居るので、皆にしっかり働いてもらう。
作戦会議も終わり、朝食も終わったので、準備する。
今回は破れたり、返り血で汚れたりしたら嫌なので、ゴスロリや制服ではなく、念の為ライトプレートを装備させる。
「よし、行くか。マリー、皆に声を掛けてきてくれ」
「わ、わかりました!」
マリーに運搬係を呼んできてもらう。
男共が荷車を持ってきたところで、出発する。
狩りをしている時に、アジトらしきものを見たことがあるという男に案内を頼み、ファラの召喚獣で周囲を警戒させ、森を進む。
道中、猪などが出たが静かに一撃で仕留める。
その状況を見ていた男共は“すげぇ”など言って感動していた。マリーのせいで、もう何をやっても感動されそうだな。
数時間歩いたところで、案内役の男が立ち止まり、この少し先にアジトがあると伝えてきたので、後ろに下がらせる。
ファラからも、この先に建物があるという報告をもらう。
これはもう、アジトで間違いなさそうだな。
「ランと精霊は突っ込んで良い。ミリアとファラは相手を逃がさないよう、出来るだけ後方から周りを良く見て盗賊を仕留めてくれ。もし逃がすと、後ろに居る彼等が危ないからな?」
「はい!」
「わかった」
物音を立てないよう近付き、広場の目の前まで移動する。
念の為、高台から監視をしている奴のジョブを確認したら、盗賊だったので、アジトはここで間違いようだ。
アジトは、後方が小さな丘になっているところを削って建物を建てているらしく、横長の造りになっている。
ここは丘を正面に見て、右側になるようだ。
「貴方達は、ここで待っていてください」
「はい。分かりました。ご武運を!」
「おい、ファラ、ラン俺に掴まれ」
「ん」
「はーい」
運搬役には待機してもらい、ファラとランを移動させるために、体に触れてもらう。
「ミリア、マリー。俺があっちの奥で暴れる。盗賊共が俺の方に集中したら、ここから出て攻撃を開始してくれ。それと、後ろに居る彼等の守りは頼んだぞ?」
「はい! 任されました!」
「がんばりますです!」
――シュン!
ミリアとマリーに運搬役を守るよう指示して、ファラとランを連れてアジト正面の森の中に移動する。
「さっき言った通りだ。俺が暴れるから、俺に意識が集中したところで一気に攻めろ。遠距離攻撃には注意しろよ?」
「ん」
「はーい」
相変わらず緊張感のない返事だな。うまくファラがフォローしてくれると良いが。
ミリア達を待たせるのも悪い。さっさと行動を開始しよう。
「それじゃ行ってくる。正面は任せたぞ!」
「だいじょうぶ」
「任せて!」
――シュン!
アジトの正面から左側に神脚で飛び、マナポーションを飲む。
右手にレイピアを持ち、左手で魔法を使い、すぐ近くにある小屋から順に燃やしていく。
「おい、火が出てるぞ!」
「火事だあああ!」
「野郎ども、火を消せえぇぇ!」
盗賊どもが慌てだしたので、魔眼を使って動く方向を確認する。
近付いてきた奴から順に足と手を刺したり、横腹を刺したりして行動不能にしていく。
「ぐああぁっ! て、てき、敵襲!」
「敵だあぁぁっ」
良い具合にこちらに盗賊が集中してきてくれたところで、ミリア達が行動を開始する。
精霊が高台に居る奴等を風魔法で叩き落とし、ミリアは風の刃で盗賊の手足をボロボロにしている。
見る感じ、今回は手加減出来ているようだ。
ランは中央の大きな建物に向かって全力疾走したところで、悪人面の槍を持った奴と相対している。
ファラはそれをフォローする形で、悪人面の取り巻きがランを攻撃しないよう魔法と召喚獣で牽制している。うまいな。
こちらもあらかた片付いたので、行動不能にした奴等を空間魔法で一ヶ所に集め、土魔法で閉じ込めておく。
その処理が終わり、ファラとランの方を見ると、ランが傷だらけになっていた。やっぱり槍とのリーチの差だろうか。まずい。
ファラもそんな状況を見て、まずいと感じたのか少し焦りが見える。
手助けに行こうと走るが、いちいち雑魚が絡んでくる。
雑魚に気を取られた後、再度ラン達の方を見ると、ファラが蹲っていた。
――シュン!
「おい、ファラ、どうした!?」
「うぅ、いたい」
神脚で移動してファラを見ると、掌に矢が刺さっていた。
これは痛い。
風の刃で掌に一番近いところから矢を折り、抜いてあげる。
――カンッ!
「あぁぁぁっ!?」
「少し我慢してくれ」
そのまま治癒と、毒などが心配だったので治療も施しておく。
そのまま貫通して胴体に刺さったりしなくて良かった。
――カカッ!
「どうだ? 大丈夫か?」
「だいじょうぶ。少しよくなった。タカシ、ありがとう」
「念の為、自分でも治癒しておいてくれ。後は俺に任せろ。この中で休んでおいてくれ」
「ん。ごめん」
土の小屋を作ってあげ、中に入れてあげる。
――カッ!
さっきからファラに当たらないよう、飛んでくる矢を、鎧や盾で防いでいたけど、いい加減イライラしてきた。
ファラの介抱が終わったので、神脚で弓使いの背後に移動して、高台から突き落とす。
「うあ、わわわわあああ!」
更にランの所に戻り、手助けする。
「ラン、面倒な相手は、こうするんだよ! バインド!」
「えっ」
――ドサッ!
「ウラァ! 俺のファラとランを傷物にした礼だ、オラオラァ!」
――ブツッ! ザッ! ブシュッ! ザクッ! ブシュッ!
「ぐああああっ! やめ、だぁぁ、いてぇ、やめっ! あぁっ!」
手足をめった刺しにしてやる。治癒を施して、更に刺す。
気絶したところで、再度治癒を施して土で閉じ込める。
「大丈夫か、ラン。ほれ、治してやる」
「え、あ、うん……」
傷だらけのランを治癒してあげる。引かれてしまったか?
まぁ、良い。それよりミリア達だ、と思いミリア達を見ると、マリーが倒れていた。あっちもか!
「後は任せたぞ」
「え、あ、ちょっと!」
――シュン!
ランが何か言っていたが、それどころではない。すぐに飛ぶ。
マリーを見ると、背中を斬られている。HPを見る限り命に別状はないようなので、治癒を施す。
「おい、マリー大丈夫か?」
「はぁはぁ……はい、いたたっ。ごめんなさいです」
「タカシさん、マリーさんが! マリーさんが!」
「治したから大丈夫だ。それより周りを良く見ておけ!」
周りを見ると、手足を切り裂かれた盗賊どもが、悲鳴を上げ痛みでごろごろ転がっていた。
「お前、何で背中を斬られてんだよ。周り見てなかったのかよ!」
「ごめんなさいです。周りは見ていたのですが、複数人で襲われて、対処しきれず、ミリアさんが斬られそうだったので、つい……」
「そうか、強く言ってしまってすまん。ミリアをかばってくれたんだな。良くやった! 後は休んでくれ」
頭を撫でてあげ、再度治癒と治療を施しておく。
「あの、私はまだ戦えます!」
「いや、ミリアを守っただけで上出来だ。後は俺に任せろ」
「あぅ……お役に立てなくてごめんなさいです……」
「いや、十分だ! ありがとうな!」
マリーを治した後、ミリアの方に戻る。
「マリーに助けられたな。後でお礼を言っておけよ?」
「うぅ、はい。言い訳はしないです……ごめんなさい」
「よしよし。じゃあ、後は俺がやる。そこらへんに転がってる奴等を一ヶ所に集めて、後ろで待機してもらってる奴等を呼んで、協力して拘束しておいてくれ」
「はい!」
やっぱり人間相手だと、動きがパターン化されているモンスターのように思うようにいかないな。
この子達の実戦経験を積ませる戦いは、この程度で良いだろう。
一気に終わらせる為、大きく魔力を込め、火と風の合成魔法で、火柱を生成する。
それを端から順に建物を燃やし、盗賊共もまとめて吹き飛ばすように動かしていく。
――ゴオオオオオオオッ!
逃れてきた奴には、土の塊を射出して仕留める。
魔眼で見た時に、中央の大きな建物の奥には一ヶ所にまとめて座っているような人の気配があったので、そこだけ残しておく。
端から端まで片付けた後、燃えている奴には水を掛け治癒を施し、空間魔法でミリア達の下まで搬送する。
その作業が終わった後、閉じ込めていた奴等も解放し、ミリア達の下に連れていく。
ついでにファラも隔離を解除して、こちらに連れてくる。
「どうだ? もう痛くないか?」
「うん、タカシ、ありがとう」
自分でも治癒したようで、もう傷も消えて元の掌に戻っていた。魔法って便利だな。
「ちょっと、タカシくん! さっきの何よ!」
「さっきのって何だ?」
「あのバターンって盗賊を倒したやつ! 教えて!」
「腹に力を入れて、ふんっ! って気合いを入れるんだ」
「お腹に? うぅぅんっ! フンッ! バンド!」
何やってんだこいつ。
しかもバンドじゃない。バインドだ。
「フンバンド! フンッバンドー! フンッフンッバーンド!」
楽しそうだし、放置しておこう。
「こんなもんか?」
「はい、もう居ないようですね」
「じゃあ、後は任せた。ファラ、こいつら縛り終わったら傷が多い奴には治癒を施してやれ」
「わかった」
ファラに盗賊の治癒を指示して、残しておいた建物に向かう。
「何かするんですか、タカシさん?」
「あぁ、あの建物の中に、攫われた人が居るみたいだからな。見てくる」
「わ、私も行きますです!」
マリーが付いてきた。弟が居るかもしれないし、危険は無さそうだから、別に良いか。
建物の中に入ると、奥の部屋には鍵が掛かっていたので、精霊に壊させる。
部屋の中には確かに盗賊ではない者達が居た。
だが、全て女性だ。
マリーの弟が実は女性だったとかいうオチはないよな?
「あなた、もしかしてマリー……?」
「はい、マリー・カレーズです。助けに来ました!」
「おぉ……なんということなのっ! ほん、とうに、助けに来てくれたの!?」
「はい! こちらに居る、私のご主人様が盗賊を全て倒してくださいました! さぁ、皆さん帰りましょう!」
マリーにナイフを渡し、彼女たちの拘束を解かせる。
「ありがとう! ありがとうございます!」
皆からお礼を言われ、とりあえず一緒に外に出る。
捕えられていたのは、エルフが二人、人間が八人のようだ。
「あの! それで、その、私の弟は知りませんか!?」
「うぅ……それが、その……多分、もう……」
「ん? どういうことだ? もう、売られてしまったのか?」
尋ねると、チラチラと建物裏の丘の方を見ていることに気付く。
「あそこに何かあるのか? 少し見てくる。お前達は待ってろ」
念の為、魔眼を使うが何の気配もない。
建物の裏手に回り込むと、洞窟のようにぽっかりと穴が開いていたので、火魔法で簡易松明を作り、中に入ってみると――。
「うっ……」
いくつもの死体が転がっていた。
ほとんど男性だが、中には女性も混じっている。中には腐敗が進んでいるものもある。
「タカシさまー、誰か居ましたかー?」
「あぁ、でもこっちには来るな」
「えっ……まさか!」
――タッタッタッタ!
マリーが走ってくる。しまったな……言葉を間違えた。
でも、こういう時どういう返事をしたら良いのか分からない。
それに、何れ分かることではあるが、どうしたもんか。可能であれば、こんな惨状を見せたくはないが。
「ひぃっ!」
死体の山を見て、マリーが後ずさり、その場に座り込む。
「あっ、ああっ、アレフ……」
死体の中の一点を見つめて何かを言っている。
弟を見つけてしまったのだろうか……。失敗したな。
そろそろ一時間経過しそうだったので、マナポーションを飲む。
このまま、ここで死体を眺めていても仕方がないので、マリーに触れ、スフラの村長宅に飛ぶ。
「うおぅ!? 勇者様、盗賊討伐に行かれたのでは!?」
村長まで勇者と思い込んでしまったのか。言葉遣いまで変わっている。でもまぁ良い。今は、それを訂正している場合ではない。
「村長。あっちには既に手遅れだった人達が居た」
「なんとっ!? それで、誰が! 誰が手遅れだったのですか!」
「今から、ここに遺体を十二体ほど転移させる。中には腐敗の進んでいるものもある。弔えるよう準備をしてくれないか」
「わ、分かりました! おい、お前達! 布や水を用意しろ! 可能な限り多くだ! 棺があれば、全部持ってこい!」
「あと、マリーの弟も手遅れだったようで、ショックを受けているんだ。すまないが、こいつを休ませてやってくれないか?」
「なんということだ……わかり、ました。さぁ、こちらへ」
村長が中に入って行ったのを見て、マリーを神口で眠らせる。
そのまま抱きかかえ、家の中の大きなソファーに寝かせておく。
「それじゃあ、今から連れてくる。準備を頼む。あと、出来るだけマリーには見せないでくれ」
「畏まりました」
そのまま家を出てアジトの裏手に移動する。
移動したところで、ミリアが様子を見に来ていた。
「タカシさん、どうしたんですか? あら、マリーは?」
「あぁ、今、村長の家に預けてきた」
「何かあったんですか!?」
「この洞窟の奥に、手遅れだった者達の遺体が大量にある。マリーがそれを見てしまってな。しかも中には弟も居たみたいで……」
「うぅ……手遅れだったんですね……」
「それで、マリーは俺が眠らせたから、今の内に遺体を村長宅に運ぶ。すぐに戻るから、皆を一ヶ所に集めておいてくれないか?」
「分かりました!」
ミリアが戻って行ったのを確認して、洞窟の中に入る。
遺体は山のように積まれているので、誰かに触れるだけで芋づる式に全員運べるか試してみよう。ダメならMP消費が心配だが、仕方ない。個別に移動だ。
――シュンッ!
下手に力を加えると下の者が潰れてしまいかねないし。着地の時にドサっと落ちないよう空間魔法で浮かせておいて正解だった。
「これはひどい……」
既に布が広げてあったので、そこに浮かせている遺体を一つ一つ丁寧に移動させていく。
さっき助けた子達は人間が多かったが、遺体は全部エルフだな。
「うぅ、皆、すまない。すまない」
村長が泣きながら、遺体に謝っている姿を見ていられない。
「村長、俺は助けた者達と、盗賊共の村まで誘導しないといけないから、後は頼む」
「ぅぅ、はい、わか、り、ました……」
後は村長に任せて、アジト正面に移動する。




