第7話 パーティー
翌朝。ノックをする音で目が覚めた。
「おはようございます、食事の用意が出来ているので用意が出来たら、食堂にきてください」
「あ、あぁ、うん」
部屋は鍵を掛けていたはずだが? と思い、体を起こして入ってきた人物を見る。
「ひゃっ、あの、服! 何で脱いでるんですかっ!」
入ってきたのは、どうやらミリアのようだ。
何で脱いでいるかって、別にパンツは履いてるから全裸ではないし、そのくらい良いじゃないか。
「え? ちゃんと履いてるよ。ほら」
「ちょ! うあっ! いっ、いいです! 見せなくて良いですから!」
パンツを見せようとしたら、そんな事を言いながらミリアは走っていった。恥ずかしがり屋さんめ。
逃げていったミリアを追う為、顔を洗い、服を着て、食堂へと向かう。
「おや、やっと来たかい。朝食の準備はできてるよ」
「おお、美味しそうですね。いただきます!」
席について、手を合わせて食べようとしたが、視線を感じたので正面を見る。
多分あの目はミリアだろう。こっちを見ている。
「おい、ミリア。今日からギルドには行かなくて良いようにしたんだから、アンタも一緒に食べてしまいなさい」
「そうだよ。これから末永く一緒に居ることになるんだから、親睦を深めていこうよミリアちゃん」
すっごい睨まれた。でもミーアには逆らえないのか、渋々俺の正面の席に座ってくる。
「別に末永く一緒に居るつもりはないですが、少しの間は仲良くしてください」
「うんうん、それじゃ一緒に食べよう。いただきます!」
ミリアもいただきます。と言って食べ始める。
朝食は正に朝! という感じのメニューだ。目玉焼きに燻製肉、サラダにスープにパン。
「やっぱり誰かと一緒に食べると、美味しいね?」
「分かりません」
少しでも会話をしようと話し掛けるのだが、分かりません、知りません、そうですか、はい、というような返事しか返ってこない。
「そんなに俺の事嫌い?」
「べ、別にそんなんじゃないです。どうしたら良いか分からないだけです」
はい、嫌いですとか言われたら俺の心は粉々に砕け散っていただろう。じゃあ聞くなよとも思うが、仕方ない。話が進まないし。
「ミリアは仕事中の顔とプライベートの顔どっちも見られているから、どっちで接して良いか戸惑ってんだよ」
「ちょっとお母さん!? 分かってても言わないでよ」
「そうだったんだ? 俺は仕事中のキリっとしたミリアちゃんも、プライベートのちょっと砕けた感じのミリアちゃんも好きだよ?」
顔を赤くして俯いてしまった。そうだなぁ。迷っているならプライベートの方にしてもらおうかな。
「でも、ずっと仕事中の感じで行くの疲れるだろうから、いつも通りの素のミリアちゃんで行こう?」
「おい、ミリア。お前のこと好きだってよ?」
「もう! 知らない!」
ミーアにイジられて拗ねたのか、ごちそうさま! と言って食器を奥に持っていくミリア。
俺も食べ終わったので、食器をまとめているとミーアに止められた。俺は客だからやらなくて良いそうだ。そりゃそうか。
「今日も街の外に行くんだろ? 後からミリアを部屋に向かわせるから、準備して待っていると良い。ミリアの事よろしくな」
「はい、ごちそうさまでした!」
そういって俺は部屋へと戻り、今日の日程を考えることにする。
ミリアとパーティーを組んだばかりだし、まずはミリアを冒険者登録するところから始めるべきかな。
そうなると、ギルドに行くことになる。だったら、ついでに依頼を受けるのも良いな。
装備はお金がないし、買えないから仕方ない。ひとまずはやっぱりお金を稼ぐところからスタートだな。
そういうことを考えていたら、部屋をノックする音がした。どうやらミリアが来たようだ。
「開いてるよー」
ゆっくりドアを開け、ドアノブを持ったままこちらをチラ見して、何かを確認した後、部屋の中に入ってくるミリア。
警戒されてるのか?
「失礼します。今日はどうするんですか?」
「うん、今ね、それを考えてたところなんだよ」
そういって今日は何をしようか考えてたことをミリアに説明する。
「やっぱりギルドで依頼を受けてお金稼ぎかな? ところで、ミリアちゃんって外で戦ったことある?」
「その……ミリアちゃんって言うの何とかなりませんか。もう子供じゃないので」
どうやらちゃん付けがお気に召さなかったようだ。これから一緒のパーティーなんだし、普通に呼ぶことにするか。
「じゃあ、ミリア。外で戦ったことある?」
「いきなりですね……まぁ、良いです。お父さんがギルドに勤めていて、ずっとお手伝いをしていたので、その流れで何度か」
父とは何度か依頼をこなした事があるらしい。一応、街の外に出たことはあるってわけか。
「なるほどね。俺はこっちに来たばかりで何も知らないから、ミリアが居るだけで心強いよ。改めてこれからよろしくね!」
「はい」
挨拶も終わり、宿屋を出る前にミーアに挨拶をしようとカウンターに寄る。
「お、出発かい? ギルドには言っておいたから、安心して冒険者になってくると良いよ」
「ありがとう、お母さん。それじゃ行ってきます!」
「タカシ、ミリアをよろしくね!」
「はい! 全力で守ります!」
宿屋を出てギルドへ向かう。
途中、ミリアからあんな言葉は誤解を生むから辞めてくれと言われたが、無理と答えておいた。
そしてギルドに到着したのは良いが、俺らが入った瞬間、騒がしかった建物内が水を打ったかのように静まり返る。
「え、何これ。俺何かした?」
「な、なんでしょうか。変ですね」
シーンとしているが、全員こっちをチラチラ見ている。何か言いたい事あるなら言ってよ!
何かヒソヒソ話しているのは分かるが、何を言っているのか分からない。二人でそんな周りを気にしながら、受付まで歩いて行く。
受付はミリアが居なくなったからだろうか、今日はおじいさんが担当しているようだ。
「おや、ミリアちゃん。おはよう。聞いたよ? 恋人が出来たんだって? 良かったねぇ。そっちの彼が、その恋人かい?」
「……えぇ!? ちがっ! 何で!? 誰から聞いたんですか!」
「今朝ミーアさんが訪ねてきてね。冒険者の彼と旅に出るから、今日からギルドは手伝えないって言ってたよ」
どうやらお義母さんがナイスアシストをしたようだ。これはもう、外堀から埋めていくチャンスではないだろうか。
「ウチのミリアが今までお世話になりました」
「ちょっ!? ドサクサに紛れて何言ってるんですか!」
「これはこれはご丁寧に。優しそうな彼で良かったねぇ。ミリアちゃん」
「ちが、違うんです! 彼は!」
おじいさんも納得のご様子。ここはテンパっているミリアは放置して、話を先に進めよう。
「そういう訳で、ミリアを冒険者登録したいんですが」
「はいはい、そういう事ね。じゃあミリアちゃん、カードを貸してね?」
「あ、はい。じゃなくて! いや、ちょっと! 違います! 何ですか、恋人って!」
そう言いつつもカードを出すミリア。テンパっているものの、素直なのは良い事だ。
「はい、確かに。ついでにパーティーの登録もしておきましょうか?」
「そうですね。お願いします」
「じゃあ、あなたのカードもお願いしますね」
パーティー登録にはメンバーのカードが必要なのか? 面倒だな。今度、ミリアに他の方法がないか聞いてみよう。
カードを出して、おじいさんに渡す。
「はい。確かに。じゃあ、少し待っててね」
「ちょっと! 話はまだ!」
おじいさんはニコニコしており、ミリアの話をはいはい分かってるからという風に手を振り、そのまま奥へと歩いて行った。