第76話 かき氷
何か話し声が聞こえて目が覚めた。
ミリアとファラは、まだこちらに抱き付いた状態で眠っている。
ということは、マリーとランか。
「マリーさん、これ、どうすれば良い?」
「それは、皮を食べやすい大きさに千切っていただけますか?」
「はーい」
なんだこれ……一晩の間に何が起こったんだ。
ミリアとファラを起きない様に慎重に引き剥がして、笑顔で会話しながら、朝食の準備をしているマリーとランの元に向かう。
「おい、お前達いつの間にそんなに仲良くなったんだ?」
「あ、タカシくん、おはよう」
「タカシ様、おはようございます」
「あぁ、おはよう。それで、何があったんだ?」
何の事を聞かれているのか分からなかったのか、二人して一度見つめ合って、ニコっと笑い合いながら、再度こちらに向き直る。
「何か、昨日の私とタカシ様の行為を見て感動したそうです」
「タカシくんは分かるでしょ!? 昨日のマリーさんのすごさ」
「何がすごいのか、分からん……」
「えー。自分がされてたことじゃーん。何で分からないのさー」
マリーが俺に馬乗りになっていた件に関して言っているのだろうか。
確かに俺とマリーがえっさほいさやってるところを、興味深々に凝視していたもんな。でも、それだけで態度が変わるものなのか?
「ラン、お前も王族で良い歳なんだし、知識くらいはあるだろ?」
「うん。男性が喜ぶことなんかは、特に色々と勉強させられたよ。淑女の嗜みなんだってさ。笑っちゃうよね、あはは」
「お前は淑女というより、野生児みたいな奴だからな。淑女なんて笑っちゃうよな。ははは」
「ひどい! ランだって女の子なんだからね!?」
「そうですよ、タカシ様!」
そんなこと、誰が見てもそう思うだろうし、分かってるよ。
黙ってじっとしていれば、胸も尻も形が良く、腕や足も引き締まった、スタイルの良い魅力的な美少女なんだしさ。
「じゃあ、今晩はマリーじゃなくてランが相手よろしくな」
「えぇ!? だ、だだだ、ダメだよ! ランは、その、おお、お、姫様なんだから!」
「何だ。ただの意気地なしか。分かったよ。じゃあマリー、今晩もよろしくな」
「え、あ、はい、もちろんです!」
自分で自分の事をお姫様とか言っているのに、少しイラっとしたので、煽ってみる。
「それは、いくらランだって聞き捨てならないよ!?」
「何だ、意気地なし? 昨日は興味深々に見てたくせに」
「あ、あれは! いきなりだったから、びっくりしただけだよ!」
「びびってるじゃん。もう良いよ。ほら、飯作るんだろう?」
「むきーっ! 分かったよ! や、やって、やってやるかんね! 後悔しても知らないんだからー!」
チョロい。
後悔させられちゃうのか。楽しみだな。早く夜にならないかな。
じゃない。そうだ。今日はエストルに行くんだった。ランの体より、まずはかき氷だな。
武具屋の驚く顔とファラの喜ぶ顔が楽しみだ。あれ……そういえば、武具屋の名前って何だ? そういえば聞いていない気がする。
ある意味得意先なんだから、後からミリアに聞いておこう。
そんな妄想をしながら、マリーの手伝いをしていると、ランが静かになっていることに気が付き、チラっと見てみる。
何処か遠くを見ながら自分の世界に入っている。
それでも手では、サラダ用の野菜を手で千切りながら、うあー、あうー、んー、あわわなど、ボソボソ言っている。
顔も真っ赤になったり、ハッとなったり、忙しいやつだ。
「よし、二人を起こしてくる。マリー、後の用意は頼んだ」
「はい、承知しましたです!」
ミリアの方が近くに居たので、モミモミしながら声を掛ける。
「ミリアちゃーん、朝ごはんですよー」
「うぅ、んぅ。はい……」
全然気にしていない。今日は朝に弱い日らしい。たまに、すごく早く起きて飯作っているのにな。
ウチのパーティーも予定通り色々な種族が加わってきたし、そろそろ種族の特性なんかを勉強するべきかもしれない。
次にファラも、揉み起こす。もとい、ペタペタしながら起こす。
「ん……タカシおはよ」
「おう、おはよう。飯だぞ」
ミリアはまだ半分寝ている感じはするが、全員揃ったので、朝食を摂る。
ランが加わったので、ついでに今後の予定なんかも話しておく。
「今日はエストルに行って、防具屋に寄る。その後、東に向かって旅に出るぞ。目的地はエルフの国だ」
「はい」
「ん」
「タカシ様、ありがとうございます!」
「マリーさんの国だね! でも、ここからだとかなり……あぁ! 昨日の、あのシュンって消えるやつ使うの!?」
「あぁ」
そうか。ランは、まだ経験してないんだったな。それにしても、興奮しすぎだろう。
「ラン、一つ言っておく。俺が使う魔法や行動については、絶対にとは言わないが、あまり人に言うなよ?」
「えー、何で? 折角のすごい力なんだしさ、皆のために使っても良いんじゃないかな?」
この世界の人間は何なんだ? 皆が皆、力を持っている者は持っていない者の為に使え、とでも思っているのか?
「面倒事に巻き込まれるのは嫌なんだよ。もし、お前達四人以外の為に俺が動くことになれば、その原因を作った奴から対価を貰うからな! それとお仕置きだ」
「あぅ……」
「わかった」
「何でもします」
「え、なに、何で皆そんなにテンション下がっちゃうの!? 対価って何、お仕置きって何!?」
三人には一度話をしたので、理解してくれていると思いたい。
このぽんぽこは理解できていない可能性が高いな……。
「対価は俺を性的に満足させること。お仕置きは、そうだな。ランなら、尻尾の毛を毟ってやる」
「ぎゃああ! やめて! 想像しただけで痛い! ダメだよ!? そんなことしちゃダメなんだからね!?」
「じゃあ、俺に面倒事を持ってくるなよ?」
「分かった! 分かったから、やめてよね!?」
ふわっふわで、もっふもふだからな。すごいキレイな毛並だし、俺としても毟りたくない。
でもこのくらい言っておかないとな。変な事に首を突っ込まれても困るしな。
ガクガクとなっているランの頭を撫でてあげ、落ち着かせる。
「な? だから面倒な事に首を突っ込むなよ?」
「うん……わかったよぉ」
ランに言い聞かせたところで、朝食も終わりとなった。
そのまま、ランの準備を行うため、使っていない部屋に移動し、インベントリの武器防具を全部出す。
ミリア達が持っている装備も、全部出してもらう。
大量だな。これだけがインベントリに入っていたのか。何という容量だ。今度、インベントリの限界を確認しておかないとな。
考えなしに置いたら、部屋が武器防具だけで埋まってしまったぞ。もうこの部屋は倉庫にするかな。元から家具もあまりなかったし。
モンスターを狩る度に、皆から受け取っている素材なども、一度整理しないといけないな。
まぁ良いか。そういうのは後で考えよう。まずはランの装備だ。
キラークロウ+2
チェインメイル+1
レザーガントレット+1
フェザーブーツ+1
パワーリスト+1
適当に良さそうな物から選んだけど、こんな感じかな。
選んだ装備を身に付けさせる。
次はステータスだ。とりあえずサブジョブをセットして、今までコツコツと訓練してきたのだろうが、既に割り振られているポイントは、リセットさせてもらおう。
いや、ポイントを下げるだけだからリセットではないな。ポイントを割り振るのは、今日の夜、俺が後悔させられてからだ。
▼ラン・フォン・クドラング Lv.11 獣闘士 Rank.E
HP:208(108+100)
MP:84(84+0)
ATK:96(48+48)
MAG:24(24+0)
DEF:104(60+44)
AGI:66(60+6)
STR:4(+ -) VIT:5(+ -) INT:2(+ -) DEX:5(+ -) CHA:4(+ -) (10)
JOB:M獣闘士Lv.11 S獣戦士Lv.1 冒険者Lv.1 獣剣士Lv.1 村人Lv.2
SKL:ハードラッシュ オーラパワー 体力上昇小
EQP:キラークロウ+2 チェインメイル+1 レザーガントレット+1 フェザーブーツ+1 パワーリスト+1
INV:王家の証 ナイフ ブラシ ハサミ 兎の肉16
GLD:白貨0、金貨31、銀貨18、銅貨0
よし、こんなものだろう。
それにしてもこいつ、本当に何も持ってきていないんだな。そのくせに、金だけは持ってやがる。
「それじゃあ出発するぞ。皆俺に抱き付いてくれ」
いつもはこちらから抱き付いていくけど、人数が増えたので自分から抱き付いてきてもらうことにした。
全員触れていることを確認して、エストルに向かう。
――シュン。
そのままカッシュに挨拶をして、武具屋へ向かう。
今日は、また一人パーティーメンバーが増えているので、しつこく問い質されるかと思ったが、忙しいようで挨拶しただけだった。
何かそれはそれで寂しいな。
まぁ、いっか。
そうだ! それより、武具屋の名前を聞くつもりだったんだ。
「ミリア。今から行く武具屋の店主の名前聞くのを忘れてたんだよ。今更だけどさ、教えてくれないか?」
「もう! そんなんで交渉とか依頼とかしてたんですか!?」
「そうだが?」
「そうだが、じゃないです。クレイルさんです。お世話になっているので、覚えてあげてください」
クレイルね。名前? 苗字? どっちなんだよ。名前と聞いたから名前なんだろうけど、覚えてあげてくださいと言う割には、フルネームではないところが抜けてるな。
でも、こっちの人からすれば、クレイルと聞くだけでどちらか分かるんだろう。呼び方が分かっただけ良しとしておこう。
それに頭の上の表示を見れば良いだけだしな。
そんなやり取りをしている間に、先に仕立て屋の方へ到着する。
先に服を受け取っておきたかったのもあるが、折角だし、仕立て屋にも食べさせてあげたいからな。
「あら、いらっしゃい」
「お願いしていた服、出来ていますか?」
「えぇ、完成して……あら? そちらの子は初めて見る子ね」
「あぁ、昨日から仲間になったランです。あ、そうだ。今回の服と、以前この子達に作った服を、こいつにも用意できませんか?」
「あなた、やっぱり良い男ね。仲間外れは良くないものね。優しいご主人に出会えて良かったわね、ランちゃん」
ご主人? ランの事を奴隷だと勘違いしているんだろうな。
これでも姫だぞ。まぁいいか。言うのは止めておこう。
「うーん、前のやつはサイズが合えば良いのだけれど。今回の服は作らないといけないのよ。今度受け取りに来てくれるかしら?」
「わかりました。また今度来ますね。ほら、ラン。サイズを見てもらいな。あと、肌着も何着か選んでおけ」
「え、うん。分かったー」
「あら、あなた良い体してるわね。うん、サイズは有りそうよ。この棚の物から選んでちょうだい」
「はーい」
服を選ばせ、14金ということだったので支払いを済ませる。
支払いを済ませた後になって気が付いた。武具屋を仲介に挟まなくて良かったのだろうか。
特に何も言われなかったので、良いのかもな。
「あ、そうだ。今から武具屋で、新作アイデアのお披露目があるんですよ。良ければ来てください。美味しい物ご馳走しますので」
「あら! それは行かなくちゃいけないわね!」
これは喜んでもらえそうだ。
いつも、徹夜で服を作ってもらったりお世話になっているしな。ただ、鍛冶屋次第なんだけど、そこは大丈夫だろう。彼もプロだ。
そんな心配をしつつ、仕立て屋を連れて、武具屋へ向かう。
「おぉ、タカシ様。お待ちしておりました」
「待っておったぞ。例の物も、今組立てが完了したところじゃ」
「こんにちは。仕立て屋さんにもお世話になっているので、連れてきました。良いですよね?」
「えぇ、もちろんですとも! それで、この機械とやらをどうするのでしょうか」
「ちょっと確認するので待ってください」
簡単な構造にしたので心配は特に無かったが、確認の意味も込めて、各部を触って確認する。
うん、可動部は頑丈に出来ているし、大丈夫そうだ。問題は刃の部分なんだよな。
角度次第で、シャリシャリではなくガリガリになっちゃうし。
物は試しだ。やってみるか。
桶に水を出して、手持ちのタオルで磨いていく。
完成したばかりだし、特に汚れているところはないな。
次に、練習した氷を、セット部分のサイズに合わせて生成する。
氷を機械にセットし、いざ、レバーを回してみる。
――ガリ、ガリ、ジャリ、ジャリジャリ、シャリシャリ。
お、イケそうだな。
「ミリア、器を人数分出してくれないか」
「え、あぁ、はい。分かりました」
試しに削った氷は、念の為タオルに包んで置いておく。
ミリアから受け取った器をセットして、再度レバーを回す。
――シャリシャリシャリシャリ。
良い感じだ!
――シャリシャリシャリ。
器に削った氷が山盛りになっていく。
これを見ると子どもの頃の夏休みを思い出すなぁ。
次々と器に山盛りの氷が出来上がっていく。
人数分揃ったところで、最後にシロップを出す。
「これがかき氷です。皆さん。この中から、気になった物を氷に掛けてから食べてみてください」
皆シロップを選んで掛けたが、食べようとはせず、こちらを見ている。
掬って食べるだけなんだが、初めての食べ物だし、どうして良いのか分からないのかもしれない。
とりあえず、手本になるように、皆が見ている前でシャクっとスプーンに乗せて、口に運んでみせる。
あぁ、うまい……。
「さぁ、皆もこんな感じにどうぞ。美味しいですよ」
見よう見まねで皆も口に運ぶ。
「「「「んぅんーぅ!」」」」
「あはははは、皆同じ反応かよ!」
面白い。久し振りに大きな声を出して笑った気がする!
初めてかき氷を食べた人ってこんな感じになるのか。
「タカシ様、最初は何をしているのか分かりませんでしたが、これはいけますね! 氷さえあれば、売れますよ!」
「長年生きてきて、こんなに冷たい物を食べるのは初めてじゃ」
「美味しいわ。あなたは本当に面白い物を思いつくわね」
氷はそう簡単に用意は出来ないだろうが、俺の魔力が続く限り生成することができるので、氷屋をオープンさせるのも良いな。
武具屋にでも店を用意させることができれば、街に寄って、店に氷をストックするだけで何とかなりそうだし。
「タカシさん、甘くて冷たいです!」
「タカシ、おいしい! つめたい! おいしい! んんんっ!」
「タカシ様は流石です!」
「タカシくん、どうやって思いついたの!? すごくない!?」
ファラが一気に食べ過ぎたようで、頭キーン現象が起きているようだ。言うのを忘れていたな。
でも可愛いから言わなくて良かった。
それにしても、元は俺のアイデアではないが、大絶賛だな。
作って良かった。
「鍛冶屋さん、実際に食べてみたら、どんな削れ方をすれば美味しくなるのか、もう分かったでしょう?」
「あぁ。こればかりは食べてみないと分からんかったのぅ。これで、いつでも、何台でも作れるぞい!」
「そうですか。じゃあ大丈夫ですね。クレイルさん、これは試作品なので、もらっていきますね」
「えぇ、どうぞどうぞ。代金は頂戴しておりますので!」
「氷を置いていくので、後は鍛冶屋さんと相談してください」
「はい、ありがとうございます! それにしても、小道具から服、食べ物に至るまでタカシ様のアイデアの豊富さに、脱帽です」
全部俺が考えた物じゃないんだけどな。絵を描いただけだし。
そんな事を考えながら、氷を何個も生成しておく。
量的にはそんなになかったので、皆すぐに食べ終わった。
食べ終わった器は、表でミリアに水魔法で洗っておいてもらう。
「また近い内にエストルには来ますので、何か思い付いたら店に顔を出しますね」
「はい! 是非、お待ちしております!」
「うむ。また面白いアイデア待っておるぞ」
「それまでに服は用意しておくわね」
ミリアが洗い終わったところで、クレイルと鍛冶屋、仕立て屋に挨拶をして店を出る。
そのまま門まで向かい、カッシュに挨拶をする。
「また少し出てきますね」
「おう、一人増えているみたいだが、無理はするなよ?」
「ええ、もちろんです。それでは!」
「またな」
美味しい時間は終了。ミリアとマリーに案内を頼み、東に進む。
またおやつタイムにでも作ってあげよう。




