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ステータスマイスター  作者: なめこ汁
第一章
73/145

第72話 クドラング

――ガチャ……。


 部屋のドアを開ける音で目が覚める。


 ファラかマリーが部屋を出て行ったのかと思い、両サイドを確認すると、二人はまだ寝ていた。

 部屋の中は、窓からの日差しで明るくなっている。


 誰だ……? 鍵は閉めていたはずだが。


 念の為、いつでも迎撃できるようドアの方を見ながら、口に魔力を込めておく。


「もう! いつまで寝てるんですか!」

「……賢者」


 ミリアか。

 無断で鍵を開けて侵入したことはお仕置き対象だが、敵ではないことが分かったので、込めていた魔力を適当な言葉で消費する。


 ミリアは、全裸で腰に手を当てて、プンプンしている。

 久し振りのプンプンミリア、しかも全裸バージョンを見たことにより、朝から元気になってしまった。


「な、なな、あ、朝から何、なんですか、そ、それ!」


 ミリアは、腰に当てていた両手を下ろし、ある一点を見ながら、右手でこちらを指さしてきた。

 主に全裸である俺の下半身を。


「あぁ、ミリアを見たら元気になっちゃった」

「なっちゃった、じゃないです! 早く服を着てください!」

「ミリア、これってすぐには治まらないんだよ。手伝って?」

「な!? 朝から何言っているんですか! し、しませんよ!」


 残念だ。元気になったまま、仕方なくファラとマリーを起す。


「あふ、おは……です」

「ふぁ……おはよう」

「マリー、これ治めてくれないか?」

「あぅ、あぁ、はい。わかりみゃひひゃ」

「なぁ!? えぇ!? ま、マリー! 何してっ!?」


 やはり寝惚けていたようで、あたかもそれが当たり前であるかの如く、マリーがご奉仕してくれる。


 ……ふぅ。


 マリーのお陰で、朝から賢者モードになり、文字通り気持ち良く部屋を出ることができた。


「ふぅ。さて、飯でも食うか」

「何なんですか! さっきの! 何なんですか!?」


 ミリアの質問攻めを軽く聞きながら、四人で食堂に向かう。


「マリーの新しいスキルだよ」

「ふぇ!? そ、そんなわけないじゃないですか!」


 そんな冗談を言いながら、ミリアをからかいつつ食事を進める。


「マリーも何なんですか! 何であんな……できるんですか!」

「ええと、その、昨日教えてもらいました……です」

「ふふふ、驚いただろう。口を使った特殊な魔法で、男の性欲を一時的に減衰させる効果があるのだ!」

「何で得意気なんですか! ファラも何か言ってやってください」

「昨日は何もできなかったから、今日はファラがする」

「にゃっ!?」


 ミリアには、にゃんにゃん言うようには指示していないのだが。

 それより、案の定ファラの裏切りによりミリアが驚いている。


「ミリアにも新しい魔法教えてあげるよ」

「あ、はい……って、さ、さっきのは、覚えなくて良いです!」

「じゃあ、違う魔法な」

「はい。じゃなくて! どうせエッチなのでしょ!」


 ミリアのノリツッコミを見ている間に食事が終わってしまった。

 ミリアには芸人の才能があるかもな。


 結局、今日の予定を話す機会がなかった。


「おや、もう食べ終わってたのかい?」

「あ、ミーアさん。おはようございます」

「お母さん聞いて!」


「ミリアの言葉が全て、タカシさんが好きなの、になる」


 食後のティータイム中にミーアが入ってきた。

 そこにミリアが告げ口をしようとしたので、大きな声でミーアを呼んでいるところに小声で、神口を合わせる。


「タカシさんが好きなの!」

「あぁ、そうかい。好きかい。でも、改まって言う事かい?」

「タカシさんが好きなの!」

「はっはっは。タカシ、あんたモテモテだねえ」

「えぇ、本当。まさか親の前で宣言するなんて、凄く嬉しいです」

「タカシさんが好きなの!」


 ミリアが、好き好き言いながらブンブン首を振っている。恐らくちがうちがうと言っているのだろう。

 それより、わざわざミーアが来たのは何か用事でもあるのだろうか。


「それで? お義母さん。俺に何か用ですか?」

「まだあんたの親になったつもりはないよ」

「似たようなものじゃないですか。ミリアは俺の嫁です」

「タカシさんが好きなの!」

「はぁ……。まぁ、ミリアもまんざらじゃないみたいだし、別にそこは良いさ。それより、聞いた話によると、盗賊に襲われたらしいじゃないか。これから、どうするのかと思ってね」


 嫁で良いのか。これで親公認だな。

 もうお茶の時間も終わったので、深く聞かれる前に出発するか。


「別に、今まで通り冒険を続けますよ?」

「そうかい。まぁ、無茶はするんじゃないよ。気を付けてな?」

「えぇ、もちろんです。それじゃあ、俺達はそろそろ出ますよ」

「あぁ。また近くに寄ることがあったら、ウチに泊まりな。今度は安くしといてやるから」


 そのままミーアに別れを告げて、宿屋を出る。

 ついでにミリアの呪いを解除しつつ、門に行くと、当然カッシュに遭遇する。


「おい、もう旅立つのか?」

「えぇ、ちょっとブラブラしてきます。明日一度戻ってきますよ」

「そうか。気を付けてな」

「はい」


 今日は何かあっさりしていたな。別人みたいだ。

 女の子達が居るから、クールな姿を装っているだけなのかもな。

 門から見えない位置に移動して、そのままクドラングに飛ぶ。


「さて、ランにでも会いに行くか」

「……は、はい」

「ん」

「ランという方は、ほ、本当に、その、お姫様なんですか!?」


 そういえばマリーは会った事ないから知らないもんな。

 まさか姫と面識があるとは思っていなかったのかもしれない。


「そうだぞ? あのバカとはダンジョンで出会ってな」

「もう! 街中でそんな事言っちゃ、ダメですよ?」

「あのバカ……そんな事が言い合えるほど、親しいのですね!」


 マリーが両手を合わせ、祈るようなポーズで遠い目をしている。

 そんなマリーを引っ張りながら、門を抜け、街の中を進む。


「ちなみに、裸の付き合いだ」

「ちょっと、タカシさん! 誤解されるような発言はダメです!」

「そこまでお進みなのです!?」


 再度遠い目をしつつ、空に向かって、あぁやはり勇者様、など言っている。またいつもの勇者病だ。

 ……何で姫と仲が良いだけで勇者なんだよ。


「さすがタカシ様です!」

「惚れたか?」

「惚れるも何も、もう私にはタカシ様しか見えていません!」


 勇者勇者言い出してから、俺への好感度がおかしいんだよな。

 ゲームでは普通だと思っていたけど、いきなり好感度マックスを実体験すると怖いものがあるな。

 そのお陰で、夜はお世話になっているのだが……。


 それに、ランなら別にいくらでも誤魔化せると思うが、アバンの前で勇者勇者言われると面倒だし、今回は何か対策しておくか。


「力が欲しいのか? それとも金か? 名声か? 勇者か?」

「ゆ、子どもです!」


 勇者って言い掛けたな。

 にゃんにゃんは飽きたしな。次の言葉でも……。


 そんな事を考えながら街中を歩いていると、城の門に到着した。


「止まれ! 何用だ!」

「こんにちは。えっと、俺はタカシ・ワタナベと言います。ラン姫に、面会をお願いできますか?」

「書状などはあるのか?」

「ないです。先日、クドラングに来たら、是非会いに来てくれと言われまして、それで会いに来ました」

「そのような話、姫様より聞いておらぬ!」

「じゃあ、側近のアバンさんでも良いので、呼んでもらえます?」

「態度の大きな奴だな! 何も聞いておらぬと言っておろう!」


 来いと言われたから来た、と言っているだろうが。面倒な奴だ。

 話を通してくれるくらい良いだろうに。無理やり入っても良いんだぞ……倒しちゃうか?

 仮にもここは城だ。穏便に嫌味だけで済ませておこう。


「そうですか。でも、姫の命の恩人を追い返したとなると、怒られるだろうなぁ。降格されちゃうかもなぁ。まぁ、いいか。別に俺の知ったことじゃねぇし」

「な……なんだと!? そ、それは本当なのだろうな!?」

「いや、もう良いです。帰ります。では」

「おい、しばし待て!」


 二人居た門番の片方が走って中に入って行く。

 もう片方は警戒しながら、槍を構えている。俺等はそんなに怪しいのか?

 俺は怪しいかもしれないけど、女の子三人だぞ? これがそんなに警戒するような面子か?


 門番とジロジロお互いを見ながら牽制し合っていると、先程の走って行った奴がアバンを連れてきた。


「おお! これはこれは、タカシ様! お久し振りです! お越しいただけるとは思っていませんでした。わざわざ申し訳ない!」

「あの後気になっていたので、時間が出来たから寄ってみました」

「先日は、命まで救っていただいただけでなく、何から何まで本当にお世話になりました。お陰様で、彼等を弔うことができました」

「それは良かったです」


「あの時、本当はクドラングまで護衛というか、同行しようとしたんですが、ランがやる気を出していたみたいだったので、控えたんですよ。ご無事で何よりです」

「そんなところまでお考えになっていただけていたのですね。ありがとうございます。あ、このようなところで立ち話も何です、姫様にもお会いしていただきたいですし、どうぞ中へ」

「ありがとうございます」


 門番に謝罪され、アバンの案内の元、城の中に入る。

 立派な彫刻や絵画の並ぶ廊下を歩き、一室に案内される。


「申し訳ないですが、こちらでお待ちいただけますか? 姫様を連れてまいりますので」

「分かりました」


 部屋の中にある豪華なソファーに腰掛けるよう案内され、そのままアバンは部屋を出ていく。


「広いお部屋ですね……」

「あぁ、広いな。でも広すぎて落ち着かないな」

「ん」

「姫様ですよ、姫様!」


 ミリアは落ち着きなく、室内をキョロキョロと見ている。

 ファラはスペースがあるソファーではなく、いつも通り俺の膝の上に座っている。やっぱりこれが落ち着くな。

 マリーは立ち上がって祈るようなポーズをした後、また座って、を繰り返している。


 まぁ、城になんて普通は入れないだろうからな。ファラは別として、落ち着かないのは分かる。


――ガチャ。


 部屋の扉が開いて、ドレスを着た可愛らしい女の子が現れる。


「タカシくん、久し振りー」

「お前誰だ」

「えぇ!?」


 先日会ったランは、露出の多い皮系の防具を身に付けている格闘家のような軽装だったのに対して、こいつは何だ。

 ヒラヒラのドレスじゃないか。アクセサリーなんか付けちゃって、まんま姫、あぁ、そうだ。姫だったな。


「お前、本当にランなのか?」

「失礼だなー。ランはランだよー。こないだは、励ましてくれてありがとうね。惚れちゃいそうだったよ」

「惚れろ惚れろ」

「タカシさん、そんなことしてたんですか!?」


 ただのお世辞だろ? そこまで反応することは無いだろうに。


 ミリアがランの言葉に驚いているが、それよりも、ファラが俺の脛を踵でガスガス蹴っている方が気になる。

 ヤキモチか? ヤキモチなのか? 嬉しいぞ!?


「ミリアちゃんも、ファラちゃんも久し振りだね。元気してた?」

「えぇ、毎日タカシさんにイジメられています」

「ん、元気元気」


「そちらの方は始めましてだねー。ランです。よろしくー」

「えぁ、は、はい! マリーです。タカシ様の性奴隷です!」

「性!? もー、タカシくんあんまりひどい事しちゃダメだよ?」

「俺からはしてないぞ。こいつからしてくるだけだ」


 何で性奴隷なんて言うんだよ……そこは奴隷、で良いだろう?


「おい、マリー。ちょっとこっち来い」

「え、あ、はい。何でしょう」


 肩を抱き、他の面子から少し距離を取り、口に魔力を込める。


「お前は今から、喋る言葉が全て、ぽんぽこ、になる」

「ぽんぽこ!?」


 マリーを解放して、またランに向き直る。


「すまんな。こいつ、たまに変な事言うから説教しておいた」

「別に変なことじゃないよ。タカシくんも男だしね。ね、アバン」

「え!? 何故、そこで私に!?」

「だって男って、今はアバンしか居ないじゃん」

「えぇー……」


 ランが話を流してくれたので助かった。


「それで、遊びに来たのは良いが、すまん。何も考えてなかった」

「え、どういうこと?」

「何か土産でも持ってくれば良かったな」

「いいよいいよー。こちらがお礼する側だし」


 そんな話をしていると、突然ランが咳払いをした。


「こほん」

「ん? どうした? 風邪か?」

「違うよ! 空気を変えようと思っただけ!」

「あぁ、すまん。そういうことか」


「こほん、タカシくん。先日は、お助けいただき、誠にありがとうございました。まずは本日、最大限のおもてなしをさせていただきますので、ごゆるりとお楽しみください」

「あははははは、に、似合わねぇ。ふふ、ふ。む、無理に丁寧な言葉使おうとするな。ふふ。しかもちょっと言葉が変だぞ、ふふ!」

「もう! タカシさん! 失礼ですよ!」

「もー! 折角、姫らしく挨拶したのに!」


 謝辞に、いきなり「くん」から始まって、「まずは本日」って何日間掛けてもてなす気だよ。

 それに、「ごゆるりとお楽しみください」ってお前が楽しませてくれてるから、もうそれで十分だ。


「飯でも食わせてくれるのか?」

「うん。さっきアバンが用意するよう手配してた」

「そっか。それじゃあ、せっかくだし食べていくかな」


「どうせだから、泊まっていきなよ」

「いいのか?」

「うん。少し話もしたいしね」

「特に急いでいるわけじゃないし、お言葉に甘えておくかな」


 泊まっていけるなら嬉しい。

 今日は街で宿を取る予定だったから、宿代が浮くし。


「お前達も別に良いよな?」

「はい!」

「タカシが良いなら」

「ぽんぽこ!」


 三人も別に問題なさそうだし、素直に甘えよう。


「えっと……タカシくん。その子は、その、何なのかな……?」

「ん? マリーか?」

「ぽんぽこ?」

「ランを挑発しているのかな?」

「ぽんぽこ!」


 この世界で、ぽんぽこは狸に対しての悪口なのか?

 笑いのネタにでもなるかと思ったんだが、失敗かもしれん。


「ランお腹出てないから! まだぽんぽこじゃないから!」

「ぽんぽこ! ぽんぽこぽんぽこ!」


 マリーは焦った顔で、両手を広げてぶんぶん振っている。必死に違いますアピールをしているのだろう。

 でも、行動と言動が矛盾している。煽っているとしか見えない。


「タカシくんも何とか言ってあげて!」

「え、ごめん。面白いから見てた」

「ぽんぽこ……」

「何なのもー!」

「ぽんぽこ!」


 ダンダンと地団駄踏んでいる、ドレス姿の姫。

 こういうのが見たかったんだよ。このギャップがたまらない。


「喧嘩売ってるんだね。分かったよ!」

「ぽんぽこ! ぽんぽこ!」


 ランが、アバンの腰にぶら下げている武器を奪取したところで、マリーが泣きついてくる。


「ラン、こいつの喋っているのは呪いなんだ。許してやってくれ」

「でも! 売られた喧嘩だし……」

「病気みたいなものなんだ。頼むよ」

「うぅ……タカシくんに言われたら断れないよぅ」


 誤魔化すため、少し話題を変えてみる。


「病気で思い出した。お前の姉も病気じゃなかったか?」

「え、あ、うん。そうだよ。会ってみる? 美人だよー?」

「おお、そうか。美人なら会わないといけないな。頼む」

「しょうがないなー。分かったよ。食事まで時間あるし、お姉ちゃんに紹介してあげるよー」

「ありがとうな。それで、どんな病気なんだ?」

「会えば分かるよー。それじゃいこっか」


 ……チョロい。

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