第6話 奴隷
ミーアとミリアは親子らしい。全然似てないじゃん!
やばい、母親の前で娘をお持ち帰りとか言っちまった。
「ミリア、この人。お前をお持ち帰りしたいくらいかわいいとか言ってたよ」
えぇぇぇ!? そこ言っちゃうんですか!?
「はぁ……そういうのは良いです……」
えぇぇぇ!? 俺嫌われてるの!?
「まぁ、良いじゃないか。お前も女なんだし、かわいいって言われて悪い気はしないだろ?」
「それはそうだけど。でも、その方は奴隷を買って自分の欲望を満たしたい人のようですし」
軽蔑するような視線をこちらに向けてくる。そんな目をするのは止めて! 興奮しちゃうじゃないか!
「あら、そうなのかい? そんな人には見えなかったけど」
「そ、そそ、そうですよ! 俺は奴隷を嫁にして幸せな余生を過ごせたら良いなぁって思ってただけで!」
ミリアは溜息をつきながら俺をチラっと見て、ミーアに話し掛ける。
「奴隷奴隷言ってる人が、その程度の欲で終わるとは思えないです」
「あら。だったらアタシもそうだって言うのかい?」
「もう……お母さんはそうやっていつも私をイジめるんだから!」
そんな親子の会話を聞きつつ、涙目になったミリアを見て疑問に思うことがあった。
「えっと、二人とも苗字違いますよね。それに種族も違うようですし」
二人とも、物凄く驚いた顔をしている。俺また何かまずい事言っちゃっただろうか!?
「「何で苗字知ってるんだ(ですか)?」」
「は!? いや、聞いたし! 街で!」
ミーアはしまった! みたいな顔をしている。ミリアはまたか……みたいな顔をしている。
「お母さんって言わせてるけどね、ミリアはアタシの奴隷なんだ。ところで、あんた名前は?」
「タカシです。タカシ・ワタナベ。ここからは遠いトーキョーという国から来ました」
ふむふむ、と顎に手を当てて何やら考えているミーア。
「大体の国は知ってるが、聞いたことのない国だね。でも、そんな遠くからこの街まで来たんだ。それだけの力はあるんだろう?」
「いえいえ、偶然来れただけで、運が良かっただけですよ!」
危ない。異世界から来たので距離は関係ないとか言えない。
「そんな謙遜しなくて良いさ。ミリア、この人の実力はどうなんだい?」
「はぁ、まだ初日なのであまり良く分かりませんが、とても新人とは思えません。ベテランの方より薬草を採取してきました」
まじですか。あれ、多すぎたのか。もうちょっと加減しておけば良かったかな……。
「だからツバを付けておこうと、ウチを紹介したってわけかい? お前も隅に置けないねぇ」
「なっ!? ち、ちがいます! そんなんじゃないですっ!」
俺が気になるのか! がんばった甲斐があったってもんだ! うんうん、いいよ! 赤くなってるミリアもかわいいよ!
「ミリアもお前さんが気になるみたいだし、タカシ。お前さんのパーティーにミリアを入れてあげ「是非!」」
「ちょおっとぉ! 何勝手に決めてるんですか! しかも何で即答なんですか!」
抗議しているミリアは無視だ。母親からのお願いだ。聞き入れないわけにはいかない。
それに、俺のことを気にしてくれているらしい女の子を放っておく程、俺は枯れてないからな。
「あはははは、即答とは! あんたの事気に入ったよ!」
「私は気に入ってないんですけど! 欲望まみれの人と一緒なんて嫌です!」
やっぱり俺のこと、そういう風に見ていたのか。それにしてもギルドに居た時と性格変わってないか? これが素なのかね。
「いいじゃないか。お前もいつまでもギルドの手伝いなんて金にならないことやってないで、好きに生きたらいい」
「でも……それじゃギルドの方が……お父さんとの約束……」
何かしんみりした感じになってきたぞ。ここは漢を見せておいた方が良いのかもしれない。
「幸せにします」
「はぁ!?」
間違えただろうか。ミリアは目を大きく見開いて、手を握りしめプルプルしている。
それを見てミーアは腹を抱えて笑っている。
「あはははは、結婚するわけじゃないんだから、挨拶が違うだろう! あはは、でも……」
一瞬にしてミーアの雰囲気が変わる。やばい。威圧だけで殺されそうだ。
「許可を出すまで、ミリアに手出したらただじゃおかないよ?」
「ぜ、ぜ善処します……」
そんな感じでミリアがパーティーに加わることになった。
当のミリアは全然納得してないようだが、ミーアが説得していた。
「お前も良い歳なんだ。ギルドの方にはアタシから言っておいてやるから、好きに生きな。冒険者になりたかったんだろう?」
「それはそうだけど、私はお父さんと約束したから……」
「あの人はもう居ないんだ。その約束はもう無効。いつまでもそんなものに縛られる必要はないよ」
「でも……」
あの人とはミーアの旦那さんのことだろう。居ないというのは、亡くなったのだろうか。
「あー! もう! まだウダウダ言うようだったら奴隷の所有権をタカシに移すよ!?」
「えぇ!? いや! それは辞めて!」
何、それ。何でそんなに嫌がられるの。俺何かした?
「だったら冒険者をやってみなさい。それでまた考えるといい」
「分かりました……」
お? 話がまとまったみたいだな。
「それじゃタカシ、明日からこの子の事よろしくな」
「はい! お任せください。お義母さん!」
「はぁ……もうやだ」
そうやってミリアがパーティーに加わることになり、今日はもうお開きということだったので部屋に戻り、今日の出来事が夢でないことを祈りつつ眠ることにした。