第65話 名誉会員
朝、相変わらず飯を作る音で目が覚める。
マリーが飯を作っているようだ。目も覚めたことだし手伝うか。
「マリー、おはよう」
「にゃん、にゃん!」
まだ解けていないか。じゃあ、俺の詠唱への干渉もまだ大丈夫だろう。突然使えませんでしたでは怖いし、マリーを目安にしよう。
「何を作っているんだ?」
「にゃん、にゃん、にゃん、にゃん!」
「そうかそうか。じゃあ手伝うよ」
指を順に曲げながら何か説明してくれているので、とりあえず返事したが何言っているか分からねぇ。でも面白いな。
マリーが作ろうとした料理とは違うかもしれないが、置いてある材料で適当に作るか。
「タカシ、手伝う」
「おう、おはよう」
調理していると、後ろからファラが全裸で現れたので、火傷させないよう服を着せてあげる。
「あ、タカシさんおはようございます」
「おう、おはよう」
ファラに服を着せているとミリアも起きたので、結局四人で朝飯を作って食べることになる。
「今日は街に行くぞ」
「はい!」
「そこで、皆に言っておくことがある」
「な、なん、でしょう?」
「協会には奴隷だと登録ができない。ミリアは今奴隷ではないけど、奴隷だった頃のミリアを知っている奴が沢山居る。絶対にミリアが奴隷だったことを言うなよ?」
「わかった」
「にゃん」
マリーは心配ないだろう。ファラもそんな事は言わないと思う。
でも、ミリアが心配だなんだよな。ドジだし。
それが原因で登録を解除されたら、自業自得だし、納得もするだろうから別に良いか。何かあれば、一応昨日考えた通りに誤魔化してあげるが、それでもダメな時は諦めてもらおう。
「ファラとマリーは心配していないが、ミリアが心配なんだよな」
「な、何でですか!?」
「え、空気読まないし、たまにやらかすから」
「そんな……」
自覚しているはずなんだが、ショックを受けている。改めて言われたからだろうか。でもまぁ、本当のことだしな。
「よし、それじゃあ街に行くぞ。準備しようか」
「はい……」
「ん。いつでもいける」
「にゃん」
三人まとめて抱き寄せ、オスルムの街の外に移動する。
街の中で沢山の音がするので、街に人は戻ってきているようだ。
「街の人達は戻ってきているみたいだな」
「そうですね。建物を修復したりしているんだと思います」
街の中に入る為、門まで移動するが、門番が居ない。あの時やられたのだろうか? それとも警邏中なのだろうか。
とりあえず素通りして、街中に移動する。
やはり、建物があちこち崩れているな。あいつは何が目的で暴れていたんだ? あと、チラチラと視線を感じる。
とりあえず、魔術協会がある場所を大工らしき作業中の男性に聞いて移動する。
協会は被害を受けていないらしく、建物は無事のようだ。
外には誰も居ないので、そのままドアを開けて中に入る。
「こんにちは」
「こんにちは。今日はどのようなご用件でしょうか?」
「この子を協会に登録して欲しいんですが」
「はぁ、登録、ですか。ちなみに、その方とは、その、どのようなご関係、ですか?」
ここでもか。やはり、冒険者風で女の子を三人も連れていたら奴隷としか思われないのか?
「妻です」
「えっ!?」
ミリアが驚いた声を上げたので、お尻をつねる。
「ひゃうっ!」
「ほ、本当ですか? その、ご本人は驚いているようですが……」
「今まで奴隷の様に扱っていたので、私が妻と紹介してくれたことに驚いているのでしょう。な、ミリア?」
「うぅ……」
涙目で下を向いて、尻をさすりながらモジモジしている。少し強くつねったので痛かったのだろう。
「ほら、ただ照れているだけでしょう?」
「はぁ……奴隷ではない、のですよね?」
「えぇ、奴隷は登録できないでしょう? わざわざ奴隷を連れてきませんよ。あ、こっちの二人は奴隷ですがね」
「それならば良いのですが……。では、登録を行わせていただきますので、カードを出していただいてよろしいですか?」
ほら、と言ってミリアにカードを出させる。念の為、サブジョブは外しておく。
「確かにお預かりします。あと、登録費用として5金、更には毎月寄付として1金必要になりますが、今お手持ちはございますか?」
さっきまで疑ってやがったくせに、冷やかしではないと分かった途端、言葉使いが変わりやがった。
「毎月寄付というのは、誰がいつ何処で寄付したのかって、どうやって管理しているんですか?」
「名簿にも記入しておりますが、カードに登録しております。各地方の協会にカードを提示していただければ分かる仕組みです」
そうだよな、色んな街に協会があるわけだから、流石に紙媒体での管理は難しいだろう。それにしてもカードすごいな。
「なるほど。では、とりあえず登録と一年分の寄付を先にさせてもらいますね。先に寄付する分は大丈夫ですよね?」
「おぉ、一年分……ですか。先払いも可能ですので、承らせていただきます」
ミリアのカードに引き続き、17金を渡して登録をお願いする。
17金で何も言われないということは、やはりこの世界でも12ヶ月周期なんだな。良かった。
そのやり取りを見ていたミリアが、小さい声で高い高い言っている。俺と出会うまでギルドの手伝いしてたのに、協会で登録費用が掛かるのを知らなかったのか……?
それよりも、そろそろ金貨がなくなってしまう。白貨は崩したくないし、補充しておかないとな……。
「お待たせしました。登録は無事終わりました。ミリア・ウェール様は名誉会員としてご登録させていただくことになります」
「魔導士だからですか? 名誉会員ってどんな特典があるんですか?」
「はい、魔導士で一定の功績を残した者が名誉会員になります。ミリア・ウェール様はまだ幼いにも拘わらず魔導士ということですので、名誉会員とさせていただきました。尚、名誉会員は全てのサービスを無料で受けることができます。詳しくは、この本をお読みくださいますようお願いいたします」
冊子の様な物を貰ったので、ペラペラとめくってみるが、何が書いてあるのか分からない。ミリアに渡しておこう。
無料サービスという言葉を聞いて俺も登録しようかと思ったが、ミリアが名誉会員とやらになれたのなら、必要ないだろう。
「名誉会員って何か義務的なものってあります?」
「いえ、稀に魔法研究の発表会などで演説のお願いさせていただくことはございますが、特に義務というものはございません。更なる功績を残していただけるよう、研究に専念していただければ幸いです」
「そうですか。分かりました。何かお願いする時は、また寄らせていただきますね」
「はい、今後ともよろしくお願いいたします」
冊子を見ているミリアを連れ、門を開けて外に出ようとする。
「おい、出てきたぞ」
「彼らだ!」
協会から外に出ると、複数人の冒険者風の男共が集まってきた。
何だこいつら……。俺何かしたっけ。精霊モドキの件か?
「なぁ、一昨日のモンスターを倒してくれたのは君達だろう?」
「え、何のことです?」
「見てたんだよ、俺達! すげぇよな!」
「多分見間違いですよ。それじゃ、俺達は急いでいるので」
男には興味ないし、別にお金をくれるわけでもなさそうなので、適当に流して歩き出す。
「ちょ、ちょちょっと、待って!」
「何なんですか。それ、人違いですから。あまりしつこいと……」
「違う! 待ってくれ! 君達で間違いないんだ! まずは話だけでも聞いてくれ!」
話だけ……何かあるのか? 金でも貰えるのならば、話を聞かない事もないが。
とりあえず足を止める。
「良かった! 聞いてくれ」
「それで、何です?」
「領主が、ギルドに対して君達を探すように依頼してきたから、依頼を受けて君達を探していたんだよ!」
領主……しかもギルドに依頼をしてまで探していたのか……これはもう、行くしかないだろう!
「……分かりましたよ。但し、面倒なことだったら貴方達のせいにして帰りますよ?」
「わ、分かった。領主は体面を気にする人だ。食事にでも招待したいのだろう。だから、君達にも俺達にも得な話だと思う」
「そうだと良いですが。それで、何処に行けばいいんです?」
「案内するよ」
そう言って男共に案内され、街の奥の方へと連れて行かれる。
街の中の一定ラインから奥は、貴族の住んでいるところなのだろうか? 建物の造りが全然違う。
更に歩くと、デカい屋敷に到着する。
先日の一見で警戒しているだけだろうか? 屋敷の前には街の中なのに門番が居る。
案内してくれた奴等のリーダーであろう男が、門番に話掛けた後に何かを受け取り、こちらに向き直る。
「ありがとうな。これで俺達の仕事は終わりだ。今から迎えが来るらしいから、ここで待っていてくれ。それじゃあな!」
門番から受け取った物をこちらに見せつけ、お礼を言って全員去って行った。
見せつけてきたものは、俺等を連れてきた証拠か何かなのだろう。あれで報酬が貰えるのか、楽な仕事だな。
「ミリア、領主は俺等にお礼をしたいのだと思うか? それとも仕事を押し付けてくると思う?」
「さぁ……やっぱり、街を救ったお礼じゃないですか?」
そうだと良いがな……。
そんな話をしていると執事らしき男性が現れる。
「お待たせいたしました。わたくし、先日よりこの館の管理を任されております、ヴェルト・クルダと申します。恐れ入りますが、お名前をお伺ってもよろしいでしょうか」
「どうもクルダさん。俺はタカシ。タカシ・ワタナベです。こっちが、ミリア、ファラ、マリーです」
「ワタナベ様ですね。ご紹介ありがとうございます。私の事はヴェルトとお呼びください。それでは、主の元へご案内させていただきますので、皆さまどうぞ、こちらへ」
「はい」
案内されるまま屋敷の中に入り、客間らしき場所に通される。
よくよく考えたら、こちらの世界に来て、奴隷商より立派な館に入るのは初めてだな。
「主をお連れいたしますので、こちらにて今しばらくお待ちください」
「はい」
皆も恐縮しているのか、動きが硬いし何も喋らない。ファラなんて俺の真後ろにピッタリくっついている。珍しいな。
椅子を案内されたので、とりあえず座っておくか。
「皆、面倒な事になりそうだったら、飛んで小屋に戻るから、出来るだけ俺から離れるなよ?」
「わ、わかりました」
「わかった」
「にゃん……」
しばらくすると、ヴェルトと一緒に、真っ赤な派手なシャツを着た、体格の良いおっさんが現れた。
「おお、良くぞ来てくれたな。君達か! 街を救ってくれたのは」
「えぇ、まぁ。別に救ったつもりはないですが、モンスターを倒したのは俺達ですね」
向こうのテンションに合わせる必要はないので、淡々と答える。
「これは失礼。私は、パーシル・オスロだ。君の名を聞かせてもらって良いか?」
「どうも。俺はタカシ・ワタナベです。こっちがミリア、ファラ、マリーで……ん……?」
待てよ……? この領主、オスロと名乗らなかったか? ファラの名前はファラ・オスロだよな……?
「うん……? 今、ファラと申したか……?」
パーシルが反応している。やはり繋がりがあるのか?
だからファラは俺の後ろに隠れていたのか……。




