第5話 親子
部屋を出て鍵を掛け、カウンターに行く。
「夕飯はもう少し時間掛かるよ」
後でおいでと言われたから来たのに、まだなのかよ。
それじゃあ、時間潰しにミリアの所にでも情報収集に行くか。
「そうですか。ちょっと外に出てきますね」
「はいよ」
そう言って鍵をミーアに預けて宿を出る。行先は冒険者ギルド。
冒険者ギルドは更に人が増えていた。やはり日が落ちる前に清算を行うために集まってきたのだろうか。
「こんばんは、ミリアさん」
「あ、はい。こんばんは」
ミリアは受付の中で書類の整理をしていたようだ。
「夕飯までまだ時間があるそうなので、今後の冒険者稼業について相談したいことがあって来ました」
「そういうことでしたら構いませんよ。あちらの席が空いているようなので、そこでお話ししましょうか」
ちょうど席が空いているところがあり、そこに案内されたので、二人揃って席に着く。
「えっと、それでどのようなご相談でしょうか。そろそろ終業なので、できれば早目にお願いしますね」
「あ、はい。いくつかあるんですが、まずは良い装備が欲しいんですよ。どこで手に入りますか?」
「装備は宿屋の2軒隣にありますので、そこで入手するか、後は鍛冶屋さんに直接行って、作ってもらうことができます」
宿屋のすぐ傍にあったのか。全く気が付かなかった。鍛冶屋についてはオーダーメイドか。高いだろうから、また今度聞いてみよう。
「それで、装備を手に入れる為にお金を稼ぎたいんですが、良いお金を稼ぐ方法などないですか?」
「そうですね。まずは依頼でコツコツ貯めることですかね。次に、狩りで得た素材を売ること。後は、物を作って売るとか、犯罪者を騎士団に引き渡すとかですね」
「やはりそんなところですか。犯罪者はどういう基準で報酬が発生するんですか? 通報ですか? 直接連行するんですか?」
犯罪者狩りが一番お金になるのなら、俺は人のジョブが分かるので簡単かもしれないと思い、聞いてみた。
「んー、報酬の基準ですか……基本的には生死不問です。戦闘の末に殺してしまったのならば、死体を騎士団に持っていく必要があります。ですが、大変危険なのでお勧めはしません」
そりゃあ相手も簡単に捕まるようなら、騎士団も賞金なんて懸けないだろう。当然、戦闘になる。
戦闘になるから、イコール生死不問なんだろうな。本人確認はカードを取り出せば分かるし。
「では、素材はここら辺ではどのような物があるんですか?」
「そうですね、ここら辺では野兎のユニークであるホワイトラビットや、猪のユニークであるグレーボアなどでしょうか」
ユニークというくらいだから1匹しかいないボス扱いだろうか。それにしてもユニークになると英語名なのか。色も付いてるみたいだし、名前を見れば簡単に分かりそうだな。
「では、当分はユニークを探してみることにします。そこで、パーティーですけど、他の冒険者さんはどうしてるんですかね。やっぱりスカウトとかですか?」
「パーティーは、そうですね……、やはり同じ村出身の者同士で組んでいたり、気の合う人達で組んでいますね。やはり信頼関係が大事ですから。でも、中には奴隷を使っている方もいらっしゃいます」
なんと! 奴隷ですか!
「ど、奴隷はありなんですか!? どこで買えるんですか!? やっぱり女の子の奴隷も居るんですか!?」
「え、え!? ちょ、あの、ちょっと……」
ドン引きのようだ。ちょっと興奮して下衆な感情が表に出てしまった。だって仕方ないじゃないですか。奴隷ですもの。
「失礼。えっと、奴隷は無理やり戦闘に参加させて逃げたりしないんですか?」
「はぁ……はい、奴隷は絶対服従の魔法が掛けられるので逃げられません。逆らうと激痛で身動きができなくなる魔法です」
激痛か。逆らったら死ぬような魔法であれば、死んで楽になりたい状況や、死んだ方がマシという状況では逆らうだろうし、激痛くらいが良いのかもしれないな。
「その服従魔法を解除されたりとかは?」
「できません。絶対的なものです。解除するには契約の際に、主人が自分が死んだ場合は解放するという意志を込めていた場合に限ります。あと、どの程度逆らうと魔法が発動するかは、主人次第です」
主人が死なないと解放できないらしい。しかも条件付き。
奴隷になる人はかわいそうだが、ここはそういう世界なのだろう。仕方ないのだ。うん。
「やっぱり奴隷は高いんですか?」
「そうですね。冒険者の方でもやはり稼ぎの良い方しか買いませんね。値段的には1金貨から数白貨まで奴隷の容姿や能力次第です」
昨日の俺の稼ぎから考えたら、普通に手が届く範囲だな。
よし、決めた。当面の目標は奴隷の若い女の子を買って、イチャイチャしながらお金は冒険で稼いで静かに暮らすことにしよう!
「ふふふ……」
「ひっ! ええっと、その……も、もう良いですか?」
やばい! 完全に引かれてる! 違う!
「ご、ごめんなさい! 色々と考えてました」
「ですよね、卑猥なことですよね、分かります。冒険者ギルドに登録した方は最初、大体同じようなことを考えているみたいです」
バレてる! 違うんだ! 俺はミリアともイチャイチャしたいんだ! いや、違くなかった!
「あはは……俺は静かに暮らしたいので、奴隷のお嫁さんでも貰って田舎でゆっくり暮らすのも良いかなーと」
「確かに奴隷を養子にしたり、複数娶る方もいらっしゃいますが、貴方はまだお若いじゃないですか」
若いって言われちゃった。ミリアも十分若いよ? でも、そうか。俺と同じ考えの人はやっぱり居……
えっ!?
複数?
娶る?
「ええっと、ミリアさん?」
「はい? 何ですか?」
「複数娶るって、な、何ですか?」
「この国では重婚も珍しくありませんので」
はい、きました。俺の時代が来ました。これはもうハーレムを作るしかありません。これは神のお告げです。自称神様様です。
「な、なりゅほど。それは良いことを聞きました」
「……?」
首を傾げているかわいいミリアには分かるまい。この複数の嫁を持つという男のロマンを。
「ありがとうございました! これで目標などができました」
「大体何を考えているのか予想できますが、それならば良かったです」
もう気にしないことにしよう。これ以上、緩みきった気持ち悪い顔を見せるわけにもいかない。
「ミリアさんは俺の救世主、女神です! また何かあれば相談させてもらいますね!」
「えぇー……まぁ、仕事なので良いですが」
露骨に嫌そうな表情をされているが、もうこれは仕方のないことなのだ。何度でも相談してやる!
そしてミリアと別れ、宿に戻ることにした。
皆は夕飯刻なのだろうか。辺りからは美味しそうな匂いが漂ってくる。目標も出来て良い気分なのでお腹が空いてきたな。
すぐに宿屋へ到着したので、ミーアに食堂へ案内してもらい、食事が並べられる。
何の肉か分からない、焼き立ての油滴る謎肉ステーキ。
スープはコンソメのような謎出汁の透き通ったあっさり味。
サラダは色とりどりの野菜に、謎スパイスのドレッシング。
ライスは無かったので、その代わりのパン。
もうお腹いっぱいだ。
少し食べ過ぎたので、テーブルでゆっくりしていると、ミーアが顔を出してきた。
「食事はどうだったね?」
「いやー、すっごく美味しかったです! 思っていた以上でした!」
「それは良かったよ」
そういって、空いている椅子に座ってこちらに話しかけてくる。
「ところで見ない顔だね。この街は初めてなのかい?」
「はい。今日来たばかりです。何もかもが新鮮で楽しいです!」
ミーアはニコニコしている。良い人オーラが全面に出てるな、このおばちゃん。
「それで、ウチを誰に紹介してもらったんだい?」
「あー、冒険者ギルドのミリアっていうかわいい子ですよ」
「はっはっは、あの子が紹介とはそりゃまた珍しいな!」
どうやらミリアとミーアは知り合いらしい。金蔓を紹介された感じなのだろうか? でもミリアだし、食事は本当に美味しかったし、気にしないことにする。
「そりゃあ、かわいい子に紹介されたんです。行かない手はないでしょう?」
「そうかいそうかい! あの子は私に似たのか、かわいいよな!」
「分かってくれる人が居るとは! いやー、もうお持ち帰りしたかったくらいですよ。さっきもわざわざ顔を見に行……」
え? ……私に似たのか? ちょっと何言ってるの?
「ちょっと! お母さん! お客さんに絡んじゃダメでしょ!」
後ろから突然、聞いたことのあるかわいい怒鳴り声が聞こえる。
「え!? えぇ!?」
「ミリアはアタシの自慢の娘だよ」
似てねぇえええ。