第52話 ボス
翌朝、良い匂いがするので目を開けると、ミリアが先に起きていたようで、既に朝食の準備をしていた。
ファラは昨日疲れたのだろう。まだ丸くなって寝ている。
「ミリア、おはよう。朝食ありがとうな」
「い、いえ、このくらい何でもないです」
「ほら、ファラ。そろそろ起きるよ」
「……うん」
ファラを起こした後、着替える。
ついでにファラにも服を着せてあげて、ミリアが用意してくれた朝食を食べる為、テーブルに移動。
「き、今日はどうしますか?」
「またビー狩りに戻ろう。ミリアも魔法の確認したいでしょ?」
「はい、実は楽しみなんです……」
朝食を作っている時から、何かソワソワしているもんな。
昨日の一件が恥ずかしいのかと思っていたが、違うようだ。
とりあえず、二人のINTに10ポイント振ってから話を進める。
「それなんだけど……実は……」
「え……なんですか……?」
「多分、昨日の一件でミリアの魔力が二倍近くになっているかも」
「えぇ!? 本当ですか!?」
「うん。だから魔法を使う時は注意してね。多分、想像しているより威力が大きいと思うから」
「は、はい!」
目がキラキラしている。早く試し撃ちがしたいのだろう。
朝食も食べ終わったし、さっさと出掛けるか。
もう少し恥ずかしがってくれても良いんだがなぁ。
「片付けたら、早速出発しようか」
「はい!」
「ん」
家を出て山へと向かう。
基本的に山から山に、夕方になると入口まで下りて家を建てて、また山に登る感じなので、距離的にはそう大したものではない。
しかし、こうも毎日登山の繰り返しというのも飽きてきたな。
「ねぇ、ミリア。ビー以外で効率よく大量に狩れるモンスターって、やっぱり居ないかな」
「ビー以外となると、このダンジョンではハーピーかバタフライ、ラット辺りじゃないですかね」
「あいつら弱いし、魔法の練習にも、お金にもならないからなぁ」
「じゃあ、ビーくらいしか居ないですね。単体ではグリフォンの方が強いですが、グリフォンは群れないので……」
そんなやり取りをしながら、仕方なくビーを狩り続け、二つ目の山に移動した時、ビーが居ない事に気が付いた。巣も無い。
既に狩られた後なのだろうか。誰か居るかもしれないので、二人にも周りを確認するよう指示して、辺りを散策する。
すると、ふと麓の方に家らしき物を発見した。
「ミリア、ファラ、何かあそこに家っぽい物があるよ」
「え? 私達以外にも家を建てている人が居るんですかね……」
「遠くまで見える」
二人には聞こえない程度の小さな声で、目に遠目の付与を施して家の方を見る。
「あれって……俺が作った家じゃないか?」
「そんな……戻ってきたってことですか?」
山から山に移動していた。一周してもおかしくはないが……。
「とりあえず、確認してみたい。そこら辺に落ちてる木を集めてきてくるか?」
「分かりました」
三人で木を集めて、周りに引火しないよう石などで囲み、火を点ける。
「よし、これだけ煙が出たら向こうから見て分かるよね」
「目印ですか。でも、向こうに行く前に消えると思いますが……」
「大丈夫。二人共、俺の体のどこでも良いから触ってくれる?」
二人が触れてきたので、魔力を込めて神脚を発動する。
――シュンッ
「ふぁ!?」
「んっ!?」
よし、ちゃんと三人でも移動できている。良かった……。
MPは予想通り三倍減っているけど、この程度なら失神する程ではないので、問題ない。
「タカシさん、転移! 転移使えるんですか!?」
「うん、前から使えてたみたいなんだけど、昨日ちゃんと使えるようになった」
「タカシさんだけズルいです……」
「タカシ、すごい」
「俺が覚えたってことは、ミリアにも教えてあげることができるって事なんだから、喜ぼう? それより、ほら。ここからさっきの煙が見えるね」
移動前に作った煙が見える……ということは一周したことになるのか。
「開始地点に戻ってきたってことは、もう山が無いよね。倒したモンスターってどのくらいで戻ってくるの?」
「うーん……それはちょっと分からないですね。それにしても……狩り尽すって、異常ですよ……」
そうだよな。ゲームとかだとモンスターは無限に沸き続けたり、一定時間経過したら沸いたりするけど、二日程度じゃ沸かないってことか……。
レベルは28か……28になってから暫く経つし、もう少しなんだよな。
「仕方がない……森に狩場を移そうか」
「そうですね」
それにしても、この場所に来るとラン達のことを思い出す。
彼女らは無事だろうか――さすがに、もう飛行型のモンスターは懲りただろうし、森には居ないだろう。
遭遇して面倒なことにならないことを祈りつつ、先に進む。
森に入って程なくして、モンスターに遭遇。
ビーのように大量に襲ってくるわけではなく、一匹二匹なので簡単に処理する。
やはり、森は魔法の練習にもならないな。
「ビーみたいに大量に狩れるモンスターが居れば良いんだけど」
「流石にあの量は居ないと思います。地道に進みましょう? 本当なら、これが普通の狩り方なんですから」
ミリアに愚痴を聞いてもらいながら先に進むと、前方で物音がすることに気が付いた。
何か話し声も聞こえるし、このパターン……またあいつらか?
「何かあっちの方で人の声がするね。ラン達かな?」
「どうでしょうか。行ってみますか?」
「うーん、一緒に行動することになると面倒だし、避けようか」
「えぇ……」
ミリアは不満そうだが、面倒事は避けたいので、少し迂回しながら進むことにする。
「それにしても、あれ以来人に遭遇したのは初めてだね」
「それはそうですよ。わざわざ面倒なビーを求めて山に登るのなんて、タカシさんくらいでしょうし」
「そうなの?」
「そんなものです。弱いモンスターが居るところから巡って、コアが無かったら、索敵範囲を拡大して探していくのが普通です」
確かに。言われてみればそうだよな。いきなり強敵のところに行くなんてしないよな。
ミリアのダンジョンの進み方講座を聞きながら進んでいると、先程人の声がした方から何かが走ってくる音がする。
「モンスターじゃないみたいだけど、一応警戒しておこうか」
「はい」
「ん」
目に遠くが見える付与を施し、音のする方を注意深く見てみると、どうやら若い男性が二人走ってきているようだった。
その後ろを見ると、ビーが四匹ほど追ってきている。
「男が二人、ビーに追われているな。ミリア、木に燃え移らない程度に火の玉を作って、目印にしてあげて」
「わかりました!」
男の内の一人がこちらの目印に気が付いたようで、方向を変えてこちらに向かってくる。
「おい、こっちだ!」
「……お? おぉ、た、助けてくれ!」
「ファラ、ビーを倒してあげて」
「ん」
ファラによってビーは一瞬で倒され、男たちはその場に倒れ込んだ。
「どうしたんだ? 何で森の中でビーに追われていたんだ? というか、君達の仲間はどうしたんだ?」
「はぁはぁ……。あっちに、ビーが、群れが、はぁはぁ……」
とりあえず桶を取り出し、ミリアに水を出してもらい、桶を彼等に渡す。
「ほら、とりあえず落ち着け」
「はぁはぁ……ありがてぇ。助かる……」
「それで? あっちに居るビーに、仲間がやられたのか?」
「あぁ、皆やられちまった。あんなに居るとは思わなかったんだ。間違いない。あそこにはコアがある」
ボスか――まだ30になっていないのに、厄介だな……。
「どんなだった? 教えてくれ」
「俺等の前のパーティが減らしたのか分からないが、取り巻きは30ほどだった。でも、クイーンは見ただけでも四体居た……」
「ミリア、クイーンって縄張りがあるんじゃなかったっけ?」
「はい、一ヶ所につき一匹のクイーンだったはずです……」
ボスだから、その習性は適用されないのか? それでも、こうも早くボスに辿りつけるとは思っていなかった。
せめて三人ともレベルが30を超えてから挑みたかったけど、仕方ないか……。
「あんた達は三人なのか? 他の仲間は?」
「俺達は三人でのんびりやってるから、他に仲間は居ない」
「そうか……だったら、彼等はもう……」
彼等? こいつらの仲間は全滅したんじゃなかったのか……?
「まだ生きている奴が居るのか?」
「あぁ、俺達が逃げる前にビー達を食い止めてくれた獣人達が居たんだが……もう今頃は……」
「タカシさん! 獣人達って!」
「ラン達だろうな……」
「助けに行きましょう!」
ラン達がこいつらを助けたのか……。姫というだけはあるな。
「まだダンジョンを楽しみたかったけど……仕方ない、行くか」
「はい!」
「おい、止めとけ! あんた達三人じゃどうしようもないって!」
「大丈夫だ。この子、こう見えて最年少魔導士様だからな」
「なっ!?」
ミリアの頭にポンと手を乗せて、紹介してあげると、当然驚いている。
しかし、ミリアはそれどころではないらしい。
「も、もう! そういうのは良いです! それより、早く行きましょう! まだ間に合うかもしれません!」
「そうだな。それじゃ俺等はもう行くから、獣人達に助けてもらった命なんだ、ちゃんと逃げろよ?」
驚いている彼等を放置したまま、三人で森の中を走って行く。
現状で二人がダメージを食らうことはないだろうが、二人には念の為、障壁を張っておくように指示しておく。
まだ音がする。でも数が少ないな。やられたのか?
「ファラ、怪我人が居たら優先的に回復してあげて。ミリアは、それをフォローしつつ余裕があればモンスターに攻撃」
「ん」
「分かりました!」
見えてきた。
あの後姿はアバンだな。盾で防いでいるのでいっぱいいっぱいのようだ。
そのアバンの周りを、ランが敵を引き連れながら距離を取って一匹ずつ処理している。
他の奴等の姿が見えない。
他の四人を探しながらキョロキョロしていると、ミリアがいきなり叫んだので驚いた。
「あぁっ! ランさんがっ!」
ランの方へ視線を戻すと、ビーに刺されたようで動きが止まり、クイーンが近づいていた。
まずいな……。
「二人はここから魔法を撃ちつつ、アバンさんを助けてくれ。俺は先に行く」
神脚を使い、ランの目の前に移動して迫ってきていたクイーンをメイスで二発ほどぶん殴り、倒す。
周りに居るビー達に何度か刺されてしまったが、自分に治療を施しつつ、そのまま残りも殴り倒す。
「タ、カシ……く、ん?」
「まだ生きていたみたいだな。運の良い奴め」
ランに治癒と治療を施して、残りのクイーンに突撃する。
アバンの方もミリアとファラが間に合ったようで、雑魚は大体倒したようだ。
「ミリア、ファラ、先にクイーンを殲滅しよう」
「はい!」
「ん!」
二匹目のクイーンを撲殺した後、残り二匹の殲滅は二人に任せて、他の獣人達を探す。
「ラン、他の四人はどうした?」
「えっと……ランを守ってくれて……」
俯いて指差すので、そちらを見ると……四人共倒れている。
走り寄り、治癒と治療を施すが、もう手遅れのようだった……。
それにしても、すごいな。
改めて周りをよく見ると、倒れている人がかなり居る。刺されて毒で死んでいるのだろう。
潰れたり裂けたりはしていない人間の形のままなので、何とか見ることができる。
人がこんなに死んでいるところを見るのは初めてだな……これが肉片とか飛び散っている惨状だったら、死者には悪いが、正直吐いていたかもしれない。
……ミリアやファラは大丈夫だろうか。
周囲の確認を終えると、残りのクイーンも始末してくれたようで、ミリアとファラ、それにアバンがこちらに近寄って来た。
「タカシ様、一度ならず二度も命を救っていただき、本当にありがとうございます」
「いえ、それより四人はもう手遅れのようですね……」
「はい……残念ながら……」
普通のパーティーならこうなるのか……肝に銘じておこう……。
「ミリア、ファラは平気か?」
「私達もこうなっていたかもしれないと思うと、怖いです……」
「だいじょぶ」
ミリアはあまり周りを見ようとはしないが、ファラは大丈夫そうでキョロキョロしている。何かを探しているんだろうか……?
「それで? ボスは倒したけど、出口って何処にあるんだ?」
「あった。タカシ、あれ」
ファラが指差す方を見ると、クリスタルのような物が地面に刺さっていた。あれを探していたのか。
「あれがコアか。あれを壊したら出口が現れる感じ?」
「多分、そうです。知識として知っているだけですが……」
「じゃあ、さっさと壊して外に出るか」
「タカシ様! 少々お待ちいただいてよろしいですか」
アバンが止めてきたので、とりあえずファラにモンスターの回収を指示して待つことにした。
「せめて、彼等を国に返してあげたくて、ですね……」
「そうか……、ダンジョンが消えたら彼等も消えてなくなるんでしたっけ」
「はい。ですので、少しだけ待っていただけますか?」
「もちろんです。ファラ、すまないが周りを警戒しておいてくれ」
ミリアはずっと下を向いていたので、ファラに警戒をお願いして、四人の亡骸回収を手伝うことにした。
今はもう使っていない、風呂の時に使っていた中敷きを出し、その上に布を巻いて担架的な物を作成する。
その上に四人を乗せてあげ、アバンが持っていた布を被せたが、後はこれをどうやって運ぶか、だが……仕方ない。
「俺が浮かせるので、左右を持ってあげてください」
「そんなことができるのですか!?」
「はい。それじゃ行きましょうか。ファラ、コアを壊してくれ」
「ん」
――パリンッ!
コアを破壊すると、そこにはダンジョンに入った時と同じような黒い鏡のような物が浮かび上がってきた。
これに入れば、外に出られるのか……。
空間魔法で四人を乗せた板を浮かせ、ランとアバンに運ばせる。
六人を先頭に、続いて三人で手を繋いで鏡の中に入る。
入ってきた時と同じく、浮いているような感覚を味わった後――入口の山に戻ってきていたので、ひとまず四人を下ろし、これからどうするか考える。
「さて、出てきたのは良いが、どうしましょうかね」
「我々はこのまま野宿して、国に帰ります。流石に彼等を連れて街には戻れませんので……」
「そうですか。俺等も街には戻れないだろうし。一緒に野宿でも……、二人とも良いかな?」
「はい」
「ん」
街には、ダンジョンに入る前に相手した奴等が居るだろうから、出来るなら遭遇したくない。
とりあえずは野宿できそうなところを探すか。
「ミリア、野宿できそうなところを探してきて」
「はい!」
ミリアを飛ばして、良い場所を探してきてもらう。
「なっ!? と、飛べるのですか!?」
「え、あぁ。言ってなかったっけ」
「ミリアさん、すごいですね!」
アバンが飛ぶミリアを見て驚いている。それは驚くよな。
「タカシさん、ここを少し登ってあっちに進んだところに良さそうなところがあります」
「ミリアさん、さすがです!」
「え!? 何がですか……」
「飛べることです! さぞ辛い修行を重ねられたのでしょう」
「それは、タカ……」
口に人差指を立てて、黙っておけサインを出して先に進むことにする。
「それじゃ行こうか。俺はこっちに集中するから、二人は周りを警戒してくれ」
「は、はい!」
「ん」
もう夕方だ。
さっさと野宿ポイントに移動しよう。




