第48話 冒険
山に向かう最中、クッキーがあるからだろうか、ファラがいつにも増して前線で狩りをしている。
お菓子効果絶大だな。今度からはおやつを用意しておこう。
「ミリア、そろそろ山だけど、どうかな? ビー居そう?」
「そうですね。少し登ったところに、ビーが巣を作りそうな木があるので、居るかもしれません。ほら、あの木です」
枝の多い木だな。巣を作るわけだから枝が多い方が良いのか? とりあえず木は覚えた。あんな木が多い山を探せば良いのか。
「なるほどな。そうと分かれば登ってみないとな」
「はい」
「ん」
道中でエレメントなどが出てくるが、問題なく処理出来ている。ただ、弱くて魔法の練習にはならないな。
やっぱり、このダンジョンでは相手になるモンスターは居ないのだろうか。流石にボスは手ごわいだろうが。
「皆精神力には余裕があるし、魔法の練習をしながらモンスターを倒していこうか」
「はい! ……でも、何の練習をしますか?」
「そうだな……。やっぱり飛べるようになりたいから、空間魔法かな」
「分かりました」
「わかった」
自分が飛べるように、浮かせる対象を少しずつ大きくする練習をする。
モンスターが出たら、浮かせている物をぶつける練習もする。二人は、これで慣れてくれると良いけど。
「昨日のタカシさんみたいにうまくできないです……何かコツとかないですか?」
「うーん、そうだなぁ……例えば、そこにある石。ミリアならどうやって、あの木に当てる? 実際に口で説明しながらやってみて」
ちょうど足元に5センチメートル程の石が落ちていたので、前方にある木に当てるよう指示してみる。
これで毎晩ミリアがファラよりぶっ倒れる原因、魔力放出の無駄が分かるかもしれない。
「まず、手に取って魔力を石に込めます。そして石の下に魔力を込めて浮かせます。次に石の下に魔力を送りつつ、石の後ろ側にも魔力を込めて手前に動かします。最後に石の後ろに込めている魔力を強くして、こうやって前に飛ばして木に当てます」
「なるほど。俺が教えた時の通りにやってるんだね」
「はい、ちゃんと教えてもらった通りにやっているつもりです。どこかおかしいところありましたか?」
特におかしいところはなかった。
ただ、魔力を込める場所を明確にするため、そのように教えたんだけど、一つ一つの工程を意識してやっていたら時間が掛かるんだよな。
「何ていうんだろうか。それが無意識に、魔力の紐みたいな物を操れるようになれると良いかな」
「魔力の紐……ですか」
「言っても分からないよね。実際にやってみるから、見てて?」
「はい」
「ん」
何気にファラも気になるようだ。真剣に俺とミリアの会話を聞いている。
手本を見せる為、石を数個拾い、バッと空中にばら撒く。
「こうやって投げた石が浮いている間に、手から対象の数だけ、魔力の紐みたいな物を出して、それを石にくっつける感じ」
「ふんふん」
「ん?」
「石に紐をくっつけたら、後はくっつけた状態でキープ出来るように魔力を調整する。後は石を好きに動かすだけ」
実際に、それぞれの石を上下左右に移動させてみる。
「む、むずかしい……です」
「できない」
うーん、説明は難しいなぁ。
「じゃあさ、魔力の紐を数本作ってみよう。それを数本鞭みたいに操作できるよう練習してみて」
「分かりました」
「わかった」
他人の魔力の流れなんて見えないから、何をやっているのか分からないけど、自分ではどうなっているのか感じ取ることができるから、練習にはなるだろう。
そうやって練習しつつ山を登ると、ビーを発見した。
道中で他のモンスターをそれなりに討伐したが、やっぱり大量に討伐できるのはこいつ等だけなので、居てくれて良かった。
「よし、今回は皆で戦うよ。念の為、障壁は張って、攻撃を受けたら必ず俺に報告な」
「はい!」
「ん!」
先日と比べて数は少ないが、それなりの数がいるので気を付けつつ、メイスでどついて倒す。
その間に、二人は魔法で一匹ずつ仕留める。
三人で固まって戦えば死角も特にないし、一撃で倒せるから数も稼げて、更には蜂蜜も手に入る本当に美味しいモンスターだな。
倒し終わった後は、当然蜂の巣を回収しておく。ファラの眼が輝いている。蜂蜜を使ったお菓子とか考えないとな……。
「まだ昼まで時間があるし、今日だけで三つか四つ目の山まで行けそうだな」
「そうですね……。少し大変ですが、そのくらいなら体力の続く限り行けるかと思います」
「キツかったら言ってね? 無理する必要なんてないからさ」
「ん」
「はい」
そうやって山から山に移る感じで移動し、ビーを探す。
二つ目の山でも木が目印で、すぐに見つけることができた。
「キラービーは金になるし、レベルも上がるし、訓練にもなる。本当に美味しいモンスターだな」
「普通はこんなに楽じゃないですよ……」
「おいしい」
早々に倒し終わったが、おやつの時間までまだ時間がある。
「まだいけそう?」
「はい、まだまだ大丈夫です!」
「ん。ファラも」
実を言うと俺の脚がそろそろ疲れてるんだけど、二人はまだイケるらしい。これが十代の体力か……。
「じゃあ、もう一ヶ所登ったら休憩にしようか」
「分かりました!」
「たのしみ」
次の山も、木を目印に最短距離で進む。
またすぐにビーを発見することができた。
今日だけでビーを百匹近く倒しているので、レベルも27になっている。
どうしても道中でエレメントなど色々狩ることになってしまうが、このままビーだけ狙って狩れば、今日にでもレベル30になるんじゃないか?
俺の脚が耐えてくれれば、の話ではあるが……。
「よーし、休憩にしようか。さすがに疲れた……」
「ですね。小さな山とはいえ、三ヶ所も山を登ると疲れますね」
「おやつ」
ミリアも疲れたようだが、ファラが待ちきれないようなので、おやつタイムにすることにした。
コーヒーや紅茶のような洒落た物はないので、お茶にする。
お茶とクッキー。これはこれで、なかなか良いな。
「ファラ、おいしいか?」
「おいしい。タカシ、ありがとう」
「喜んでくれて嬉しいよ」
ミリアも進んで食べてくれている。疲れたと言っていたし、やっぱり甘いものは正義だな。
「初めて作ったにしては、ちゃんと出来ているな」
「うん、おいしい」
「お店で売っている物みたいです」
「作り方は教えた通り簡単だし、ファラでもすぐ作れるでしょ?」
「ん。毎日作る」
流石に毎日は飽きますよ、ファラさん。
早めに違うおやつの作り方も教えてあげないと、毎日クッキーを食べる羽目になってしまいそうだ。
日も傾き始め、のんびりした時間もクッキーが無くなると同時に終わらせる。
ダンジョンは別空間だって聞いていたけど、太陽があるのはすごいな。どうなっているんだろうか。
この原理が分かれば、誰でもこんな空間を作る事が出来そうだ。
「さて、それじゃあ今日はもう一つだけ山に行ってビーを狩った後、下山してから家作ろうか」
「え? 昨日の所には戻らな……いですね。かなり歩きましたし」
「うん。今から戻るとなると夜になっちゃうからね。それに、ダンジョンが消えたら中の物も消えちゃうんでしょ? 誰の土地でもないし、何個家を建てても問題ないでしょ」
「そうですね。他の方が使うかもしれませんし」
そう。ダンジョンが消えたら無くなるんだし、好きなだけ荒らしても問題ないだろう。
そういう言い訳をして、今日最後の山に向けて進む。
もうビーを探す事に慣れたようで、最後はファラが発見した。
「タカシ、いた」
「よし、それじゃあさっさと討伐して、下山しよう」
「はい」
「ん」
三回分と比べると、今回は数が少なかったがレベルは28になっているので満足だ。
この分なら、明日は午前中にでも30になりそうだな。
「さ、家を作って晩飯の準備でもしようか」
「ちょうど良い時間ですね」
「ん」
まだMPに余裕があったので、二人を交互に飛ばせて家を建てたい場所を選んでもらう。
それぞれ別の場所を指定するかと思ったが、家を建てられそうな場所が一ヶ所しかなかったらしく、同じ場所を指定していた。
二人が選んだ場所は、山から下りてすぐの川辺だったので、すぐに到着した。
「俺は家の準備するから、二人はそこにテーブルでも作って晩御飯の準備でもしておいてくれるか?」
「わかった」
「はい!」
調理器具や食材を渡し、いつもの家を建てる。今日の風呂は釜ではなく、ちゃんとした風呂をイメージして自作してみた。
家の中の細かな調整を行った後、料理の手伝いをするため、二人の下に戻ると、既に待つだけの状態になっていた。
「お、今日は煮込み料理か。そういえば、こっちにきて肉ばかりだったから新鮮だな」
「はい。お肉も入っていますけど、たまにはこういう簡単な料理も良いかなと思って、ファラと相談して決めました」
「ファラも切るの手伝った」
「そっかそっか」
何の煮込みか分からないけど、それだけでは物足りないだろう。
二人で煮込みを担当していたので、サラダを作ることにした。
サラダなんて切って盛るだけなので、すぐに完成する。
「こんなもんかな。それじゃ家の中に戻って食べようか」
「はい」
「ん」
三人で料理を運び、熱い内に食べることにする。
「そういえば、こんなに狩りしたのは初めてだな」
「ですね。久し振りに疲れました。明日もこんな感じですか?」
「うーん、明日はちょっと勉強会でもしようかなって考えてる」
明日はレベル30になるだろうから、午後はジョブについて勉強会を開きたい。
午前中だけ狩りをして、午後は早々に家を作って、勉強会ついでに色々と実験をしよう。
「明日は午後から勉強会と魔法の練習をしようか」
「何の勉強ですか?」
「主に上位ジョブや、それに関連すること……かな」
「ジョブ……ですか。私が知っていることでしたら……」
「よろしく頼むよ」
何故今じゃなくて明日なのか? など突っ込まれると困るので、話を切り替える。
「美味しかったよ。猪の肉? が入ってるのは分かったけど、何ていう料理なの?」
「えっと、今ある材料で作った料理なので……特に名前はないかもです……すみません」
味はハヤシライスのような感じのスープに、猪肉と野菜がゴロゴロ入っている煮込みスープだ。
ハヤシライスだけど、当然ご飯は無く、パンだけど。
でも、美味しかった。
「そうなのか。味付けが俺の好みだったよ。ありがとうね」
「いえ、喜んでもらえたなら嬉しいです!」
食後のお茶も飲み終わったし、そろそろ楽しい楽しいお風呂の時間かな。俺が楽しいだけ……なのだろうけど。
「ごちそうさま。それじゃ、食器とか洗って片付けてから風呂に入ろうか」
「はい」
「ん」
三人で並んで仲良く皿洗い。
俺が調理器具類を洗い、ミリアが食器を洗う。ファラは食器を拭く係だ。
煮込みとサラダとパンだけだったので、すぐに洗い終わる。
「ミリア、先に入ってるよ?」
「はい……」
「タカシ、いこ」
ファラは既に全裸だったので、持ち上げてから風呂に投げ入れ、続いて飛び込み、ファラと二人風呂を満喫する。
今日も素直にミリアが登場したので、風呂の中に入ったタイミングで重大発表をする。
「ミリア、こっちきて」
「え? 何ですか?」
「冒険者らしく、未開の地を冒険しようと思って」
「え……? 何を言っているんですか? お風呂の中で……きゃっ」
「ファラもする」
そこからは何も言わず、左右に居る二人を抱き寄せて浴槽のふちに座らせ、水平線の続く大地を冒険する。
ミリアはすぐに恥ずかしさですぐに失禁してしまった。
意識のないミリアを抱き寄せたまま、ファラには初めて自分で体を洗ってもらう。
ファラに一人で洗ってもらっている間に、ミリアの体を洗い、体を拭いてベッドに寝かせる。
「ファラ、今日も空間魔法の練習をしよう」
「わかった」
既に体を拭いて立っていたファラに、魔法の練習をさせる。
ファラだけレベルが低いので、追い付いてもらう為だ。別にトイレで賢者になる時間を稼ぐためではない。
……ベッドに戻ると、ファラがウトウトしていた。さっきの風呂で一気に疲れたのだろう。
「ファラ、無理することないよ。寝ようか」
「ん……」
もう無理そうだったので、抱き上げてミリアの隣に二人して寝転がる。
今日は充実した一日だった……主に夜が。
二人とも、おやすみ。




