第30話 譲渡
街に着いたら、まずはカッシュの相手だ。
「ただいまです。戻りました」
「おう、大丈夫だったか? 怪我とかは無かったか?」
「はい、大丈夫です。心配ありがとうございます。それでは!」
「おう」
ずっと門を守っているだけだから、ヒマなんだろうな。たまには話相手になってあげないとな。
まぁ、近い内にこの街からも出ることになるけど。
カッシュと別れてそういう事を考えながら、ギルドに向かう。
ギルドに入るといつも通りのおじいさんが居た。ミリアが抜けた後は、あの人が受付担当になったのだろう。
「戻りました」
「はい、おかえりなさい。換金かい?」
「そうです。すごい量ですけど、大丈夫ですか?」
「ははは、問題ないよ。ただ、多いならカウンターじゃ狭いだろうから、あっちに行こうか」
案内されたスペースに移動して、おじいさんが「はいはいちょっと空けてねー」と言って雑談していた冒険者を退去させる。
去り際に俺に向かって舌打ちしていたが、気にしないでおこう。
「じゃあ、ここに並べてくれるかい?」
「はい、じゃあ順番にいきますね」
そう言って、フォレストラットの尻尾41本、センティピードの足19本、バタフライの羽64枚、ハーピーの爪28個、ビッグオックスの牙12本、アサルトシープの爪18枚出す。
続けて、レッドラットの牙、パープルセンティピードの眼、グリーンバタフライの触角、ピンクハーピーの羽、ブラウンオックスの角、オレンジシープの皮を取り出す。
レアそうなアイテムは出さない。ひとまず討伐が分かるようなアイテムだけ先に出すことにした。
「えっと……これ……君達二人で? えっと、今日一日で……?」
「はい、早朝から狩りに行ってきました。さすがに疲れました」
「君達、まだ冒険者になったばかりだよね!? 何をしたら、たった二人でこんな数相手にできるんだい!?」
「んー、不意打ちで少しずつ? まぁ、あの、狩り方は他の方々も居るので、言うのは勘弁してください」
わざわざアイテムを出すスペースを作っている奴が居るということで、人が集まってきていたので、はぐらかした。
「あぁ、ごめん。そうだね。パーティーにはそれぞれ戦い方っていうものがあるからね。でもこれだけの数、かなり無茶したんじゃないかい?」
「そんなことないですよ。ほら怪我もしてないし(まぁ、治したからだけど)」
「そうかい。なら良かった。でも予想以上でびっくりだよ」
「驚いてくれたなら、がんばった甲斐がありました。換金お願いしますね」
はいはい、と言いつつアイテムを数えて何往復かに分けて、奥に持っていく。
俺とおじいさんが数を数えたり、会話をしている間、ミリアがチヤホヤされていた。
「ミリアちゃんすごいね! 才能あるよ! 俺等と一緒に来ない!?」
「えっと、ごめんなさい……」
「すげーよ! あんな数どうやって倒したんだ!?」
「えっと、その、ほとんどタカシさんが……」
「ミリアちゃん俺と付き合ってー!」
「ごご、ごめんなさい」
ミリアちゃん、ミリアちゃん、ミリアちゃんうるさいな。でもまぁ、それだけ慕われているってことだろう。いい子だしな。
「お待たせしたね。んーと、それぞれ164、95、256、140、48、72銀だね。それとユニークの分は6、6、8、8、9、5金だから、合計49金と75銀になるよ」
「おお、ありがとうございます。一気にお金持ちになったな」
「あんまり無駄に使うんじゃないよ? まぁ、冒険者に言っても無駄なのは分かっているけど」
「もちろん、ミリアの為にも無駄使いはしませんよ」
「ミリアちゃんは、ほんと良い人を捕まえたなぁ」
おじいさんは、そんなことを言いつつ、冒険者に囲まれているミリアの方を見ていた。
「ありがとうございました。それじゃあ俺等はこれから用事があるので、そろそろ行きますね」
「はいはい。無理はしないようにね」
「はい。ミリアー! そろそろ行くよー!」
囲まれているミリアを呼び戻し、ギルドを出ることにする。相変わらず皆は俺に冷たいけど、襲い掛かってこないだけ良いか。
襲撃などは特になかったので、ギルドを出てそのままミーアのところに向かう。
「戻りましたー。まだ早かったですか?」
「いんや、本当なら何時でも良かったんだよ。ただ、あんた達の邪魔をしたくなかったから、夕方って指定しただけさね」
「なるほど。それで用事って何なんでしょうか?」
何か考えたのか、ミリアの方を向いて少し動きが止まっていたけど、ミーアはカウンターから出て来て俺の正面に立つ。
「そうだね。順に行こうか。今日はどうする? まだ泊まるかい? だったら先に会計しておこうか」
「あぁ、はい。じゃあ、これで」
ミーアは手をこちらに突き出し、金をよこせというジェスチャーをしてきたので、宿泊代金を先に渡しておく。
「毎度どうも。部屋は昨日と同じ所だよ。それでこれは鍵ね。はい……さて、それじゃあ、先に夕飯でも食べな」
「え? まだ早いと思いますけど」
「今日は用事があるからって事で、少し早目に用意しておいたんだよ」
用事の為に早く用意してくれたらしい。それならば、サクっと食べてしまおう。
「じゃあ、ミリア。これから用事があるから、先に食べてしまおう」
「はい」
ミーアを残し、食堂に移動して夕飯を食べることにする。
今日もとても美味しい料理だったが、用事があるということなので、早めに食べてしまう。
俺の方が先に食べ終わったので、飲み物で一息つきながらミリアが食べ終わるのを待つ。
「ミリア。そんなに急いで食べなくて良いよ。ちゃんと自分のペースで食べなさい」
「はい。えへへ……。何かタカシさん、たまにお父さんみたいな事言いますよね」
「俺は恋人にはなっても、ミリアの父親になる気はないよ」
「分かってます! いや分かってない! 彼氏じゃないです!」
どっちだよ。よく分からない突っ込みをしながら、ミリアの食事が終わる。
二人で食後のお茶のような何かを飲みながら、一息ついたところでミーアの下に戻ると、ミーアは待っていたかのように喋り出す。
「まずはね、ミリアに話があるんだよ」
「え? タカシさんじゃなくて、私にですか?」
「あぁ、もちろんタカシにも話はあるよ。でも、まずはミリアなんだよ」
「はぁ、何でしょうか。タカシさんの前って事がちょっと怖いです」
ミリアは警戒しているが、ミーアは無視して話を先に進める。
「短い間だけど、ずっと憧れていた冒険者をやってみてどうだった?」
「毎日新しい事ばかりです! タカシさんはエッチですけど……それを抜いたら……楽しいです! それに聞いてください! タカシさんのお陰で、諦めていた魔法も使えるようになったんですよ! タカシさんはすごいです!」
「そうかい。魔法……それはすごいね、良かったじゃないか! うん、良かったねぇ」
「えへへ……」
ミーアは「良かった良かった」と言いながらミリアの頭を撫でている。どこからどう見ても親子だ。絵になるなぁ。
「それで、どうする? 冒険者を続けてみるかい? それとも、もう魔法も覚えたし満足かい? またギルドの手伝いに戻るかい? アタシはね、それを聞いて今後の事を考えなきゃならない」
「あ……そうですよね。お店の事もあるし、ギルドもいきなり仕事を抜けちゃったので……」
仲積むまじい親娘の会話が、いきなり現実に戻され、ミリアが恐縮してしまっているが、それでもミーアは話を続ける。
「本当はね、あの人が逝ってしまってからすぐ、お前の事をもっと幸せにしてくれる所にでも売ろうとしたんだよ。……奴隷は、持ち主が死なない限り解放はできないからね」
一度奴隷になった者は基本的に解放されないらしい。但し、持ち主が死んだ場合に限り、持ち主の遺言状を基にして、解放か再度売却するか、その後の人生が決まるらしい。
ミリアはショックだったのか「そんな……」と一言だけ発し、既に涙目だ。
「でもね、あの人が何故所有権をアタシにしたのか考えたら、それはダメな気がして……それに、ギルドや店の手伝いを頑張ってくれているお前を売る事なんてできなかったよ」
「……嫌ですよ? 私はこの家が良いです! 違うところの奴隷になるなんて考えられません!」
「大丈夫だよ。今は……売るなんて考えていないから安心しな」
「お母さん!」
抱き合う親娘の図。微笑ましいな。
暫く抱き合っていたが、ミーアが両手をミリアの肩に乗せて自分から引き離す。
「それで、話は戻るんだよ。お前はどうしたい? 冒険者に満足したのなら、ウチに戻っておいで。冒険者を続けたいのなら、それでも構わない。お前の本音を聞きたいんだよ」
「私は……もちろんお母さんと一緒に……でも冒険者も……」
「どちらも続けるってわがままを言うのなら、今までの話は無しだ。アタシは、ううん、人生はそんなに甘くないよ。しっかり自分の考えを持って答えを出しな」
「はい……私は……目標だった魔法も使えるようになりました。この魔法でどこまでやれるのか……まだ! 冒険者をやってみたいです!」
何か二人の空間が出来上がってて俺が入る余地がないんだけど。これって、俺必要なの?
「本当に冒険者をやってみたいんだね? それがお前の答えなんだね? もう変えられないよ?」
「あの……冒険が終わって戻ってきても、もうこの家に私の居場所は無いってことです……か……?」
「何言ってんだい。お前の家はここだろう?」
「はい! じゃあ、冒険者を続けたいです!」
一気に明るくなったな。浮き沈みの激しい親娘だ。一緒にいる俺の身にもなってくれ。
「良い返事だ。それじゃ、お前との話はこれで終わり。次はタカシだよ」
「え? 今ので話は終わりじゃないんですか? 聞いている限りでは、俺の必要性無かったですけど」
「いや、ここからが話の本題だよ」
「はぁ、なんでしょうか?」
もう話は終わったと思ってたら、まさか俺に話がくるとは。何の話だろうか。考えられるのは俺にミリアをくれることくらいだが。
「お前さんを信用してミリアを預ける。だから、これから奴隷商のところへ行くよ」
「えぇ!? 私売られちゃうんですか!?」
さっき売らないと聞いたばかりなのに、奴隷商のところに連れて行かれるとなると驚くのも分かる。でも話の流れ的に違うだろうよ、気付けミリア。
「理由を聞かせてもらっても?」
「奴隷は一定期間持ち主から離れることはできないんだよ」
「なるほど。ちなみに離れるとどうなるんですか?」
「奴隷紋の効果で死ぬ」
そりゃあ一大事じゃねぇか。だから街を離れる前にこの話をしたのか。納得。
「ミリアも分かったね? それじゃ、ほら行くよ!」
「私が……タカシさんに……ううぅん……」
ミリアは渋々といった感じでミーアに付いて行っている。
ミリアが俺の奴隷かぁ。死んでしまうなら仕方がないよね!
色んなムフフな事を考えながら俺も後を追っていくことにした。




