第2話 ダガー
「それでは当ギルドについてご説明させていただきますが、よろしいですか?」
「お願いします」
そういって冒険者ギルドについて詳しく説明してもらった。
冒険者ギルドは犯罪者以外、誰でも加入できるらしい。入った後に罪を犯した場合は除名となる。
ギルド員にはランクがあり、AからEまでのランクと最上位にSランクというものがあるらしい。俺は入ったばかりだからEランクスタートだ。
ギルドランクは、掲示板に張り出されている依頼を一定数クリアし、カードのポイントが一定以上になると上がるらしい。ランクアップにはギルドへの貢献度などを加味する為審査が入るらしい。
先程気になっていたギルドの運営に関しては、冒険者が狩りなどで得た素材を冒険者ギルドに売ってもらい、提携している商業ギルドに卸すことで運営の費用に充てているらしい。だから入手した素材は是非冒険者ギルドで売ってほしいとのこと。
「何かお困り事などあれば、お気軽にご相談ください」
「はい」
ミリアちゃんに会えるなら毎日でも寄ろうと心に決め、ギルドの説明は終わったので、受付を離れた。
早速依頼を受けてみようと、掲示板を覗いてみる。
依頼の書かれた紙が掲示板に沢山貼り出されているが、俺はEランクなのでEランクのコーナーを見てみる。
E薬草の採取(報酬:10銅/1枚)
E野兎の討伐(報酬:1銀/1匹)
E猪の討伐(報酬:2銀/1匹)
何か簡単そうな依頼が多いな。1銅というのがこの世界の最低単位の通貨なんだろうか。
わざわざ10銅と書かれているということは、100銅で1銀というところだろうか。ということは多分、100銀で1金か。小銭がやばいな。
そもそも、10の位で1つ繰り上がるのかどうかすら分からないが。
さっき日本円を出さなくて良かった……。
それよりも、兎が1銀に対して猪が2銀というのは間違いではないだろうか。
猪なんて下手すれば命を落とすかもしれないというのに。この世界では違うのか?
ひとまずは様子見だし、薬草でも採りに行くか。
依頼の書いてある紙の下にカードが重ねてあるので、一枚手に取ってみると、カードが光り、手の中に埋まっていく。
もしかして、これでクエスト受諾完了なのか?
確認のため、クエストと頭の中で唱えクエスト窓を表示させてみる。
QST:E薬草の採取(報酬:10銅/1枚)残り23時間
おお、クエストを受けるのはこれだけで良いのか。
それにしても、期限なんてどこにも書いてなかったのに……クエストを受けてみないと期限が分からないのかよ。
色々と思うところはあるが、時間があるなら早めにクリアしないといけない。
まずは情報収集から行うべく、ミリアちゃんの居る受付に戻った。
「ミリアさん、薬草ってどこ辺りにあるんですか?」
“ちゃん”ではなく“さん”で尋ねると、ミリアは驚いた顔をしている。
「え!? 名前、な、何で!?」
何でって、頭の上に名前出てるし。あれ? でもこれって見えてるの俺だけなのか? 何かまずかったかな。
次からは名前を聞くまでは知らない振りをしておこう。
「ご、ごめんね? ちょっと慣れなれしかったかな。さっきそこで他の方が、君の名前を言っているのを聞いてさ」
誤魔化すことに必死で早口になってしまったが、ひとまず言い訳をする。
「あ、あぁ、そういうことですか。名前は名乗っていないはずなのに、いきなり呼ばれて驚きました」
「うん、そういうことだったんだよ! それよりも、薬草ってどこに生えているか知らないかな?」
やはり名前が見えるのは俺だけなのか。誤魔化して正解だな。
「薬草は、街を出て西に少し行った森に沢山生えていると、先日冒険者の方が仰ってましたよ」
「おお、そうなんだ。早速行ってみるね! ありがとう!」
これ以上ボロが出ないよう話を切り上げ、お礼を言い、ギルドから出て大通りを門まで移動する。
町を出て西か。太陽が東から西に沈むよな。それで、今は真上から少し傾いたところに太陽がある。
さっき9時だったから……と太陽の位置から方角を探ろうと思ったが、良く分からない。
この世界の太陽が本当に東から出るのかすら分からないし、決して俺の知識が乏しいわけではない!
あ、いや、待てよ。RPGといえばマップや地図が表示されるのは普通じゃないか?
すると視界の端に小さなマップのようなものが表示された。
その簡易的なマップの中心に白い点がある。この白色の点が俺の位置なのだろう。それとは別に緑色の点滅している点がある。
光っている点に意識を集中すると簡易マップが拡大される。
これは便利だな。
緑点は街の外のようだ。もしかしたらクエストかもしれない。
近そうなので、歩いて行ってみることにする。
「おい!」
(またこのパターンですか? お前は寂しがり屋さんか!)
「あれだけ一人で行動するなと教えたのに、もう忘れたのか!」
「そんな怒らずともいいじゃないですか……ここに来たばかりで友達なんて居ませんし」
「お、おう……そうなのか。すまん」
なるほど。この人はこういうのに弱いのか。ここはひとつ、ぼっちを演じてみるか。実際にぼっちだけど!
「俺にはもう、薬草を集めるくらいしかできないんです。そう、薬草さんが友達なんです!」
「はぁ……何馬鹿なことを言っているんだ。ちょっとこっちに来い」
え。何、何かいきなり態度が変わったんだけど。
情には弱いけど、ジョークは通じないのか?
しかも、このちょっと署まできなさい的な流れ。そんなに馬鹿なこと言ったか? いや言ったな。ごめんなさい。
何か詰所みたいなところに入っていったぞ。よし、今の内に門から出てしまおうか。
「おい、何してる。はやく来い」
やっぱりだめか……。
いつでも逃げられるよう警戒しつつカッシュに近づくと、突然刃物をこちらに向けてくる。
「!?」
まさか刃物を出してくるとは思わず、逃げるのを忘れ、咄嗟に後ろに飛び退くだけの形となってしまった。
「ち、違う! これ! これをお前にやろうと思っただけだ! 勘違いするな!」
「え!?」
カッシュはこちらに向けている刃物をそのまま皮のような鞘に納め、投げ渡してくる。
「お前、武器も持たずに外に出るつもりだったのだろう! だからこれだけでも持っていけ!」
全力で逃げる為に集中していた意識を解除し、飛んできたナイフを両手で受け取る。
「安物のダガーだが、兎くらいなら十分だろう。それも忘れ物だ。だが、十分に注意して、日が落ちる前には戻るんだぞ?」
何この人。すごく良い人じゃないですか! 寂しがり屋さんとか言ってごめんなさい。
しかも、だがだがだがとかいう高度な洒落まで入れてくるとかまじイケメン。面白くないけど。
「あ、ありがとうございます!」
「おう」
折角貰った武器なので、装備するため頭の中で装備をイメージする。
▼タカシ・ワタナベ Lv.1 冒険者 Rank.E
HP:124(24+100)
MP:24(24+0)
ATK:23(12+11)
MAG:12(12+0)
DEF:13(12+1)
AGI:12(12+0)
STR:2 VIT:2 INT:2 DEX:2 CHA:2
EQP:アイアンダガー+1 サンダル
おお! ちゃんと装備できてる!
あと、冒険者になったからなのか、基本値が上がっている。そこはジョブ依存なのか。だったら基本値の高いジョブを目指さないとな。
そうやって下を向いて色々と考えていたら、カッシュが何か勘違いをしたのか、先程とは全く逆の事を言って励ましてくれる。
「もう一人で行動するなとか言わん。一人でも気を付けて動けば何とかなる! がんばれよ!」
「はい! がんばります!」
そういってカッシュと別れ、マップの緑点目指して歩いていく。