第16話 魔法少女ミリア
部屋をノックする音で目が覚めた。
まだ返事もしていないのに、ノックをした本人がズカズカと部屋に入ってくる。
「あら、あんた達、もうそんな仲になってんのかい!?」
「あ、あぁ、大丈夫です。まだ手は出してないですよ?」
一緒に寝ている状況を見ながら、ミーアが鋭い目付きで見てくるので、言い訳をしておく。
「ミリアはまだ寝てるんですが、起こします?」
「幸せそうな顔で寝ちゃってまぁ。本当に手は出してないんだろうね?」
「約束ですから」
さすがに約束を破るつもりはない。手を出したくはあるが。
「そうかい。でも、女の顔になってきたね。良いことだ」
「それで、どうしたんですか? あ、ミリアの奴隷の所有権でも譲ってくれるんですか?」
「バカなこと言ってんじゃないよ。ミリアがお願いするなら考えないでもないが、あんたにお願いされてもやなこった」
「そうですか。じゃあ、がんばります」
そう簡単にはいかないか。ちょっと残念だ。ミリアにはミーアにお願いするよう頼んでおこう。
「それより、あんたにお客さんだよ」
「え? 俺まだこっち来たばかりで、知り合いなんてそんなに居ないですけど」
「武具屋の店主だよ。今はカウンターの前で待ってもらってる」
「あぁ、そうだった。それじゃすぐに用意して行きますね」
そう伝えると、ミーアは部屋を出ていった。
ミリアを起こさないよう、そっと腕枕を解除し、代わりに枕を差し込んで部屋を出る。
ミーアの指示通りカウンター前に行くと、武具屋店主と見知らぬ女性が二人で待っていた。
「お待たせしてすみません。先程の装備の件ですか?」
「はい。早速出来上がりましたので、お持ちしました」
武器商人がそう言い、隣の女性が一礼して鎧と服を渡してきた。
「いやはや、本来でしたら仕立てに2日程頂くのですが、此度はウチの看板商品になるかもしれない商品となりますので、仕立て屋を総動員して取り掛かりました。だからこそ、仕上がりには自信があります! いかがでしょうか?」
鎧はひとまず床に置き、ミリアの服を近くにあったテーブルの上に広げてみる。
「うん、良いんじゃないですかね。バランスも、フリルの具合もかなり良く出来ていると思います。早速着せてあげたいですよ」
「そう言っていただけると、こちらとしても嬉しい限りでございます! それでは、また何かアイデアなどございましたら、是非当店をご利用ください! 格安にてご提供させていただきます!」
アイデア提供で割引が利くのであれば、行かない理由はない。是非そうさせてもらおう。
「それでは、私達はこれで失礼します。これから、商品化についての話し合いがございますので」
「わざわざ届けていただいてありがとうございます。また近い内に顔出しますね」
本当に届けに来ただけのようだ。足早に宿から出て行った。
俺も部屋に戻ろうとしたが、ミーアに引き止められてしまう。
「武具屋が使いの者じゃなくて、わざわざ店主本人が出向くなんて、お前さん何をしたんだい?」
「ミリアの装備をカスタマイズしてもらったんですよ。見てください。可愛いでしょう? 今日の稼ぎを全部使った特注なんですよ」
「おぉ、見たこともないデザインだけど、可愛いじゃないか」
ミーアにも好評のようだ。高い金を払っただけはある。
「ミリアには、服なんてあんまり買ってあげたことがなかったからねぇ。喜ぶだろうよ。ありがとうね」
「いえいえ、可愛い子には可愛い服を着せてあげたいし、俺の願望も入ったデザインなので」
そう言ってミーアと別れ、手に入れた装備を早速部屋に運ぶが、ミリアは目を覚ましていないようだった。
今の内に服を着せておこうか? いや、止めておくか。
そんな事を考えながら、ミリアの頬をプニプニしていると、うぅん……とか言っている。どうやら起きたようだ。
「あ、おはようミリア」
「はえ? あ、おはようござ……き、きゃあああっ!」
頬を触っていたので驚いたのだろうか、それともキスを思い出したのだろうか、俺の顔を見た瞬間悲鳴を上げられた。ショックだ。
「え、ええっと、あの、あれ? でも……」
「どうしたの? まだ目が覚めないなら、もう一回キスしようか?」
「な、なな、やっぱり夢じゃなっ! なん、何であんな事したんですか!」
「え? 可愛かったから、つい」
だってそんな雰囲気だったじゃん。それに嫌がられなかったし。
「つい、じゃないです! わっ私! 初めてだったのに!」
「そっか。ありがとう。ごちそうさまでした」
プルプル震えながら、うぅ……と言いながら怒った目でジトっとこちらを見てくる。
「それより、ほら。服が届いたよ!」
「それよりって! 大事なことなんですけど!」
そう言って抗議してくるが、目の前に服を広げて見せてあげる。
「可愛いでしょ!?」
「あ……か、かわいい……じゃなくて!」
よし! 効果はバツグンだ! 武具屋では嫌がってたけど、実物を見たら意見が変わったらしい。
「とりあえず、着てみてよ!」
「私の話も聞いてください!」
「なに?」
「エッチな事はダメだって言ったのに、何で、キ、キスなんてしたんですか!」
まだその話は終わっていなかったらしい。何でキスしたのかって言われても、キスしたかったからとしか言えないもんなぁ。
「ついカッとなってやった。反省はしていない」
「少しは反省してください!」
「そんなことよりも、ほら! 着てみてよ。絶対似合うから!」
「全然反省してない……もう……」
ミリアに服と装備一式を渡して着替えるのを待つ。
……。
「何してるんですか?」
「え? 着替えるのを待ってるんだけど?」
「着替えさせたいのなら、出てってください!」
そりゃそうだよな。お決まりだよな。仕方ない出ていくか。
そうやって立ち上がり部屋を出る。
しばらくすると、ドアが開いた。着替え終わったらしい。
「おおおお! すっごい似合ってるね!」
「そ、そうですか?」
「うん、素でも可愛いけど、更に可愛くなった!」
「うぅ……恥ずかしいです。でもヒラヒラで落ち着かないです」
このゴスロリ服、ミリアの小さい体だからこそ映える。仕立て屋さん、良い仕事ですよ!
あぁ、カメラが無いのが悔やまれる。
「それとね、ミリア」
「はい? 何ですか?」
ちょいちょいとこっちに来るよう指示する。
「ま、また変な事しないですよね!?」
「しないしない。もう一つプレゼントがあるんだ。だからこっちに来て」
渋々といった感じではあるが、どこか期待の籠ったような目をしながら、こちらにトコトコ歩いてくる。チョロい。
ミリアがこちらの間合いに入ってきたところで、素早く抱き付く。
「も、もう! しないって言ったのに!」
「違う違う。ミリア。もう一つのプレゼントだよ」
「うぅ、こんなプレゼント要らないです!」
「ミリア、カードを出してごらん?」
「え?」
俺が抱き付いたまま、先程のようにクルっと反対側を向かせて、カードを確認させてあげる。
ミリア・ウェール Lv.7 魔術士 Rank.E
「わあああああああ!? えっ!? ええええ!? うそっ!?」
確認した後、勢いよくこちらを向いて声を上げ、ものすごく驚いている。そりゃあそうだろう。
「わ、わわわあ、私が寝てる間に、ななな何したんですか!」
「うん? ミリアが寝た後は、俺も一緒になって寝ただけだよ?」
「そんなわけっ! だってエッチなことしないとダメだって!」
どうやらエッチなことをすれば簡単に魔術士に就くことができる。というのを、セックスさせてくれないと魔術士にしてあげないという風に誤解をしていたようだ。
ミリアの中の俺は、どんなイメージなんだよ。
「ひどいな。しないとダメなんじゃなくて、したら簡単だろうなってだけだよ」
「えぁ!? じゃあ、あの、キ、キスで……?」
「そうだよ。キスしても抵抗しなかったでしょ? 好意を持ってくれてるって分かったから、すごく嬉しかったよ。ありがとう」
「うぅぅぅ……べ、別に好意を持ってるとかどうとかそういうわけじゃないこともなきにしも」
何かよく分からない事を言って、照れているのか、顔を俺の胸に埋めながら、腕に力を入れ抱き付いてくる。
「あ、あう、あ、ありがとうございます」
「好きだよ」
「はわっ! うぅぅ……」
そうやって抱き合っていると、ガチャッとドアを開ける音がしたので、そちらを見てみると、ミーアが居た。