第50話 オフⅠ
朝食の良い匂いがして、目が覚める。
目覚めはいつも、大抵横を向いているので、目を開くとファラの頭か顔が一番に視界に入ってくる。
でも、昨日はファラだけではなく、反対側にはベルを抱いて寝たので、久し振りに天井を見て目が覚める。
ベルは文句を言いつつも、昨日は結局、俺の腕の中で眠ったし、単に恥ずかしかっただけなのだろう。
ペットとして扱うので、プライドは有って無いようなモノだし、これからの調教が楽しみだ。
それにしても、寝顔が可愛いな……。
横を向いて、俺の真横で丸くなって寝ているベルを見ていると、胸をツンツンとされる――ファラが起きているようだ。
「タカシ、おはよ」
「おう、おはよう。どうしたんだ?」
「なんでもない」
「そっか」
こいつもこいつで、最近は本当俺に懐いてくれているな。
キスをして、嫉妬を治めさせる。
感情が育ってきたのは、嬉しい事だ。でも、嫉妬ばかりが育ってくれても、バランスが悪い。
俺としては、ベタベタしてくるのは非常に嬉しい事ではあるが、もう少し他の感情も教え込まないといけないな。
他の子とイチャイチャ――いや、スキンシップができない。
そう考えると、ベルと違ってファラにも調教――教育が必要か。
今すぐは無理だし、時間を掛けてゆっくりやっていこう。
「さて、起きるか……」
「うん」
二人でベッドから起き上がり、服を着せてあげ、部屋を出る。
「マルカ、ミュウ、おはよう」
「ひゃい! お、おひゃよーございましゅ!」
「おはよう、ございます」
これは、いつも思うことではあるが……。
ミュウがしっかりした挨拶をしない時、マルカがミュウを叱る。でも、マルカ自身挨拶できていないよな。噛み噛みだし……。
いい加減、俺に対しても噛まずに喋って欲しいところだ……。
「お、もう出来上がりそうなのか?」
「急かすなです。もう出来るから早く食べやがれです」
「じゃあ、皆を起こしてきてくれるか?」
「あ、ミュウちゃんはそれやってて。ウチが行ってくるからー」
「はいです」
「あ、マルカ。ランは起こさなくて良いからな?」
「えう!? あ、あぁ、そぅでした! ひゃい!」
ミュウにお願いしたつもりだが、何か作業をしていたらしい。
代わりにマルカが皆を起こしに行ってくれる。
ランは今日一日中、好きなだけ寝かせてあげる予定だったので、起こさないように伝えておく。
腹が減ったら勝手に起きてくるだろう。その時は、何か食べ物を出してやるつもりだ。
「そういえば、ファラ。今日は何処の街に行くか相談したか?」
「した。パシリ」
「パシリって……あぁ、西の大陸の?」
「そう。マルカがあっちの料理を見たいらしい。ファラもあっちのお菓子を食べてみたい」
「そうだな。あっちの大陸は、違う食文化が発展してるかもな」
「しょくぶん、か?」
「こっちの大陸とは違った調理法……簡単に言うと、お菓子の違う作り方があるかもしれないなって」
「たのしみ」
食文化を、お菓子に例えて簡単な説明をすると、膝の上に座っているファラが、足を前後に振り始めた。
ワクワクしているのだろう。
「見た事が無いお菓子があったら、お土産として買ってきてくれ」
「ん」
そんなファラを上から眺めていると、皆が起きてきた。
「皆、おはよう」
皆から、まだ眠たそうな挨拶を受ける。
ミュウは最後の仕上げを行っていたらしく、皆が揃うと同時に、テーブルに朝食が並ぶ。
皆で“いただきます”をして、食べながら予定を伝える。
「朝食が終わってすぐ、ジジイをエストルに連れていく」
「おほっ!? 感謝するぞい、主よ!」
良い情報を貰ったからな。そのお礼に賢者タイムだ。
「次に、ファラ達をパシリに連れていく」
「ん」
「ひゃい!」
「お姉ちゃんを守るです!」
「はーい!」
「はいー!」
朝早くになるが、もしかしたら朝市などがあるかもしれないし、お金は十分あるから、その分長く遊べるだろう。
「あ、そうだ。パルとパロに頼みがあるんだが、良いか?」
「なになに?」
「何でもやるよ!」
「パシリの近くに、ダンジョンはあるか、あったら距離や古さ等を街の人に聞いておいてくれないか?」
「そんなの朝飯前だよ!」
「朝飯は今食べてるけどね!」
そういう言葉は何処で覚えるんだろうか。
「あぁ、それと、あっちの大陸の街の情報も集めておいてくれ」
「ほいほーい!」
「がってん!」
朝から元気だなぁ……でも、こいつらに任せておけば大丈夫だ。冒険等と言いながら、楽しみながらやってくれるだろう。
「最後に、ミリアとソシエを図書館に連れていく」
「はい、お願いします」
「承知いたしました」
あまり早くに行っても図書館は空いていないだろうし、最後だ。
「残りの皆は、訓練だな」
「はい、です!」
「タカシ殿と手合せ、楽しみだ!」
「頼むぜ、旦那!」
「にゃん……」
ベルは不満そうにしているが、ガルミが居れば十分だろう。
無視しておく事にする。
「タカシさん。えっと、ランさんは?」
「あいつは希望通り、好きなだけ寝かせてやる予定だ」
「あぁ、だから起こさないんですね」
「たまには、な。どうせルリア達が居る。寝ていても大丈夫だ」
「ふふ、そうですね。ランさんらしいです」
ランをネタに会話していると、皆順に食べ終わる。
食べ終わったばかりで、お茶を飲みながらゆっくりしていたが、ジジイがソワソワしている。
賢者タイムが待ち遠しいのだろう……。
「おいジジイ。そんなに楽しみか?」
「ふ、ふお!? も、もちろんじゃ! あの天国……たまらん」
「分かったよ。じゃあ、先に連れて行ってやる」
「本当かっ!? さすが我が主じゃ! さぁ行こうぞ!」
まるで好きな玩具を買って貰える前の子どもだな……。
「皆は待っていてくれ。先に送り届けてくる」
「はい!」
椅子から立ち上がり、駆け寄ってきたジジイに触れ、転移する。
――シュンッ!
場所は、エストルの宿屋前だ。
そのままジジイを連れて、宿屋に入って行く。カウンターには、現店主のミーアが居る。
「おや、どうしたんだい? こんな朝早くに」
「お久し振りです、お義母さん」
「気持ち悪い呼び方をするんじゃないよ! それで?」
「俺は少し出掛けるので、こいつの事をお願いしたくて」
「あら、可愛らしい子じゃないか。何処から攫ってきたんだい?」
「ウチの子ですよ。この人はミーアさんだ。ほら、挨拶しろ」
「アルメでっす☆ よろしくね、お姉さん!」
アルメモード全開だ。それにしても、お姉さんて……。
確かにジジイからしたら孫みたいな年齢かもしれないが、かなり無理があるだろう。口には出せないが。
「はっはっ! 良い子じゃないか! お願いされてやるよ」
「あ、お願いしたいと言っても、こいつには街を散策させるので、困っている時だけ相談に乗ってやってほしいんです」
「散策? この子一人で、かい?」
「えぇ、街がどんな所なのか勉強させてやろうと思って、ね」
「そうかい。あまり可愛い子を一人歩かせる事には関心しないが、分かったよ。任せな」
「どうも。じゃあ、俺はもう行くから、困ったらこの“お姉さん”を頼れよ?」
「はーい☆」
ミーアが“お姉さん”と言われて気分を良くしているので、俺もそう言わざるを得ない。
そのついでに、小声でジジイに賢者を掛ける。
「おほぉっ!?」
「ここが待ち合わせ場所だ。夕方までには戻って来い」
「はーい☆ ありがとう、あるじさま!」
「それじゃあ、お願いしますね」
「はいよ」
「いってらっしゃーい☆ ちゃんとむかえにきてねー!」
ミーアにアルメの事をお願いした後、宿屋を出て、屋敷に戻る。
時間はたっぷりある。後はジジイの好きにさせてやろう。
「おかえり、タカシ」
「おう、ただいま」
屋敷では、既にファラ達が用意を済ませてくれていた。
そのままマナポーションを飲んで、パシリへと送り届ける。
「困った事があれば、必ず俺に連絡してこい」
「ひゃいっ! わ、わかりみゃした!」
「連絡の方法は分かるな、ミュウ?」
「任せるです! お姉ちゃんはみゅが守るです!」
「守るのは良いが、まずは俺に連絡だぞ?」
「分かったから早く行きやがるです!」
「じゃあ、パルとパロも頼んだぞ?」
「はーい」
「まっかせてー!」
ミュウの頭をポンッと叩き、五人を残して、再度屋敷に戻る。
次はミリアとソシエだな。
「ただいま。オスルムで良いか?」
「おかえりなさい、出来れば今回はザクゼルがいいな、と……」
「うーん……」
ザクゼルはミリアが一度、協会員になる事を断られている。
面倒な事が起きる可能性もあるし、出来れば避けたい……。
「ダメ、ですか……?」
でも、上目遣いでお願いされたら断れねぇよ……。
「分かったよ。但し、面倒事が起きそうだったら、必ず逃げろよ。それと、ソシエは協会員じゃない。弟子って事にしておけ」
「はい! ありがとうございます!」
「承知しました」
あのお願いの仕方、何処で覚えてきたんだか……。
恐らく、サラだろうな……余計な知識を与えやがって……。
そんな事を考えながら、二人をザクゼルに送り届ける。
「待ち合わせ場所は、門の外だ。迎えに来るのは夕方くらいかな」
「はい、分かりました!」
「迎えに行く前に一度連絡する」
「はい!」
「勉強も良いが、たまには遊んでも良いんだからな?」
「そうですね。調べ物が早く終われば考えてみます」
「はい。ご主人様、お小遣いありがとうございます」
「おう、それじゃあ、また後でな」
「はい」
「ありがとうございました」
二人を残して屋敷に戻る。
それにしてもソシエは、ずっとお礼ばかり言っていたな。
俺が二人のお陰で助けられているし、気にする事ないのにな。
何か気を張っている感じもするし、今度ゆっくりさせてやろう。
「ただいま」
「タカシ様、お疲れ様です」
「おかえり。さぁ、ボク達も始めようか!」
「やってやるぜ!」
「にゃん……」
準備は万端のようだ。さて、どんな訓練にしようかな……。




