第13話 カスタマイズ
ギルドを出て宿に帰る途中、ミリアからの提案で怪我を治療してから武具屋へ行くことになった。
もうあんな無理な戦闘はごめんだからという理由らしい。
武具屋は宿の側なので、すぐに到着する。
店内に入ると人の良さそうなおっさんが、手を上げながら寄ってくる。
「やあ、ミリアちゃん。今日はどうしたんだい? そちらの方はお客さんかい?」
「はい。この方の装備を一式お願いしようかと思いまして」
「ミリアちゃんが冒険者になったというのは本当だったんだね。それで? どんな装備にするんだい?」
俺の希望を聞きたいということだろう。俺の方を向き、尋ねてくる。
「そうですね。軽くて動き易くて、それで防御力の高い装備が良いです」
「だったら、そこのハーフプレートなんてどうですか?」
薦められた装備を手に取ってみる。確かに軽い。これなら、狼相手でも今日と同じような動きは出来るだろう。でも念の為、試着可能か聞いてみる。
「試着しても?」
「どうぞどうぞ。それで、ミリアちゃんの装備は買わないのですか?」
「私は自前の服がありますから」
ミリアが先制で拒否したが、俺には考えがある。試着しつつ、店員を呼ぶ。
「ミリアにも軽くて動き易い装備を考えているんですが……普通の装備じゃダメなんですよ。ミリアの可愛さを増幅させるような、色気のある装備ないですかね?」
「可愛さ……色気……」
店員は俺の意図に気が付いたのか、ハッとなって一枚の服を持ってきた。
フリルの多いネグリジェのようなデザインだ。
惜しい! けど、違う! そっち方面じゃない!
「これが女性のお客様からは可愛いと言われている服ですね」
「うーん、これ装備っていうより、下着だよね。もっとこう、色気のあるよう服ないですか?」
すると今度は、テカテカな紐で何ヶ所も前面を留めているボンテージのような服を持ってきた。
肌出すぎ。というか下はもはやただのパンツじゃん。これにベネチアンマスク付けて、武器は鞭。女王様の出来上がりだな。
「これ、夜に密室で二人きりの時の装備する服じゃないですか」
「色気ということでしたから、そういうことではないかと」
「確かに、その服を着てミリアに責められながら色々と夜のプレイをしたい――って違う!」
店員はやはりそうですか……と言いながら、また奥から服を一着取り出してきた。分かってるなら持ってくるな、と。
「あとはもう、これくらいしかございません」
「メイド服かぁ。防御力無いに等しいですよね、これ」
ダメだ。一瞬期待したけど、ミリアの可愛らしさを分かってない。違うんだよ。
あ、でも待てよ……メイド服にネグリジェとボンテージ。何とかなるかもしれない。
「えっと、服ってカスタマイズとかできますか?」
「はい、承っておりますが」
「ではカスタマイズをお願いしますので、紙とペンを用意してください」
何か言いたそうな顔でこっちを見ているミリアは放置して、カスタマイズについて紙に指示と絵を描いていく。
「えっと、あの服のデザインをこうして、ここでこれをこう、あれをこう。そして、こんな感じで」
俺はスラスラとデザインを描いていく。ヘッドドレスとハイソックスとブーツも追加するよう指示。
「おぉぉ! そのような発想はありませんでした! これは破壊力ありますね! 当店の看板商品にしたいくらいです!」
「でしょう。俺の国では、ゴシックロリータというジャンルの服装です」
「すばらしい!」
ミリアを放置して店員と二人盛り上がる。
「いくらでカスタム出来そうですか?」
「そうですね……8金くらいでしょうか」
「やっぱりカスタマイズは高いですね」
「でも! ウチの商品として取り扱わせて頂けるのでしたら、6金、いや、5金とさせていただきます!」
勝手に商品化すれば良いのに、わざわざそう言ってくれる店主に好感度アップだ。
「じゃあ、それでお願いします」
「確かに承りました。ハーフプレートの方は如何されますか? そちらはセットで3金と50銀です」
「これも一緒にお願いします」
今日の稼ぎが一瞬にして飛んでしまう。でも、ミリアのゴスロリ姿を拝めるなら安い買い物だ。
「では、8金と50銀です。俺はミリアの宿に泊まっているので、出来上がったらそこまでお願いして良いですか?」
「はい! すぐにでも取り掛かります! 本日中にはお届けできるかと思われます」
良い素材を使うよう指示したはずだが、そんなに早いのか。商品化が掛かっているから急いでくれるのかもしれない。
後は店主に任せて、宿に行くことにする。
「ただいま戻りましたー!」
「おや、おかえり。早かったじゃないか」
時計を見ると16時と表示されている。確かに仕事帰りにしては早いよな。でも、今日は疲れたから少し仮眠を取りたい。
「あらま、また派手にやられちまってるねぇ。どうやったらそんなになるのさ」
俺の姿を見てミーアが半笑いで尋ねてくる。
「聞いてよお母さん! タカシさん、一人でウルフの群れ、しかもブラックウルフと戦ったんだよ!?」
「はぁ!? 寝言は寝て言うものだよ」
それでもミリアが必死に説明しているが、ミーアは全く信じていない。
「そんなことより、俺は疲れたから少し仮眠を取るよ。ミリアはどうする?」
「あ、はい。気が利かなくてごめんなさい。私も少し仮眠して、後は夕飯の手伝いでもします」
ミーアがニヤっと笑って一度こっちを向いた後、ミリアに話掛ける。何を企んでいるんだ……?
「おいおい、何言ってんだい。アンタはもうタカシとパーティーを組んでいる冒険者だろう? 当然タカシと同じ部屋だよ」
「はぁ!?」
ミーアさん、ナイス! 自然とミーアにグッドサインをしていた。まぁ、手を出したら殺されるんだけど。
それでは向かいますかね、俺達の愛の巣に。そう思い、ミリアの肩を寄せ歩き出そうとする。
「ちょっと! ヤメてください!」
振り払われる。そりゃあそうか。
「どういうことですか! お母さん!」
「どうって……そのままの意味さ。でも安心しな。手を出したらタダじゃおかないって言ってあるから」
「そういうことじゃないです! もしかして、もう……私……この家には要らない子ってことですか……?」
やばい、案の定泣きそうだ。でもこれはミーアが言い出したことだ。ミーアに任せよう。
「そうじゃないよ。お前も冒険者になったんだろう? 近い内、この街を出て違う街に行くわけだ。その街でも二部屋使うのかい?」
「あ……でも……家の中くらいは」
確かに、二部屋使うと当然料金は倍になる。そういうことを考えて今の内に慣れさせておくつもりなのだろう。感謝感謝。
「見知らぬ街で、いきなり男と二人で同じ部屋に住めるのかい? お前にはできるとは思えないけど?」
「はい……でも、壁を作ったりとか」
「バカ言ってんじゃないよ! じゃあ、野宿とかはどうするのさ? 二人近くに居ないと見張りもできない。それでも壁を使うとか甘えた事言うのかい?」
「いえ――さすがにそこまでは……」
ミーアさん、ちゃんと先の事も考えているんだな……。
俺なんて、どうやってミリアと仲良くなろうか程度のことしか考えてなかった。
「お前は自給自足する冒険者になったんだ。いつまでも甘えたこと言うなら、この話は無かったことにするよ」
「ごめんなさい。私の考えが甘かったです……」
「よし、いい子だ。別にお前を要らないなんて思ってない。お前はいつまでもアタシの子だよ」
ミーアは母が子に向けるような優しい笑顔で、ミリアの頭をナデている。
「そうと決まれば、ほら行った行った。宿の手伝いも要らないからね。これからの事を二人でゆっくり話な」
「ミーアさんありがとうございます」
お礼を言い、昨日とは違う二人用の部屋に移動する。
「さて、仮眠しようか?」
「えぇ!? わ、わたしは、その、いや、大丈夫です」
「さっき仮眠するって言ってたじゃん?」
「えっと、その、目が覚めました。うん、覚めたので大丈夫です!」
それ今思いついただろ。とは思っても言えず、俺はボロボロになったジャージを脱いで、ベッドに横になる。
「ちょっと! 二人で居る時も脱ぐんですか!?」
「え? そりゃあ、裸が俺の寝る時の正装だもん。でも、少し遠慮してるんだよ? ほら」
そう言ってパンツを穿いている事をアピールする。
「いい! いいですから! 見せなくて!」
「分かってくれた?」
「はい! わか、わかりましたから!」
分かってくれたのであれば良い。
でも、せっかく二人きりになれたのに、寝ちゃうのは勿体ないな。どうしよう。
またステータスやジョブの勉強会でもしようかな。
「ミリアは寝ないの?」
「はい。寝ません。起きてます。気にせず寝てください」
「俺は、横になれただけで満足なんだよ。だからミリアが寝ないのであれば、今日の勉強会の続きやらないか?」
「ジョブとかの話ですか?」
「そうそう」
ミリアは何かの説明とか、人に教えたりするのが好きなのかな? 目が輝きだしたぞ?
「分かりました。それでは、何でも聞いてください」
そして、本日二度目の勉強会が始まった。




