第43話 クドラング攻略
目が覚めると、ランの顔が真正面にあった。
膝枕されているのか……。
「あ、タカシくん、大丈夫?」
「ん、おう。生きてる、よな……?」
掌を閉じたり開いたりして、感覚を確かめる。
「うん、生きてるよ。勝ったよ」
「そうか」
「さっきはランを助けてくれたらしいね。ありがとう」
「当たり前だ。はぁ……倒したんだな。生きてて良かった……」
「んぅっ」
感覚の確認が終了した両手を、そのままランの頭の後ろに回し、顔を引き寄せキスをする。
「っ、もう……」
「温かいな。生きてるんだな。良かった」
「だから、そう言ってるじゃん……」
あれからどうなったのか確認がしたくて体を起こそうとするが、上手く動かない。
かなり攻撃を受けたし、MPも尽きた。仕方が無いか……。
「ラン、すまないが体を起こしてくれないか?」
「ほい」
ランに手伝ってもらい、ランに寄り掛かる形で起き上がる。
皆、地面に座ったり壁に寄り掛かったりしているな。
ミリア、サラ、ファラ、マリーは俺の両サイドに寝かされたまま動かない。
でも、呼吸はしているようだし、死んでいるのではなく、まだ目が覚めていないだけのようだ。
そうか……俺はマナポーションの効果が残っていたから、少し早目に覚醒したんだろうな。
「皆、生きてる、よな?」
「うん、疲れてるだけだよ。大丈夫」
「そっか……ふぅ」
更に周りを良く見ると、アバンとルリアの側でガデルが大の字になって倒れている。
念の為、ガデルのHPを確認してみるが、大丈夫のようだ。
討伐できている。
「目が覚めたのですね、ご主人様」
「お、もう大丈夫なのか、旦那!」
「あ、おう。ソシエにガルミか。さっきは任せてすまなかったな」
「いえ、わたしは結局何もしてません。あの後すぐ、アバンさんが動いてくれましたし、それに、ランさんもご主人様が意識を失った後に参戦されましたから」
「え、あぁ、そうなのか、ラン?」
「そうだよー。トドメはランが刺したんだからねっ!」
「そっか。てっきりお前は何もしてなくて、アバンさんとルリアが頑張ってくれたと思ってた」
「ひどいっ!?」
いつものと少し違った、少し柔らかい“ひどい”だな。こいつも疲れているのだろう。
頭を撫でてやる。
「頑張ったな」
「ふふん、ランだってやる時はやるんだからね!」
「ランさん凄かったです。皆さんが押され始めた頃に意識が戻り、ご主人様が倒れているのを見て、涙を流しながら突……」
「ちょ、ちょちょちょーっと、ソシエ。それは言っちゃだめ!」
「ははは、俺の事を心配してくれたのか。ありがとうな」
「うぇっ!? うぅ、えへへ……ほんとだよ、もう……」
俺が死んでいると勘違いして、覚醒しちゃったのか。
可愛いところもあるじゃないか。
その勘違いもランらしいといえば、ランらしいが。
でも、そんな事を聞いたら、愛おしくなっちまうだろうが……。
今はアバンも居るし、手を出さないが。
「何だよ、この甘ったるい空間は、よ……」
「これが愛し愛されている男女の空間だ、覚えておけ、ガルミ」
「お、オレにはちょっとまだ、早い、いや、そんな空間出来ない」
「じゃあ、俺と作るか」
「ばっ! にゃ、にゃに、言ってんだよ、旦那!」
「男と女だ。いつそういう関係になるか、分からないじゃないか。それに、お前は強い男が好きなんだろう?」
「だ、旦那は強い。強いよ? でも、何か違うんだよなぁー」
「じゃあ、とりあえず交尾しようぜ。話はそれからだ」
「こっ!?」
ガルミが固まったまま動かなくなったので、放置しておく。
「ところで、パルとパロは何処に居るんだ?」
「えと、何か自分達は全然役に立たなかったからって、この部屋にモンスターが来ないよう周囲警戒と、コアを探しに行ったよ」
「相手が悪すぎたから、そこまで気にすることじゃないんだがな」
「そうだよね。ちょっと相性が悪かったよね。後で励ましておいてあげてね?」
「おう、勿論だとも」
――パル、探索ありがとうな。もう大丈夫だ。戻っておいで。
――――あ、ボス! もう、動いて大丈夫なの!?
――あぁ、大丈夫だ。だから戻って来い。
――――はい!
――パロ、周囲警戒ありがとうな。戻っておいで。
――――ボスッ!? 目覚めたんだね! 良かったぁー。
――おう、お前達が守ってくれていたお陰だ。
――――少しでも役に立ちたかったから……すぐ、すぐ戻るねっ!
パルとパロは罠が効かなかったし、攻撃のチャンスも無かった。
ダメージを与えられなかったし、自分達は役に立ってないとでも思ったのだろうな。
実際には、ガデルが罠を一つずつ破壊していたから、その分手数を減らす事が出来たんだけどな。
それをネタに慰めてやるか。
「ご主人様、アレの処分、どうしますか?」
ソシエがガデルを指差して、回収について聞いてきた。
「あぁ、まだ誰も回収していないのか。じゃあ、俺が回収するか。二人共、肩を貸してくれないか?」
「ほい」
「はい」
「あ、ガルミ。こいつらの面倒を見ておいてくれ」
「こ、ここ、こ!?」
ダメだこれは。純な奴め……。
右をラン、左をソシエに支えてもらい、ガデルの方に歩き出す。
もちろん、胸を揉むのを忘れない。
「折角の雰囲気が台無しだよ、もう……」
「ご主人様は、どこでもご主人様ですね……」
「違う。生きている事を実感したいんだよ」
少しはそう思っているから、嘘ではない。
「さっき確かめたじゃん。チュッて……」
「え、キスされたんですか?」
「目覚めて、いきなりされたよ。びっくりした」
「それは……ミリアさんとサラさんにご報告ですね……」
「おい、ソシエ。どういうことだ、それは! 別に報告するような内容じゃないだろう!?」
「その、えっと……ご報告するよう指示されていますので……」
「あいつらの命令と俺の命令、どちらを優先するんだ?」
「それは、うぅ、ご主人様が優先です……が、それとこれとは話が別なので、ですね……」
何なんだよあいつら。
いつの間に、そういう協定的なモノを立ち上げたんだよ……。
「あいつらに報告するなっていう命令でもか?」
「その……それでも、です……。これは皆様の仲を保つ為、必要な事ですので、ご理解ください……」
「俺の命令に従わなかったら、激痛が走るぞ?」
「わたし一人が傷付く程度で済むのでしたら。それに、ご主人様はそんな事しないと聞いていますし、わたしも今はそう思ってます」
「あぁ、もう。分かったよ。でも、お前一人が傷付く程度で、とか今後言わないでくれ。お前の事も、皆と同じくらい大事に思ってるんだからな?」
「はい、分かりました! ありがとうございます!」
嬉しかったのか、笑顔だし、ソシエにしては感情のある返答だ。
結局告げ口はされてしまうが、このソシエ笑顔を見る事ができたしので良しとしよう。
それに“そんな事をしない人”とまで言われてしまったら、もう何も言えないしな。
そんなやり取りをしている間に、ガデルの亡骸まで到着する。
手足は焼け焦げ、体の各部が変形していたが、その亡骸は笑みを浮かべていた。
「何で笑ってんだ、こいつ」
「何かね、ランがトドメを刺したところで少し会話したんだけど、最期の相手が子孫で良かったんだって。思い残す事はもう何もないって喜んでたよ?」
「他人事だな。一応、お前のご先祖様だぞ?」
「うーん、確かにそうだけど、敵じゃん? 普通に出会ってたら、抱き付いてたかもしれないけど、そうじゃないし。それに、タカシく、お兄ちゃんをここまで苦しめた相手だし?」
「そっか。ありがとうな」
最期の瞬間は見届けたかったな。
でも、俺が意識を失っていなければ、ランも覚醒していなかっただろうし、ランに倒されたガデルも喜んでいたという事は、それはそれで良かったのかもしれない。
ランの頭を撫でつつ、ソシエの肩から腕を下ろし、ガデルを回収する。
インベントリ内に入るという事は、やはり人ではなくモンスター扱いなんだな。
「タカシ様、お疲れ様でした……」
「タカシ殿、流石に疲れたよ……」
「お疲れです、アバンさん。ルリアもな。助かったよ」
「いえ、我々は結局足止めする事で精一杯でした。ラン様もお強くなられた……嬉しい限りです」
「うん、最後のラン君は強かったね。別人のようだったよ」
「えへへ……」
そんなに凄かったのか。見たかったな。
「マルカも指示通りに動いてくれてありがとうな」
「い、いえっ! お役にたたて、よかっちゃです!」
「ミュウもマルカを護衛してくれたんだろう? ありがとうな」
「ふんっ、当たり前の事をしただけです!」
マルカには吹き飛ばされた時以来、傷が付いていないようなのでしっかり守ってもらったのだろう。上出来だ。
「今回、ジジイは寝てただけだよな?」
「な、何を言うか! 我も最後は前線に出ておったのじゃぞ!」
「そうなのか? でも、ランが頑張ったらしいし、お前何の役にも立ってないよな」
「うぅ、言い訳してすまぬ。確かに、お主の言う通りじゃ。我では全く動きが見えず、相手にならんかったわい……」
「今回は、素直だな?」
「正直、調子に乗っておったからの。反省したのじゃ。我も、少しばかり昔の勘を取り戻す訓練をする」
「そうか。その時は、ミリアとファラも一緒に頼むな」
「うむ。任された」
こんな素直なジジイは初めてだな。
マルカとジジイはステータスを超防御重視にしていたし、仕方が無いのだが、それは黙っておこう。
「ボスーッ!」
「ただいまー!」
そこに、ちょうどパルとパロが戻ってきた。
「おかえり。見回りありがとうな。どうだ、コアはあったか?」
「うん、あっちの奥の部屋にコアっぽいのがあったよ」
「そっちの方からはモンスターが来ないよう、罠を仕掛けたよ!」
「良くやった。皆疲労困憊だから、助かるよ」
二人の頭を撫でて、お礼を言っておく。
「それじゃあ、あいつらを運びながらコアまで移動するか」
「そうですね。もう、疲れも大分取れましたし。モンスターが出た場合は我々にお任せください」
「誘導お願いします」
アバンを先頭に奥の部屋入口まで移動してもらう。
その間に、ミリア達の体に布を掛け、空間魔術で浮かせ、運ぶ。
「ご主人様、何故布を掛けるのです?」
「そのまま運んでしまったら、下着が見えちゃうだろう?」
「あぁ……」
ソシエがチラっとジジイの方を向き、納得したようだ。
ジジイの評価は、ソシエの中では既に決まっているのだろうな。まぁ、俺が印象操作をしたようなものだけれども。
マナポーションを飲みながら、奥の部屋に移動する。
「ボス、あれだよ!」
「あれか。確かにコアみたいだな」
コアの前まで移動する。
もう何も起こらないとは思うが、もしもの時の為に、ミリア達の頬をペチペチと叩いて起こす。
「おい、起きろ。勉強の時間だぞー」
「うぅん……」
「おい、起きろ。オヤツの時間だぞー」
「ん!?」
「おい、起きろ。プレゼント買ってきたぞー」
「え、プレ……」
「おい、起きろ。子作りの時間だぞー」
「はっ!?」
それぞれが反応しそうな言葉を並べて起こす。
ファラとマリーは早かったな。
ミリアとサラは、まだ何か足りない気がする。もう少しこいつらの性格を把握しないとな。
「お兄ちゃん、嘘はダメだよ」
「ご主人様、それはあんまりですよ」
皆、キョロキョロしているが状況の把握が早かったのはサラだ。
「ご先祖様は!?」
「え、え、えぇ!?」
次に、サラの言葉に反応してミリアが目覚める。
「お菓子!」
「子作り!」
こいつら……。
「でも、これで起きるんだから、単純だろう、こいつら?」
「はは……」
「えぇ……」
アバンとルリアは呆れて、ヤレヤレのポーズをしている。
そうなるよな……。
「もう全て終わったぞ。ほら、帰るから正気に戻れ」
「え、倒したんですか!?」
「倒したの!?」
「お菓子!?」
「タカシ様は!?」
ファラにはインベントリ内にあった、べっこう飴モドキを与え、マリーにはゲンコツを与えておく。
「ミリア、状況を理解したらコアを壊してくれ。早く帰りたい」
「え、あう、え、あ、理解? はい。いきます」
――パキンッ!
何も分かっていないようだったが、魔術でコアを壊す。
壊れたコアから、いつもの禍々しい鏡のようなモノが現れる。
「皆手を繋ごう。さぁ、帰るぞ!」
「帰りましょう」
「お疲れ様でした」
ミリア達はまだ、完全には状況を理解していないようだったが、アバンとルリアに促されて手を繋ぎ始める。
そして、順に鏡の中に入っていく。




