第39話 訓練
今回のダンジョンは、まさか中で訓練をするとは思わなかった。
基本的に、俺の好みだけで集めた子達なので、戦闘自体を行った事がない素人だ。
当然、俺も素人だ。しかし、この子達より知識だけはあるので、今回は教える側に回っている。
戦闘訓練は、三日間続けて行った。
初日は、近距離組には連携の練習を行わせ、中距離組には回復のタイミング調整。遠距離組には魔術行使の精密化。
二日目は、遠距離組を交えた連携。
三日目は、連携を意識しながら、皆全力で敵を討伐する訓練。
全力ということもあって、何度か誤射していたようだが、そこはマルカの練習にもなったので良しとしよう。
この三日間で、かなり濃密な訓練が出来たと思う。
モンスターを探しながら移動していた事もあり、ダンジョン内のマッピングもほぼ終えている状態だ。
ボスの部屋は始めから分かっていたので、そこだけは避けつつ、順調にレベル上げ兼訓練を行った。
ミリアは大魔導士、ファラは賢聖、ランは武聖、ミュウは戦聖、ルリアとアバン、ガルミは剣聖になることができた。
他の皆もそれぞれ違うジョブを極めている最中だ。
マリーは大精霊師、パルとパロは暗殺者、マルカは聖司祭、サラは巴術士。
ソシエとアルメは、まだレベル上げが終わっていない。
皆のジョブが変わったことで、驚いたことが数点ある。
まず、ミリアの大魔導士は魔導士のレベルを引き継ぎのようだ。
魔導士のレベルが50になると、自動的に大魔導士に昇格して、魔導士が習得済みになっていた。
そして、レベルが50になってもジョブが変わっただけであり、新しいスキルを覚えていなかった。
ジジイに聞いてみると、60から覚えるとのこと。
特殊条件などではなくて、良かった。
何故ジジイが知っていたかというと、賢神がそうらしい。
賢聖がレベル50になることで自動的に賢神に昇格し、レベルが60になってからスキルを覚え始めるらしい。
ついでに言うと、剣聖、武聖、戦聖も同じらしい。
レベル60にならないと、何も始まらない。
レベル50になってから、レベルの上がりも遅くなってきたし、先は長いな……。
次に驚いたのが、召喚、付与、空間、錬金のジョブだ。
それぞれレベル40にしたら、術ではなく、法を覚える。
錬金魔術ではなく、錬金魔法だ。
ジジイ曰く、魔法系は最上位職が最後に覚えるスキルらしい。
覚えた本人ですら、寿命までに使えるかどうか分からないのが、魔法というスキルらしい。
本来は、賢聖で上級魔術を覚え、賢神で魔法を覚えるらしいが、稀にその道を究めた者が賢聖を飛び級し、魔法を覚えるらしい。
ちなみに俺は、錬金魔法と空間魔法を覚えた。
レベルが40になったところで、錬金術士から錬金師になった。空間術士も同様だ。
そして今は、召喚術士のレベルを上げている。
ファラには地道に頑張ってもらっているところ悪い気はするが、これもジョブやスキルが見える、アンノウンの特権かもな。
それにしても、実際に使った事がないから仕方がないとはいえ、さっきから“~らしい”ばかりだ。
とりあえず、分かった事は全てミリアにメモさせておこう。
それを元に調べて、また新しいジョブが分かるかもしれないし。
――というわけだ。
――――すごい! 今まで、良く分からなかった部分が、少しずつ埋められていく感じです。(これだけで一つの研究ができそう!)
――喜んでもらえると嬉しいよ。また分かったら教えるわ。
――――お願いします!(タカシさんに出会えて良かった……)
――ミリアは俺の嫁だからな。あ、でもミリアにしか教えていないから、内緒な?
――――もちろんです!(ふふ、タカシさんったら)
ミリアポイントを稼ぎつつ、二人でやっていた勉強会を終える。
やっぱり、こういう知識関係は、ミリアに相談するのが良いな。本人も喜んでくれるし、俺の評価も上がる。一石二鳥だ。
「ミリア」
「はい、何ですか?」
「好きだよ」
「も、もう……っ!」
ほら、この照れた顔が堪らない。
顔を赤くして、目を逸らしている。
前はテンパって頭がショートしていたのに、今はこれだもんな。
前のショートも良かったが、これはこれで良い。すごく良い。
「ファラは?」
「もちろん、ファラの事も好きだぞ」
「ん」
本当なら声に出して勉強会するつもりだったが、こうしてファラが膝の上に乗っているので、雑談をしながら、念話していたのだ。
ミリアがノートにメモをしていたが、ファラからは見えないので問題ないだろう。
「最近、ミリアがタカシにほれてる」
「は、はぁっ!? ちょ、ちょちょっと、ファラ!?」
「それは嬉しいな。嫁に惚れられていなかったらショックだし」
「ちょっと! ほ、ほれ、違う、違いますし!」
「ファラは初めから惚れてる」
「ありがとう。俺もファラに一目惚れしたから買ったんだぞ?」
「ん」
「だから、何変な事を言ってるんですか、ファラ!」
顔を真っ赤にしながら、否定されてもなぁ。
「へんなこと? ほんとのこと」
「確かに、いえ、あれ、違う! そういうのは言ったらダメ!」
「ほんとのことでも?」
「うぅ……」
「まぁ、いいじゃないか。俺はお前達の事が大好き。それで良い」
「うん」
「もう!」
三人でいつものイチャイチャを堪能する。
「のう……我って必要か? これは拷問か?」
「あ、すまん。忘れてたわ」
「色々と聞いておきながら、それは酷いと思うのじゃが?」
「ちゃんと報酬は出すって約束だろう? 別に良いじゃないか」
「むぅ。それはそれ。後に天国が待っていようが、今が地獄じゃ」
「アルメは賢神を目指さないんですか?」
「飽きたしの」
ミリアがいつまで経っても、ジジイの事をアレスティア様と呼ぶから、アルメと呼ぶように命令しておいた。
それでも敬語は変わらないが、それくらいは目を瞑ろう。
「そんなものなんですか?」
「うむ。この体はアルメちゃんのモノじゃしの。もし、我が居なくなった時の事を考えて、この子の特性を伸ばしてやらないとのう」
「流石です! そこまでお考えだったのですね……」
「本当は、回復を使えたら女性の体にも触る事ができるからとか、そういう理由だろうが」
「ち、ちがっ、違うわい!」
「図星らしいぞ、ミリア?」
「そんな……」
ミリアのジジイに対する評価が急降下したのが、見て分かる。
俺もこんな感じだったんだろうな。
「ち、違うからの? 全てはアルメちゃんの為じゃからな?」
「そういう事にしておきます……」
ざまぁねぇぜ、ジジイ。
「何なのじゃ、お主は! 酷い事ばかり言いおってからに!」
「本当の事だろう?」
「ぐぅっ……」
「はぁ……、もういいですよ。大体分かってきましたし。それで、明日からどうするんですか、タカシさん?」
「どうするって、何をだ?」
「今日、お風呂で訓練は終わりみたいな事を言っていましたが」
「あぁ、明日からの話か。どうしようかね……そろそろガデルにも勝てそうな気はするが」
「攻略しちゃいます? ボスの部屋も近いんでしょう?」
「そうだなぁ……」
このダンジョン内のモンスターでは、これ以上の訓練は厳しい。
皆、既に訓練の内容に慣れてしまっているので、もう実戦形式の組手くらいしか、上達方法は無いだろう。
まだレベルを上げたいところではあるが、後はレベル100まで進むだけなので、そんなに急がなくても良いか……。
「よし、明日は決戦といくか!」
「分かりました!」
「ミリア、ファラ。皆を集めてきてくれるか?」
「はい!」
「わかった」
ミリアとファラに皆を集合させるよう指示し、茶の用意をする。
マルカにお願いしたいところだが、今は皆とスキル練習中だから仕方がないので、ジジイに手伝ってもらう。
暫くして皆が集まってきた。
茶の用意をマルカに引き継ぎ、皆には座ってもらい、明日の決戦に向けて、作戦会議を行う。
「明日、ガデルに勝負を挑む」
「ご先祖様と対面するのね」
「おお! やっとだねー。勝てるかな?」
「勝たないといけないんだよ。誰も死なせる訳にはいかないから、あんなに沢山の訓練をしたんだ」
「はい。訓練の甲斐もあって、かなりの域に達していると思いますので、単体相手なら大丈夫ではないかと思います」
「アバンさんのお陰ですよ」
「いえいえ、皆さまお強いですから」
訓練中は、かなりアバンのお世話になった。
流石騎士団の長というだけの事はある。教え方が上手い。
「それで、相手は今までのモンスターとは比べ物にならないくらい素早い。それに、知能もある。前衛がしっかりしないと、すぐ隙を突いて後衛まで向かってくるだろう」
「やってやるです!」
「まっかせてよ! 成長したところ、見せてあげる!」
「それ、フラグだぞ。そんな事を言う奴は、大抵やられる」
「ひどいっ!?」
近距離組もやる気は十分みたいだし、何とかなるだろう。
もしもの時は、マルカとアルメ達の護衛をファラに任せて、俺が前衛に入れば良い。
「対象との距離は、今まで練習した通り、常に一定を保て。距離を詰めたり、離れたりしないこと」
「はい!」
「大丈夫です!」
「おっけー、ボス!」
「アタシだってやる時はやるもんねっ!」
訓練の時はパルとパロの罠が常に作動していたが、それは相手の知能が低かったことにある。
ガデル戦ではあまり役に立ちそうもないが、無いよりはマシだ。
危なくなったら逃げ回ってもらおう。
「相手は、ランと同じく殴る蹴るが主体の、超近接戦闘型だ。懐に入られたら、形振り構わず下がれ。他の者は、即援護するように」
「はーい」
「承知した」
「承知しました」
「まかせやがるです!」
「が、がんばります……」
ランとミュウも連携が取れるようになったし、無謀な特攻などをしなければ、大丈夫だろう。
まぁ、そんなことができるような相手ではないわけだが。
ソシエが心配ではあるが、ランやミュウよりは冷静な戦い方だし大丈夫だろう。
「マルカとジジイは、回復だけに専念。攻撃は一切しなくて良い」
「はわわ……だ、だだだいじょぶでしょうか!?」
「任せるのじゃ」
ガデル相手だと、間違いなく被弾が多いだろうから、マルカ達は今回、重要なポジションだ。
何としても守り通さないといけない。
「遠距離組は、基本皆を守る事に集中してくれ。隙があれば攻撃」
「任せてください!」
「ご先祖様だろうが、大きなのぶち込んでやるわ」
「精一杯がんばりますです!」
「護衛はオレに任せてくれ!」
ガルミの戦闘センスは、中々のモノだ。本能的な感じがするが、護衛をしっかりやってくれるだろう。
これだけの人数で一人を相手にするんだ。
訓練もしたし、楽勝とはいかないまでも、死人は出ないだろう。
「何か疑問や質問などはあるか?」
皆それぞれの顔色を窺うかのようにキョロキョロとしているが、特に何もないようだな。
「それじゃあ、明日に備えて寝るとするか」
「はい!」
「そうしましょう」
皆におやすみの挨拶をして、それぞれの部屋に戻ってもらう。
それぞれと言っても、俺は複数人で寝る部屋だが。
「明日は、ミリア達遠距離職にとってはキツイ戦いになると思う。マズイと思ったら、俺を盾にしてでも攻撃を回避してくれよ?」
「どうせタカシが守ってくれる」
「そうそう、結局タカシさんが何とかすると思うので大丈夫です」
「お兄ちゃんだし!」
「タカシ様ですから!」
「タカシ殿だからなぁ……」
「ご主人様ですし」
「分かった。俺が何とかする」
一度戦っているとはいえ、手も足も出なかった相手だ。
何とかするとは言ったが、大丈夫だろうか。
「さーて、寝るぞ! もう、練習も終わっただろう?」
「あ、私は勉強していたので、少しだけ練習してから寝ますね」
「そうか。すまないな」
「いえいえ、またお願いしますね!」
「おう。それじゃあ、おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
ミリアは魔術の練習を行うそうなので、一足先に布団に入る。
今日は、ルリアの胸に埋もれながら寝ることにした。
どうせ朝には、ファラを抱き締めていることになっているんだ。今だけはこの感触を楽しもう。
おやすみなさい。




