第12話 ブラックウルフ
そんな漫画のラストのようなことを考えていると、ミリアが俺から離れ、スっと立ち上がる。
まだ堪能していたかったのに!
「でも、ありがとうございました」
「お礼のキスは?」
「ないです!」
「命を掛けて守ったんだけどなぁ?」
「う、うぅぅ……」
あ、やばい。泣きそうなやつだこれ。
「ウソだよ、ウソ。さぁ、行こうか!」
俯きながら、どうするか唸っているミリアの頭をポンポンした後、狼を回収していく。
そして、狼に遭遇した地点までマップを頼りに戻り、残りの狼と猪もついでに回収する。消えてなくて良かった。
そのまま森から街に帰る道中、兎に何度か遭遇したけど、何かが吹っ切れたのか、俺からナイフを強奪し、私がやります! と言ってミリアが兎と戯れていた。
街に着いたら、案の定カッシュに絡まれた。
「おい! どうしたんだ、その傷!」
「ミリアにセクハラしようとしたら、返り討ちに遭いまして」
ミリアは自分の名前が出るとは思っていなかったのだろう。こちらにあまり意識を向けてなかったようで、きょとんとしている。
「ほんとか!? 何かされたのか!?」
「え!? えぇっ!? 私!?」
何故か信じているカッシュに、いきなり話を振られて戸惑っているようだ。
そんな二人を見ながら、街の中に入っていく。
「おい! 本当なのか!」
「すみません、ちょっと死にそうなくらい疲れているので通してもらいますね」
「ちが! 違います! 私、そんなつもりじゃ!」
何かミリアが誤解を招くような事を言っているので、そんな二人を残してギルドに向かう。
ちょうどギルドに着いた頃、ミリアが走って追い付いてきた。
「ちょっと、酷いじゃないですか! なんですか、私のせいかもしれませんけど、違うでしょ!」
「セクハラは今度してあげるから。それより、今日のお給料だよ」
もう! 何なんですかー! とポカポカされながら、ギルドの中に入る。
……。
まただ……。そういえば、忘れてた。
俺らがギルドに入った瞬間、静かになり舌打ちなどが聞こえる。
ミリアも今朝の事を思い出したのか、ハッとなって俯いてしまった。
仕方ないので、ミリアの背中を押しながら、今朝担当してくれたおじいさんの所へ向かう。
「おや、お帰りなさい。それにしても、ボロボロだねぇ。大丈夫かい?」
「はい。さっきみたいにミリアとイチャイチャしていたら、プレイがエスカレートしちゃって。ははは!」
皆に聞こえるよう大きな声で言ったら、ミリアに横腹をつねられた。痛い! 狼の攻撃より痛い!
「え、えっと、それより素材の買取りをお願いします」
「はいはい。では、こちらにどうぞ」
おじいさんがトレイを出してきたので、そこに入手した素材を乗せていく。
全て出し終わると、おじいさんが驚いた声を上げていた。
「えっと、これ二人でやったのかい?」
「そうですよ? 何か問題ありました?」
「これ、ユニークのブラックウルフじゃないか! 二人でこんな危険な討伐を行うなんて!」
俺には何かよく分からないけど、ミリアも驚いているようだ。
「本当、命があっただけ良かったよ。ミリアちゃん、怪我とかはないかい!?」
「はい。私は傷一つないです。ずっと守られていたので……」
「え!? じゃあ、これ全部彼氏さんが一人でやったっていうのかい!?」
「はい。彼氏じゃないですが、私は守られてばかりで、最後まで何も出来ませんてした……」
おじいさんは右手で顔を覆って、上を向いてる。オーマイガッとか言ってそうなポーズだ。
「一人を守りながら、ウルフ10匹を倒すなんて聞いたこともないよ。しかも守られている方は無傷なんて……彼氏さん、本当にEランクなのかい?」
「彼氏じゃないです。冒険者登録は昨日、私が担当したので、間違いないですよ」
「え!? しかも、昨日登録したばかり!?」
再度同じポーズを取りながら、神よ……とか言ってる。やっぱり、どこもポーズは似てるんだな。
「そりゃあ、今まで男に興味がないような態度を取ってたミリアちゃんが惚れるわけだ!」
「い、いや! だから、彼氏じゃないですって!」
「照れなくていいも良いよ。良かったね、守ってくれる人が見つかって。それじゃあ換金してくるよ」
「だから!」
またこのパターンか。ミリアが、何か言ってくださいよ! と、こちらを睨んでいるが、おじいさんが歩いていった方を見ながら無視しておく。
薬草で31銀と20銅、野兎で12銀、猪で2銀、狼で36銀、ブラックウルフで8金となった。
ブラックウルフは放置していると統率の取れた群れをどんどん拡大して、1つの村を蹂躙できる程の群れになるそうで、討伐者には報酬が多いのだそうだ。十匹程度で良かった。
それにしても黒い狼というだけで200倍とは美味しすぎる。
結局鉄鉱石の依頼はキャンセルということで、4銀支払うことになったが、それでも8金75銀20銅だ。昨日の分と合わせて、9金15銀の持ち金となる。これで装備も買えるだろう。
「次からは万全の状態で、危険なところは避けるんだよ?」
「はい」
おじいさんに心配されながら、ギルドを出る。
ギルドから出る時、また絡まれるのかと思ったが、ギルド内は静かだ。
先程のやり取りを見て警戒されているのか、直接絡んでくる奴はいなかった。
さっき返してもらったカードをチラっと見た時、ランクも上がっていたようだし、ブラックウルフ様々だな。