第35話 瀕死
いつもの浮遊感を味わった後、足に地面の感触がある。
しっかり着地できたようだ。
辺りに明かりは無く、真っ暗で地面が堅い事しか分からないが、ここがダンジョン内であることは間違いないだろう。
「儂にたった三人で挑むとは、愚かな人間共よ……」
「は?」
ランでもガルミでもない、野太い声が聞こえる。
警戒しつつ、火魔術で明かりを出して見渡す。
「ほう……魔術か」
「誰だ!?」
「なになに!?」
「どこだ!?」
俺の火魔術に反応して、どこからともなく野太い声が聞こえる。
声が反響していて、何処から聞こえているのか分からない。
ランとガルミも驚いているようで、周りを見渡している。
魔眼を使うと後ろからデカい物体が迫ってきていた――早い!
「ここだ!」
一直線にガルミへ向け迫っているのが分かる。
まだ何も手を加えていないガルミのステータスで、未知の攻撃を受けてしまったらまずい。
しかも、ガルミとランは反対方向を向いている。背後から攻撃を受けたらひとたまりもないだろう。
「ガルミ、ラン! 前に走れ!」
「うん!」
「おう!」
咄嗟に背負っていた盾を装備しつつ、ガルミと迫っている物体の間に入り防御態勢を取る。
「儂の動きが見えるか。ふんっ!」
構えていた盾に、今まで受けた事の無い重い衝撃が伝わり、吹き飛ばされる。
「ぐああっ!」
「タカシくん!」
「旦那っ!」
攻撃を受ける瞬間に相手の姿を確認出来た。
耳と尻尾のある、獣人のような人型タイプだ。
「くそっ! バインド!」
「ぐっ……」
普通のモンスターなら、バインドを受けると地面に張り付くはずなのに、膝を着いただけで耐えやがった……。
「貴様はやるようだな……ふ、まずは娘共からと思っておったが、貴様から相手をしてやろう」
こいつはやばい。このメンバーでは分が悪い。
あいつの蹴り一撃で、防御状態の俺からHPの三分の一を持っていきやがった。
あの攻撃力……ランはまだ戦えるとしても、ガルミを守りながら戦うのは厳しいだろう。
二人の位置を確認すると、その奥に出入り口のような所がある。
――ラン、俺が引き付ける。その間にガルミを連れて、お前の後ろにある通路まで走れ。今すぐに!
ランにも、こいつの強さが分かるのだろう。出した指示を察してくれたようで、ガルミの手を取り、返事も無しに走り出した。
二人を確認後、盾で前方を隠し、ポーションを飲み、自分に強化付与を施しておく。
「がははっ! 見ろ。あやつら何も言わずに逃げ出したぞ!」
「俺はあいつらが無事なら、それで良い」
「強がるな。貴様たち人間の仲間意識とは、その程度なのだ」
「賢者! フォーカス! ウィーク! 拒絶! 昇天、ガデル!」
「んっふぉっ!? な、何をした!?」
▼ガデル・フォン・クドラング Lv.68
HP:3700(3300+400)
MP:2600(1725+0)
ATK:1985(1875+110)
MAG:375(375+0)
DEF:1540(1425+115)
AGI:1430(1350+80)
化け物かよ……。
ステータス的に全く勝てる気がしない。
しかも、クドラング姓ということはモンスターではないのか?
「ガデル・フォン・クドラング。お前は獣人ではないのか?」
「ん? ふぅ……貴様、儂を知っておるのか?」
「獣人なのか、モンスターなのか、どっちだ?」
「元、な。それがどうした」
“元”ということは、今はモンスターなのか?
ステータス上にジョブ表記が無く、モンスターと同じ表示なので“人”ではない何かなのだろうか……。
でも、どう見ても獣人だよな……。
「ここから出たいのであろう? では、さっさと掛かって来い!」
ダンジョンから出たいなら、自分を倒せということは、こいつはこのダンジョンのボスなのか?
いきなりボス部屋とか、俺は運が良いのか悪いのか……。
「お前を倒せば、ここから出られるのか?」
「そうだ。ほら、どうした。掛かって来ぬのなら、儂から行くぞ」
ラン達は、通路まで逃げたようだな。
よし、ここはひとまず撤退だ。
「オラオラ、オラァッ!」
「ぐっ!」
動きが早い――一瞬で間合いを詰められた。
俺もAGIは高いので、何とか動きには付いていけるが、攻撃は更に早くて何発か貰ってしまう。
「がっはっ、くそ! お前を倒すのは俺じゃない。また来るから、その時まで待ってろ!」
「そうはいくか。ハッ!」
「があっ! ば、バインド! 昇天、ガデル! スリープ!」
「ぐっ、ふっ、貴様はさっきから何をしている!」
吹き飛ばされながら、嫌がらせをしておく。
「またな」
「なっ、待て! まだ」
――シュン!
ランの側に転移し、二人を連れて、更にミリアの下に飛ぶ。
「わぁっ!?」
ミリアの驚いた顔を間近に見て、安心した。
「ふぅ……」
そのまま、地面に大の字になって倒れる。疲れた。
HPを確認すると、ほぼ無い。ゲーム的には瀕死状態だろう。
「た、タカシ様!?」
「「ボスッ!」」
「ミリア、パル、パロ。治癒してくれ」
「どうしたんですか、何があったんですか、タカシさん!」
目を閉じて、治癒してくれるのを待つ。
「ご主人様、大丈夫ですか!?」
「ラン様、タカシ様の身に何があったのですか!?」
「えっと、何かめっちゃ強いのと戦ったんだよ」
「なぁ、姫。あれは何だ? 動きが早くて見えなかったぜ?」
このバカ二人に説明させるのは無理があるだろう。
今説明しても、ファラ達のパーティーにも説明する必要があるし二度手間だ。まずは合流だな。
まだMPに余裕はあるが、マナポーションを出して飲んでおく。
――ファラ、今どんな状態だ?
――――戦ってる。
――今から迎えに行く。用意しておいてくれ。
――――まって。敵つよい。少し時間かかる。
「周囲警戒しろ。モンスターは居ないか?」
「居ませんよ。どうしたんですか?」
「ファラ達が戦闘中だ。敵が強いって言っている。援護に行くぞ。皆、俺の体に触れてくれ」
こういう時は皆素直で察しが良いんだよな。
治癒途中ではあったが、それより、合流が先だ。
皆を連れて、ファラの下に飛ぶ。
――シュン!
「んっ!?」
地面に寝た状態から飛んだので、転移先がファラの股下だった。
ファラのパンツを眺めながら、皆に指示を出す。
「皆、周囲のモンスター共をさっさと討伐して、安全を確保しろ。あと、ファラは動くな。マルカは、俺に治癒を」
「わかった」
「ひゃい!」
絶景を眺めながら、マルカに癒してもらう。
ただ、明かりが足りないのは残念だな。薄暗くて、折角の景色が見えたり見えなかったりする。俺も光魔術覚えようかな……。
「討伐完了で……って、まだやってるんですか、タカシさん!」
モンスターを倒し終わったようで、皆ゾロゾロと集まってくる。
「皆、お疲れ様。おやつには、まだ早い時間だけど、作戦会議だ。ミリア、マリー、サラ、俺を中心に家を用意してくれ」
「もう! ファラも手伝ってください!」
「タカシから動くなって言われた」
「私と代わりましょう! ファラさん、私がやります!」
「もう……ほんとタカシさんは……」
ミリアとサラが、仕方ないという感じで家を造り始める。
マリーはファラと代わるなどと言っているが、スカートじゃないからダメだというと、渋々ミリアの手伝いを始める。
「タカシしゃま! も、大丈夫でしゅ!」
「タカシ、もういい?」
「おう、二人共ありがとうな。癒されたよ」
ファラを少し前に移動させて、起き上がった後、そのまま定位置である膝の上に乗せる。
家という名の壁が出来たところで、テーブルと椅子を用意して、皆にはそこに座ってもらう。
俺はファラを抱っこしたまま地面だ。
「それで、タカシさん。何があったんですか?」
「いきなりボス部屋に飛ばされて、一方的に攻撃された」
「はぁっ!?」
「あいつは強い。現状で、勝てるか分からん」
「タカシ様にそこまでのダメージを……」
「動き早いし、攻撃重いし、あれでまだ全力ではなかったな」
「そんなに!?」
殴られたり、蹴られたりしただけで、何もスキルや魔術を使ってこなかったしな。本気ではないだろう。
「あと、サラ。ガデル・フォン・クドラングって知ってるか?」
「え、えぇ。私の父の、父の父の、父? だから……高祖父?」
“ちち”が多すぎて、何を言っているか分からん。
サラ本人も自分の続柄を辿っているのだろう。“父”という度、人差指を上に動かしている。
サラのお爺ちゃんの爺ちゃんだから、サラからすれば、ひいひいじいちゃんって事なんだろうな。
「うん、間違いないわ。高祖父よ。それがどうかしたの?」
「クドラング家の事なのに、何でお姉ちゃんだけなの? ランには聞かないの、お兄ちゃん?」
「お前、ガデルを知ってるのか?」
「知らないけど」
「だからだよ、バカ」
「ひどいっ!?」
そこまで喋っておいて、知らないって……別ひどくないだろう。バカが……。
「このダンジョンのボスは、ガデル・フォン・クドラングだ」
「へっ……!?」
「お兄ちゃんこそ何バカな事言ってるの?」
「うるさい。バカは黙ってろ」
「やっぱりひどいっ!?」
サラは驚いている。自分の一族なのだから、無理もないだろう。
「確かに、このダンジョンに入って、戻って来なかったとは聞いたけれど、年齢的に無理があるわよ」
「戻って来なかったのなら、この中で死んでしまったんだろうな。姿形は獣人だったが、中身はモンスターのみたいな感じだったし」
「そんなっ!?」
「我等に世代があるように、ダンジョンも成長と共にモンスターが入れ替わる。ボスが変わる事もあるじゃろう」
「そういうもんなのか」
「そういうもんじゃ」
ジジイの言う事も分かる。ダンジョンの内部が変わっても、モンスターやボスが弱いままだったら、すぐに攻略されるだろうしな。
「ただな、モンスター化しているのは良いとして、あいつには知能があった。意志があるし、言葉も喋る。かなり面倒な敵だ」
「あー、お兄ちゃん。あれと何か喋ってたよね」
「あぁ、そういえば、ランと同じ尻尾だったな」
「え、そこは見てなかったな。そっか、ランのご先祖様だもんね。同じだとしてもおかしくないよねー」
「おう、ランの殴る蹴るしかできない猪突猛進バカは、あいつから受け継いだんだろうな」
「ひどいっ!?」
ランに似ているということは、魔術は使えない可能性が高いな。
使えないとしても、あの素早い動きに対応できなければ、意味が無いわけだけれども。
「まぁ、そういうわけだ。あいつの打撃はやばい」
「やばい? どのくらいですか、タカシさん?」
「んー、そうだな。あいつの渾身の一撃を喰らったら、例えガードしていたとしても、俺ですら三発で死ぬだろうな」
「そんなに!?」
「あぁ、そんなに、だ」
「ご先祖様強いね!」
強いから困っているんじゃないか……何を喜んでいるんだ、このバカランは。
「そういうわけで、現状では確実に死人が出るだろう。戦い方は、俺が考えるから、まずはレベルを上げよう」
「分かりました」
あいつのステータスは大体メモした。
近距離組には、防御力と素早さメインのステータスに書き換える必要があるな。
遠距離組には、どういったステータスにするかな……。
とりあえずはレベルを上げて、ジョブの調整をしつつ考えるか。
「休憩したら、早速狩りに出掛けるぞ」
「承知した」
「わかりました」
「はわわ……」
俺のMPが回復するまでは、休憩にしよう。
そこからはひたすら狩りだ。




