第32話 転移
心身共にすっきりした後、サラから宝物庫の中を見せてもらう事を忘れていたのを思い出す。
失敗したな……。
あれだけ盛大に王と喧嘩して、今更戻れないしな。
――サラ、聞こえるか? さっきはバタバタですまなかったな。
――――あ、タカシさん。大丈夫です。こちらはもう大丈夫です。
――そうか。それは良かった。それで、相談なんだが……いいか?
――――えぇ、もう何でも言ってくださいな! 体で払えという、お礼の件? 何でしたら、今からでも!
今からでもと言ってくれる気持ちはすごく嬉しいが、今はランですっきりしたので、お礼は今度まで取っておこう。
――いや、お礼は今度な。それより、装備なんだ。城の宝物庫に、使っていない装備とかないか?
――――そう……はぁ……装備。はい、あると思うわ。
――それを貰いたかったんだが……ガス王に喧嘩売って別れた直後だから、行き辛くてな。
――――喧嘩、そうね……分かったわ。どうせ使わない物ですし、私の部屋に用意させるわ。
――そうか。ありがとうな! 気の利くサラ好きだぞ。
――――ふふふ、どうせ皆に同じ事言っているのでしょうけれど、いいわ。素直に喜ぶことにするわ。暫くして私の部屋に来て。
――分かった。じゃあ、後で行くよ。好きなのは本当だから!
――――はい。
よし、実際に実物を見てみない事には何とも言えないが、装備は何とかなりそうだな。
それにしても、裸の嫁を抱きつつ、違う女――しかも嫁の姉と、内緒話で密会の約束をするというのは、ひどい裏切り行為だよな。
まぁ、そんな背徳的な感情は一切無いわけだが。
「どうしたの、お兄ちゃん?」
「あ、いや。何でもない。ちょっと考え事だ」
そんな事よりも、嫁にお兄ちゃんと呼ばせながら性行為をする事の方が、恥ずかしくなってきたな。
いや、恥ずかしいというより、興奮、か。
なら別に良いか。
「これから少し特訓をしたいんだ。付き合ってくれないか?」
「うん、いいよー。何するの?」
「転移の特訓だ」
「おー、すごそうだね! やろうやろう!」
互いに服を着て、部屋を出る。
リビングに戻ると、ジジイが椅子に座ってジッとしていた。
「おら、ジジイ。良いモノ見せてやったんだから、手伝え」
「な、何のことじゃ? 手伝うのはやぶさかではないが」
「ダンジョンへ入る前に、俺の転移を強化したいんだよ」
「転移か。良いぞ。我で力になれるのであれば、力になろうぞ」
今現在は、俺の行った事のある場所で、行きたい場所をイメージできれば、そこに転移することができる。
これを、行った事の無い場所でも転移できるようにしたい。
三人で椅子に座り、そのような相談をする。
「ふむ。要はイメージ出来れば良いんじゃろう?」
「だから、そう言ってるじゃないか」
「だから、行った事の無い場所でも、イメージすれば良いんじゃ」
「それが出来ないから、相談しているんだろうが」
「頭の堅い奴じゃなぁ。行った事の無い場所でも、普段目にして、いつでもイメージ出来るモノがあれば良いんじゃないかのう?」
「難しいな……」
でも、この問題を解くには、それしか答えはないようにも思う。
イメージ出来るモノ、か……。いつも使っている剣だとすれば、世の中に何本もあるだろう。
的確にそのモノがある場所へ転移するのであれば、イメージするモノは、ユニークなモノである必要があるな。
「世の中に二つとないモノを用意するとか、か?」
「良い答えじゃ。イメージ出来ないのなら、作れば良いのじゃよ」
「簡単に言うな。意外に難しいぞ?」
「そうかのう。例えば、予め決めたモノをミリア嬢に持たせ、その状況をしっかりとイメージ出来るようにするなど、どうじゃ?」
そうか。モノがユニークである必要はないんだ。それを持つ人がユニークだから、それだけでそれは世界に一つしかなくなる。
突き詰めれば、別に何かを持たせる必要もないということだ。
その人に向けて転移すれば良いわけだから。
ただ、それは動的なんだよな。
対象が動いていると、イメージした対象と合わなくて転移自体が出来ない可能性もある。
でも良く考えると、転移先の時間や地面の石の数、木の数など、イメージがいい加減な要素は沢山あるな。
それくらいは大丈夫かもしれない。やってみるか。
「お、何か答えが出たようじゃな」
「おう。ありがとうな。お陰で実験内容が思い浮かんだ」
「そうか。お主、思っていたより頭は回るようじゃの」
「考えるのは得意だ。任せろ」
賢神として、人生を掛けて研究していただけはあるな。しかも、教え方が上手い。そういう人間に褒められると素直に嬉しい。
今度、娼館にでも連れていってやろう。
「ちょっと実験してみる」
「うむ。成功すると良いのう」
「え、結局、ラン要らなくない!?」
ランに頼んでおきながら、用済みになってしまった。
あえて何も言わずにおこう。
ミリアを想像する。俺の正面で、はにかんでいる姿を思い描く。
あぁ、可愛いな……じゃなかった。
次に、何度も感じた事のあるミリアの魔力をイメージ。
最後に、足に魔力を込め、神脚を発動する。
――シュンッ!
「わぁっ!?」
「きゃあっ!」
「おおっと。すまない。怪我は無いかい、お嬢さん方?」
「も、もう! びっくりするじゃないですか、タカシさん!」
「ご、ご主人様。どうやって……!?」
どうやら成功したようだなが、狭いな。何処だここは?
それより、何故、ミリア達はパンツを脱いでいるんだ?
「じゃなかった! は、早く、出てください!」
「ご主人様、その、えと、恥ずかしいんですが……」
「え、おい、ちょっと。押すなって!」
狭い小部屋から出されると、そこは服屋の店内のようだった。
……あぁ、試着室か。
――ミリア。何でパンツを脱いでいたんだ?
――――もう! 新しい下着を買いに来たんです!(脱がされる事も考えなきゃいけないし……)
クタクタになったパンツを穿いているミリアも好きなのに……。
あぁ、違うか。ずっと勉強ばかりしてもらっていたから、買いに行く暇がなかったのか。言ってくれれば、サイズは知っているし、俺が買ってきてあげたのに……。
――可愛いパンツだったぞ。
――――忘れてください!(はぁ……次の機会に気付いてもらおうと思ってたのに……)
なん、だと……それは申し訳ない事をした……。
その次の機会とやらを楽しみにして、退散しよう。
「ミリア、ソシエ、本当にすまなかった。俺は先に戻る。時間までゆっくり買い物を楽しんでくれ」
「えっ!? あ、はい」
「いえ、恥ずかしかったですが、ご主人様ですから……」
「それじゃあ、また後でな!」
試着室の布越しにそう言って、屋敷に戻る。
「あ、おかえりー。どうだった?」
「おう、ミリアの所に行ってきた。ばっちりだったぞ」
「おぉ、そうか。良かったのう」
あぁ、そうだった。ランをジジイと二人っきりにしていたんだ。まぁ、呪いが掛かっているから大丈夫か。
「次はファラの所に行ってみる」
「がんばー」
ミリアの時同様、ファラのいつのも無表情を思い描く。
魔力をイメージして、転移。
――シュンッ!
「っ!?」
「「おわぁ!?」」
「タカシ、いきなり正面はおどろく」
「ボス! びっくりしたよ!」
「何なに、どうやって飛んできたの!?」
こっちも問題無いな。
とりあえず、ミリアとファラの場所には、いつでも飛べるようにしておこう。それで複数パーティーでも対応できるし。
「ちょっと転移の実験をしていてな。楽しんでるか?」
「うん。お菓子いろいろ食べた」
「そっか。パルとパロはどうだ?」
「楽しいよー。たまには良いよねー。こういうの!」
「楽しんでるよ! ボス、お小遣いありがとん!」
「じゃあ、俺はまだ続きがあるから戻る。時間には遅れるなよ?」
「「はーい」」
「ん」
食べ歩きの途中だったらしい。
ファラ自身パルやパロと気が合うのかどうか疑問ではあったが、見る限り心配なさそうだな。良かった。
三人を残して屋敷に戻る。
「またおかえりー」
「その様子じゃと、大丈夫そうじゃな」
「おう、何とかモノにできそうだ」
前実験した時は、うまくいかなかったんだが、今回は出来た。
何がいけなかったんだろうか。魔力感知か? イメージがうまくいっていなかったのかもな。
それにしても、これでダンジョンだろうがどうとでもなるな。
よし、次は装備だ。
「ちょっとサラの所に行くが、お前達も来るか?」
「そだねー。ヒマだし、いこっかな」
「サラ嬢か。あのチチ、目の保養になるぞい」
二人の肩に触れ、今度はサラの笑顔を思い浮かべ、飛んでみる。
いつもなら部屋をイメージして転移するのだが、俺だけでなく、複数で転移できるかどうかも確認しておくためだ。
――シュンッ!
「きゃあっ!?」
「だ、誰だっ!?」
「おっと、すまんな」
知らない子が、背負っていた大剣をこちらに向けている。
「ガルミ、止めて。この人は知り合いよ!」
「ですが、姫!」
ツンツンの褪せた茶、いや、グレーに近い髪にボサボサの尻尾。アバンの犬とは少し違うな。でも犬っぽい。狼か?
あれこれ、色々なところがデカい。
身長も俺と同じくらいあるし、胸も尻もルリア以上あるだろう。
「サラ、この子は?」
「お前、オレ様の事を知らないのか!?」
「キミ、おっぱい大きいね。名前教えてくれるか?」
「てめぇ! その言葉、侮辱と取るぞ!」
「止めなさい! ほら、タカシさんも、そんな目で見ないっ!」
怒られた。
「サラ、紹介してくれ。このおっぱいちゃん」
「まだ言うか!」
「はいはい、こっちは騎士団副団長ガルミ・サウソンよ。ガルミ、この人は私の恩人タカシ・ワタナベさんよ」
「な、ななっ、あの噂のワタナベ!? こいつが!?」
「おう、俺が皆の憧れタカシお兄さんだよ。ガルミちゃん、キミは良い体をしてるね。俺のパーティーに来ないか?」
「てっめぇ!」
「もう……タカシさんも、ガルミを煽るの止めてくださらない?」
また怒られた。
「お前が、団長を鍛えたってのはマジか?」
「団長……アバンさんか。おう、俺に忠誠を誓ってくれたからな。強くしてあげた。それがどうした?」
「団長が忠誠を!? 姫、本当か!?」
「えぇ、本当よ。だから、あそこまで強くなれたのよ」
「折角追い付いたと思ったのに、邪魔しやがって……くそっ!」
修行して追い付いたのに、俺がアバンに恩恵を与えたので、更に遠い存在になっちゃったわけか。
それは悪い事をしたな。
「なに? おっぱいちゃんも強くなりたいの?」
「おっぱいちゃん言うな! 団長を抜くのが目標だ、悪いか!」
「強くしてあげようか?」
「で、できるのか!?」
「おう、キミは女の子だし、すぐ出来るよ」
「頼む! 何をすれば良い!?」
そう言いつつ、サラとランの方をニヤニヤしながら見ておく。
「そうだなぁ。詳しくは、サラが強くなる為、俺にした事を聞いて判断してくれ。ここから先は、キミの主であるサラに任せる」
「頼む、ます、姫! 教えてくれ、ください!」
「ちょ、ちょっと、タカシさん!?」
「本人の目の前で浮気の判断を仰ぐなんて、やるね、お兄ちゃん」
「何のことかなー? あ、装備があるじゃん。俺はその間に装備を確認しておくわ。後は頼んだぞ、サラ」
「ちょっと! 私の口からは言えないわよ! ねぇ、ちょっと!」
サラの両肩に手を乗せて迫るガルミを放置し、隅に準備してある装備の方へ移動する。
部下に手を出すわけにはいかないからな、後はサラに任せよう。
装備を順に確認する。
剣や杖、鎧にローブ、アクセサリーなどお宝が大量だ。
今装備している武具のどれよりも、上位のようだ。
誰に何を使わせるかを考え、決めた装備から順にインベントリに入れていく。
最後に自分で使う装備を余り物から決める。やっぱり剣かな。
よし、装備は揃ったな。
こんなにあるとは思っておらず、足りない部分は買いに行く予定だったので、とても助かった。
お礼を言う為、サラの方を振り返ると、剣を振りかぶったガルミがこちらに向かってきていた。
「きーさーまーっ! 姫に何ということをっ!」
「バインド、昇天、ガルミ」
「がはぁっ!」
ちょっと怖かったので、思わず動きを封じてしまった。
一つ余計なのが混じっているのは、癖だ。
床に貼り付けになり、身動きができずにビクンビクンしている。
今後の事もあるし、少し脅しておくかな。
「おい、貴様程度触れずとも殺せるんだ。あまり調子に乗るなよ」
「くそっ、くそぉ!」
「サラ、説明したのか?」
「え、えぇ。したわよ? 簡潔に、ね」
簡潔にって……色々大事な部分を省略してそうだな。
「なぁ、おっぱいちゃん。サラの話を聞いてどう思った?」
「そんな事出来る訳ないだろう!」
「そんな事だと? サラはやったぞ?」
「うっ……くそ、何でだよ! はっ、まさか、アバン団長と!?」
「それはない」
「くそっ! 何でいつも、女だけ! 何でなんだよ!」
「俺が男だからだ」
いつも女だけって聞くと、俺が差別主義者みたいじゃないか。
「俺は身内には優しいんだ。気が向いたら俺のところに来い」
「ちくしょう……」
「サラ。装備、ありがとうな。助かったよ。明日迎えに来るから、用意だけしておいてくれ」
「えぇ、分かったわ。待ってる」
「おう、それじゃあ、俺は帰る。この子の事は頼むな」
「もちろんよ」
それだけを言い残して、ランとジジイを連れ屋敷に戻る。
おっと、そろそろ夕方だ。色々とバタバタしていたから、時間の感覚が無かったな。皆を迎えに行くか。
「皆を迎えに行ってくるから、待っててくれ」
「はーい」
「うむ」
ランとジジイを屋敷に残し、集合場所に移動する。
集合場所では既に皆待機して、お菓子を食べていた。飯前だっていうのに良く食べるなこいつら……太るなよ?
「皆居るな。それじゃあ帰るぞ」
「はい!」
皆で手を繋ぎ、屋敷へと戻る。
「皆、おかえりー」
「おかえり、じゃ」
マルカとミュウに簡単な晩飯の準備をお願いしておく。
こいつらお菓子を食べていたからな。簡単な晩飯で良いだろう。
その間にクドラング城で貰った装備を、皆に渡していく。
「皆、今日はどうだった?」
「充実したお休みでした」
「いろいろ食べた」
「ルリアさんはばっちりですよ!」
「ボクは恥ずかしいと言ったんだが……」
「ファラ姉と色々食べたよー」
「色々探索出来たし、楽しかったよ、ボスありがとう」
「ご主人様のため、色々買いました……」
ルリアの恥ずかしいというのが、気になるな。
あといつも気になっていたが、パルとパロはファラより年上なのに、何故“ファラねぇ”と呼ぶんだろうか。
やはり、奴隷になった順番が関係しているのだろうか。そこは、彼女等だけで話している事のようで、深く突っ込めないんだよな。
そんな事を考えながら、皆の装備などについて話をしていると、飯が出来た。早いな!
「明日からダンジョンだ。飯食ったら、風呂入って早めに寝るぞ」
「分かりました!」
晩飯は本当に簡単で、肉とスープとパンだけだった。
でもまぁ、このくらいで大丈夫だろう。
飯の間、マリーからルリアの件について聞いてみると、寝間着や下着など、俺が気に入りそうな物を買ったらしい。
さすがビッチ。
期待できそうだ。今晩の相手は、ルリアで決定だな。
飯を終え、風呂に入り、寝室に移動する。
マリーが自信満々に言っていただけあって、ルリアの寝間着姿はグッドなチョイスだった。
寝間着というより、スケスケのネグリジェだが。
ミリアには早めに寝ると言ったが、あれは嘘だ。
早々にジジイを寝かせ、ルリアと戯れる。
ミリアとソシエは、買い物中の話からすると脱がされる為の下着を買ったらしいので、それは今度楽しむとしよう。
今はルリアだ。
これで明日も、すっきりした気分で旅に出ることができるな。




