第28話 ジェットコースター
ここがダンジョンではあるが、人工的につくられたダンジョンであると分かったので、翌日も、気にせず進む。
「おい、ジジイ。本当にボスなどは居ないんだろうな?」
「居らんはずじゃ。コアも分からん場所に隠してあるはずじゃ」
「何で断言できるんだ?」
「そういうものなんじゃよ」
「そういうものなのか」
うまく誤魔化されている感は否めないが、今は信じよう。説明が面倒だからとか、そういう理由だろうし。
それにボスが居ないのであれば、大陸移動以外に何のメリットもない。当然、長居は無用だ。
「ボスが居ないと分かったら、ヒマだな。まっすぐ進むだけだし」
「もう……一応、戦闘しているんですが?」
「それはもうルリアとソシエに任せて大丈夫だし、お前達は魔法の勉強中だろう? 俺はヒマなんだよ」
「タカシ様、また昨日の続きでもしますか?」
昨日の夜は久し振りに全力でマリーの相手をしたんだが、それを見たソシエが引いてたんだよな。
若干、興味があるようなモジモジ感はあったが、まだあの子には早そうだ。もう少し好感度ポイントを稼いでからにしよう。
「続きをしても良いけど、先に進めねーだろ」
「うぅ、そうでした……すみませんです」
「続きって何じゃ?」
「お前は知らなくて良い事だ」
「何でじゃ! マリーが顔を赤くしてモジモジしながら、“続き”などと言ったら気になるではないか!」
そうだ。昨晩は、マリーの風精霊が睡眠の魔法を使って、朝までジジイを眠らせていたので何が起こっていたのか知らないんだ。
でも、全く身動きが取れない呪いでも掛けて、目の前でプレイを見せびらかせても良かったな。
マリーならそれで興奮するだろうし、今度やってみるか。
「分かったよ。今度な。今度、見せてやるよ」
「約束じゃぞ!」
「あぁ」
見るだけな。
「あぁ、そうだ、マリー。昨日、パルとパロのお陰で新しい魔法を覚えたんだが、実験を手伝ってくれないか?」
「もちろんです!」
新しく覚えたチェンジは、二人居ないと実験できないんだよな。後一人は、マルカ……いや、可哀想だ。ランにしよう。
――おい、ラン。そっちはルリア達に任せて、こっちに来てくれ。
――――うん? どったの?
――お前にしかお願いできない頼みがあるんだ。頼む。
――――えへへぇ。しょうがないなぁ。
前線に居たランを呼び戻す。
戦闘は、ルリア、ミュウ、ソシエ、マルカの四人で十分だろう。
「お待たせ―。それで、頼みって何なの、お兄ちゃん?」
「おう、お前には今からマリーの体を好きに使ってもらう」
「えぇっ、どゆこと? イチャイチャするの?」
「タカシ様、どういうことです?」
「説明は面倒だ。二分間、チェンジ」
二人の精神を入れ替える。
「ぬぁ!?」
「きゃあ!」
「どうだ?」
「何これ……あれ!? ランの体じゃない!」
「何か変な感覚です」
お互い、体をペタペタと触って確かめ合っている。
「うわー、何か変な感じー」
「どうなっているのですか、これ……」
「お前達の体を入れ替えてみた」
「うわ、本当だ! ランが二人居る!」
「え、私が居る!?」
互いに見つめ合い、互いの顔を触り合っている。
相変わらず、ランはアホっぽい事を言っているな。別に、二人になったわけではないのだが……。
「おい、マリー。精霊を召喚してみてくれ」
「はいです。すぅ……はぁ。顕現せよ、ウインドスピリッツ!」
・・・。
「あれ? 精霊さん! 出てきてくださいです!」
「あはは、ランが精霊なんて出せるわけないじゃーん」
「えいっ! えいっ! んんっ!」
何度も召喚しているのだろうが、全然出てくる気配がない。
「おい、ラン。魔力を込めて、“顕現せよ、ウインドスピリッツ”って言ってみろ」
「はーい、顕現せよ、ウインドスピリッツ!」
――バシュゥッ!
「えっ……出ちゃった」
「えぇ!? 私じゃないのに!?」
「え、何。お前は誰だって? ランはランだよー?」
――シュンッ!
「あぁっ! 消えちゃった!?」
ランと精霊が会話した後、すぐに消えてしまった。
精霊には中身の違いが分かるらしい。
それにしても、入れ替わり先のスキルが使えるのか……危ない。俺自身で試さなくて良かった。
まぁ、神シリーズの使い方が分かっているのはミリアとファラ、ジジイくらいだが。
もう少しチェンジの内容に制限を設ける必要があるな。
「タカシ様! これはどうなっているのですか!?」
「見たままだ。お前達を入れ替えたんだよ」
試しに、ランの体にある尻尾をぎゅっと掴んでみる。
「ひゃあああ!?」
「お、尻尾の感覚もあるのか」
「な、なな、何ですかそれ!? 力が抜けてゾワゾワします!」
尻尾以外にも、ランの体の至る所を触って確かめる。
「あぅ、んぅ、やめ、だめです。すごい……」
「なるほどな。ランの体は敏感なのか」
「ちょっと、お兄ちゃん! 人の体で遊ばないでよ!」
「はぁはぁ……ランさんは感じ易いんですね。ふぅ……」
入れ替わり先の感覚に依存するのか。後は夜にでも実験しよう。ミリアやファラに試すのが楽しみになってきた。
「わぁっ!?」
「えぇっ!?」
「どうしたんだ?」
「「あれ、戻った!?」」
おお、時間制限の実験も成功か。
神口の効果時間に時間を設定する事が出来るのであれば、俺自身にも使うことができるな。
チェンジしている間は神シリーズを封印しておく等、応用範囲はかなり広がる。
誤って時間設定を行わない場合、酷い事になりそうだが。
マナポーションを飲みつつ、その後も何度か実験を行う。
細かな設定などを行ったところで、その日を終える。
――……。
翌日も、戦闘で使えそうな神口の省略を作りつつ、直進する。
こうも単純な道のりだと、ヒマで仕方がない。
「ヒマだなー」
「もう……タカシさん、昨日の朝からずっとそればっかりですよ」
「だって真っ直ぐ進むだけで、何の緊張感もないじゃん」
「それは、そうですけど……」
モンスターが前ダンジョンの時よりも強くなっているとはいえ、ルリア達だけで事足りていることだし、する事が無い。
「タカシもべんきょーすればいい」
「昨日、今日とずっと魔法の研究や実験をしてたぞ?」
「そういえばマリー達と何かやってましたね」
「おう、その実験も一段落したからヒマなんだよ」
暫く三人で勉強の進み具合などの話をするが、すぐにまたジジイとの勉強に戻って行ったので、また一人になる。
今日はマリーも戦闘に参加しているので、話し相手が居ない。
後ろから皆を見ていているのも良いが、やはり寂しい。
新しく省略化した身体強化魔法で全身を物理的に強化し、全力で走って前線に向かってみる。
「うわぁ!? びっくりしたぁ!」
「ヒマなんだよ。相手しろ」
「お兄ちゃん、昨日からそればっかりじゃん!」
「おう、ミリアにも同じことを言われた」
そんなにヒマヒマ言ってるか?
言ってるな……。
「その突進力、牛です。エロ牛め、人間を辞めやがりましたね」
「なーにをー? こんにゃろうー」
「きゃははっ、やめ、ちょっ、ひゃひゃっ、やめろですっ!」
生意気だったので、ヒマ潰しに抱き上げてからくすぐる。
「やめるです、うしーっ!」
「そうだぞ、俺は牛だぞー。もーう!」
「ひゃひゃひゃっ、いいかげん、ふひひ、にするですっ!」
叩かれた。
「はい。いい加減にします」
「ふーっ、ふーっ」
「突進力……牛か。いい事を思い付いた! ありがとうなミュウ」
抱き上げたままのミュウにキスをして、地面に下ろす。
「なっ、ばっちぃです! 何しやがるですかっ!」
「お前のお陰で面白い事を思い付いた。大好きだぞ、ミュウ」
「勝手に好かれても困るです」
ミュウとの戯れを終え、ジェットコースターのような物を作る。
その先頭車両に、二本のロープを結んでおく。
「おーい、皆。集まれ!」
「何するの、お兄ちゃん?」
「どうしたんだい、タカシ殿」
「タカシ様、今度はどんな実験ですか?」
「何をされているんですか、ご主人様?」
「「なになに、何が始まるの!?」」
「はわわ、何するですかっ!?」
前線部隊は全員集まった。
少し間を置いて、勉強中の連中も集まってくる。
「タカシさん、これは何ですか?」
「いす?」
「何じゃこれは」
皆には乗り物の椅子に座ってもらう。
座席は十席しかないので、俺とラン以外に座ってもらう。
「ねえ、お兄ちゃん。何でランだけ仲間外れ?」
「お前は、これだ」
ロープの先端を渡す。
「え、何これ」
「引っ張って皆を運べ」
「ええぇっ!? 無理だって! これ、土で出来てて、皆乗ってるんでしょ!? むりむり、絶対無理だって!」
そうだろうな。
軽く見積もっても、五百キログラムくらいはあるだろう。
それを車輪もない状態で引っ張るとなれば、更に重いだろうし。
「これなら大丈夫だろう」
「え、どうするっていうの?」
乗り物を浮かせて、ランの腕力と脚力を強化してやる。
一人一人浮かせて運ぶのは集中力と膨大な魔力を必要とするが、全員を何かに乗せ、対象を一つにする事で、魔力消費だけで良い。
浮いた状態であれば、運ぶのは簡単だ。
「ほら、俺も手伝うから。いくぞ?」
「え、えっ!? 本気でこれを引くの?」
「今なら大丈夫だ。物凄く軽くなっているから」
ランがロープを引っ張ると、乗り物がスーッと移動してくる。
「おお!? すごい、これならいけるかも!」
「よし、いくぞ。走れ!」
ランと並び、全力で走る。
時速で言えば60キロメートルは出ているだろうか。
初めからこうやっていれば良かった。そうだ! 魔法もあるし、鉄道事業なんか良さそうだな。
魔法の力で水蒸気機関車か……やれないことはなさそうだ。
何で今まで乗り物を思い付かなかったんだろうか。
ミリアやファラと、イチャイチャしながら旅をするのが、新鮮で楽しかったからか?
今となっては人数も増えたし、乗り物を使ってドライブするのも良いかもしれないな。
そんな事を考えながら走っていると、一時間もしない内に通路の突き当たりに到着した。
体を強化しているだけあって、あまり疲れていないが、乗り物を浮かせていたので魔力消費は凄いな……。
でも、これで時間短縮出来たと考えれば安い代償だ。
「これは面白い乗り物じゃな。人力じゃが……」
「この手法は実生活にも何か使えそうですね」
「風の力を使えば良かったのでは?」
ミリアやソシエ、ジジイが何やら思い付いたみたいだが、それは今度考えよう。
「よし。こんなダンジョン、さっさと出るぞ」
「はーい」
皆で手を繋いでダンジョンを出る。




