第11話 集団戦闘
ひたすら薬草を見つけてはインベントリに入れ、見つけた兎を狩っていく。
「何でそんなに薬草の生えている位置が分かるんですか?」
「勘だよ、勘」
そうやって誤魔化しながら、緑点を目印に森の先へ進んでいると、前方の方に茶色い生物が現れる。これが猪か。
「猪です! 突進してくるので気を付けてください!」
そう聞いた頃には、もう走ってきていた。
意外に速いな。あぁ、この方向だとミリアにぶつかるなぁ。
……なんて考えている場合じゃなかった! ミリアを守らないと! そう思い、ミリアと猪の前に出る。
ガシィ!
ひとまず正面から牙を受け止めた。そのままナイフで刺すと、一撃で倒せたようだ。ズシンと血を流しながら猪が倒れる。
「なっ! 正面から受け止めるなんて、突き飛ばされたらどうするつもりだったんですか!」
「だって、あいつミリアを狙ってたじゃん。ミリアに傷なんて付けられたら嫌だもん」
お、また赤くなった。照れてるな。しかも守られたこともあり何も言えないって顔だ。
「で、でも! も! あぁぁーっ!」
足を地面にダンダンってやってる。照れを隠すプラス、説教したいけどできない感じだな。うん、分かってきた。
「ミリア」
「も、もう! なんですかっ!」
「照れてるミリアもかわいいよ」
真っ赤になって口をパクパクさせている。後一押しか。
ここでナデナデなんかしたら頭がショートするだろうな。
ミリアの事がだんだん分かってきたけど、今は悪戯できる状況ではないし、辞めておこう。
そんなミリアを観察しながら、HPを確認する。
HP:340(240+100)
あれは受け止めただけだから、ダメージがないのか?
とりあえず確認が終わったので、猪をインベントリに入れようとしたら、前方の方から獣の咆哮が聞こえた。
――ヲォォォオォオォォォォン!
「もしかして……」
「あ、あぁ、に、逃げましょう!」
俺のジャージの裾を摘まんで、そんな事を言っているミリアの顔からは血の気が引いている。
もしかして、猪の血の匂いに寄ってきたのか? 倒してすぐインベントリに入れておけば良かった。
ひとまずミリアを抱え、走り出すことにした。
マップではこのまま走れば森から出られるはずだ。
「ちょっと! 自分で走れます、走れますから!」
「いや、この方が速いから、少しだけ我慢してね」
荷物みたいに小脇に抱えてるけど、本当はお姫様抱っこでもしたかったんだよ。でもナイフ持ってたから、ごめんね。
そうやって全速力で走っていたのだが、いつの間にか目の前に回り込まれていたようで、一匹飛び掛かってきた。
「きゃ、きゃぁああ」
「よっと!」
左に避け、持っていたナイフで狼の側面を勢いよく斬り裂く。
しかし、更に正面にまた二匹待機しており、そのまま同時に飛び掛かってきた。
くるっとステップを踏んで、一匹を背中で受け止め、さっきと同じようにもう一匹の側面を斬り裂く。
そのまま回転して、背中の一匹も斬り裂く。
背中で受け止めた際、左肩に噛みつかれたが、ちょっと痛い程度だ。
大丈夫だろうが、念の為HPを確認する。
HP:320(240+100)
一発大きいのをもらって20程度か。俺で20だから、防御力が俺の四分の一もないミリアが喰らったら瀕死だな。もしかしたら即死かもしれない。
これはまずいと判断し、すぐに走り出そうとしたが、前から二匹、後ろに二匹、左に二匹出てきた。
仕方がないので、方向を変えて右側に走り出す。
暫く走ると、一本の大きな木がある広場に出た。
走っている間襲ってこなかったのは、ここに追い込む為だったのか? 流石、集団で狩りを行うだけのことはある。
ミリアを木の傍に下ろし、狼共の正面に向き直る。
「ど、どうしましょう……あ! 肩! 肩から血が!」
「ああ、これは大丈夫だよ。それよりミリア、怪我はない?」
「私は大丈夫です。何もしていないので……」
「それなら良かった。ちょっと戦うから、そこから動かないでね」
しまったなぁ。ミリアに武器を持たせておくか、魔法を覚えさせておくべきだったな。
俺のステータスが高いからなのか、相手の動きは全て目で追えるけど、俺だけで守り通せるか分からない。
仲間三匹が一撃で倒されたことに警戒しているのか、狼が足を止めた。
再度数えてみると、七匹に増えているようだ。まずいな……。
一匹だけ、色が黒くて少し大きな奴が居る。あいつがリーダーか?
あいつを倒したら、他の奴ら逃げ――まぁ、無理だろうな。
それよりも、全部で十匹も居たのか。一斉に襲い掛かってこられていたら危なかったな。
今は背後に木があるから正面だけに集中できる。
ただ、時間を掛けると連携してくるだろうから、速攻だな。
そう判断して、狼共に走り寄る。それに反応して、狼が左に二匹、正面に三匹、右に二匹に分かれる。
なるほど。正面に行ったら左右から、右に行ったら左から、左に行ったら右から襲うって感じか。
左右どちらかを狩ろうとしたら、反対側の狼と距離が空いてしまう。そしたらミリアが狙われる危険性がある。それはまずい。
仕方ない。肉を切らせて骨を断つ、だ!
まとめて相手してやる!
そう思い、一気に詰め寄る。すると、やはり左右の四匹が走ってきた。
バックステップで少しフェイントを入れて、四匹飛び掛かってきたところで、左に移動し、一番近い一匹を狩る。
そのまま、右から飛んできた一匹を狩ったところで、残りの二匹には噛み付けと言わんばかりに、わざと左手と左足を出す。
――ガアッ!
よし、うまい具合に噛みついてきてくれた!
そのまま噛みついている2匹の横腹にそれぞれナイフを突き刺す。
(HPは大丈夫か?)
HP:216(240+100)
おいおい、さっきよりダメージ大きいじゃないか。
攻撃される部位によってダメージが違うのか? それとも疲労度が関係してるとか?
まぁ、良い。残り三匹だ。
狼を見ると、じりじりと左右に一匹ずつ移動している。
少し距離があるな、これ以上離れるとミリアに矛先が向かう可能性がある。
そう思い、ジャージを破れているところから引きちぎり、左手に巻き付けながら、ミリアに走っても間に合う距離まで移動しようと、数歩下がる。
俺が下がった事に勝機を見たのか、そこで襲い掛かってきた。今度は三匹同時だ。
しかし動きは見えているので、素早く正面に走り出し、左手の狼の口の中にジャージを巻き付けた左手をぶち込み、正面の狼を斬り付ける。
そして左手に噛みついている狼を刺し、最後に右足に噛み付いた狼にトドメを刺した。
ふう……何とかなったな。HPは大丈夫か?
HP:104(240+50)
何とか大丈夫なようだ。
安心して座り込む。
「わあぁあぁぁん!」
ミリアが泣き叫びながら飛び込んできた。
「よかっだぁぁ! わあぁぁん! わだ、し、私!」
飛び込んできたミリアを左手で抱き寄せ、右手でナデナデしてあげる。
「大丈夫、大丈夫だから。ね?」
「でもぉ! わあぁん! こ、こわ、がったよぉぉ!」
ひとしきり泣いた後、すんすん、と鼻を啜り始めたので、ミリアをくるんっと回転させ俺の膝の上に乗せ、頭をポンポンしてやりながら落ち着かせてあげる。
「怖かった、です。戦っているのを見ることしかできなくて。タカシさんが食べられてしまったらどうしようって……」
「ちゃんと戦えてたでしょ? 大丈夫だよ。俺もミリアも生きてるから」
ミリアはまだ震えている。よほど怖かったのだろう。また泣き出しそうだ。
「そうじゃないです! そういうのじゃないんです! タカシさんが傷付いていく姿を見ることしか……何もできなかった」
「惚れた?」
ビクっとした後、俯いてしまった。
「こういう時に、そういうこと言うのは反則です。惚れてはないんですけど、恰好は……良かったです」
惚れてないかー。でもこれはかなりミリアポイントを稼いだイベントではあったな。好感触だ。
「私にもっと力があればって思いました」
「まだ駆け出しなんだから、今は仕方ないよ。これからがんばろうな?」
そう、今日はパーティーを組んで初日。
俺達の冒険はまだ始まったばかりだ!