第15話 シュスルスボス
翌朝、周りで何かを話している声に気が付き、目覚めると皆既に起きていた。
「あ、タカシさん。おはようございます」
「おう、皆おはよう」
目が覚めたのは俺が最後だったようで、皆は既に着替えまで終わっていた。
いつも起こさないと目が覚めないファラでさえ既に起きており、皆の気合いの入り方に驚く。
「お前達、どうしたんだよ。気合い入れすぎじゃないか?」
意味が分からない。あの土竜野郎相手だと、気合いが入るのか?
何かレアなアイテムをドロップをするとか、報酬が大きいとか、そういうメリットでもあるのだろうか。
「アースドラゴンだと、何か良いことがあるのか?」
「うーん、アイテムは魅力的ですけど、特に何もないですよ?」
「だよな。俺にはトカゲ程度にしか見えないし」
ミリアはいつも通りのようだ。
「たか、お、お兄ちゃんは、分かってないなぁ。ドラゴンを倒せるかもしれないんだよ? すごいことだよ」
何か、ランに“分かってないな”などと言われると腹が立つな。
「意味が分からんぞ。お前達、昨日の夜までは、こんなテンションじゃなかっただろう? 俺が寝ている間に何があったんだよ!」
「ボス! マリー姉やルリア姉が言ってたんだよ、ドラゴンなんて滅多に見る事ができないし、一度に三匹を相手にするなんてこと、勇者のパーティーくらいしかできないだろうって!」
「ボスだったら出来るんでしょ!? ってことは、アタシ達、勇者のパーティーと同等じゃん!」
「そうですよ、タカシ殿。剣聖であるボクの父ですら、ドラゴンを相手にするのは面倒だ。と言っていたくらいですから!」
「ですです。タカシ様ですから!」
また、マリーが元凶か。
「ファラも気合い入ってるのか?」
「別に。ただ、早くここから出たい」
「もうダンジョンが嫌になったのか?」
「マルカに。お菓子の作り方を聞いた。でも材料がないから、早く買いに行きたい」
あぁ……そういうことね。本当マイペースだな。
「ミリアは落ち着いているみたいだな」
「はい。一度戦っていますし。あの時の調子から推測するに、三体でも普通に戦えるかと」
「だよな。ただ、前回は防御力の低いメンバーが、攻撃を食らっていなかったから余裕に見えただけで、三体だと正直キツイぞ」
「だからこそ、タカシさんが作戦を考えてくれたんですよね?」
「まぁ、そうだが……」
これは、信頼されていると思って良いのだろうか。
ミリアから信頼されているような発言を貰えるとかなり嬉しい。
「とりあえず、飯でも食べようか。もう、マルカとミュウが朝食を用意してくれているんだろう?」
「はい。さっき手伝おうと見に行ったら、断られましたから」
「そっか。まぁ、あいつらはあっちが本職だからな。よし、お前達朝食を食べに行くぞ」
「ん」
「はい!」
「はーい」
「承知しました」
「「あい、ボス!」」
こうやって、皆揃ってゾロゾロと部屋から出て行くのは、初めてではないだろうか。それだけでも、気合いの入り方が分かる。
力み過ぎて、何か失敗などしなければ良いが……。
リビングに行くと、アバンとサラは既に椅子に座っていた。
こいつらもかよ……。
「おや、タカシ様。おはようございます」
「タカシさん、おはよう」
「あぁ、おはよう。今日は早いですね」
「それはもう。ボス戦ですから」
「私は、今回が初めてのダンジョンですから」
そこにマルカとミュウが、食事を持ってきた。
「タカシしゃま! お、おひゃ、おはよござます!」
「だんな、さま。おは、よう、ござい、ます」
「おお! ミュウ、良くできたな! 偉いぞー! おはよう!」
「ミュウちゃんがんばったね!」
「ふ、ふんっ!」
まだまだぎこちなくではあるが、マルカの指導もあり、ミュウがちゃんと挨拶を出来るようになってきた。
さすが自称天才ミュウだな。頭を撫でても、振り払われないし、これだけでも大きな成長だ!
まぁ、外に出たらエロ魔王扱いになるのだろうが……。
「きょきょ、きょ、今日は、まとい、足手まといににゃらにゃよ、がばりましゅ!」
「しっかり尽くしてやるです」
「お、おう。よろしくな」
それにしても……ミリアとファラ以外盛り上がりすぎだろう。
そのまま皆席に着き、朝食を摂る。
食事中には、皆、ドラゴンシリーズはレアアイテムを持っているかもしれない、素材で良い装備が作れるなど、食べている間も、皆土竜の話で持ち切りだ。
「ミリア、どんなアイテムをドロップするか分かるか?」
「どろっぷ? 分からないです。普通なら素材が高値で売れたり、竜玉が入手出来たりします」
「りゅうぎょくって? 何だそれ、宝石か何か?」
「ドラゴン系は、体内で余分な魔力を固める習性があるんですよ。個体差はありますが、大きさによっては、すごい価値があります」
余分な魔力を固めて玉にするって……胆石みたいなものか?
でも高く売れるのであれば、手に入れたいな。
「それに、ダンジョンですからね。マジックアイテムを持っている可能性があるから、皆盛り上がっているのかと」
「そうか。ミリアはマジックアイテムに興味はないのか?」
「ありますよ? でも、タカシさんが貰うでしょ?」
「あぁ、そういうことか。別に、全部俺が貰うわけではないぞ? ミュウみたいに用途に合わせて、皆に使ってもらうつもりだし」
「じゃあ、魔力を上げるようなアイテムだったらくださねっ!」
「おう、約束しよう」
「えへへ。やった!」
嬉しそうだな。こういう無邪気なミリアは久し振りだ。
もっとこういう笑顔を見られるよう、頑張ろう。
そんな会話をしていたら、いつの間にか食事も終わっていた。
マルカとミュウも後片付けに入っていたので、作戦のおさらいをしておく。
作戦は昨日の通りだ。
まずはパルとパロに任せ、アバンとルリアに特攻を掛けさせる。次いで、ランとミュウ。そこを遠距離組に援護させる。
ファラとマルカには回復役を頼み、俺は様子を見ながら、基本的には最前線で交戦する。
皆も何度か説明した作戦なだけあって、すぐに理解してくれる。
質問等もなく、後片付けが終わったので出発の合図を出す。
「よし! それじゃあ、サクっと倒しに行くか!」
「はい!」
「ん」
「はいです!」
「おーう!」
「尽力します!」
「はわわ……」
「やってやるです!」
「頑張りますね!」
「よっしゃー!」
「やるよー!」
「がんばりましょう!」
危険な場合は戻ってくるかもしれないので、家はそのままにし、皆勢いよく家を飛び出して、ボス討伐に向けて出発する。
気合いが入っている空気を読んでか、ボスの周辺だからなのか、モンスターが全く現れない。
これは無駄な消費が無くて助かるな。
嵐の前の静けさでなければ良いが。
土竜の穴であろう付近まで数回の戦闘だけで済んだ。
ここからが本番だ。
「パル、パロ。先発は任せたぞ?」
「がってん!」
「まかせてよ、ボス!」
土竜は地上に出て来ていないようなので、パルとパロにスキルを使い隠れた状態で先に行かせる。
先に、パロの方に神心で会話できるように準備しておいたので、罠を張り終わったら教えてもらう算段だ。
「アバンさん、ルリア、二人とも用意しておいてくれ。あと、ランとミュウもいつでも行けるようにしておけよ?」
「分かりました」
「承知しました」
「はーい」
「わ、わわ、わかりやがりますでしたですよ」
緊張しているのが、見ずとも分かるくらい言葉がおかしい。
数日前まで、ただの幼女だったからな……それが今となっては、最前線で戦う戦士扱いだ。そりゃあ緊張もするよな。
「ミュウ、大丈夫か?」
「だ、だいじょうぶですかもしれやがるです」
ダメだ。
ミュウを引き寄せ、強く抱きしめる。
「わぷっ!?」
「大丈夫だ。天才のミュウなら何だってできる。戦いが始まったら俺が何とかしてやるから、お前はアバンさんの横で好きに動け」
「……パパ……」
「うん? 何か言ったか?」
「はっ!? な、何でもないですっ! やってやるですよ! この天才のみゅに敵う相手なんていやがりませんですよ!」
「おう、その調子だ! 頼んだぞ!」
あそこで“パパ”は反則だろう……。思わず、聞こえない振りをしてしまった。
ミュウは、俺の娘であってもおかしくはない年齢だしな……。
その場合、俺は学生結婚をしていることになるが。まぁ、それでミュウのやる気が出てくれるのなら良い。
――――ボス! 準備できたよ!
――そうか。お前達は少し離れて待機な。もしドラゴンが出てきたら、再度穴に罠を仕掛けろ。
――――分かったよー!
――罠を仕掛け直したら、俺が指示するまで離れて待機。
――――はーい!
「準備出来たらしい。さぁ、行こうか!」
「それでは行きます!」
「参ります!」
アバンとルリアが駆け出す。
「おおおおおおおおお!」
「たああああああああ!」
これだけ大声を出しながら二人が走って行けば、土竜も反応して出てくるだろう。
「よし、ラン、ミュウ、行け!」
「「わああああああ!」」
更に二人にも出来るだけ大きな音を出させながら、向かわせる。
すると、三つ並んだ穴から轟音が重なって二つほど聞こえた。
どうやら二匹の土竜が出てきたと同時に罠に掛かったようだ。
「ギャアアオオオオッ!」
「ガガアアアアアアッ!」
「二匹か。よし、俺達も行くぞ!」
「「はい!」」
「わかった」
「はいです!」
「あうあう」
前方では、既にアバンとルリアがそれぞれを挑発して、引き離しながら攻撃を加えている。
二匹が左右に少し離れたところで、ランとミュウが土竜の横腹に斬り掛かる形がうまく決まった。
よし!
「ミリア、サラ、前衛に当たらないよう土魔法で鱗を剥げ!」
「「はい!」」
「マリーは精霊と協力して、剥げた鱗の部分を集中して攻撃だ!」
「はいです!」
「ファラとマルカは前衛に回復だ。暫くは俺が護衛する!」
「わかった!」
「ひゃい!」
穴の向こう側を見ると、パルとパロが再度罠を仕掛けているのが見える。
ただ、ライフポーションを飲みながらありったけのHPを使って罠を仕掛けるよう指示したので、少し時間が掛かっているようだ。
でも、これで土竜共が逃げる際、更なる大ダメージを受ける事は間違いないだろう。
パルとパロには、再度罠を張った後、隠れたまま離れておくよう指示しているので、危険も少ないはずだ。
アバンやルリアが何発か食らっているが、ステータスを見る限りまだ耐えられそうだ。
ファラとマルカの回復もあるし、このまま押し切れるだろう。
あとは倒すだけだな。
「頑張れお前達! 良い感じだぞ!」
念の為、土竜共の間に転移し、ミリア達と同じく土竜に土魔法で作った岩を射出し、鱗を剥ぐ作業を行う。
その時、後方でもう一つ轟音がした。
「グギャアアオオッ!」
――――ボス! デカいのきた! やばい!
パロから会話がきたが、雄叫びが聞こえるので、それだけでもう一匹出てきたことが分かる。
――罠はどうだ!?
――――設置したよ!
――よし、お前達は離れろ! その状態じゃ危険だ!
――――はいっ!
今のパルとパロではHPが心許ないので、逃げさせておく。
次いで、パロとの神心を解除し、ミリアに話し掛ける。
――ミリア! 聞こえるか!
――――はい! 聞こえます!
――そっちの二匹の指揮は任せるぞ?
――――えっ!? はい、あと一匹は!?
――タイミングが悪い。俺が連れて行く。
三匹同時に出てきたのであれば、戦力を分散させることができたが、現状ではHPの少ないパルとパロしか居ない。
ここで相手をしても良いが、折角連携が取れているのに、それが崩れてしまう。一匹だけ別に戦おう。
――――連れて行くって何ですか!? どこに、どうやって!?
――こう、やるんだよ!
神脚でゼロ距離まで移動し、土竜に触れ、再度神脚を使って今朝使っていた家まで飛ぶ。
――――なっ!? 消えました!?
――そっちは頼んだぞ! こっちは俺が何とかする。
――――ちょっと! 一人で大丈夫なんですか!?
――パルやパロが死ぬよりは良い。
――――無茶な事しないでくださいっ!
――大丈夫だ。危なくなったら逃げるし。そっちも誰か危なくなったら教えてくれ。
――――もうっ!
余裕がないのだろう。心の声が漏れていない。
こっちも余裕がなくなりそうなので、神心をミリアと繋いだまま土竜と相対する。
「バインド!」
「ガアアアアアアッ!」
土竜を地面に貼り付け、マナポーションを飲みつつ、極大の岩を土竜の体目掛けて速射する。
「ギャアアアオオオオッ!」
バインドが解け、地面に潜ろうとしたので、空間魔術で浮かせ、少し離れた場所に叩き付ける。
「グオオオオアアアアッ!」
更に岩を何発も同じ場所にぶつけて、鱗を剥ぐ。
続けて、鱗が剥げたところに風の刃を使い、肉を切り刻む。
「グガアアアッ!」
そこで逃げられない事を悟ったのか、勢いよく突進してきた。
「おっと!」
その突撃を、闘牛士よろしく、華麗なステップで避けた。
……つもりだった。
「シャアアッ!」
土竜が突進後、すれ違いざまに急ブレーキを掛け、横薙ぎに爪を振り、直撃を受けて吹き飛ばされてしまう。
「ぐあああっ」
飛ばされた先には自分の作った家があり、激突する。
「がっはっ……いってぇぇ……くそっ。調子に乗りすぎた……」
当然待ってくれるような相手ではなく、追撃を仕掛けてくる。
「ガアアアアッ!」
「くっそ、待て! ちょっと待て! うぇいと!」
神脚を使い、反対方向に逃げ、何発もの岩を射出する。
「あんま調子に乗んなよ!? 乗ったのは俺だけど」
「グガガアアアッ!?」
「分かってるって、そう怒るなよ。とりあえず諦めてくれ、な!」
幾重にも風と土の合成魔法を使い、鱗を削ぎ落とす。
もう攻撃を受けたくなかったので、突進は神脚で逃げ、離れたところから魔法で攻撃。
その繰り返しをしていると、土竜がまた逃げようとする。
すかさず接近し、再度空間魔術で持ち上げ、地面に叩き付ける。
「いい加減倒れろよ!」
「ギャアアアガアアア!」
良い感じに鱗が剥げてきたので、また風魔法を使い切り刻む。
もうこの流れが一連の作業になってきて、慣れた。
「グガ、グガガ……ガアアア!」
土竜はまだ諦めていないようで、突進してくる。
「おい、もう良いだろう?」
突進を神脚を使って避ける。
そして、作業を繰り返す為、土竜の方に手をかざした時、地面が揺れたのでそちらに気を取られてしまう。
「ちょ、え、何、地震!? お前がやったのかっ!?」
まさかと思い、土竜の方を見ると、既に突進をしてきていた。
それを避けようと力を足に魔力を込め、神脚を使おうとした時、突然肩に痛みを感じる。
「いってえええええええっ!?」
肩を見ると、土竜の爪が刺さっていた。
「え、何!? え!? いってえ!」
土竜はまだ突進してきている最中だ。どうやって爪が!?
分からない……とりあえず、神脚で反対側に逃げる。
「ちくしょう、いてぇ」
攻撃を中断し、ひとまず治癒で傷口を塞ぐ。
地面が揺れている間に、何があったんだよ……。
魔法か? 爪を飛ばす魔法? 訳が分からない。
――ミリア、そいつ爪を飛ばすかもしれない……アバンさんやルリア達近接には、出来るだけ距離を取らず、すぐ倒すように伝えてくれ。
――――はい! タカシさんは大丈夫ですか?
――あぁ、肩に穴が開いちゃったけど、大丈夫だ。
――――ええええっ!? ちょっと、大丈夫じゃないじゃないですか! え、やだ。ほんと、うそ、だめ、いたい、しんじゃう!?
――すぐ治癒したから大丈夫だ。それより、お前等の方が心配だ。可能な限り速攻を掛けろ。
――――わ、分かりました! タカシさんも無理しないで、帰ってきてくださいよ!? だめだよ、やだよ、死んじゃ……。
――分かった。もう少しで戻る。
ミリアに心配してもらうために、わざと大げさに言ってみたが、ちょっと心配させすぎて後悔した。
「お前のせいだからなっ!」
「グガアアアアアアッ!」
「人のせい、モグラのせいにするなって? そりゃあそうだよな。とりあえず、ミリアに慰めてもらいたいから、終わらせるぞ!」
「ガガガアアアッ!」
良い具合に鱗も剥げ、肉も切り刻んだので、大きく魔力を込め、土竜の傷口に向かって火魔術を使う。
「ギャアアアアアアアアアアッ!」
「おらおら、食らえ! もう終われ!」
土竜の左右に移動しながら、連続して燃やしていく。
「ガガ、グガ、ガアアッ!」
「もう良いだろう、楽になれよ!」
槍状に尖らせた岩も各所に刺し、攻撃を続ける。
「ギャガ、ガア、グガガ……」
次第に土竜の動きが弱々しくなり、倒れる。
「やっとかよ……」
動かなくなったので、トドメに、開いた口の中に魔力を凝縮した火魔術を撃ち込み終わらせる。
「はぁ……。疲れた……」
本当に倒せたのか心配だったので、回収しておく。
インベントリにアイテムが入ったので、間違いなく倒せているだろう。終わった……。
その場に座り込む。
かなりMPを消費してしまった。まだ徐々に回復しているから、今マナポーションを飲んでも意味がないだろう。
「ふぅ……」
ミリア達が心配なので、息を整える程度の休憩後、転移で戻る。
「タカシさん! 肩! 肩、大丈夫ですか!?」
「あぁ、ちょっと痛い程度だ。お、それより終わったのか……?」
「はい! アバンさんとルリアさん、すごかったですよ!」
「あら、タカシさん? おかえりなさい。こっちは終わったわよ。どうかしら、私もちゃんと戦えたわよ?」
「おう、頑張ったみたいだな。お疲れ様」
「タカシ様! 私も! 私も頑張りました!」
「マリーも偉いぞ」
前方の方では、近接組がランの周りに集まっていた。
そうか、アイテムはランが回収したのか。
「何か良さそうなアイテム出たか?」
「ランさんが回収したみたいなので、まだ見ていないです」
「そうか。それにしても、疲れた。少し休憩しようぜ」
「そうですね。タカシさんは一人でしたし、少し休んでからコアを探しましょうか」
「おう、そうしよう」
椅子とテーブルを作り、休憩の準備をする。
とりあえずは休憩だ……。




