第14話 作戦
今日の目的は例の木がある所に到着することだ。
一つ山を越えるが、そんなに高くない山だし問題ないだろう。
それに、昨日逃した土竜は地下に潜って逃げていった。さすがに森より高い位置にある山まで、穴を掘っては来ないだろう。
昨晩、皆のステータスを更新したから、とりあえずはそれぞれに戦ってもらい、現在の能力に感覚を合わせてもらうことが重要だ。
特にアバンは、攻撃力が何倍も強くなった。数字だけを見れば、このレイドパーティーの中では一番だろう。
何年もの間培ってきた戦闘スタイルでは持て余すかもしれない。
今日の主軸はアバンにするべきだろうな。
それに、ランが先行して、それにパルとパロが合わせ、ミュウは別行動という感じになっているから、何とかしたいところだ。
「皆、今日はアバンさんを中心にして戦うぞ。ランとパル、パロ、ミュウは連携できるようにお互いを意識して戦ってくれ」
「お任せください」
「はーい」
「おっけー、ボス!」
「やるよー、ボス!」
「ふん、みゅに頑張って合わせるです」
こいつら、いつも返事だけは良いんだよな。
後はルリアだが、どうしたものか。マルカとセットで行動させるというのも良いかもしれないな。
「ルリアとマルカは、二人で行動してくれ。あいつらがダメージを受けたら、ルリアがマルカを守りながら近付いて、回復だ」
「承知しました」
「ひゃいです!」
「タカシさん、私達はどうすれば良いですか?」
「うーん、ミリア達の魔法は強すぎて、モンスターを一撃で倒してしまうから、あいつらの練習にならないんだよ。基本は魔法の練習をして、危険な時だけフォローしてやってくれ」
「分かりました」
そういえば、ファラには賢聖になってもらうとつもりだったが、まだ錬金を覚えていないので、この機会に教えておくか。
「ファラは俺と練習な」
「ん」
「タカシさん、ファラだけずるいです」
「タカシさん、ファラちゃんだけなの? 私にも何か教えて欲しいのですけれど」
「ミリアとサラには昨日教えただろ? 仲間外れは可哀想だから、それと全く同じことをファラに教えるだけだぞ?」
「あぅ……」
「うぅ、そうなのね。じゃあ、何も言えないわ……」
ミリアとサラは、こういうことには素直だから対応が楽だ。
「タカシ様! 私は!? 私は教えてもらっていないですよ!」
そうだ。マリーは、精霊魔法が使えるようになったから、模倣で覚えた初級火魔術が無駄になったんだよな。どうしたものか……。
「お前は、ミリアから治癒と治療を教えてもらってくれ」
「あの、タカシ様は……教えてくださらないのですか……?」
「なんだ、ミリアじゃ不満か?」
「いえいえいえいえ、そんな! 十分です! です!」
「じゃあ、ミリア、よろしく頼むな」
「分かりました……」
とりあえずは、皆の行動を決めたところで、早々にコボルト等のモンスターが現れる。
その戦闘を後ろから眺めていると、アバンが的確な指示を出してくれているので、ランやミュウは自分の思うように戦えなくて窮屈そうではあるが、皆連携の取れた戦い方が出来ているようだ。
アバンを中心にして良かった。流石、一国の騎士団を束ねているだけはあるな。頼りになる。
「タカシ、何すればいい?」
「おお、すまんすまん。ちょっと待ってな」
前線の動きに気を取られていて、ファラの事を忘れていた。
ファラに錬金を教えるため、地面から三種類の物質だけ抽出し、それをランダムにかきまぜて固めた物をファラに渡す。
「なにこれ、どろだんご? おままごと?」
「おう、泥団子だ。この団子はな、三種類の泥でできているんだ。この団子に魔力を流して、三種類の泥に分けてみてくれ」
「わかった」
まさか、ファラの口から“おままごと”という単語が出てくるとは思わず、驚いてしまった。いや、ギャップに興奮してしまった。
しかも首を傾げながらのキョトンとした“おままごと”だ。
破壊力が違うな……。
「ミリア、おままごとって言ってみてくれ」
「え? おままごと?」
うぅ、これも可愛いな。ミリアとお医者さんごっこをしたい。
「サラ、おままごとって言ってみてくれ」
「おままごと?」
これは違うな。
純粋なおままごとのはずが、大人のおままごとに早変わりだ。
「マリー、おままごとって言ってみてくれ」
「おままごと。これでいいですか?」
「いや、もうどうでもいいや」
「うぅ、ひどいです」
そんなバカな事をやっている間に、ファラが鎧をつついてきた。どうやら、団子の分解処理が終わったようだ。
「タカシ、これでいい?」
「おう、上出来だ! よし、次は五種類な!」
「わかった」
そう言って、今度は三種類団子に選んだ物質とは違う物質を五種集めて作った団子をファラに渡す。
「タカシさん、本当に私達に教えている魔法と同じなんですか? 団子を壊して遊んでいるようにしか見えませんけど……」
「同じ事を教えるって言っていたけれど、明らかに違うじゃない」
「ファラにはこれで良いんだよ。おままごとだ、おままごと」
「何か釈然としないというか……」
「納得できないわね……」
使徒の有無で教える手間などの効率が違うんだよ。とは言えないので、適当に答えておく。
ミリアとサラは納得できないようだが、この教え方で間違ってはいないはずだ。
「タカシ、できた」
「お、もうコツを掴んだのか。早いな。じゃあ、次は七つな」
「分かった」
二人と会話している間に、団子を五種類に分ける作業が終了したようなので、七種団子を作って渡す。
「私も、ファラちゃんと同じ事をやってみて良いかしら?」
「いいぞ。ほれ」
ファラから受け取った五種団子を再度ランダムに固めて、渡す。
「タカシさん、私もやってみたいです」
「分かったよ。ちょっと待ってろ」
地面から更に五種団子を作って、ミリアにも渡してあげる。
「むぅ、これは……難しいわね……」
「うぅ、でも、できないことは、ないです……」
マリーも乗ってくるかと思い見てみると、集中して治癒の練習をしていたので、そっとしておく。勉強熱心なのは良いことだ。
「タカシ、できたよ」
「お、偉いぞ。じゃあ次はこれな」
今度は地面から七種団子の物質と、色々な不純物を混ぜた多種の団子を渡す。分解はできたので、次は抽出と生成だ。
「今分解した七種をこの中から見つけ、七種の団子を作ってくれ」
「わかった」
「「タカシさん、できました」」
ファラに新しい課題を渡したところで、ミリアとサラも、同時に分解が終わったようだ。それぞれ分解したモノを持ってくる。
「うん、ちゃんと出来ているな。昨日教えた甲斐があったよ」
「えへへ……」
「うふふ……」
二人の頭を撫でてやる。
ただの負けず嫌いからファラに対抗しているだけの二人だけど、嬉しそうな顔を見ると幸せな気分になってくる。
「タカシ、できたよ。これでいい?」
「おおう、早いな。どれどれ」
ちゃんと出来ている。驚いた……早過ぎだろう。
それにファラのステータスを見ると、ちゃんと模倣が初級錬金魔術に変わっている。
これなら、俺と同じ魔法が使えるはずだ。
――ファラ、この声が聞こえるか? 聞こえるのなら、額に魔力を集中して、頭の中で喋ってみろ。
今、口頭で魔法の使い方を説明すると、ミリアとサラがずるいと言ってくる可能性があるので、神心で教えることにする。
――――こう? 聞こえる? これでいいのかな……。
――おう、聞こえるぞ。今から教える事をやってみてくれ。
――――うん。何を教えてくれるのかな……タカシ、喜んでくれるかな……。撫でて貰えるかな……。
――まず、作った玉七つを空間魔術で浮かせて、次に玉の内側から火魔術で燃やす。最後に、全て燃えたら空間魔術で目標に向かって飛ばすだけだ。やってみろ。
――――分かった。えっと……浮かせて、燃やして、飛ばす……。
ファラが玉をポイっと投げ、浮かせた後、七色に燃やす。
「えぇ!?」
「ちょっと、何で!?」
その光景を見ていたミリアとサラが驚いている。
「ファラ、どれが何色に燃えるか覚えたか?」
「だいたい」
「そっか、偉いぞ!」
撫でて欲しかったようなので、抱き上げてから撫でてあげる。
「ちょ、タカシさん! 何でファラが使えるんですか!?」
「そうよ! 私達、まだ使えないのに! 何でファラちゃんだけ、数分で使えるようになったの!?」
当然こうなるよな。でも、それに対する答えは既に考えておいたので、問題はない。
「そりゃあ、ファラは俺専用“性”奴隷だからな。俺から受け取ることのできる恩恵の量が、お前達とは桁が違うんだよ」
「そんな……不公平よ……」
「そうです、そんなの聞いてないです……」
もっと新しい魔法などを覚えたいのであれば、こう答えることでもっと俺に尽くしてくれるだろう。
抱き上げていたファラを下ろして、頭を撫でながら、更に後押ししておく。
「ファラは俺をいつも、身体的にも精神的にも、満足させてくれているからな。この程度普通だと思うぞ?」
「うぅ……ファラずるい……」
「え、あれ以上のことをするっていうの……? そんな……」
ショックを受けている二人を放置して、いつでも使えるように、ファラに次の段階を教える。
「ファラ、地面に手を付いて、今から俺が指示した色を生成して、そこの木にぶつけてみてくれ」
「分かった」
適当な順で色を伝え、ファラに練習をさせる。
何度か間違えたが、何回もやっている内に覚えたらしい。ミスをしなくなったところで練習を終了させる。
「良く出来たな。これでもう、いつでも使えるな!」
「タカシのおかげ」
ファラを撫でながら、ミリアとサラを見てみると、目が合った。すぐに使えるようになったファラが羨ましいのだろう。
ただ、ミリアもサラも空間魔術と錬金魔術を覚えないことには、この魔法は使えないので、すぐに教えることはできない。
申し訳ないが、練習して習得してもらう他ないな。
「お前達には出来る限りの事はしたはずだから、後は練習だ」
「うぅ……いいなぁ……」
「はい……がんばるわ……」
魔法の練習をしている間に山を登り終え、後は下山するだけだ。
前衛の皆もアバンの指示に対して、しっかり動けるようになっているので、慣れたのだろう。問題なさそうだ。
近距離はアバン、遠距離は俺、という感じに、うまく役割分担が出来て良かった。
ミリアの失言のお陰でもあるな。じっくりお仕置きしてやろう。
「タカシさん、見えてきましたよ。あれが先日言っていた木です」
「おぉ、あれか。明らかにおかしいな。どれ見てみるか。千里眼」
ミリアの可愛いお尻を見ながら歩いていると、木の方角を教えてくれたので、そこに向かって千里眼を使い確認をする。
「どうですか? 何か見えますか?」
「うーん、何か黒いモノが三つ地面に……ん? あれは、穴か? 穴だな……そういうことか。でも三つ……」
「何があるんです? 穴? 三つ?」
あの穴は、昨日の土竜が掘ったものだろう。ということは、あの土竜がボスである可能性が高いな。
でも、三つか……三匹相手にするのは少々厄介だな。
遊撃兼、回復を担当させているマルカは、防御重視のステータスだから良いとして、ルリアは連続で三発も攻撃を受けてしまうと、とても耐えられるものではないだろう。恐らく、死ぬ。
それと、アバンもそうだ。今は日頃から鍛錬しているだけあり、モンスターの攻撃を受けないから攻撃力特化にしている。もし攻撃を受けてしまったら危ない。
俺以外の遠距離担当だって、そうだ。皆、アバンの三分の一程度しか防御力がない。これも危険だな。
少し作戦会議を行う必要がある。
「ミリア、予想通り、あそこにボスが居るようだ」
「本当ですか!?」
「あぁ、相手は昨日のアースドラゴンだ。もしかすると、三体居る可能性がある」
「アースドラゴンが三体っ!? ちょっと、それはいくらなんでも……無理があるっていうか……」
「ここからはそんなに遠くない。今の内に作戦と、ステ……いや、恩恵を与えて能力向上できるか確認しておこう」
「分かりました。皆さんを呼んできますね」
ちょうどおやつタイムでもあるし、おやつを食べながら作戦でも考えて、そのまま今日はここに泊まろう。
ミリアが呼びに行っている間に、テーブルや椅子の用意をファラに任せて、泊まる為の家を造っておく。
「タカシ様、ボスを発見されたのだそうですが、何処ですか!?」
「えぇ、あの木の下に居るみたいです。なので、今日はここで作戦を考えて明日討伐しましょう」
「承知しました! では、早速考えましょう!」
マルカとミュウ、マリーにおやつの準備をしてもらい、それらを食べながらアバンとミリアを交えて作戦を考える。
三体同時に暴れられたら手の付けようがないので、まずは罠だ。その後は、分断して戦う。
作戦といっても、このくらいしか案はない。
見た感じ、土竜は穴の中に居るようで、戦闘の為には外におびき出す必要がある。
そこで、まずはパルとパロに気配を消してから近付いてもらい、出てきた時にダメージを与えられるよう穴に罠を張って塞ぐ。
そこにアバン、ルリア、ラン、ミュウの近接組に近付いてもらい、戦闘開始。
戦闘が開始したということは、土竜が穴から出て、既に罠が破壊されているはずだから、今度は逃げられないよう、再度罠を張る。
まだ土竜が三体だと確定したわけではないので、戦闘が開始して一体なら、集中攻撃してさっさと倒す。
もし二体なら、アバンとルリアを主軸に二手に分かれて倒す。
そして、本当に三体なのであれば、アバン、ルリア、ランを主軸に三手に分かれて、個々に倒す。
遠距離組はミリアとサラ、マリーに任せることにした。
ファラはマルカの護衛にする。ファラ自身も回復が使えるので、二人で回復を担当してもらうためだ。
最後に俺は、いつでも緊急避難できるように、前衛で魔法を連射しながら、皆に指示を出す係。
作戦としては、こんな感じかな。
「どうだろうか? 何か問題点などあるか?」
「いえ、これ以上にないくらいの作戦かと思います」
「何でそんなにスラスラと出てくるんですか?」
「いつも皆の胸や尻を……じゃなくて、いつも状況や皆の癖等を、しっかり見ているからな」
「はぁ……」
わざと言い間違えしたことに気づいてくれたのだろうが、溜息は無いんじゃないかな、ミリアさん?
「まぁ、そんなわけだ。今日はこのまま、ここでゆっくりしよう」
「承知しました」
「はい、分かりました」
簡単な説明だけだったけれど、これで何とかなるだろう。
「ミリア、サラ、マリーは、周りに壁などを作ってきてくれ。その後は魔法の練習だ」
「「「はい」」」
「パルとパロは、夜まで罠を張る練習。重要な役だ。頑張れよ?」
「「はいっ、ボス!」」
残りの皆にも、それぞれスキルの練習を行わせる。
このダンジョンとも、明日でおさらばだ。
気を引き締めていこう。




