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第五話:出会い

「おい、ミリー、ジーク。レン、まだ生きているよな。生きているなら返事をしろ!」


 声を荒げて仲間たちを鼓舞したのは、背が高く、大柄で、体格の良い男だ。その男の声掛けに反応し、返事を返す仲間たち。


「ええ、生きているわ」「無論だ」「不思議と生きています」



 男たちは今、絶対絶命の危機に陥っている。周りを埋め尽くすのは猿の群れ。凶暴でズル賢く、臆病な魔物。

 獲物が弱りきるまでは決して全員で攻め込むことはない。あるのは安全圏からの石や木による投擲。そして猿同士による連携により、相手の体力を削っていく。



「アッシュ!! このままじゃ全滅するわよ。何か案はないの?」



 そう言ったのは、頭にネコ耳をお尻に尻尾を生やしたタンクトップにジャケットを羽織り、ショートパンツを履いた女の子だった。


 見た目から年齢はまだ13~15歳ぐらいだろうか? 幼さを残す顔つきをしながらも既に体の方は成熟しきっており、動くたびに揺れるその大きな胸は人々の視線を釘付けにさせる。



 そんな女の子がすでに両手に握る短剣で何匹も猿たちを屠っている。が、しかし、猿たちからすれば死んだのは下っ端の中の下っ端。殺されても影響は無く、いまだ数百匹以上の猿たちが周囲を取り囲んでいる。


 


 アッシュと呼ばれた男は身の丈以上の大きさで肉厚な大剣を棒切れを扱うかのごとく、振り回し、また一匹猿を斬り殺していく。しかし、アッシュの顔には焦りが浮かんでいた。


 男である自分やジーク、レンはまだ大丈夫。しかし、ひとりだけ女性のミリーだけは別だ。余裕を装っているが、そろそろ限界だろう。近い内に攻め込まれ猿たちに殺されるか、攫われる。



 今の陣形は守るべき護衛対象である商人と馬車を一番後ろに配置して、魔法と弓を扱えるレンが全員を援護できるよう後方に位置し、レンと馬車を守るよう左右にジークとミリーが、そして大きく前方にアッシュが主に猿たちの相手をしていた。



「一度、ミリーを下がらせるべきか……」



 そう呟き、大剣を大きく横薙ぎにして猿どもを蹴散らしてから、後ろを振り向き、ミリーの様子を窺う。


 軽快なフットワークで猿たちを殺していく様はまだ大丈夫のように見えるが、しかし、よく観察すると汗は噴き出ており、少し苦しげな表情を浮かべている感じがする。

 アッシュはそれを見て、すぐさま決断をした。



「ミリー!! 一度馬車まで下がって体力の回復に専念しろ。レン!! ミリーの抜けた穴を埋めて猿どもの相手をするんだ」



 ミリーと呼ばれた少女はアッシュの言ったことに不満なのだろうすかさず反論をする。



「アッシュ。私はまだやれる。交換なんてしなくていい」


 しかし、アッシュはその言葉を首を振って拒否をする。



「だめだ! 限界が来てからでは遅いんだ。いいから黙って言うことを聞け!!」


 一瞬、迷いを見せたミリーだが、すぐさま馬車までの移動を始めた。




「ごめんなさい。レン。少しの間、頼んだわ」

「いいえ。今まで楽にさせてもらっていた分きっちりと働きます。ミリーはそのまま寝てても良いですよ」



 レンの軽口に苦笑しつつ、ミリーは馬車まで到達する。馬車には頭を抱え震えあがっている商人とその部下数名が荷物の脇で固まっていた。



「お、おい! だ、大丈夫なんだろうな。高い金を出して雇ったんだ。責任もってわしたちをオルガスタまで連れて行くんだぞ!!」


 50代ぐらいの髭面でお腹が膨れいているおっさんの言葉にミリ―は声を荒げて反論をする。



「貴方たちが余計なことを言い出さなければ今頃はオルガスタについていたのよ。聖獣の神域を一目見たいなんて無視すればよかったわ。あれだけ勝手な真似はしないでと言っていたのに、よりによって魔誘香を焚くなんて正気の沙汰じゃないわよ」

「し、しかし、魔誘香も少ししか焚いていないし、あんなに魔物が現れるとは思っていなかったんだ。一目でいいから聖獣の神域の魔物を見たかっただけで……」

「そのおかげで私たちは今、全滅の危機に陥ろうとしているわ。聖獣の神域の魔物を他の魔物と一緒にしないで!」



 それ以上話すことはないと商人たちを無視して、ミリーはアッシュたちの様子を窺う。



 依然として硬直状態が続く。アッシュたちに現状を打開する手は無く、ただ時間だけが過ぎて行った。



 そんな中、ただ震えるだけでアッシュたちの様子を窺うだけの商人たちに不穏な気配が起き始めていた。商人と部下たちでひそひそと内緒話をしている。



「おい。逃げ出した方がいいんじゃないか?」

「何言ってんですか。私たちだけで逃げ出したらすぐに猿たちの餌になって終わりですよ」

「しかし、このままじゃ、いずれ冒険者たちも猿たちに殺されて、次は私たちだぞ! そうなる前に逃げ出した方がいいに決まっている」



 商人たちの様子がおかしいことに気付いたミリーが声を掛ける。


「アンタたち何しているの?」

「いいや、何でもない。何か手がないか考えていただけだ」

「ふうん。……良いからアンタたちは余計なことをしないで、そこで震えて丸まっていて」



 商人はミリーの言葉が気に入らなかったのか、小さく聞こえないぐらいの大きさで舌打ちをする。そしてそっと呟いた。


「何か手はないか? このままだと本当にわしの命が……」



 そして商人は馬車の片隅にある商品と自分の荷物を見てニヤっと笑みを浮かべる。


「お前たち耳をかせ」



 商人のおっさんは部下数名の耳元で考えた悪だくみをささやく。それを聞いた部下たちは驚きはしたものの、否定はしなかった。

 部下に目配せをして、そっと静かにミリーの背後へ忍びよる。

 そして自分の商品の一つである棒状の鈍器でミリーの頭を殴打した。



 ミリーはまさか自分の護衛対象から攻撃を受けるとは思わなかったのか、ほとんど抵抗せずに一撃を受けてしまう。


 普段のミリーならば、このくらいの不意打ちは避けるもしくは防ぐことができるだろう。しかし、今、タイミングが悪かった。ただでさえ、猿たちと生死をかけた戦闘を長時間にわたって行っていたのだ。油断をしていても誰も文句は言えない。



 商人の一撃を受けたミリーはそのまま馬車の床に倒れる。気絶はしていないものの、体をうまく動かせないらしく、殴打された頭を押さえ、うめき声をあげるしかできない。


 何が起きたのか全く理解できないミリーだが、一流の冒険者の行動にふさわしく、腰に掛けてあるポーチから透明の瓶を取り出そうとする。



 しかし、あと一歩遅く、商人の部下に手を取られ、そのまま拘束されてしまう。



「ちょっと、アンタたち正気なの!? こんなことをしておいて、ギルドが黙っておかないわよ」

「仕方ないだろう。このままだと私たち全員、猿たちに殺されて全滅する。それにギルドへ報告する者がいなければ、この事を知る人間はいない」

「今の状況が分からないほど馬鹿じゃないでしょ。猿たちからどう逃げるつもりなの?」



 商人は自分の荷物からあるもの(・・・・)を取り出して、ミリーに見せつける。



「魔誘香!! アンタたちまさか……」

「そうだ。魔誘香をお前にくくりつけて囮にし、その隙にわしたちは脱出する。頼むからわしたちが脱出するまで、死んでくれるなよ」

「こんなことをして。天罰が下るわよ」



 商人はミリーの言葉を鼻で笑い、部下に馬車から放り投げるように命令をする。そして全速力で駆け抜けるように業者に指示をだす。


「きゃあ!!」


 馬車から放り投げられたミリーは、数回地面にバウンドしてから転がり止まる。



 猿たちと戦闘中だったアッシュたちは自分たちの後方での異常を察知し、何事かと振り返る。



 アッシュたちが目にしたのは自分たちの仲間が縄で縛られ、魔誘香を括りつけられて、地面に転がる姿とそれを後目に全速力で馬車が駆け抜けていくところだった。


「一体どういうことだ……」



 その場にいるアッシュ、ジーク、レンは全く状況がつかめず、ただ立ち尽くすことしかできない。 



 しかし、猿たちはそんなことはお構いなしにミリー目がけて群がっていく。縄で縛れているミリーには逃げる(すべ)は無く、呆気なく猿たちに抱え込まれて、捕まってしまう。


「話しなさい。私に触れるな!!」



 ミリーは体を動かして反抗をするが、効果はない。それどころか醜悪な笑みを浮かべて、鳴き声を上げて興奮をしている。


 アッシュたちは自分たちの仲間が猿たちに連れられ、遠ざかる姿を見て、このままでは最悪の未来――犯され、魔物たちの苗床にされることが分かっているため、纏わりつく猿どもを振り払い、必死に追いつこうとする。


 

「ジーク、レン!! ミリーを助けるぞ。ちっ、邪魔だ。失せろ」


 焦るアッシュたちに襲い掛かる猿たちは、仲間が殺されようが、顔色ひとつ変えずに群がる。

 


「ちっ。このままじゃ……」


 アッシュはジークとレンの方を見る。自分には奥の手がある。それを使えばミリ―を救出することが出来るだろう。しかし、その後の反動で、自分は役立たずになる。とてもじゃないがこの猿ども相手にすることは不可能だ。その間、ジークとレンだけで戦うことになる。そうすればアッシュたちは全滅するかもしれない。


 そんな考えを張り巡らせているとジークとレンも同じ考えなのか、頷き、声は聞こえないものの、確かに使えと言った。


 二人の後押しもあり、アッシュの決意は固まった。奥の手を使おうとするアッシュに止めようとする者の声がかかる。



「アッシュ!! 奥の手は猿たちから脱出するときに使って。そうじゃないと全滅するわ。私のことは諦めて……」

「馬鹿野郎。何言ってんだ。仲間が連れ去られようとしているんだ。諦めるわけないだろ。ジーク、レン! 使うぞ!!」



 アッシュが懐から何かを取り出して口に含もうとした瞬間、ミリーを抱えていた二匹の猿が胴体を真っ二つにされ、断末魔をあげて死ぬ。


「えっ、ちょっ、何!?」


 猿という支えがなくたったミリーは、地面に落下するときの浮遊感に悲鳴をあげた。

 しかし、いつまでも地面にぶつかることは無く、ミリーは誰かに抱えられていることに気付く。


「だ、誰?」


 ミリーを抱えている人物はその質問には答えず、その場から少し後ろに下がり、そっとミリーを地面に下ろす。

 そしてミリーを縛っている紐を腰に差していた剣で斬る。



「ここでちょっと待っててくれ。すぐ片付ける」

「片付けるって……一人で? 無茶よ。アッシュたちが来るまで待っていた方がいいわ」


 突然現れた人物は地面に膝を付き、目線を合わせて笑みを浮かべた。


「いや、その心配はいらない。それと俺の名前は狼我(ロウガ)神威(カムイ)だ。よろしく頼む」 

 

 獲物を横から奪われたことで怒り心頭の大勢の猿たちが、狼我とミリーに襲い掛かる。


「クリス。彼女を頼む。あのやたら興奮している猿どもは俺が相手をする」

「畏まりました。ご主人様。お好きなように戦い下さい」

「そう? じゃあ、魔法を使うか。あの数の猿どもを相手にするのは疲れるし、それに早めに決着をつけた方がいいだろう」


 

 狼我の言葉にクリスがミリーに聞こえないぐらい小さな声で耳打ちをする。



「ご主人様。魔法を使うのでしたら上級魔法、最上級魔法はまだ使わないでください。面倒なことになります」

「分かっているって……暴走する可能性はまだあるし、俺も怖くて使えないさ」

「それもありますが……他にも懸念事項はあります。が、そのことを頭に入れといてくだされば結構です」



 狼我の元からミリーの近くへ魔人槍ヴォルガノムを構えた状態で戦闘態勢を取る。ミリーはいきなり現れたメイドに驚き、声をあげる。



「助けてくれたことは感謝するけど。大丈夫なのアイツ? アンタや私も加勢した方がいいんじゃ……」

「ご心配痛み入りますが、ご主人様はあの猿たちを相手にできるぐらいには強くなりました。ここで見ていても大丈夫でしょう。それに何もあの数の全てを相手にするつもりはないようですよ」



 クリスが指差した方向に顔を向けたミリ―が見たものは、迫りくる猿たちに、剣を持っている手とは反対の手を突き出して、魔力のオーラを全身から放出している狼我の姿だった。



「これだけ多いともはや的だな」


 狼我は大きく息を吸って魔法を発動する呪文を唱えた。


「くらえ猿ども<ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール>」



 狼我の手のひらから幾重にも放出される特大の火球は猿どもに容赦なく降り注ぐ。


 前方にいた猿どもが火球により焼き尽くされる。すると、猿どもは身を翻して情けない姿で逃げる。


 そんなこと関係ないと言わんばかりに火球の嵐は途切れることなく続く。


 ファイアーボールの嵐に狼我たちに襲い掛かってきていた猿ども全てが丸焼きになるまでそう時間はかからなかった。



 狼我による炎の蹂躙を見ていたクリス以外の見物人全ての時が止まったように動かない。




 それもそのはず狼我が出したファイアーボールの数はおよそ百以上、それほど使ってもなおまだ余裕がある。



 最初に動いたのはアッシュたちだった。未だ呆けている猿たちを無視して、ミリーの元へ駆けつける。




 そして猿どもがはっとして我に返る。猿どもはもう戦える状態じゃなく、今にも逃げ出しそうだ。



 今の蹂躙劇を見たせいか、それとも他の原因なのかはわからないが、既に猿どもには戦う意思はなかった。




 それに気付いた狼我は猿どもに告げる。



「おい、猿ども!! 逃げたければ好きにしろ。大人しく森へと帰れ!!」


 狼我の一括にビクッとなって、ミリーを連れ去ろうとした時以上の速さで駆け抜けていく。全ての猿どもが聖獣の神域がある方向へと戻る。



 クリスが狼我に近づき声を掛ける。



「お疲れ様です。ご主人様」

「いや、全然疲れていないよ」



 狼我とクリスはミリ―の無事を喜んでいるアッシュたちの元へ歩み寄っていく。


「おーい、怪我はないか?」


 狼我の言葉に反応したアッシュたちは立ち上がる。



「ありがとう!! 助かった。おかげでミリーを奪われることがなかった。あっ、俺はこのパーティのリーダーでアッシュだ。よろしく」

「私はミリアリア。皆からはミリーと呼ばれているわ。ミリーと呼んで」

「ジークだ。ミリーの件、感謝する」

「僕はレンと言います。本当に助かりました。あと少しのところでミリーも僕たちも危ないところでした」



 立て続けの自己紹介とお礼の言葉に少し照れながら狼我も答える。



「俺は狼我(ロウガ)神威(カムイ)だ。こっちがメイドのクリス。よろしく頼む」

「ご主人様のメイドでクリスと言います。よろしくお願いします。アッシュ様、ミリアリア様、ジーク様、レン様」



 さすがにこんなところでメイドを見ることは初めてなのか、アッシュたちは驚きと戸惑いが半々の微妙な表情をしていた。



「お、おぅ。こちらこそよろしく頼む。ってそうだ。ロウガ! さっきの魔法アレは何だ!!」

「……? ファイアーボールだけど。どうした?」




(別に普通のファイアーボール。初級魔法のはずだけど。何かまずったか? 上級魔法は使ってないから問題ないはずだけど)


 ちらっとクリスの方を見るとクリスも首を傾げて、アッシュたちの反応を不思議そうに見ていた。



「ファイアーボールは分かっている。俺が言いたいのはだな……」

「アッシュが言いたいのは数と質の両方のことです。普通の魔法使いはあれだけ魔力が込められたファイアーボールをあんな大量に発動したらすぐに魔力切れで、失神してしまいます」




(そうだったのか。クリスにも言われなかったし、まぁ、大丈夫だろ。適当に言い訳すれば)




「あ~あれだよ。ほら、まぐれだ。まぐれ」

「そんなわけあるか!!」

「あっ、やっぱりダメ?」


 

 アッシュたちはどうしてあんなに魔法を放てるのか、もっと詳しく聞こうと詰めかかろうとする。が、ミリーがアッシュたちを注意した。



「ちょっと、アッシュにレン。いい加減にしなさい。マナー違反でしょ」

「うっ、そうだな。つい興奮しちまって……わりぃ、ロウガ」

「すみません。反省してます」



 ミリーに怒られて小さくなる二人をみて苦笑する狼我。何か思い出したことがあるのか、アッシュたちに問う。



「そういえば、ミリーは何で縛られていたんだ? 猿たちと戦っていたんだじゃないのか?」



 そのことにハッとなり、まさに怒髪天をつくといった感じで、耳と尻尾が天高くピンっとなって怒鳴り声をあげる。



「あいつら!! いきなり後ろから私の頭を鈍器で殴ってきたのよ!! それから魔誘香を付けられて放り出された!! こんど会ったらただじゃおかないんだから」



 ミリーの怒りに男性陣は戦々恐々となりがら落ち着くように声を掛ける。



「まぁ、落ち着け。顔が恐ろしく怖いぞ。生きていたんだからいいじゃないか。あいつらはギルドへ戻ったら処罰をするように進言すればいいさ」

「そうですよ。あいつらのことは放っておきましょう」

「そういう問題じゃない。こっちは死にかけた上に攫われそうになったのよ!!」




 今にも人ひとり殺しそうな勢いのミリ―をアッシュとレンはまぁまぁと宥める。



「大変だったんだな。怪我はないのか? 殴られたんだろう?」

「気遣いありがとう。でも大丈夫よ。獣人の治癒力をもってすればあれぐらい平気」

「そうかそれはよかった。で、この猿たちの死体はどうする。回収するのか?」



周辺を見渡すと猿たちの丸焼き死体が転がっている。皮がこんがりと焼かれており、素材として剥ぎ取れる場所は無さそうだ。



「これだけ傷付いていると素材としても価値が無いだろうし、捨てるしか無いかな?」

「えっ、 知らないのか? クレイジーモンキーの肉は柔らかくて美味しい。だから高値で買い取ってくれるんだぞ」

「そうだな。これだけの数だと金貨10枚は固いな」




今まで口を開かなかったジークが間髪入れずに答えてくれる。もしかするとこのパーティーの金勘定はジークなのかもしれない。



思った以上の金額にびっくりする狼我だが、アッシュたちの顔色は残念そうだった。



「どうした?」

「どうした? じゃあないわよ。馬車が無いのにこれだけの数のクレイジーモンキーは運べないでしょ。あ~あ、もったいない」



心底残念そうに呟くミリーに対して、狼我はアイテムボックスを使えばいいのでは思い、聞いてみた。



「アイテムボックスで、運べばいいじゃないか? ダメなのか?」

「俺たちが持っているアイテムボックスだと精々半分がいいところだな。その場合、中身をここに置いていくことが条件だけど」



(それじゃあ割に合わないな。俺の次元鳥の収納袋ならいけるか?)




「クリス。俺の次元鳥の収納袋ならここにあるクレイジーモンキー全て収納できると思う?」

「はい。可能です。ご主人様の次元鳥の収納袋は他のアイテムボックスとは違い、収納できる量は所有者の魔力量に比例します。おそらくこの猿たちの死体が倍以上あっても大丈夫でしょう」

「えっ、そうなの? 知らなかった」

「何で狼我も知らないのよ。自分の持ち物でしょ。それにしてもよくそんな高級品持っていたわよね。もしかして狼我は結構位の高い家の生まれなのかしら。メイドさんも連れているし」

「いや、そういうわけじゃないんだけどな。まぁ、色々あってね」

「そう。まぁ、詳しくは聞かないわ。それよりも早く私たちのと狼我のアイテムボックスに猿を詰め込んでオルガスタに行きましょう。さすがにこれ以上余計なトラブルもないわよね」



 ミリーの言葉に全員が頷き、各々作業に取り掛かる。



 最初に狼我が倒した分、アッシュたちが倒した分を決めて、それぞれのアイテムボックスに入れていく。そのうちアッシュたちのアイテムボックスの容量が限界に近づいたので、狼我は自分のアイテムボックスに入れてあげる。揉めることはないが、一応、それぞれ自分たちが仕留めた猿の数をメモしておく。




「そういえば、アッシュたちは商業都市オルガスタに行ったことあるのか? 俺たちは初めてだからよくわからなくて。なぁ、クリス」

「はい。私はオルガスタが商業都市となる以前のオルガスタなら一度立ち寄ったことがあるのですが、現在のオルガスタは初めてです」



 一同、クリスのとんでも発言に目が点となる。聞き間違いかもしれないため、代表して、アッシュが聞き直す。



「あの~クリスさん。俺たちの聞き間違いじゃなければ、商業都市になる前のオルガスタに立ち寄ったことがあると聞こえたんですけど……」

「はい。私は商業都市になる以前のオルガスタに立ち寄ったことがあると言いましたけど。それが何か?」



 至極真面目に答えたクリスの言葉に嘘偽りはないと判断したアッシュたちは冷静に物事を分析する。



「え~と、オルガスタが商業都市になったのっていつだっけ?」

「わからない。けどここ最近、200年以上は既に商業都市だった記憶はあるわ」

「ふむ」

「一体、クリスさんは何歳なんでしょう。もしかしてロウガも見た目通りの年齢じゃないのですか?」



 アッシュたちの目が同時に狼我に向けられる。



「俺は、17歳だぞ。ちゃんと見た目通りの年齢だよ。ちなみにクリスのことは俺もよくわかっていない」

「私の年齢はご主人様とはいえ秘密です。アッシュ様たちには悪い人ではなさそうでしたので、つい、言葉を滑らせてしまいました。申し訳ございません。ご主人様。罰は後で受けます。そしてアッシュ様、ミリアリア様、ジーク様、レン様、この事はどうか秘密にしておいてください」



 クリスは狼我とアッシュたちに頭を下げて謝罪をする。




「俺はクリスが只者じゃないことはもう理解しているから。それに罰なんてしないよ。クリスには感謝している。これから気を付けてくれればいいさ」

「俺たちも恩人の秘密を言いふらすほど恩知らずじゃないさ。そこは安心していい」

「アッシュの言うとおりよ。狼我もクリスさんも悪い人じゃないみたいだし、これからもよろしく」

「安心してほしい。アッシュは約束は守る義理堅い男だ」

「そうですよ。冒険者は大体、過去に事情がある人が集まると言われてますから。これぐらいことでは驚きません」



 アッシュたちは本心で言っていることが顔を見て分かる。



(基本的にアッシュたちは善人なんだな。損を呼び込むかもしれないけどそれ以上に味方が多そうだ)




「話しは逸れたけどアッシュたちはオルガスタに行ったことはあるのか?」


 改めて狼我は同じ質問をアッシュたちにする。



「もちろん。というか。俺たちは基本的にオルガスタを拠点として活動しているんだ。今回はたまたま他の都市に用事を済ませた後、ただでオルガスタに帰るのは時間の無駄だと思って、護衛依頼を受けたんだ。まっ、その護衛依頼はなくなったけどな」

「ふ~ん。今回みたいな場合でも護衛依頼は失敗になるのか? アッシュたちの責任じゃないだろう?」

「護衛依頼は失敗だけど私たちの責任にはならないわ。この場合ギルドの調査員がきちんと調査してから報酬が支払われることになるのよ」



(でも、どうやって真実を判別するんだ? いくらでも偽造し放題だろうに)



「立ち話もここまでにして、オルガスタに向かいませんか? 後日改めて、食事をしましょう。今回のお礼に私たちが奢ります」

「それもそうだな。よし、狼我! 話はオルガスタに着いてからだ」

「ああ、それじゃ行くか」

 


 狼我たちは猿たちの死体があった場所から商業都市オルガスタへと歩き出した。

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