第二話:月の女神
今回は短いですが、よろしくお願いします。
深夜、普通の人ならば既に寝静まっている時間帯に一人の女性が歩いていた。
そこは地元の人間ならば決して立ち寄らない危険な場所。しかし、彼女はそんなこと関係ないといわんばかりに森の奥へ突き進んでいく。
時々、彼女を獲物と認識して襲い掛かる魔物もいる。その魔物全てが返り討ちにあう。
彼女に襲い掛かる魔物は知能も強さもどこか欠ける雑魚。森の強者たちは襲いかからずに傍観している。
明かりひとつない暗闇の森に雲で隠れていた月の光が差し込む。
月の光はちょうど彼女が居る場所に当たり、その容貌が明らかになっていく。
一言で言い表すならば月の女神。
彼女の綺麗な銀色の髪と瞳が人によっては冷たい印象を与えるかもしれない。だが、一度でも彼女を見た男はそんな問題すぐに忘れてしまう。
それほどまでに彼女の容姿が整いすぎている。それに注目すべきところは容姿だけじゃない。
相手を包み込む大きく豊かに実った胸に細くシュッとした腰、肉付きの良い尻、スカートから見える白い太ももが見るものを誘惑する。
「ここにご主人様がいる――――ああ……早くお会いしたいです。長い、長い間、この時を待っていました」
まるで恋人に問いかけるような感じで吐息を洩らす。彼女は今すぐ駆けつけたい気持ち、衝動、全てを抑えるべく、自らの両腕で抱きしめて止める。
「ここですね。最上級の魔導具の次元結界を突破するのには少々骨が折れます」
彼女が手を差し伸ばし、触れようとすると壁と手との間、何もない空中にオレンジ色の火花が散る。手を引っ込めて自身の手を見つめる彼女の瞳には僅かな苛立ちと賞賛の色が浮かんでいた、
「さすが最上級の魔導具です。私が全力で挑めば別かもしれませんが、そう簡単には通してはくれませんか……しかし、ご主人様の魔導具ですので、壊して押し通るという選択肢は論外です。さて、どうしましょう?」
指先から滴る血をペロっと舐める。それから彼女はもう一度壁に触れようと手を伸ばす。
今度は切実そうに心を込めてお願いする。
(どうか自分を中に入れてほしい)
すると今度はオレンジ色の火花が散らなかった。手が壁に触れる直前に見えない障壁が現れ、行く手を遮ろうとする。だが。彼女の手が障壁に触れると泡のように儚く消えてしまう。
「うふふ。いい子です。貴方の使命をねじ曲げるようで申し訳ありませんが、私は一刻も早くご主人さまにお会いしたいのです。ですのでここを通してもらいます」
まだ見ぬご主人様の元へ馳せ参じるためにそのまま体を投げ出すと女性は壁の中へ吸い込まれるように消えていった。