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第一話:狼王の財宝

 狼我は巨狼が言ったとおり森の奥へと移動する。この付近には動物などは一切近づいてこないらしく、生命の気配が全くなかった。

 歩き始めてから10分ぐらいたった頃、前方に大きな穴が空いた洞窟が見えてきた。近づいて洞窟を外から観察する。中を全て探索するにはそれほど時間はかからなそうだった。



 洞窟の中は暗かった。自分の足元ですら確認することができないほど。かといって明かりとなるものは、狼我の手持ちに携帯ぐらいしかなかった。しかし、できればここでは使いたくない。狼我はどうしたものかと洞窟の前で立ち尽くし、考えていた。


長い熟考の末、仕方ないかと手探りで洞窟の中を探索しようとする。狼我が足を一歩踏み出した途端、壁に埋め込まれている鉱石が淡く光った。


(どういう原理かは知らない。でもこれで視界は確保された。よかった。これで転んだり、壁にぶつかったりすることはない)




 洞窟の中は気温が低いのかひんやりしていて少し肌寒い。身体を震わせながら狼我は一歩ずつ慎重に進む。何が出るかわからないため、剣を手に持って周囲を警戒をする。


 洞窟の中は一本道のため、狼我は迷うことなく奥へと進む。歩いてから5分も経たないうちに洞窟の奥が見えてきた。奥は空洞になっているらしい。狼我は頭ひとつ分を突き出して空洞がどうなっているのか確かめる。


 狼我の目に映ったのは素人から見てもわかるほどの業物の剣や槍などの武器類、年季の入った分厚い本そして少々の金銀財宝だった。


 その光景に狼我は口をあけて呆けている。



「すこいなこれは……まさかここまでとは思わなかった」


人は自分の身の程以上の宝を見ると正気を失うと聞くが、それは本当かもしれない。事実、狼我はふらふらと財宝のもとへ歩いていく。


 とそこで、狼我は足元に何かぶつかったような違和感を感じた。

視線を足元へ移すと一冊の本が目に映った。



 本を手に持つ。表紙には解析 (アナライズ)・分析スキャンと書かれてある。


 本を開いて読み解いていくとどういう原理かは知らないが、狼我の頭に本の内容が入っていく。

 


(何で文字が読めるのかは知らないけど魔導書か……コレを読むだけで魔法が使えるようになるのか? というか魔法ってマジでここは異世界なのか。しかし、こうやって改めて現実を突きつけられるとなんかへこむな)




 全てのページを読み終えると狼我は解析・分析の魔法の全てを知ることができた。そんな感覚を味わう。



 ピロピロリン!! 『解析・分析(アナライズ・スキャン)の魔法を覚えた!!』、



 頭の中にゲームなどで聴いたことがあるような音と機械的な声が響いて、狼我は思わず回りを見渡してしまった。当然周りには誰もいない。狼我は怪訝な表情を浮かべながらも本当に魔法が使えるのか確かめてみた。



「解析・分析の魔法ということは何かを確認するってことだよな? じゃあコレでいいか!」


 狼我は巨狼の死体から生み出された剣に向けて魔法を放つ。


「え~っと、こうか? <アナライズ・スキャン!!>」


 すると狼我の目の前に透明のボード? が浮かび、そこには剣の情報が書かれていた。



【名前】神狼剣フェルシウス

【特性】神、聖

【能力】???、???、???

【特徴】狼王、大地の神の化身であるフェンリルの亡骸から生まれた剣



(やっぱりというか納得というか予想していたとおり凄い剣だった。ただこの能力欄のところは何だ? 全て???になっていてわからない。それにしても大地の神の化身を牛丼一杯で殺害するとは……牛丼恐るべし!!)




「とにかく魔法を使うことが出来たんだ。この調子でどんどん覚えてみるか!」




 洞窟内にある全ての魔導書を一か所に運び読み漁っていく。


 本の数はあまり多くはなかったが、それでも3時間以上経過したと思う。


 普段の自分なら本を一冊読むのに丸一日以上経過するはずなのに今日は驚くほど速く読むことが出来た。




「これで最後だな……」




 ピロピロリン!! 『マジックシールを覚えた!!』


「やっぱり聞こえるな。一体何なんだこの音と声は? 体を弄られたわけでもないし、この世界では普通のことなのか?」



 

 読み終わった魔道書は光となって消えてなくなってしまった。おそらくひとつの魔導書で使い回しを防ぐためだろう。




(今すぐ他の魔法を使いたいところだけどこんな洞窟の中でためしたら生き埋めになる。我慢するしかない。ひとまずは全ての財宝に解析・分析の魔法を試してみよう)

 



 狼我は洞窟内にある財宝に解析・分析の魔法をかける。解析は滞りなく終了し、全ての財宝に魔法は有効だった。



 結論から言うとさすがはフェンリルの財宝どれもすばらしい物ばかりだった。





 財宝の中で特に凄かったのは、魔人槍ヴォルガノム、魔弓アルテミス、魔導杖プリズムゲート。クリムゾンフレア、ブルーオーシャン、メテオストライク、ヘブンズゲート、ブラックホール、デーモンゲート。魔導王のマント、魔導王のネックレス、アナザールームぐらいだった。



 他の財宝も良かったのだが、厳選するとこんなものだろう。各武器、魔導書および装備品を詳しく説明すると以下のようになる。




【名前】魔人槍ヴォルガノム

【特性】魔、闇、呪

【能力】治癒不能の呪い、瞬間転移、分裂

【特徴】魔王にもっとも近い魔人が死んだあとその場に残された槍。すさまじい怨念がこもった槍で所有者以外のものが触れると呪いを受けてしまう。またこの槍で受けた傷は所有者が呪いを解かない限り決して癒えることは無い。


【名前】魔弓アルテミス

【特性】木、聖

【能力】必中の弓、精霊魔弓、

【特徴】弓の英雄アルテミスが愛用した弓。この弓から放たれた矢は必ず命中するとまで言われた。弓の材質は世界樹の枝の部分を使っており、この弓をもっているだけで無条件で精霊が協力してくれる。


【名前】魔導杖プリズムゲート

【特性】無、結界、反射

【能力】自動反射、自動結界、守護結界、絶対防壁

【特徴】所有者の込める魔力に応じ自動で結界魔法、反射魔法を展開する杖。使い手が強力なほどその杖の力は発揮される。


【名前】クリムゾンフレア

【特性】火、炎、

【能力】

【特徴】普通の炎とは違い、濃く大量の魔力で変質した炎を発動させる。その炎は赤ではなく鮮血のように真っ赤であると言われている。


【名前】ブルーオーシャン

【特性】水

【能力】

【特徴】どこからともなく大量の水を召喚して敵を飲み込む。その圧倒的な水の量から海を呼び出したかと間違えられるほどである。


【名前】メテオストライク

【特性】土、炎

【能力】

【特徴】天空から隕石を落とす魔法。局地的な災害をもたらす。


【名前】ヘブンズゲート

【特性】無、聖

【能力】

【特徴】天空に巨大な扉を召喚する魔法。その扉がどこに繋がっているのかはわからないが、その扉が開かれたとき天からの光の一撃が敵を滅ぼす。


【名前】ブラックホール

【特性】無、闇

【能力】

【特徴】光すら通さない穴を作り出し、周囲にあるもの全てを吸い込み消滅させる。その穴に吸い込まれたものがどうなるかは誰も知らない。


【名前】デーモンゲート

【特性】魔、闇

【能力】

【特徴】地獄から爵位級の悪魔を呼出す魔法。この魔法によって呼び出される悪魔は様々だが、どれも強力な悪魔であり、その悪魔から繰り出される一撃は最上級魔法にふさわしい威力を誇っている。


【名前】魔導王のマント

【特性】無

【能力】状態異常無効

【特徴】古に存在したという魔導王が羽織っていたマント。全ての状態異常を無効にする力がある。


【名前】魔導王のネックレス

【特性】無

【能力】魔力消費量半減

【特徴】古に存在したという魔導王がつけていたネックレス。全ての魔法の魔力消費量を半分にしてくれる。


【名前】アナザールーム

【特性】無

【能力】異空間結界、ゲートキー

【特徴】見た目は鍵の形をした魔道具。対象とする無機物に鍵を差し込み捻ると扉が出現する。扉の中は異空間になっており、鍵をもっている人物しかその異空間を開けるものがいないため安全は保障される。




 財宝以外には、たぶん大昔にフェンリルに挑んで敗れた者の亡骸から衣服そして荷物を入れる袋、地図、金色の四角いか―ドがあった。狼我は申し訳ない気持ちになりながらもそれらを頂戴する。


(異世界に来ていつまでも学生服じゃ怪しまれるよな。サイズもぴったりだし、今、着替えよう)


 狼我は脱いだ学生服を袋に入れる。

 

 荷物を入れる袋は腰に付けて運べるほど小さく軽い。魔法が付与されているらしく、開いて物を近づけると勝手に収納してしまった。取り出すときは袋の中に手を突っ込み物を思い浮かべると出てくる。RPGでいうところのアイテムボックスだ。


 地図は特に特筆するところはない。金色のカードは左上の水晶部分が欠けており、文字も書かれていない。どうやら故障しているみたいだ。

 

 狼我は取りこぼしなどがないか洞窟内を確認する。


 財宝も落ちていないし、洞窟も行き止まりだ。他に何もないと判断し、洞窟の外へ移動する。


 外はすでに日が傾き、夕方を通り越して夜になっていた。月が出ており、今日は満月だった。異世界でありがちな月が二つということは無く、地球と同じように一つだけのようだ。



「こんなところは地球と変わらないんだな……そんなことよりもまずは今日の寝床を探すのが先だな。洞窟の中じゃ寒い。できれば暖かいところで眠りたい。さて、どうしようか?」


 頭の中でいい妙案はないか考えていた狼我は、フェンリルの財宝の中でちょうどいい道具があるのを思い出した。狼我は袋に手を突っ込むとその道具のことを思い浮かべ取り出す。


「え~っと、なんだったけな?」


 狼我がどんな道具だったか思い出そうとしているといきなり袋の中身が理解できるようになった。


(うまく言えないけど漠然と思い浮かんでは消える……そんな感じとしか言えないな)


「おっ! あった、あった」


 目的のものを袋の中から取り出す。狼我の手にはひとつの鍵が握られていた。


 一般の家庭の鍵というよりは貴族のお屋敷の鍵と言ったほうがよいだろうか? そんな形をした不思議な感じのする鍵だった。


 狼我は解析・分析の魔法で得た情報どおり、洞窟の入り口側面の壁に鍵を突き刺す。


 すると鍵が突き刺さった場所から光が壁を走り、扉の形を作った。鍵を捻ると扉が勝手に開く。


「おおっ!」


 異世界に来てから初めての不思議な光景に思わず声を上げて驚く狼我。


 扉が完全に開くと鍵が抜けて、狼我の手へ浮遊しながらゆっくりと近づいて来る。ストンという効果音が付くような感じで狼我の手に収まった。


 扉の中は外からでは確認することができないらしく、ただ光の扉が洞窟の壁に映し出されているとしか見ることができない。


 思わず見惚れているとまるで意思のある生物のように光が点滅し始める。


 何となくだけど早く入れと言っているような気がする――――狼我はそう思った。


 一瞬、躊躇した狼我だが、光の点滅が激しくなると慌てて扉の中へ足を進める。


 バシュっという音とともに光の中へ足を踏み入れる。一番最初に狼我の目に映ったのは5人家族が住めるぐらい大きい家だった。



 明らかにおかしいだろう。そんな思いが狼我の心を支配する。


(なんで家があるんだ? それにここは……)


 家ばかり注目していたが、どうやらおかしいのは家だけじゃなかった。周り全てが白で統一されている場所で、すこし暑苦しい感じがする。


 天井も白、地面も白、壁も白、家以外は何もない。狼我は家の周りをぐるりと一周するように歩いていくが、特別変わったところはなかった。



「とりあえず中に入ろう」


 狼我は一応扉をノックして住民がいないか確かめてから家の中へ一歩踏み入れる。


 家の中はいたって普通でちょっと古い昔の家といった感じがした。しかし、家の中は清潔を保っており、目立つところに汚れなどは見当たらない。


 この家は二階建てのようで、一階にはリビング、キッチン、風呂(火を焚いて湯沸かすタイプ)が、二階には、四つの部屋があった。ひとつは寝室で、残りの部屋は家具も何も置かれていない空き部屋だった。


 狼我は寝室に移動してベッド上で仰向けになって寝転ぶ。既に狼我の体は限界を迎えており、あと数分後には眠ってしまうだろう。


(いけない! まだ試したいことがあったんだ)


 眠気を根性で乗り切り、狼我は自分に向けて解析・分析の魔法を放つ。


「<アナライズ・スキャン!!>」


 解析結果が狼我の目の前に現れ、読み上げていく。



【名前】ロウガ・カムイ

【年齢】17歳

【性別】男

【称号】異世界から召還されし者、フェンリルスレイヤー、レベルを極めし者、限界突破

【レベル】99↑

【装備】精霊の衣服、シルフェンブーツ、魔導王のマント、魔導王のネックレス、神狼剣フェルシウス、次元鳥の収納袋

【スキル】なし

【魔法】ファイアーボール、フレイムランス、クリムゾンフレア、ウォーターボール、アクアトルネード、ブルーオーシャン、ウインドカッター、タイフーン、ロックレイン、メテオストライク、サンダーボルト、サンダーソード、アイスニードル、ライトアロー、レイ、ヘブンズゲート、ダークエッジ、ブラックボール、ホーリアロー、ブラッドクロス、デーモンゲート、ヒール、マジックシールド、マジックバリア、マジックシール


 

「この結果は予想してなかった……レベルはカンストしているし、称号も全部やばい! 何だよ。レベルの横に矢印があるところなんてゲームでも見たことないぞ。俺ってそんなに強いのか?」


 特に変わったところはないため、首を傾げて疑問を浮かべる。


「とりあえず全てのことは明日にして今日は寝る!!」


 1秒、2秒、3秒としないうち狼我は寝息を立て始めた。よほど疲れていたのか完全に寝入るまでそう時間は掛からなかった。

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