プロポーズ
「たとえば僕が……コホン『君の作る味噌汁を毎日飲みたい』……と言うとする」
「ハッキリ言ったね」
「いや、たとえばだよ。ーーで、味噌汁云々言ったとして、さ、どうなの? ってことだよ」
「はぁ?」
「どうなの? ってね、ホント思うんだよ僕は。それをね、すごい強く思う」
「知らないけど、他の事思ってよ」
「味噌汁ってどうなのっていうね、もうすごい、もう狂ってるとしか言いようがね、ないよね」
「ね、この話する為に呼んだの?」
「いやちょっとまぁ……、そのね、ひとまずちょっと言いたいんだよ、味噌汁のこと」
「それカットできない?」
「できないできない。味噌汁、液体だから。あのね、いい? 味噌汁だよ? え? だってさ……皆んな言うじゃん。味噌汁ってさ、まあ言うよね、言う、まぁそれは良いんだよ。言ってもね、味噌汁ってねえ? そういうもんだし」
「……ねぇその話、編集できないの? 長い」
「長くないもう終わる味噌汁だから。味噌汁ってさ、あの最初言ったプロポーズの常套句でさ、出てきてるじゃん。いやビックリでしょ。それ、すごくない? すごい、まさかの味噌汁登場! みたいな」
「こっちはまさかの味噌汁エンドレス出演に驚いてるよ」
「だってプロポーズってさ、あれだよ? 一世一代のさ、クライマックスなわけじゃない。そこにね、味噌汁だよ。しかも毎日ってね。すごい束縛だよね」
「いやそこは……結婚したらそんなんでしょ」
「強制感が半端じゃないでしょ。毎日ってダメだよどう考えても。なんかもう、労働基準法とかなんかに引っかかるよ。あとさ、味噌汁って言葉の響き」
「うん、それだいぶ前から耳ゲシュタルト崩壊してる」
「味噌汁ってさ、プロポーズ中に言っちゃダメでしょ。授業中に先生の事をお母さんって言っちゃうレベルで滑稽だと思うんだよね僕は」
「ねもうプロポーズの話しよう」
「えっ」
「だから話題を、味噌汁からプロポーズに移行させて」
「いや……それは……」
「そういう流れじゃないの?」
「あー……まぁ、できなくはないけど」
「ていうかもうさ、プロポーズしてくんない? 早く」
「それはおかしい」
「嘘だろ? ……おかしくはないでしょ」
「プロポーズするとか……だってあれだから、一世一代だからね」
「いや知ってるけど、だってもう会って最初言ってんじゃん」
「は? 何を」
「君の作る味噌汁を毎日飲みたい〜って」
「……あぁビックリした。いやだからそれ、たとえばだからね」
「でももう、すごい声作ってから言ったじゃん。だって私聴いたとき完全に『あ、これ来たな』と思ったよ。すごい強く思った」
「それは思い過ごしだって。あと今聞いて思い出したけど、味噌汁を『飲む』っていう表現もおかしいと思うんだよね僕は。味噌汁を飲みたい、って、言う? いや言わないでしょ。そんなさ、ゴクゴクぷはーみたいなものじゃないでしょ。せめて『すする』とかさ、あと単に『欲しい』とかがリアルでしょ。ほらたとえば『ごはんとおかず……あー、ここにあと味噌汁が欲しいな』みたいなね」
「……私作るよ。あなたの味噌汁」
「ありがとう、それでこの味噌汁っていうのはーー」
「早くプロポーズしろよ!!!」