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ワールド・ワールド!  作者: シャクヤク
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07:詳しい話を聞かせてもらいましょう。

 改めて、3人はテーブルを囲んだ。

 巨大な部屋は殆どが本棚で埋め尽くされ、一応教師という立場からの机と、いくつかの椅子、そしてテーブルがある。この部屋の奥には彼のプライベートルームが存在するらしい。学校内で働くメイドによってティーセットが整えられ、「寛いでくれ、可愛い人。」とフェネクス・ベンヌがにこやかに凛に促したがそう寛げるはずもなかった。


「どうかしたかね、ケーキはお好みじゃあなかったかな。」

「そうじゃないってわからんのか、カナン――ベンヌ。」

「アリューゼくんは酷いな、愛しい人にようやく会えた私のこの舞い上がる気持ちを理解してもらいたいものだ。」

「良いから彼女に説明してやってくれ、俺がしてもいいがそれは騎士団長に許可されていない。」

「ふふふ、国家の犬というのも中々に不便なものだな。口軽く話してはならぬという規律を加えたのは他でもない私だが。」


 ひと口紅茶を飲んだフェネクス・ベンヌは凛を見つめた。青色と紫色に僅かな変化を見せるその目は魔力が高ぶっている証拠だと気がついて、彼女は小さく息を呑みそれを隠すように紅茶へと視線を落とした。


「まず、私のことはベンヌと呼んでくれたまえ、凛。君の名前は書類で先に拝見させてもらったよ。」

「そう、ですか……。」


 事前に書類の行き来はやはりあったのだと思うと、殆ど疑惑ではなく確定で物事は彼女に知らされぬまま進み続けているのだと凛は理解した。そもそも入出国の段階で、パスポート無しだったのだから事前確認が何重にもされたのだろうと推察は出来ていたのだが彼の言葉はそれをはっきりとさせた。


「まず獣人というのを君は見たことがあるかな。」

「…アパートに住んでた人がいました。親しくはなかったけど。」

「なら説明も早いかな。いや、今のご時勢では見かけるくらいは良くある話か、一昔前に比べれば彼らは差別もなくなって随分と地位も向上したし、彼らの国だって存在するからね。」

「………ベンヌ、さん、は」

「そんな他人行儀に敬称などつけずとも良いよ、凛。」

「………」

「ベンヌ、話が進まないから口説くのはまた次の機会にしてくれ!」

「まったく、アリューゼは情緒というものが足りない。だから君には恋人が中々できないのじゃないかね。まあ良いだろう、必要な話はしておかねばならないのも確かだ。凛が聞きたいのは“私が何者か”ということだろう?」


 こくりと頷いた彼女に、ベンヌはゆったりとした笑みを浮かべた。

 青と紫が入り混じるそれに、凛の目にはふわりと男を取り巻く魔力が見えてがたんと思わず椅子ごと後ずさった。それが見えないのだろうアリューゼが、楽しげに笑っているベンヌと凛を交互に見て眉をひそめたが何か言うことはなかった。


「私は今、人の姿をしているが獣の姿にもなれる。君が見たという小山のような大きな獣はまず間違いなく私の同類だ。」

「………。」

「強い強い魔力を持っている、そして長命で強大な存在、それ故に人間は私たちを獣の神と書いて獣神じゅうじんと呼ぶんだが、基本的にその姿が被ることはないし種としては雄のみが存在するんだ。」

「雄のみ?」

「そう、それ故に繁殖を試みるには多種族の異性と交わるのだが、特に相手の種族に拘ることは無い。だが当然強大な力と魔力とを併せ持ち、長命故に知識も豊富なその存在が娶った種族に対して甘くなる傾向がみられることから各々の種族で互いに暗殺や戦争まですることになった。それを見ていて私も閉口したものだよ。」

「ベンヌ……は、どれ、くらい、」


 ベンヌは一体何歳なのか。


 何故だか聞くことが躊躇われた。


 目の前にいるのは、自分よりも少し年齢が上の美しい男にしか見えないのに随分と長生きしているかのような口ぶりなのだ。だがそれを確認するとこの荒唐無稽な話が真実であると認めなければならなくて、自分が否が応にも巻き込まれているのだと自覚しなくてはならないのだ。避けて通ることはできないとわかっていても、理解したくないというのが現状だ。

 それを知ってか知らずなのか、ベンヌはにっこりと笑う。


「私もマルコキアスとは顔見知りでね、ヤツは少しばかり熱血漢でそこが面倒だが、イイヤツではある。人型も見た目は悪くなかったと思うが、少し軽い言動からよく誤解をされるようだがあれはあれで一途なヤツだよ。」

「え?」

「だが私とは違う点を上げるとすれば、ヤツは花嫁を迎えるにあたって“巣”を持っていないことかな。流浪の旅がお好みとあればそれでも私は困らないが。私がこの国を守護し、今の状態に持っていったのは花嫁を迎えた折には風光明媚な土地にのびのび暮らせる家を用意したかったからなのだよ。」

「え、えええ……?」


 アリューゼが、大きく溜息をついた。それはつまりベンヌの言葉を肯定しているのであって、由緒あるこの公国はフェネクス・ベンヌという獣神によって守護される国、ということで――そしてその理由が、いずれか現れる花嫁を迎えいれるために争いごとから隔離して守り豊かにした、ということだったのだ。

 その事を理解して目を白黒させる凛に、ベンヌは続ける。


「花嫁、と呼ばれる人物は過去何人か他の獣神の相手を見てきたが、彼女たちはいずれも魔力が高いということもなければ地位や名誉の問題でもなかった。王族にもいたし、農民にもいたし、奴隷にもいたしね。私の心を乱したのは君が初めてだ。」

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