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ワールド・ワールド!  作者: シャクヤク
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04:おお ゆうしゃよ なさけない!

 そもそも、リューゼ公国が何故風光明媚で各地の魔法使いがこぞって集う土地柄なのか。


 それは、この国の歴史そのものである。

 “あちら”と呼ばれる世界、そちらも“こちら”と変わらず大陸や島、海といったもので構成されていてそこに人間がいて、少し違ったことは魔物と呼ばれる巨大生物や異世界と繋がるゲートと呼ばれる門があったり妖精や精霊、ドラゴンやペガサスといったまさに『ゲーム』や『御伽噺』の世界といったものだった。

 そういった環境から部落が出来、村になり町と成り大きく“民族”として集まった人々によって衝突と融合を繰り返していくうちに大陸の中にいくつか巨大な国家が形成されていく。

 当然国として大きくなればなるほど戦争や暗躍と行った暗い色の歴史も刻まれていったし、そこから学んで講和という流れもいくつもあった。中には強力で危険な魔物と戦う為に手を組んだこともあった。


 そうした中でイルギナール帝国という武力色の強い国が出来た。

 初代皇帝はドラゴンに騎乗していたことにあやかり帝国では大陸最強と呼ばれる竜騎兵部隊が存在する。その名の通り竜に乗り敵を駆逐していく姿は味方にすれば頼もしく、けれどもその側面として恐ろしくもあった。この頃、魔法使いはあまり地位がなかったという。

 国が安定してきたことにより、『魔法』という目に見えぬ要素への研究がされてきて、その可能性について着目されたのだ。だが当然そこに怪しい者という目で見られることもつき物らしく、悪魔に乗り移られた、魔物の血を引いているのではとまで噂されることもありそれだけで処刑されるような時代があったとも記されている。


 その地位が確約されたのは、宮廷に使えるものが暗殺者から第三代皇帝の身を救ったというものだったという。

 そこでは暗殺に関わる情報がある所為か詳しくは歴史書にも記されていなかったし、どこの暗殺者かその暗殺者はどうなったのかも記されてはいない。

 ただそこで皇帝を救った魔法を使ったのは下級兵士で、魔法で手当てをしたのは下級神官で、それにより皇帝はすぐさま命を失われること無く即座に立ち上がり、それをまるで奇跡のようだと感激したのだという。


 しかしその奇跡のような業は素晴らしいと賞賛される反面、束縛が厳しくもなった。

 魔法を使える人間は貴重とされ、それは資源ともされ、故に他国へ行くこと等もってのほかであり広大な国の中で首都から地方の田舎へ帰省するだけでも許可を取ることが難しくなったのだという。

 武力一辺倒であったイルギナール帝国では魔法使いたちを集め、魔法使いの部隊を作ることもあった。

 今まで“胡散臭い”と罵られていた彼らが陽の目を見たと賞賛されもするが、魔法使いたちから見れば“暗黒時代”の始まりでもあったという。



 確かに、魔法は便利だった。

 便利ゆえに反目に使うものもいればそれを多くの人々の豊かさのために使いたいとするものもいた。


 どちらも、イルギナール帝国だけでなく――貴重な資源、として見られるようになってからは管理される時代となったのだ。



 だが、そこにリューゼ大公が生まれる。

 リューゼ大公はイルギナール第5代皇帝の世に当時公爵の位にあった家に次男として生まれ、今も長男が継いだリューゼ家はイルギナール帝国で続いている。

 ではなぜ次男であった彼が、帝国から独立し公国を樹立することが出来たのか、何故今まで侵略されることなく平和に暮らしていけて魔法使いたちが挙って集うのかということだが。


 まずはじめに後にリューゼ大公と呼ばれた男は、魔法が使えなかった。

 ただし彼は使えない代わりに、魔力の流れや大きさを知るという感性があった。

 そして戦地で出会った少女と恋に落ち、その少女が妖精の血を引く女性であったというドラマチックな展開が待っていたのだが、そこは割愛し結論だけ述べれば――妻を守る為に、“より良い魔法使いを育てる”という名目でリューゼ学術院を設立し、そしてそこで生徒という名目で魔法使いたちに自由を一時的に与えることと力の制御方法を学ばせるという二点から信奉を集め、必ず国へ戻らせるからという約束の下に国外の魔法使いたちも迎え――ありとあらゆる魔法知識の坩堝るつぼとして学術院は強大な存在となったのだ。


 そして独立し、魔法使いの魔法使いによる国家とし、魔法が使えぬ人間をだからと言って卑下することもなく暮らす国を作ろうとなったのだ。

 魔法使いを育てる環境、それを売り物に。

 表向きはそうだが、裏では巨大な魔法力を持て余している危険人物を“飼い慣らす”ための調教師としてであり、強大な魔法使いを放っておいても育てそして返してくれる場所、なのだ。

 学術院を瓦解させ教師たちを強制的に労働させるということも当然考えられたし、国ごとに新しい学術院を設立するという流れも無くもなかったのだが優秀な人材は既に学術院にありきで戦ごとはいまだ“不可思議”とされた魔術の下に負けることも勝つことも出来ない常態だったのだ。

 戦略家としての大公は大変優れた人物であったらしく、攻めることも引くことも絶妙のタイミングであったというし大公妃のためにと妖精たちも協力したというがそこは定かではない。

 とにもかくにも彼らは“魔法使いたち”に自由と尊厳を与えてくれた人たちということで今でも大公家は非常に国民に人気が高く、リューゼ学術院は今でも大陸一番の学びの都となったのである。



「……というのがリューゼ公国の概略になるんだが、理解できたか? 凛。」

「………ごめんなさいもう1度。」


 そして凛は――今、そんな歴史ある国の学術院に第一歩を踏み入れたばかりだった。

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