チューリップの彼女
彼女を花に例えると、チューリップだろうと僕は思う。
薔薇のように他を圧倒するはなやかさがあるわけでもなく、百合のように凛とした清らかさがあるわけでもない。反対に蒲公英のような親しみやすい柔らかさや、菫のような誰からも愛される可憐さがあるわけでもない。
彼女は決して美人ではなかった。普通を体現したような容姿をしていた。
顔のつくりはごく平均的で、鼻は小さかったけれど低く、目は一重もしくは奥二重といったところ。薄い唇はこまめにリップクリームを塗らないとすぐに皮が剥けてしまうようだった。
体型にもとりわけて秀でた所はない。
身長は150cmを越えて少しといったところで、手足が長いということもない。腰は多少細くくびれていたけれど、胸もお尻も控えめなので目立つものではなかった。
けれど彼女はとても魅力的なひとだ。
彼女の肌はよく言うような透き通るような白ではない。うっすらオレンジがかった白色の肌は肌理が細かくすべすべとしていて、思わず手が伸びてしまいそうになる。
焦げ茶色の瞳はいつもまっすぐ前を向いていて、どこかきらきらとしている。
はきはき話す声には穏やかさがまとわれていて、とりわけ可愛らしいわけでもハスキーなわけでもなかったけれど、耳に心地よかった。
爪はまあるくけずられ、マニキュアなどは塗られていないその表面は綺麗に磨かれて光っていた。
髪は微かに赤みがかっていたけれど、肩に届くほどで切りそろえられ、艶やかにまとまっていた。
同世代の中にいると目立つほど、すっと背筋が伸びていて、身長のわりにすらっと高く見えた。
つまりのところ、彼女は美しいのだ。
それはたゆまなく手をかけられて内側からにじみ出るようなものだ。ごく普通の人が、頑張れば手に入るようなものを積み重ねてなりたつような。
僕の好きな人はそういう人なのだ。
道端に勝手に咲きはしないけれど、きちんと世話をすれば特別な技術がなくても咲かすことが出来る花なのだ。
植物とは違って、きちんと世話をする、というのが少し大変なのだけれど。
「はな、」
僕は彼女の名をそっと口にする。
彼女は気づかない。
教室の片隅にできた人の輪の中で、薔薇や菫に混じってころころと笑っている。
いつか彼女が僕の呼ぶ声に反応してくれる日のために、僕は、彼女に見合うヒトになるための努力をするのだ。
いつか、いつか。
彼は人間ではなくて、植物の精霊みたいな存在のつもりで書いたのですが、なくてもいい設定でした。