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世紀末的物語  作者: てつまる
序章
2/2

読み切りですが、登場人物は関連をもたせていきたいと思います


「国内各地で暴動が発生しております。戸締りを厳重にし、建物や住居から出ないでください。

現在、警察及び自衛隊が国内全域で救助活動を実施しております。」




TV放送が中断され、国営放送のテロップ画面が表示されるだけになり、既に5日が経過していた。



それは、突然発生した。

中東のテロ組織がバイオテロを目指して開発しようとした未知のウィルスにみずからが感染し、結果世界的なハンデミックを引き起こした、通称ゾンビウィルスの日本国内でのパンデミックであった。

本来ならば、島国である日本にウィルスが簡単に侵入するはずはないが、ヨーロッパ大陸を中心とした世界的なパンデミックに伴い、イギリス、オーストラリア、ブラジル、南アフリカ共和国などのヨーロッパ大陸以外の大陸国家が人道的援助として避難民の受け入れを表明したのである。


勿論、非感染者のみの受け入れであった。

発症者に嚙まれることにより感染するということから、体液感染であることは判明しており、各国は受け入れ時には、徹底した身体検査を実施し、2段階の隔離施設での感染期対策も実施し水際防止策を打っていた。

しかし、噛まれずともゾンビとの戦いなどで、感染者の血を浴びた避難民達の、小さな傷口、口腔内、眼などに、宿ったウィルスは通常知られていた感染期間の数倍の時間をかけて宿主の身体を蝕んでゆき、本人さえも気づかぬうちに感染者に変えていったのである。


成田、羽田、小牧、福岡の各空港の近隣に作られた、避難者一時隔離施設では、自衛隊の武装警備が実施されていたが、実戦経験の無い軍隊、乏しい弾薬、もとより人に対する射撃など到底受け入れることが出来す。各施設に隔離された第1陣の避難者1万の殆どと、警備する数百の自衛官が、感染者となり施設の外を徘徊しはじめたのである。


初期対応にあたった警察も、その装備の貧弱さ、未経験の事態に対応出来ずであった。


唯一、在留米軍が司令官の独断により九州地区の感染者掃討作戦を実施、日本国政府は福岡に臨時政府を樹立し、在日米軍の残存する自衛隊、警察を再編成し、国内での救助及び安全地域の拡大行動を実施していた。




5日前


小牧施設警備隊からの、施設内でのゾンビ発生の一報から30分後。愛知県警の第1機動隊72名とSATチーム12名が、武装体制で施設付近に展開していた。


「よーーし!この先300メートル付近に、大量のゾンビが発生しているとの事である!SATの狙撃班と突入部隊が、前方200メートル地点で待機し、我々の洩らしたゾンビは始末してくれる!

本部からの通達では、感染者、つまりゾンビまたは、その疑いがある者に関しては、射殺許可が下りている、現在の情報では、我々が、施設警備をおこなっている自衛官以外では初の交戦者になる!

警備に自衛隊は、引き金を引くことを躊躇し全滅した。死にたくなければ躊躇するな!

全員気を引き締めてかかれ!

初弾装填!

各員、相棒を確認し、銃弾の装填時にはカバーし合うように!

全員降車!

躊躇するな!ここで食い止めなければ、名古屋は、いや、愛知はゾンビの巣窟となってしまう。


自衛隊も装備を携えて10分以内に到着する!

それまでに、我々は警察官として地域住民の安全を確保するのだ!全員降車!

10名はSATについてここに残れ!」


隊長の掛け声とともに、機動隊員72名は勇んで輸送車から降り立ち、畏怖堂々を整列した。


「良し!出発!駆け足!」


62名は駆け足で、一気に300メートル強を駆け抜けた。


隊長が


「次の角を右だ!直ぐに遭遇するぞ!注意!」


角を曲がった機動隊員達は、50メートル先のゾンビの大群に一斉に目を見開き固唾を飲み込んだ。海外のTVニュースでは嫌という程見た光景であり、県警でのレクチャーでも散々見た光景である。


しかし、画像では・・・・・・分からなかった。


ゾンビが発する異臭、その中からムンムンとする己が命に対する危険な臭い。人としての本能が逃げることを要求していた。


辛い訓練の日々に培われた使命感だけが、若い彼等を踏みとどまらせていた。しかし、所詮は訓練であり、生きる屍に対するそれではなかった。それは誰かの悲鳴1つで崩れ去らんばかりに脆弱であった。


「な、何なんだよ?この集団は?」(勿論大半が外国人、ありとあらゆる人種が混じっていた。)


隊員達の目の前には道路を埋め尽くす、傷だらけの身体を左右にフラフラと揺らし、両手を前に突出しながら進んでくる、およそ700のゾンビがいた。映画のようにノロノロを歩く訳ではなく、走りこそしないが、通常の歩行速度以上のスピードは兼ね備えていた。


愛知県警は、ゾンビ受け入れの緊急事態に備え、オーストラリア政府と交渉し、県内の警察官全員に行き渡る数の自動拳銃グロック17と大量の9ミリパラべラム弾、予備弾倉を緊急輸入し、実弾訓練を昼夜実施させ携行させていた。


更に機動隊には、別途、在存する各国からかき集めた散弾銃ショットガンも配備されていた。


「た、隊長!どうすればいいんですか?」


口々に指示を求めながら、得も知れぬ恐怖を感じていた若い隊員達は自然と一歩一歩と後退を始めていた。


隊長自体も、その光景に言葉を失っていた。


いつの間にか、若い隊員達は隊長を残して既に3メートル程後退していた。対するゾンビは既に10メートルを切る距離まで迫っていた。


「!下がるな!下がるな!」


隊長が大声で、逃げ腰の若い隊員達を鼓舞し、自身が持つショットガンを近づく正面のゾンビに向かって発砲した。


大きな銃声とともに、先頭のゾンビの頭部が吹き飛び、ビクン!ビクン!と痙攣をおこしながら倒れこんだ。


殺れる!


隊長が根拠のない自信を得たのと同時に、数名の隊員が大きな叫び声とともに、ショットガンを撃ち始めた。


アメリカでは、暴徒鎮圧用にパトロールカーに必須の装備とされているだけの破壊力の通り、集団の先頭付近のゾンビの10数体が、その暴力的な破壊力の前に屑ずれ去って行った。


「ブッ放せ!」


「撃て!撃て!」


口々に己が恐怖を打ち消すかのように叫びながら、機動隊員達はショットガンを撃ち始めた。


しかし、既に恐怖に蝕まれていた機動隊員達は、僅か7~8発しか発砲出来ないショットガンをやみくもに撃ち続け、新しい銃弾ショットシェルを装填する際の相互警戒が機能せずに、10数名の隊員がゾンビの集団に飲み込まれていった。


「下がれ!下がれ!距離を取って!2人1組で弾を装填する時間を稼ぐんだ!拳銃!拳銃!」


弾切れのショットガンを肩にかけ、拳銃を取り出し、ゾンビに向かって発砲しながら隊長が大声で指示を出した。


回りの部下を確認しようと、前方のゾンビからほんの一時、眼を離した瞬間にゾンビの顔が近づき、大きく開かれた隊長の口が腕にめり込んだ。


人間の歯は、肉食動物のような発達した犬歯は持っていない。ゾンビは、ただ、己が、顎が、持つ噛む力を全開に解放して噛み付いた。


痛みは、犬などに噛まれた比ではなかった。


想像を絶する叫び声をあげて隊長は、必死に腕を振るい噛み付いているゾンビを引き離そうとした。


しかし、信じられない力で噛み付き、更には逃がさないように腕を掴んでくるゾンビを引き離すことが出来ずにいた。


「た、隊長を助けろ!」


数名の機動隊員が隊長の元に走り寄り、その一人が拳銃を構えるが、激しく動き回る隊長を誤射することに躊躇している時、横の隊員が手に持つ特殊警棒で噛み付いているゾンビの頭に向かい渾身の一撃を振るった。


しかし、既に時遅く、隊長の体内ではゾンビウィルスが所せましとその影響力で、身体を乗っ取ろうとしていた。


「隊長!隊長!」


「やめろ!」


「やめろ!」


「手遅れだ!下がれ!危ない!」


駆け寄る隊員を他の隊員が羽交い絞めに止め。その身体を引きずるように後退した。


既に、62名の機動隊員のかなりがゾンビに襲われ、10名以上が襲う側に変貌していた。


「SATの地点まで後退!後退!」


誰かが叫んだ声を境に、残った機動隊員達は我先に駆け出した。


10名程の機動隊員が必至の形相で角を曲がってSTAの方に走っていた。その後ろから、小走り程度の速度を持つゾンビ、数百体が追っていた。


「来たぞ!来たぞ!狙撃班!確認出来るか!」


「狙撃班 野口!確認出来ました。撃ちます!」


2名の狙撃手は、一発、一発、狙いを定だめ、角から飛び出すゾンビの頭を破壊していった。


「隊長!数が多すぎます!手に負えません。」


「見えてる!兎に角減らせるだけ減らせ!後は自己判断に任せたぞ!」


狙撃班に指示を送った後にSAT隊長は、残る隊員に次々に指示与えた。


「山口!田中!機動隊4名連れて逃げてくる奴等をカバー!

残りの機動隊員は、並んで盾構え!拳銃!15メートルに接近したら発砲!

木村!鈴木!3名連れて左展開。吉村!谷口!は2名連れて右展開!

残りは、正面!フルオートは使うな!銃弾の数を考えて撃て!」


10名の機動隊員達が、SAT陣営にたどり着いた時点で、ゾンビとの差は40メートル程になっていた。


「戻った機動隊員も盾後ろへ交代でショットガン!急いで装填しておけ!10メートルで発砲!

SAT各員!撃てぇぇ!」


ゾンビに対して正面に位置する4名のSATの隊員達が構える89式自動小銃(自衛隊装備品)から次々に5,56ミリ弾が発射され、次々にゾンビが跳ね飛ばされるように頭に銃弾をくらい倒れて行った。


「すげぇ!流石SAT」


盾を構える機動隊員達が、その射撃能力に関心していたが、SATの隊員達は内心かなり焦っている状態であった。


『何匹?いるんだ?弾丸が足りるのか?』


対ゾンビということで、SATの隊員達は携行出来る最大量の弾薬を持参していたが、所詮個人で携行出来る量などしれている。20発入りの弾倉を8個所持しているだけである。


左右からの攻撃も加わり、一時的には優性に見えたSATであるが、次から次へとあふれ出るゾンビは徐々に増え、とうとう15メートルに近づき、機動隊員の拳銃による銃撃も始まった。


「クソッ!近すぎる!」


既に、数メートルに近づいていた、ゾンビの集団に対して、89式小銃を構えていたSAT隊員は、小銃を肩に掛け、レッグポルスターから拳銃を抜き出していた。


「隊長!後退しながら!距離をとらないと!」


SATの隊員の声に対して、隊長が答える前にSATのメンバーは後退しながら拳銃による銃撃を開始していた。


しかし、SATのように戦闘中の自己裁量での判断に慣れていない機動隊員達は後退が遅れ、先頭のゾンビ集団に囲まれ始めていた。


「盾で180度半円で囲むんだ!盾で弾き飛ばせ!弾き飛ばしながら下がるんだ!下がるんだ!」


10名が盾を構え半円の防御壁を作り、迫りくるゾンビを弾き飛ばしながら後退していた機動隊員達であったが、じりじりとゾンビ達に押し込まれていった。


僅かな盾の隙間から入り込んだゾンビの手が、一人の隊員に当たり、一気に口を掴まれ引っ張られたことにより、陣形は崩れ、数十人のゾンビ達が隊員に襲い掛かった。


「ぎゅやあぁぁぁぁぁぁ」


10名の機動隊員達の阿鼻叫喚の声が響く中、SATの隊員達はなす術もなく、必死に後退しながら、拳銃のドットサイトをゾンビの頭部に重ね引き金を引く作業を繰り返していた。


「隊長!弾が!もう底つきそうです!」


何人もの隊員が弾切れを訴え始めていた。


「あと、数分で自衛隊が到着するはずだ!持ちこたえるんだ!指揮車に戻れ!全員指揮車に戻って弾薬を補給するんだ!」


隊長の指示で、百メートル後方の指揮車に戻ろうと駆け出し始めた隊員達は、皆、我が眼を疑った。


「嘘だろ!」


指揮車との間にある脇道から、ゾンビがどんどんと溢れ出すように現れ始めたのである。


「2人1組で対処!格闘戦準備。1人が格闘戦でもう片方がバックアップ!予備弾倉はバックアップに渡せ。」


「野口!まだ狙撃地点を確保しているか?新たなゾンビが出てきている!そっちから狙えないか?」


「了解です。俺も坂口も大丈夫です!出来る限り減らします!」


新たなゾンビの集団に、狙撃班の2名が銃撃を加え始めた。しかし、狙撃班の所持する狙撃銃はボルトアクションであり、1発撃つ度に空薬莢の排出と次弾の手動装填があり、更には装填弾丸数も少ないため、89式小銃のようになぎ倒すようにゾンビを減らすことは出来なかった。


SATの各隊員は、ゾンビの取り囲まれないように、あふれ出るゾンビの先頭集団に対して、銃撃を開始した。


「足!足!出来れば膝を打ち抜け!何匹か先頭の奴らを倒せば、進行スピードを少しでも遅らせる!」


隊長の怒声に、拳銃を持つ隊員達は機敏に反応し、先頭のゾンビの下半身に狙いを定めて行った。


上手いことに、何匹かのゾンビが足を撃ち抜かれて、地面に転がりそのゾンビに他のゾンビが躓き更にそのゾンビに数体がという感じ数珠つなぎで倒れこんでいった。






「隊長!上手い作戦だがね!」


双眼鏡越しにゾンビを見ていた狙撃手2名のスポッター(観測手)の田中が独り言をつぶやいた時、後方のドアが乱暴に開かれる音がした。


3人が、振り返った時には数体のゾンビが室内に侵入していた!


「鍵、かけてなかったのかよ?」


と野口が怒鳴りながら狙撃銃で手近なゾンビの頭を吹き飛ばした。


「ゾンビがドアノブ回せるって知ってました?」


坂口が、銃撃では間に合わないと判断し、近寄るゾンビの後頭部に狙撃銃をバットのように持ち替えて殴り倒していた。


「ヤバくないっすか?」


田中がレッグポルスターから拳銃を引き抜き、安全装置を外し、2匹のゾンビも頭を次々と打ち抜きながら答えた。


「兎に角!部屋から出ることを考えろ!」


野口が拳銃で近寄るゾンビを撃ちながら怒鳴り返した。


「危ない!」


田中に飛び掛かろうとしたゾンビに対して体当たりでゾンビを弾き飛ばした坂口は、勢い余って、そのままゾンビと共に床に転がる形になってしまった。


1匹のゾンビの馬乗りされた坂口


「ちょぅよ!誰か・・・・」


必死に噛みつこうとするゾンビの喉元に右手を入れ、突っぱねるように精一杯力を込めていたが、信じられない力のゾンビに徐々に押し込まれていた。


「この、たわけがぁ」


坂口が右手をずらしながらゾンビの顎に掛け後頭部を左手で強引に掴み、一瞬の内に梃子の要領で顎を支点にゾンビの首を捻り頸椎を破壊した。


坂口が起き上がった時には、部屋に侵入した9体のゾンビを殲滅することに成功していた。


「田中!廊下確認!」


野口は、指示を出し、拳銃の弾倉を交換し、落ちていた双眼鏡を拾い上げて、SAT本体を確認しようとした時


「廊下に推定30!気づかれました。こっちに向かってきます!」


慌ててドアを閉め鍵とをかけた田中が部屋に飛び込んできた。

「ロープで降りる!坂口!装備もてるだけ持て!田中手伝え!」


ドアサッシにロープを結わえ、3名は順々に2階から地面へと降り立って行った。


しかし、SAT本体に向かおうとした矢先、進行方向に数十のゾンビが現れた。


「クッ!本隊に戻るまでにゾンビの集団が2つかよ?

坂口!田中!取り敢えず逃げるぞ!下がれ!ゾンビのいない道を探すんだ」


3人は、SAT本体と逆方向へ走り出した。




将棋倒しのゾンビに集団の横を4名のSAT隊員が駆け抜けたが、残りの隊員は倒れたゾンビを迂回するように近づくゾンビの集団に行く手を遮られる状態になった。


「クソッ!こいつ等ちっとは頭も回るのか?映画と違うじゃねぇかよ!」


1人の隊員が毒づきながら、近づいてくるゾンビに対して特殊警棒で殴りかかった。渾身の一撃で頭を陥没させることは出来たが、銃弾のように直接脳を破壊した訳ではないからなのか?

その後もゾンビは動き続け、その隊員に襲いかかったのである。


「ちょ!マジかよ?頭が急所じゃねぇのかよ?」


必死にゾンビの開かれた口に特殊警棒を横構えで押し付けることによって、噛まれることは防いでいたが


「な!なんて力なんだ!ぐわっっっわぁぁぁぁぁ!」


ミシリッと音が鳴り、SAT隊員はその手から特殊警棒を落してしまった。掴まれた右手首がその圧倒的な握力で圧迫骨折させられたのである。


嚙まれる!と思った瞬間、lサポートしている他の隊員がゾンビの頭を撃ちぬいた。


撃ち抜かれたゾンビの血を浴びた隊員は、頭を振りながらも立ち上がり、仲間に手を上げて礼を言おうとした。


「?何で俺に銃を向けているんだ?」


「すまん!」


「まっ!待ってくれ!俺は噛まれて無い!」


銃弾を防ぐように銃と自身の顔の射線上に右手を大きく開いていた隊員


バンッ!


「な・・・・・・・」


掌と眉間に穴をあけられたSAT隊員は地面に崩れ落ちた。


「噛まれなくても、顔中血だらけになるぐらい血を浴びたら・・・・・・すまん・・・」


「離せ!」


パン!パン!


「駄目だ!」


「く、来るな!近寄るな!」


隊員は一時的な感傷から現実へと意識を戻した時、とてつもなく嫌な臭いを嗅いだ。匂いの元を辿ろうと、左方向に目を向けた瞬間、隊員は大きく開かれた隊長の口を見た。


彼が、最後に目にしてものであった。そのまま覆いかぶされら地面に叩きつけられた隊員はその顔を隊長に激しい勢いで何度も何度も噛まれていた。


ゾンビの集団から逃げ延びた4名の先頭を走っていた隊員が指揮者にたどり着いた。


「クソったれめ!弾薬させあれば・・・・・その頭グチャグチャにしてやるからな!おーーい!早く来い!!!」


ゾンビの集団と遅れて走る仲間を振り返りながら、スライドドアを後ろ手で開けた隊員に重たい物が圧し掛かってきた。


「ぐわっぁぁぁぁ!ぎゃぁぁぁぁっ!」


理由は分からないが、指揮者の中に偶然にゾンビが入りこみしまったドアを中から叩いていたところに、いきなりドアが開かれたのである。


その光景を見た先頭を走る隊員が、腰の特殊警棒を引き抜こうと若干スピードを緩めたところに、その後ろを走る隊員の足が縺れて、突き飛ばすように倒れこんでしまった。


倒れこんだ2人に対して、最後尾の隊員は止まることより仲間を飛び越えて前進する手段を選択し、飛び越えようとしたところに、倒れた仲間が無理な姿勢からも立ち上がろうとした。


立ち上がりかけた者は頭を蹴られ、飛び越えた者は、空中で姿勢を崩し顔から地面に倒れこみ昏倒してしまった。


一人立ち上がった隊員は、特殊警棒を抜こうとしたまま倒れこんだことにより、その右肩を激しく脱臼し、痛みに顔をゆがめながら、必死のその場から逃げ出そうとした。


しかし、脱臼した肩の痛みで思うようなスピードが出せない隊員の直ぐ後ろまでゾンビは迫っていた。





「隊長!こちら野口!狙撃地点をゾンビの強襲され、現在屋外に退去しました。周辺のあちらこちらにゾンビが発生!既に、地域住民もゾンビ化しています。指示お願いします!」


何度連絡しても、無線から隊長の返答は帰ってこなかった。


「島本も、田島も、佐々木も、中田も・・・・・・・誰も無線に返事がないっす。」


田中も無線機を操することをあきらめて、泣きそうな顔をしていた。


「泣くなよ!本隊は全滅・・・・・・・・・と考えた方がいいみたいだな。県警本部に報告する。周囲警戒頼むぞ。」


坂口と田中に周辺の警戒を任せて、野口は携帯電話を取り出し、アドレス帳から愛知県県警備課長を選び、プッシュした。


1度のコール音で電話がつながり


「吉永だ!本波(SAT隊長)と連絡が途絶えている。何が起こってるんだ?」


「野口です。本隊は全滅です。

はい、最後まで確認できたわけではありません、すみません。

我々も、狙撃ポイントを強襲されて・・・・・・ギリギリのところで脱出した次第です。

最後に確認した時点では、8名が弾薬が乏しくなり、指揮車まで撤退を開始しました。その後、隊長含め全員と連絡が途絶えました。

はい、狙撃班3名です。一応、装備は何とか・・・・・・はい、弾薬はまだ残ってますが、兎に角物凄い数です。

既に、地域住民らしきゾンビも確認しました。

あちらこちらから溢れ出るように現れますので・・・・・・本部に戻るのにどれくらいかかるか検討もつきません。

田中が現時点から1キロ程の所に交番があるというので、そこでPCパトカーを入手出来ないかと考えていますが、迂回、迂回でなかなか進めていません。

はい。

逃げている中で判明したのですが、諸外国からの報告通りにゾンビは特に音への反応が顕著です。視野はおそらく20~30メートル程度かと。

はい、視認出来る距離なのに無視されました。ただ、その時にジュースの空缶を蹴ってしまったところ、いきなりこちらに向かってきましたので、間違いないかと思います。

それと、我々が遭遇したゾンビはBタイプでした。Cタイプが混じっている可能性も否定出来ませんが、大半がBタイプでした。

は、はい。本部に戻ることを最優先で行動すればいいのですね。了解です。」


携帯電話を畳んだ野口は二人に向かって


「人命救助も、何もかも放棄して最優先で県警本部に戻れとの命令だ。必要なら民間の自動車を徴収しても構わんから戻れとの事だ。

現時点では、俺達3人が唯一の対ゾンビ戦闘経験者だからな、情報が必要なんだろう。

さあ、行くぞ!」


こうして、愛知県警SAT部隊は狙撃班の3名の除き全滅してしまった。


豆知識


ゾンビのパンデミックが発生したのち、各国のゾンビの比較が行われたところ4タイプに分類

されることになった。


Sタイプ:オリンピック選手並みのスピードを持ち、個体以上の複数体で行動する。(北米大陸)

Aタイプ:通常の人間程度のスピード持つ。個体行動。(ユーラシア大陸のアジア圏)

Bタイプ:通常の人間の小走り程度のスピードを持つ。個体行動。稀に5~10体程度の集団行動をとる(ユーラシア大陸のヨーロッパ圏)

Cタイプ:映画などで見られる、歩く以下のスピード。個体行動であるが、概ね群れのごとく20以上の集団になっていることが多い。(北米大陸、ユーラシア大陸のヨーロッパ圏)

※Sタイプ以外は集団化して群れになっていることが多いが、各個体が連携した動きはSタイプと稀にBタイプが行うことが確認されている。

※人種的にタイプが分かれているのではなく、発生地域別にそれぞれ微妙にウィルスが亜種変化したものと推測されている。よって、Sタイプに襲われ、ゾンビ化した場合はSタイプになる。

※理由は不明であるが、タイプに変わりなくゾンビの約40%は人を襲った際に一口程度しか人間の肉を食べない。この40%のゾンビが感染者を多く作り出している。残り60%のゾンビの多くは胃が満たされるまで食い尽くす。

※満腹になっても、1時間程度で空腹になり人を襲う。消化方法などは判明していない。




今日


「もう、5日も経ってるがねぇ。どえりゃことになっとるだがね?」


(以下標準語に戻しますね:作者)


ある、マンションの1室に同マンションに住む親族が集まり、ワイワイガヤガヤと親族会議が実施されていた。


『まいったよなぁ。きっと俺だぞ!』


中山雅史は、部屋の隅で出来るだけ会話に入らないようにしていた。


仕事の関係で大阪から名古屋に転勤し、そこの支店に勤める涼子と結婚したのが15年前。無理して購入したマンションに、涼子の母親とその息子(既婚嫁、息子2)が引っ越して来た7年前から、状況が変わった。


涼子はかいがいしく、自分の母親と兄(雅史にとっては義兄)の世話をし始めたのである。母親が入院した際も、義兄一家は何もせずに、涼子一人が病院の行き来を行い、まだ小学生であった娘は雅史が、子供が風を引けば会社を休み病院に連れて行き、毎日定時に会社を飛び出し帰宅して世話をしていたのである。


その入院が2年にわたり、雅史は会社での付き合いの悪さから次第に上司、同僚、部下との疎遠になり、何事も一人でこなさなければならなくなり、社内でも浮いた存在になっていた。


片や、義兄は熱心に残業をこなし、母親が長期入院にも関わらず仕事をこなしたという高い評価を得て、どんどんと出世していったのである。


そして近年、義兄との収入格差などから、義母や涼子、涼子に感化された娘からも、虫けらのように扱われていた。


「誰かが、周辺の状態を調べなければだめだ。もう食糧も底を尽きかけているし、出来れば救援を得なければならない。

4階の西村さん、小池さん、木村さんや2階、3階の方々も、今朝早くに自動車で他県の親戚を頼ると避難していったが、夕方から誰とも連絡が取れなくなった。

もう、このマンションに残っているのは、我々と、老夫婦3組と旦那さんが単身赴任中の妊婦2名、2階のパチンコ狂いの一家4名だけだ。

早急に打開策をうたなければならない!」


義兄は、大仰に全員を集めて自説の述べていた。


『よく言うよ。食糧が無いだぁ?お前ら一家と義母はずっと、この家の食糧を食いつぶして、自分のところからは何一つ持って来てないじゃないかよ!そりゃ足りなくもなるわ。』


雅史が心の中で毒づいていると、その表情を見た義母が


「若干1名。ひろちゃんの意見に反対の者がいるようだねぇ。稼ぎの少ない厄介者らしいひねくれた考えだよ。こんな時は、ひろちゃんのような大局が見えないと生き残れないね。」


涼子、娘、義姉、甥が、まるで拍手せんばかりに首を縦に振りながら賛同していた。


「ちょっと!待って下さいよ!先ほども説明したでしょ。ネットの書込みを見る限り、小牧の外国人避難者受入施設でゾンビが発生して、小牧から名古屋に向かって大量のゾンビが発生してるらしいって!そんな中、誰が外の探索に行くんですか?」


「そんな重要なことが発生したら、必ずTVで発表される。ネットの世迷言なんぞ信じるから、君jは出世できなんだよ!」


雅史の発言は義兄の理論では受け入れられず、一言で却下され、他の者は会話を続けていた。


「おっちゃんのいうことも一理あると思うんだけどな?ましてやこんな夕方から探索もクソもないんじゃない親父?」


そんな中、義兄の長男の大学1年生が、雅史を庇う発言をした。


「アンタは、こんなロクデナシの肩もつんじゃないよ!ろくでもない大人になってしまうよ。昔は、おばあちゃんの言うことをよく聞く優しい子だったんだよアンタは?

きっと、情けない雅史を気の毒に思ってのやさしい気持ちなんだろうけどね・・・・・・」


義母の言葉を遮って、ののしるような言葉を吐き捨てて義兄長男は部屋から出て行った。


その瞬間から、6時間にわたり、涼子、義母、義兄から罵詈雑言を浴びせられ、挙句に夕食すら与えられずに雅史は明け方前に床についた。


「起きなさい!」


義母の、老人とは思えない力で蹴り飛ばされた雅史は、眠い眼をこすりながらノソノソと起き上がった。


全員がバルコニーでワイワイと外を見て騒いでいた。


「あ!あれあれ!TVで見たゾンビそっくりだわ!やっぱりひろちゃんの言う通りだわ。ゾンビが施設から逃げ出したのね!」


『コラコラ!そのネタは俺のネタだろうが!』


毒づきながら、窓から覗いた雅史は冷静にゾンビを観察した。


「白人ばっかりか・・・・・・Cタイプのように見えるな。もしかしたら、Bタイプかも知れないが、そこんとこは近寄らないとわかんねぇなぁ。」


雅史が、ゾンビを観察しながら考えている間に、義兄を中心とした親族会議が実施され、長兄の意見は多数決で否決され、雅史が、付近の様子確認、可能ならば食料品確保、更に可能ならば救援を探しに行く。と決定されていた。


「マ、マジ?ここから見ても60はいるんだぜ?死ににいくようなもんじゃん!涼子、お前もそれでいいのかよ?・・・・・・・」


涼子に目を向けた雅史は、その眼を見た瞬間に言葉を止めた。


「当たり前でしょ?家族の危機なんだから夫でありお父さんであるあなたが救援を呼んでこなければ誰が行くのよ?」


「夫?や父親は俺だけじゃないだろう?お兄さんだっているじゃないかよ!」


「たわけ!弘は高階家の正当な唯一の跡取りです。危険な目にあわす訳には行けません。その点、アンタは大した家の出でもないし、稼ぎも少ない冷や飯喰いなんだから、アンタが行くのが一番影響が少ないのよ!」


しれっと言ってのけた義母のマジマジを見つめた雅史は


『こんな悪魔たちと過ごすんなら、ゾンビに喰われた方がましだよなぁ。面倒くせぇ!』


と一気に無駄な抵抗をやめた。


1時間後、雅史は趣味のサバイバルグッズを身に着けて、金属バットを持ち玄関に立っていた。


「えっと、緊急時の食料はこれだけしか貰えないんですね?自動車も使ったら駄目なんですね?」


2缶の乾パンと3本の500MLの水を眺めながら雅史は尋ねた。


「僕の車は買ったばかりの新車なんだよ。君みたいな乱暴者は、車を与えると安易にゾンビを轢き殺し回るだろ?汚されたくないんだ。

それに、残る人数を考えてもみてくれたまえ、1台では全員乗れないだろ?よって涼子の車もおいて行ってもらうよ!」


『涼子の車じゃねぇよ!俺が買ったんだよ!たく、この状況で新車にこだわってて・・・・・生き残る気なのか?ホント、馬鹿じゃね?』


「はい!はい!ご自由にどうぞ。まぁ戻っては来れないでしょうからね。」


吐き捨てるように言葉を残しながら玄関のドアを開けて外に出た、雅史の背中に


父親としての自覚だの、責任感だのと罵声が浴びせられた。


ドアを閉めて、廊下を歩こうとすると、静かに窓が開けられて鍵らしき物を持った手が伸びてきた。


近寄って確認すると、義兄の長男であった。


「おっちゃん。無理せんとな。これ、俺のマウンテンの鍵。使っていいよ。危険になったら捨てて構わないから・・・・・・」


雅史は黙って鍵を受け取り、駐車場へと階段を下って行った。


階段の出口で、たっぷりと時間をかけて外の様子を確認し、一気に自転車置き場にかけより1台のマウンテンバイクを引っ張りだした。


駐車場を出る際も、十分に回りに注意したが、見える範囲の周辺にゾンビの姿は見えず。雅史はコンビニや警察署のある街中方面に向かってペダルをこぎ出した。


ある角を曲がった時、前方40メートル程に4体のゾンビがこちらを向いてフラフラしていた。


『ヤバい、見つかった?』


ペダルを漕ぐ足に力を入れようとしたが、よく見ると、ゾンビはフラフラをしているだけで、こちらに向かってくる様子はなかった。


『見えてないのか?てか見えないのかな?』


その時、雅史とゾンビの中間地点辺りの横道から、数名の若者がゾロゾロと現れた。


全員が血塗られたバット等を手にしていた。


「頭叩きゃ、一発だしよ!ノロマばっかだから楽勝だよな!」


「早いとこ、コンビニで食糧手にいれて戻ろうぜ!いくらノロマでの大量の奴等と出くわしたくねぇもんな?」


彼等は、心配する割りには周囲に注意を払わずに大声でしゃべり歩いていた。


彼等が、現れると途端に、前方のゾンビは小走りに若者に向かって進み始めた。


「おっ!いやがったぜ!」


一人の若者が気づきバットを構えた。


「おっ!こいつ、ノロマより早いぞ!」


今までに遭遇していたタイプと違うスピードのゾンビとの戦いにおいて、若者たちの間で培われかけていた、防御、攻撃の連携に綻びが生じていた。


若者たちは、5体程度のゾンビとの戦いしか経験がなかった。基本的な戦法は、ゾンビへの下半身攻撃と蹴りを利用し、1体を孤立させ、3人でガムシャラにバットで殴り、残り2名が残りのゾンビの様子を伺いながら、起き上がる前に打撃を加え、順々に1体ずつ葬り去っていた。


しかし、今回ばっかりは勝手が違っていた、Cタイプと比較するとBタイプは信じられないくらい早く動くように錯覚するのである。


そこに、噛まれれば自身もゾンビになってしまうという根底の恐怖が重くのしかかり、判断を鈍らせていた。


ついに若者の1人が捕まえられたのをきっかけに、2人が走って逃げ切ったものの、2名がさらに掴まり、ボリボリとゾンビに喰われていた。


その叫び声に反応した周辺のゾンビも徐々に集まり出し、逃げた2名は他のBタイプゾンビに掴まってしまった。


『げえっっっ!悲鳴で回りから集まってくるのかよ!』


角、角から湧くように現れるゾンビに驚きながらも、雅史はゾンビが少ない道を選びながら、マウンテンバイクのペダルを必至に漕ぎ、数分後にやっとゾンビが周囲に見当たらないところまで避難することが出来た。


『まいったな!どれだけいるんだよ?

ここって?あの角曲がれば警察署じゃないか?』


逃げ惑いながら、目的地の1つである警察署の目前まで到達していたのである。


『また、角から出てきたら怖いよな?』


その考えた、雅史は100メートル程後退徐々にスピードを上げながら角を曲がらずにペダルを止めた無音に近い状態で、通り過ぎながら警察署の入口方向をチェックしようとした。


『!!!!』


雅史の選択に間違いはなかったようである。


警察署へ続く1本道には、地域住民たちがその変わり果てた姿で道を埋め尽くしていた。おそらく警察署にはたくさんの避難民が籠城しているのであろう。


まるで、そこに食べ物があるのが分かっているかのように、集団の先頭に位置するゾンビたちは警察署正面玄関のゲートを必至に叩いていた。


『警察への救援要請は失敗!いや?不可能!兎に角ここから離れよう!』


惰性で進むマウンテンバイクのペダルに力を込めて、雅史は次なる目的地を探し始めた。


『出来るだけ、人気の少なさそうなコンビニってどこがあるかなぁ』


考え事をしていた雅史のマウンテンバイクの前に突然ゾンビが飛び出してきた。雅史はマウンテンバイクから放り出され進行方向のゴロゴロと転がり、ゾンビはマウンテンバイクとともにコンクリート塀にぶつかった。


「痛ってぇ~」


雅史は腰を押えながら起き上がり少し先の転がっているバットを拾い上げた。


『そ!そう言えば、ゾンビッッ!』


慌てて、バットを構えてゾンビに向かうと、後頭部をコンクリート塀にぶつけたゾンビの首があらぬ方向へ曲がっていた。


『これって事故死だよな~。相手がゾンビじゃなかったら・・・・・・・逮捕だよ~~~~。さっさとズラかろうっと』


頑丈なマウンテンバイクはボディーに少しの傷を負っただけで問題なく動いてくれた。


中山雅史。よほど悪運が強いのであろう。向かったコンビニエンスストアまで、ゾンビにも出会わず

に到着した。


電気が切れたコンビニの入口には、僅かながらも血の跡があった。


更には、電気が活きていたため、自動扉が自動的に開いた瞬間にはビックリして大声で叫びそうになるのを必至にこらえていた。


ゴクリッと生唾を飲み込んだ雅史は、一歩一歩とコンビニの中に進んでいった。


『店内にはいないみたいだな。後は事務所とか倉庫だよな。でも一人で入ったら狭いところでゾンビと出くわすとヤバいしなぁ?そうだ!』


雅史は、飲料品棚から数本のジュースを出し、ゴクゴクと一気に3本を飲み干した。


『ここまで、何も飲んでねぇから、おいしいなぁ』


「おっと!そうそう」


雅史は、空き缶を事務所との扉の前の間隔を置いて並べた。


「ん、間違いなくこちらに開くタイプのヒンジだよな?これで、事務所から誰か出てきたらわかるし、あとは倉庫だな・・・・・」


雅史は、買い物かごを掴み、そのかごを横に倒した中に大きな水のペットボトルを2個入れた形で倉庫と思われる入口の床に数個置いた。


『まさか、ゾンビが買い物カゴ跨がないよな?普通に歩いたらけつまずくよな』


そうして、背中のバックパックを降ろし、保存が効く食糧を順々に放り込み始めた。一杯に詰め込み背中に背負ったところで、いきなり自動ドアが開いた音がした。


商品棚の隙間から覗き見ると、3体のゾンビが店内に入ってくるところであった。


『げぇっ!どうするよ?』


雅史は自分の周りを見渡したところ、飲料水棚のカップ酒が目に入った。


『これだ!』


おもむろに棚から2つを取り出し、連続した動作で、ガラス瓶のカップ酒をレジ奥の壁に力ずくで投げつけた。


壁に当たり、砕け散るガラスの音に、ゾンビがひかれて小走りに駆け寄り始めた。


『チッ!Bかよ!こりゃダッシュで逃げないとヤバいぞ!』


棚からもう一つを取り出し、3体がレジ付近に集まったところを見計らい、その頭越しにもう一つ投げ込み、注意をそらしている間に、雅史は店内をぐるりと迂回し、開き始めた自動扉の隙間から身をよじるように外に飛び出し、キョロキョロと回りを見回し目的の方向が判明すると一目散に駆け出した。


駆け出して数分、何度目かの角を慎重に安全確認して曲がったところに、目的の場所があった。


そこには大きく書かれた看板があった 【ザ・自転車屋さんだよ!】


店頭の奥さま用電動自転車を拝借した雅史は、持ち前の悪運を最大限に発揮しながら、自宅マンションに向かっていった。


パン パン パン

自宅マンションまで、あと5Kmと迫ったところで、近く銃声らしき音が聞こえた。


『なんだぁ?』


注意して様子を伺っていたところ、すぐ前の路地からタクティカルスーツを着た3人組が飛び出して、雅史の進行方向に一直性に走り出していった


『おいおい!久しぶりに出会った人なんだから、もっと愛想よく・・・・・・』


直後、とんでもないスピードの2体のゾンビが現れ、3人組を追いかけ始めた。


「逃げる理由は明快だったてか?あれってSタイプって奴だよな?確かネットでは4~5体の集団活動って書いてたよな?」


キコキコと路地まで進んだ雅史は、他にSタイプが来ないかを確認した。


「いない、か。てことは、あの3人組はSATか何かで、何体かは殺したけど残りに追われてるってことだな・・・・・・・・」


雅史は、グッと足に力を入れ全力でペダルを漕ぎだした。


『流石、電動アシスト!ママケッタでも早いね~』


あっと言う間にSタイプの後方まで追いついた雅史は、ゾンビの左後方に自転車を付け、いきなり自転車のベルを鳴らした。


チリン!チリン!チリン!


音に反応して、減速し始めたゾンビ2体に対して、雅史のバットが水平に後方から、自転車のスピードを乗せたまま2体の後頭部にヒットした。


一体は完全に頭が割れ、脳髄を巻きチラシ道路を転がって行ったが、もう一体が僅かに浅かった様子で、地面を転がって止まった後も、手足をバタバタを動かし起き上がろうとしていた。


急ブレーキで止まった自転車から乗り捨てるように飛び降りた雅史は、うまくスピードを殺して飛び降りることに成功し、すぐさま、のたうちまわるSタイプに近寄り、渾身の力でバットをゾンビの頭に叩き込んだ。


完全に動かない事を確認したのち、もう一体の確認をしていた時に


「助かったよ!」


3人組の1人が、雅史の飛び降りた自転車を押しながら近づいて来た。


「SAT狙撃班。野口警部補です。こちらが坂口巡査部長、こっちは田中巡査長。」


三人と順々に握手をしながら


「○○商事。営業3部 中山です。」


「いやぁ、警察官が一般人に助けられてちゃいかんのですがね。流石にあのSタイプは・・・」


お手上げという格好で野口がおどけていた。


「しかし、見事な機転というか?一気にSタイプ2体を葬るとはスゲェッすね。自転車は駄目みたいになったみたいですけど・・・・・」


人なっこい笑顔で田中が、自転車の曲がったフロントフォークを蹴っていた。


「で、中山さんは?この後どうされるおつもりですか?」


空と腕時計を交互に見ながら野口が訪ねた。


「自宅まであと5キロくらいなんですが、自転車がなくなっちゃったんで・・・・・・もう2時間もしたら暗くなりますよね?どこか、隠れる場所探さないと・・・・・」


「1人より4人の方が心強いですよ。今日の所はご一緒しませんか?」


「そう言っていただけると助かります。」


その後4名は、付近を探し回り、無人の住宅で結構堅固な塀で囲まれた民家を探しあて、仮の宿にした。


居住者が残していったレトルト食品で腹を満たした後、野口が5日前のことから現在までに状況を説明し始めた。


「そうだったんですか。なら、救助は充てに出来そうにもないですよね。自衛隊もやられたんですか?」


「自衛隊が到着した時点では地域住民もゾンビ化していたそうですし、どうもSタイプが数組現れてみたいで・・・・・・

今朝までは、携帯電話で県警本部とも連絡が取れていたんですが・・・・・昼には電波が書くなった様子です。携行無線も電気切れですし・・・・・本部や市内中心部の状況は皆目見当がつかない状態なんですよ。

も少し行くと警察署があるので、そこまでと考えているんですが」


「西春警察ですか?あそこは駄目だと思います。警察署までの一本道に満員電車みたいにゾンビがいました。昼間に通りかかった時点でしたが・・・・」


「・・・・・・・・・・」


全員が何も話すことが出来なくなった。


「野口さん。取り敢えず寝ましょう。警戒態勢ですが、3時間置きに俺、田中、野口さんの順番でいいですか?」


「そうだな。良し。寝るとしよう。田中!うたた寝するなよ!」


「了解っす。まずは3時間。お先に失礼します!」


3名の警察官が順番で警戒してくれたことにより、中山は翌朝までぐっすりと眠ることが出来た


6日目


朝6時過ぎに雀のなく声で、中山は目が覚めた。


横の坂口、田中を起こさないように寝床から這い出し。隣の部屋に移動した。


隣の部屋では、野口が微笑みながら片手を上げた。


「ゆっくり寝られましたか?」


「おかげ様で、熟睡しちゃいました。すみません。」


ペコリと頭を下げる中山に対して


「何を!我々も昨晩寝れたのも中山さんのおかげですよ。

で?今日はどうされますってのも野暮ですね。自宅に帰られるんですよね。そこまでご一緒しますよ。」


1時後、民家に有ったパンなどで軽い朝食をとった一同は、中山の自宅に向かった。


途中、何度かゾンビに遭遇したが、BまたはCタイプであったため、4人で連携し撃破していけた。


角を曲がった途端に野口がニンマリと笑った。


「自衛隊に車両だぞ!」


そこには、乗り捨てられた軽装甲機動車が止まっていた。


「ガソリンも満タン近いですし、後部カーゴには小銃や弾薬も積んであります!しかも、この車両、自衛隊の特殊部隊はそれに準ずる部隊の車両見たいですよ!」


後部カーゴを漁っていた田中が、掲げた物はサプレッサー(消音器)が装着されたサブマシンガンと拳銃であった。


「消音器がついてると、躊躇なく発砲できますよ!これで県警本部には難なく戻れますね、野口さん。」


「そうだな。まずは中山さんのご自宅まで行くぞ。」


中山の自宅のマンション近くに車を止め、双眼鏡でマンション出入口や廊下を確認していた坂口が


「まずいですね。マンション内を何体かうろついてるみたいです。」


「どうされます?中山さん?車があれば一緒に行動できますよ?」


野口が心配そうに尋ねた。


「親戚合わせて2家族居るんです。でも車の2台ありますんで、出来れば一緒に行動できると心強いんですが・・・・・俺には決定権がないんで・・・・」


「分かりました。我々の誰かがご一緒して説明しましょうか?」


「いや、私を含めて全員ゾンビの返り血あびてて、普通に見えないですからね。自分1人で行きます。30分待っててもらえますか?それと、拳銃を1丁お借りしたいんですが?撃ち方は知ってます。ハワイで何度か撃ったことがありますから」


野口が、拳銃と予備弾倉を5つ差し出した。


「もう法規も何も通用しない時代ですね。30分お待ちします。」


拳銃を構えて中山はマンションに向かった。自宅の4階に階段で登る間に6体のゾンビを遭遇し、何とか射殺して辿りついた。


呼び鈴は、他に居るかも知れないゾンビを呼びつける可能性があるので、小さく小さくドアを叩いたところ、チェーンロック越しにドアが開かれ、欺瞞の目をした義兄が顔を見せた。


「ずいぶんと血まみれじゃないか?大丈夫なのか?」


「大丈夫ですよ、噛まれてもいませんし、ほら食糧もここに!」


背負ったバックパックを義兄に渡し、ドアが開かれるのも待っていたところ、信じられない言葉が返された。


「どう見ても、感染していないとは断言できないな。明日まで様子を見よう。もし感染していたら室内の全員が危険な目にあるからな。

明日、また来てくれ。

あっ!そうそう、食糧も忘れずにな!」


閉めかけられたドアに靴を挟み込み


「何言ってんですか?その言い方なら明日も同じ理由が成りたって一生戻れないじゃないですか?既に、マンション内もゾンビが徘徊しているんです。近くに警察の方がいます。一緒に逃げましょう?」


「その、警察官が俺の妻や妹に狼藉を働かないと言い切れるか?相手は拳銃とか所持しているんだろ?どうせ、お前がくだらない入れ知恵してるんだろ?

たいたい、バットも持ってないくせに、どうやってゾンビを倒したんだ?ゾンビの話しもどうせ嘘八百なんだろ?」


と言いながら、義兄はいきなりアイスピックで雅史を刺す振りをした。


おもわずのけ反った雅史の前でドアはガッチリを閉ざされてしまった。


その後、何度も何度もドアを叩いても、誰も返事をしなくなった。


『やっぱりか。俺はこの一族にとっては消耗品なんだよな。』


うなだれ1階に降り立った雅史は、もう一度マンションを振り返り見上げた。


2階に廊下から、ニュウッと銃身が突き出された。


『なんだ』


雅史が疑問に思った瞬間に、2階にするパチンコ狂いの一家の主人が、どこから入手したのか猟銃を構え、マンションの周囲を徘徊するゾンビに発砲を始めた。


「馬鹿!音だして!」


しかし、既に遅かったのである。マンション側の路地の全てからゾンビが出始めていた。


「クッ!」


助けることが不可能である。


雅史は全速で野口達の車に戻るために走った。




「誰だ!煩いなぁ!」


猟銃の音に癇癪を起こした義兄が、ドアを開け廊下越しに2階の住人を口汚く罵っていた。


彼は気付いなかったが、すぐ横に2体のCタイプゾンビが手を伸ばして近づいて来ていた。


肩を掴まれた瞬間、義兄は確認もせずに怒鳴った。


「ロクデナシ(雅史)。家に入れて欲しかったら・・・・・・・・・・・・・」


3分後。3体のゾンビが中山家の玄関を通過し室内にはいって行った。







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