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朝の風景

作者: 過楽



 この世界には時計はないけれど、長年の習慣からか、毎日日の出少し前に目が覚める。

そうしていつものように隣の人を起こさないよう、私を抱き枕よろしく抱きこむ腕の中からすり抜けた。


 すると彼は眉間に皺を寄せて、私を探るように手を動かすけれど、そこへ私の枕を押し込む。うむ。まさに抱き枕。

彼は枕を抱きしめ顔を埋めると、数回低く唸り、そのまま動かなくなった。

すぐに肺活量のありそうな深い寝息が聞こえてくる。


 その寝息を聞いていると、せっかく起きたというのにまた眠ってしまいそうで、慌ててベッドを降り手早く身支度。

一度うんと伸びをし、寝着を脱いで近くの椅子の背もたれにかけると、白いシャツにズボンを身につけ部屋をでた。


 洗面所で顔を洗い、腰まで流れる長い黒髪をひとつに括る。


 今日のリボンは青、かな。


 そのまま玄関に行き表を確認すると、お隣の鈴木さんが飼育している魔鶏の卵が数個、籠にはいって置かれていた。おお、今日は生んだみたいだね。わーい。

魔鶏が卵を生んだ朝だけに届けてくれるそれは生みたての新鮮なもので、とてもおいしい。


 鈴木さん、いつもおいしい卵をありがとう。今日もいただきます。今度旦那に言って光鹿の肉を狩って持っていかせるね。


 籠の中の卵は、白ではなく真っ黒。中身は通常の鶏卵でいう黄身の部分が赤という、なんとも毒々しい色だが、これがまたおいしいのだ。

とろりと濃厚な黄身ならぬ赤身は一度食べたら忘れられない。

卵をいったん調理台に置いて、洗濯物を片付ける。


 この世界の生活器具が、日本と同じような見た目、使用方法で助かった。

字の読めない私でもなんとかなるもの。

彼の血みどろの軍服っぽいものを、あまり直視しないようにして放り込む。


 これみるたびに思うけど、旦那の職業って何なのかしら。


 かれこれ結婚して1年くらい経つけど、私は彼の仕事内容を一切知らない。

結婚をすること自体、彼の策略っぽいところがあったからな…。

この結婚は俺が仕組んだものだと、初夜をすませた後に打ち明けてきたけど。

うちの旦那はけっこう企てたり謀ったりすることが得意なタイプだけど、私にはちゃんと後で打ち明けてくるところが可愛い。作戦や謀が成功した時なんかは得意顔で褒めてって顔するし。もう本当にうちの旦那は可愛いな!起きてきたら撫でてやろう。


 まぁ難点を言えば、一週間に数回返り血を浴びて帰ってくるのよしてほしいんだけど、きく人でもないし、かといってへたに言うと変な誤解するしな。


…なんで返り血ってわかるかは、ご想像に任せようかしら。


 ごぅんごぅんと音を響かせる洗濯機にはコードが見当たらない。

もちろんコンセントもなければ、電気もない。


 ならどうやって動いているのか?


 この世界には電気もガスもないけれど、かわりに魔石っていうのが動力になっていると彼が言っていた。まぁ、そういうことなんだろう。

洗濯機にはじまって冷蔵庫やコンロなども、見た目は日本にいた頃とかわらないから、深く考えないようにしている。ようは、使えればいいわけだ。


 調理場に戻り、朝食の調理開始。

先ほどの卵で作った半熟目玉焼きに添えるのは、厚めに切った熟成ベーコン。

毎朝焼きたてで食卓にだす手作りのパンにちぎり野菜のサラダ。


 肉食で大食らいな彼は毎食肉が無いと元気が出ないらしい。

大好物は血も滴るような新鮮な生肉。

野菜の方が好きな私とは食の好みが合わず、最初の頃は喧嘩もしたものだ。


 それで?って思うかもしれないけれど、食の好みってけっこう大事なんだよ…。


 もちろん今でも野菜サラダは私がほとんど食べる。というか私専用。

彼には野菜を細かく刻んでたっぷりいれた特製野菜スープ。野菜のうまみたっぷりよ!


 じゅうじゅうベーコンを焼いていると、のそのそと寝室から彼がでてきた。

そのまま調理中の私の背後にまわり、腰に手をまわして背中にぺったり。

正直にいうとかなり邪魔。でもこれも毎朝の習慣のひとつ。


 その頃には日も昇り、外もだいぶ明るくなっている。

しかし本来夜行性の彼はつらいらしく、私の肩口に顔を埋めるようにしている彼は、金の瞳をしょぼつかせてまだ寝ぼけ眼だ。

縦にさけた瞳孔が引き絞られているところから、窓から差し込む朝日がかなり眩しいみたい。


 「おはよう、旦那」

 「……………………おはよぅ」

 「さきに顔を洗ってきなさい」


 いったん手をとめ、寝癖のついた金髪をくしゃりと撫でてやりながら彼に言う。

数回瞬きした彼は、ゆっくりと洗面所へとつづく扉をくぐっていった。

その間に料理をテーブルに並べて、オーブンからだしたパンを籠に盛りテーブルの真ん中へ。


 そうして洗面所からでてきた彼は、若干すっきりした面持ちで席に着く。

彼の前には蜂蜜を溶かしたホットミルク。私には砂糖無しのコーヒー。

私も彼の向かいに腰をおろし、手を合わせて、さぁ。


 「「いただきます」」


 おいしい食事と、向かいに愛しい人。

毎日繰り返される幸せな異世界での朝の風景。


女性は日本人、男性は獣人。

気が向いたら発展させるかもしれません。

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