意識
世之介は起き上がった。
イッパチの叫び声が聞こえる。
「若旦那が! お目覚めでござんす!」
ぱちぱちと瞬きして、世之介は辺りを見回した。どうやら茜の兄の、勝の部屋らしい。
勝の寝具に、世之介は寝かされていた。起き上がった世之介に、イッパチが心配そうな顔を近づける。
「若旦那、大丈夫でげすか? どこか痛みますかね?」
世之介はぶるん、と顔を振った。無言であちこち、自分の身体を触ってみる。大丈夫、どこも痛まない。
自分の身体を確かめるとき、世之介は〝伝説のガクラン〟がそのまま着せられていることに気付いた。
「ああ、どこも痛まねえよ!」
世之介の返事に、イッパチは「ぎくり」と身を強張らせた。イッパチの背後に光右衛門、助三郎、格乃進が座っている。茜は部屋の隅に両膝を抱えて座っていたが、世之介の返事を耳にして吃驚したように顔を上げた。
「なんでえ……。皆、知らない相手を見たような顔しやがって……。俺の顔に、何かついているのか?」
「い、いえ……」
イッパチは目を逸らした。
茜は立ち上がった。
「世之介さん、本当に何ともないの?」
「当たり前だ! ピンシャンしてるぜ! 前より調子がいいくらいだ。本当にお前ら、どうかしてるぞ! どうしたってんだ?」
光右衛門が目を光らせた。
「自分の変化に気がつかないのですな。世之介さん、あなたは、すっかり変わられてしまった……」