打撃
世之介の前蹴りが、助三郎の胸元で炸裂する。助三郎の身体は、世之介の前蹴りを受け止め、宙に浮いて、再び商品の山へと突っ込んだ。
商品の山を掻き分け這い出す助三郎の顔には、苦痛の色は欠片も見当たらない。賽博格の助三郎にとって、世之介の前蹴りなど何ほどでもなかった。
しかし、重い、賽博格体の助三郎を、ただ一度の蹴りで吹き飛ばす威力は、只事ではない。助三郎の顔には、疑念と同時に、信じられないものを見た驚愕に歪んでいた。
世之介は無言で素早く近づくと、肘を、手刀を、更には回し蹴りを、続けざまに叩き込む。
どれも必殺の気合が込められた、怖ろしいほどの威力を持っている。もしも助三郎が、ただの人間なら、ほとんど即死に近い攻撃であった。
ところが、助三郎には効果がない。助三郎は黙って、世之介の攻撃を受け止めているだけである。
世之介はさっと一歩、後ろに下がると、ふーっと大きく息を吐き出した。助三郎に加えた攻撃が、まるきり効いていない事実を確かめ、戦法を変えることにした。
さっと両手を横に広げる。
ガクランの袖が伸び、世之介の手首から先を包み込む。生地が見る見る変化し、世之介の手にぴったりと合った手袋の形になる。
両足の足首から下が同じように包まれ、靴の形に変形する。
襟が広がり、世之介の顔を覆う。
ガクランの裏地から無数の繊維が伸びて、世之介の上半身を包み込む。
一瞬にして、ガクランは世之介の全身を纏う鎧になっていた。これこそ、〝伝説のガクラン〟の秘密であった。
世之介は再び攻撃を開始した。
ぐわんっ! と音を立て、世之介の拳が助三郎の顎を捉える。助三郎の顔は衝撃に横を向き、踏鞴を踏んだ。
ぶるっと助三郎は頭を振り、まるで眩暈に耐えているかのように、腰を沈ませ、踵に力を入れる。
世之介の拳が助三郎の顎を捉えた瞬間、物凄い衝撃が賽博格体の電子回路に、僅かではあるが、打撃を与えたのだ。
助三郎の唇が引き締まった。
先ほどまでの、呆然とした、間抜け顔は拭い去ったように消え去り、代わりに現れたのは、熟練の戦士の厳しい表情であった。ようやく、世之介が侮りがたい強敵であったことを悟ったらしい。